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笑顔が、台風を忘れさせてくれた。|KOYO.RION 沖縄編 第7話

2026年6月、台風が近づく沖縄で迎えた次男こうようとりおんの結婚式。挙式の間だけ見えた青空が終わる頃には再び天気が崩れたが、披露宴で家族や友人たちの笑顔を見ているうちに、父DECKYはいつの間にか台風のことを忘れていた。父親目線で残す家族の記録、第7話。


挙式のあいだ、あれだけ見えていた青空が、
式が終わる頃にはまた少しずつ姿を消していった。

教会を出ると、空はもう暗くなり始めていた。

ほんまに、あの時間だけやったんやなと思う。

理由は分からない。
でも、こうようとりおんが式を挙げている時間だけ、沖縄の空が少しやさしくなってくれた気がした。

そしてそのあと、僕の目は空から人の方へ移っていった。





挙式が終わると、また空が変わった

教会での挙式が終わって外へ出ると、
さっきまで見えていた青空は、もう少しずつ隠れていた。

雲が増えて、風も出てきた。

記念写真を撮る頃には、
また天気が悪くなってきたのが分かった。

ほんの少し前まで、
海も空もきれいに見えていたのに、沖縄の空の変わり方は本当に早い。

僕には、
「挙式の時間だけ晴れてくれた」
そんなふうに思えた。

もちろん、本当の理由は分からない。

ただ、この日のことを思い返すと、
あの青空は、こうようとりおんのために少しだけ開いてくれたみたいに感じる。

挙式が終わる頃には、あれだけ見えていた青空がまた少しずつ隠れていった



気遣ってくれた案内

天気がまた悪くなってきたので、
このまま外を回って移動するのは、僕には少し大変そうだった。

そのとき、ホテルのスタッフの人が、わざわざ僕のところまで来てくれた。

そして、別の入口から館内へ入れるように案内してくれた。

これは間違いなく、僕の身体を気遣ってくれての案内やったと思う。

僕には右側に麻痺が残っている。

りえが前もって僕のことを伝えてくれていたのか、
その場で誰かが気づいてくれたのか、そこははっきり分からない。

でも、スタッフの人が僕のところへ来てくれて、
無理なく移動できるようにしてくれたことは、よく覚えている。

結婚式の日やからこそ、
僕自身もできるだけみんなと同じように動きたい気持ちはあった。

その中で、特別に大げさにするわけでもなく、
自然に気遣って案内してくれたのがありがたかった。

外ではまた天気が崩れ始めていたけど、
館内へ入ると、今度は披露宴の時間が始まる。

ここから僕の目線は、少しずつ空ではなく人の方へ向いていった。

僕の身体を気遣って、スタッフの人がわざわざ別の入口まで案内してくれた。



二人を囲んでくれた人たち

披露宴会場に入ると、
そこには二人を囲む人たちの顔があった。

家族。
親戚。
友人。
先輩。
一緒に働いた仲間。
りおんの大切な友達。

会場を見渡すだけで、
二人がここまでいろんな人と出会ってきたことが伝わってくる。

僕の知らないこうようの時間を知っている人たちも、たくさんいた。

親として知っている息子は、息子の全部ではない。

大学へ行って、
友達ができて、
働いて、
りおんと出会って。

家族とは別の場所にも、こうようの時間がちゃんと積み重なっていた。

そのことが、会場の空気を見ているだけでも分かった。

ただ、この日は台風の影響も少し残っていた。

飛行機が遅れて、披露宴の始まりには間に合わなかった友人もいた。

それでも、沖縄まで来ようとしてくれた。
途中からでも駆け付けてくれた。

その気持ちだけで、僕には十分うれしかった。

会場を見渡すだけで、二人がいろんな人と出会ってきたことが伝わってきた。



三線の音で、会場がひとつになった

披露宴が始まると、会場には沖縄らしい空気が広がった。

三線の音色。
歌。
手拍子。

さっきまでそれぞれに話していた人たちが、
自然と同じ方を向いて、同じように笑っていた。

途中では、けんも太鼓を叩いて参加していた。

その姿にまた笑顔が広がる。

こういうのは、きれいに整いすぎていない方が楽しい。

誰かが加わって、
それを見た誰かが笑って、
また拍手が起こる。

そんな空気が、会場いっぱいに広がっていた。

少し前まで僕は、空の様子を気にしていたはずやのに、
この頃にはもう外のことをほとんど考えなくなっていた。

会場の中の方が、ずっと賑やかで、ずっとあたたかかった。

三線の音と手拍子で、会場の空気がひとつになっていった。



二人らしかった、あの場面

料理も次々と運ばれてきた。

どれも見た目がきれいで、食べてもおいしい。

久しぶりに会う人たちとの話もあって、
食べたり、しゃべったり、笑ったりで忙しかった。

そして披露宴の途中、
僕が一番笑った場面のひとつがあった。

普通ならケーキ入刀なのかもしれない。

でも、この日は少し違って、
沖縄らしくアグー豚を使ったセレモニーやった。

りおんが、こうように食べさせる。

ここまでは微笑ましかったけど、
その一切れが思ったよりかなり大きい。

「それ、入るんか」

そんな感じで、会場に笑いが広がった。

こうようも大きく口を開けて、笑いながら頑張って食べていた。

格好よく決めるだけじゃない。
少しくらい笑われるくらいの方が、僕には二人らしく見えた。

飾りすぎていない、ええ時間やった。

格好よく決めるだけじゃない。
みんなで笑えるくらいが、二人にはちょうどよかった。



僕の知らなかった時間

友人のスピーチも印象に残っている。

大学時代の友達が前に立って、
学生の頃の思い出を話してくれた。

富士山へ行ったときの話。
写真まで用意してくれていた。

僕はもちろん、その場にはおらんかった。

だから僕にとっては、初めて知るこうようの時間でもあった。

親は子どものことを知っているつもりでいるけど、
大人になるほど、知らない時間の方が少しずつ増えていくんやと思う。

その知らない時間を、一緒に過ごしてくれた人たちが今日ここに来てくれている。

それが、ありがたかった。

そして今、そのこうようの隣にはりおんがいる。

それでええんやろなと思った。

僕の知らないこうようの時間を、一緒に過ごしてくれた人たちがここにいた。



気がつけば、忘れていた

朝からずっと心配していた。

雨はどうなる。
風はどうなる。
式は大丈夫か。
飛行機は飛ぶのか。

そんなことばかり気にしていた。

でも披露宴の途中で、ふと思った。

僕、台風のこと忘れとったな。

外ではまた天気が崩れていたはずやのに、
その頃の僕の頭には、もうほとんど残っていなかった。

目の前では、こうようとりおんが笑っている。
家族が笑っている。
親戚が笑っている。
友人たちが笑っている。

拍手があって、
笑い声があって、
また誰かが写真を撮っている。

この一日を特別にしてくれたのは、青空だけじゃなかった。

ここへ集まってくれた人たちの顔が、
この日をほんまにええ日にしてくれたんやと思う。

あのとき僕は、
空よりも、みんなの笑顔を見ていた。

そのことが、今でも一番よく残っている。


披露宴の時間は、まだ続いていた。

にぎやかな声も、笑い声も、まだ会場の中にある。

でも楽しい時間にも、いつか終わりがくる。

人が帰り、
音楽が止まり、
さっきまでにぎやかだった場所が静かになったとき。

そこからまた、別の時間が始まる。

それは次の話で書こうと思う。

第8話「披露宴のあとの、静かな時間。」へ続く。

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