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Frelsun《フレルスン》⑤

《5》

ハヴェヤは荷物を背負い直して辺りを見回す。

「これはそのままにしておいていいのか?」

ハヴェヤは死体の方を見ながら口を開く。

「まぁ……日中なら獣の餌になるし、
 夜になれば“Wisp”が喰うよ」

フェネシュは裾に付いた汚れを叩きながら答える。

「え、"Wisp"は人の死体も喰うのか?」

ハヴェヤは驚いたようにフェネシュの方を見る。

「あれ?知らなかったのかい?
 “Wisp”は人なら、死体だろうが何だろうが喰ってしまうよ」

あっけらかんと答えるフェネシュの言葉に
ハヴェヤは一筋冷や汗を流した。

「さて、一旦滝の方に行ってみようか」

先ほど男たちが立っていた場所。
そこへ向かい、フェネシュは歩き出した。
ハヴェヤも後を追うように死体を避けて歩き出す。

「やっぱりか……」

フェネシュは最初に男たちが居た場所の辺りを
注意深く眺めてからそう言った。

「誰かを追っていたみたいだな……」

ハヴェヤも地面を見ながら呟く。
地面にはあの男たちの足跡に混ざって、
明らかに細い足跡が残されていた。

「女性なのかな?随分と小さな足跡だけど」

「子供かもしれない」

それぞれが自身の考えを口にする。
そして、

二人は同時に「川に逃げた」と口にし、
顔を見合わせてわずかに笑った。

「さて、どうしたものかな」

フェネシュは少し悩むような仕草で
ハヴェヤに問いかける。

「水中でも"Wisp"は襲ってくるよな」

ハヴェヤはフェネシュの問いに問いで返す。

「さてね……それは知らないけど、
 水の中なら襲われないとしても、
 一晩中潜っているのは現実的じゃないかな」

苦笑しながらフェネシュは答える。
ハヴェヤはその答えを聞き、川下の方を見つめ、

「川下に進んでみよう」

と提案をした。

「また襲ってくるような奴かもしれないよ?」

ややいたずらな笑みを浮かべながら
フェネシュはその判断に問いかけをする。

「さっきの奴ら程度ならなんとかなるし、
 集落やこの辺りの情報を知っている奴かもしれない」

そう言うと、ハヴェヤは川下へ歩き始めた。

「ホントにそれだけかな……」

ハヴェヤの表情を見ていたフェネシュは小さく呟くと
ハヴェヤの後を追うように歩みを始めた。


川下へ進むと、次第に川幅は広くなっていき、
その幅は対岸に渡ることを躊躇するほどの広さになっていた。
そして、大きな岩がいくつもあった川岸も
小粒な石ばかりの平坦な川岸になっていた。

「あそこ……遺構かな」

ハヴェヤは対岸に見える大きな岩を指さした。
それは、頂点が尖り、三角の形状をしている。

「あぁ、そうかもしれないね。
 日の入り前に確認をした方がいいね」

フェネシュもその岩陰を見て答える。

「川…渡らないとだねぇ……」

露骨に嫌そうな顔をしながらフェネシュが口を開く。

「深みが無ければいいんだが」

ハヴェヤは川に入り、慎重に歩を進める。
フェネシュも嫌々という顔をしながらそれに続く。

川を渡り切ると、ハヴェヤは弓を番えた。

「何かいるのかい」

フェネシュは水で濡れた裾を絞りながら
ハヴェヤに尋ねる。

「足跡がある」

ハヴェヤは短く応える。
フェネシュはハヴェヤの向かう先の地面を注視し、

「さっきの足跡と同じかな」

と言うと少し身構えながらハヴェヤの後を追う。

「たぶん……」

鳥のけたたましい声。動物が動き回る音。
自然の音が途切れず響いていた。
二人は慎重に遺構に向けて歩を進めていく。
そして、遺構の前につく。

遺構には、ちょうど人が一人立って入ることのできるような
入り口があり、奥は暗く見通せない。

「中に入ったみたいだね」

フェネシュは足跡の行く先を見てそう呟く。

「あぁ……」

ハヴェヤは弓から鉈に持ち替えて、
慎重に入り口に向かって歩を進めた。
入り口に差し掛かると、
中から吹き出す風が二人の顔をなぞった。

「トンネルなのかな」

フェネシュは風を受けながらそう呟く。

「トンネル?なんだそれ」

ハヴェヤは鉈を構え正面を見据えたまま
フェネシュに問いかける。

「トンネルというのはね……そうだなぁ。
 山を登るんじゃなくて、地面に穴を開けて道を通す。
 その道のことだよ」

ざっくりした説明ではあったが、
ハヴェヤはなんとなく頭の中で言われた内容を
想像して納得した。

「向こう側にも入り口があるってことか」

「そう」

やりとりを終えて、ハヴェヤは慎重ながら
その足を速めて中に進む。
遺構の中はどこも湿度が高く、肌寒い事が多いが、
この遺構は湿度はそれほど高くなかった。

「狭いな…」

鉈とは逆の手に松明を持ち、
ハヴェヤは呟く。

「下に潜っていってるから“Wisp”の心配はないけど、ちょっと手狭だね」

フェネシュも同意する。
遺構は、ハヴェヤが両手を広げた程度の幅しかなく
高さもハヴェヤより身長の高いフェネシュが直立すると
天井ギリギリになる低さだった。

しばらく奥に進むと、道はやや右曲がりになり、
ハヴェヤたちは慎重に進んでいった。

「あそこ、明かりが見える」

ハヴェヤは道の先に揺らぐ明かりを見つけた。
そして、素早く自分の松明を消した。
フェネシュも声を押さえながら、

「いよいよ対面だね」

と悪戯な笑みを浮かべる。
そして、ゆっくりと慎重にその明かりの方へ進んでいった。

明かりは近づくほどにその明るさを強め、
いよいよ次の一歩で光源の場所を見られるという位置まで
進んでいた。

「いきなりはダメだよ?」

フェネシュはハヴェヤにそっと呟く。

「弓構えられていたらどうするんだ」

反論するようにハヴェヤは答える。
そして、慎重に顔を覗かせると、

「人が倒れている」

ハヴェヤは声の大きさをいつもと同じくらいに戻して
フェネシュに伝える。
その視線の先には、腕から血を流した女性が一人
仰向けになっていた。

「とはいえ」

フェネシュはそれが狸寝入りかもしれないことを
示唆するように呟く。

「分かっている」

ハヴェヤは慎重に近づき、彼女の近くに置かれている
武器をそっと遠ざける。

「ん?」

武器には短刀があった。

「これ……金属か?」

短刀を拾い、彼女を注視したままで
それをフェネシュに渡す。
フェネシュは短刀を抜くと

「そうだね。ハヴェヤと同じ金属製だ」

と答える。
その瞬間、彼女はバッと目を開き
驚いたように声をあげる。

「誰っ!?」

その目は完全に怯え、腕の傷を押さえながら
ガタガタと震える。
ハヴェヤはその反応に驚きながらも
どうしたらいいか分からず、固まった。

「大丈夫、危害を加えるつもりはないよ。
 たまたまこの遺構を見つけた者だ」

優しく穏やかな声でフェネシュは話しかける。

「私は、フェネシュ。
 こちらは、ハヴェヤ。
 旅人だ」

ハヴェヤの前に来たフェネシュは害意がないことを
示すように軽く両手を広げる。
ハヴェヤは慌てて、鉈を鞘に仕舞った。
彼女は少しだけ安心したように口を開く。

「私はルオアと言います……」

ルオアの目はこちらの動きを見逃さないように
緊張を続けている。

「ルオア、ありがとう。
 もし良かったら、その傷の手当だけでも
 させてくれないか?」

フェネシュはそう言うとルオアの傷を指さした。



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