ボイジャーのゴールデンレコード:恋心は宇宙共通なのか。地球外生命体へ宛てた人類からのラブレター
1977年、NASAから2機の無人宇宙探査機「ボイジャー」が打ち上げられました。
彼らは木星や土星などの惑星を観測しながら太陽系を抜け、現在も時速約6万キロという猛スピードで、誰も見たことのない星間空間(宇宙の果て)を目指して飛び続けています。
そして、この探査機の側面には、一枚の「純金のレコード」が張り付けられています。
正式名称は「ゴールデンレコード」。これは、いつの日かこの探査機を拾い上げるであろう地球外生命体(宇宙人)に向けて、地球という美しい星が存在したことを伝えるための「宇宙のボトルメール」なのです。
宇宙の共通言語は「数学と物理」
しかし、ここで一つの疑問が湧きます。宇宙人には英語も日本語も通じません。どうやってこのレコードの再生方法や、地球の場所を伝えるのでしょうか。
プロジェクトの責任者であった天文学者のカール・セーガンをはじめとする科学者チームは、「宇宙の共通言語は、数学と物理学である」と考えました。高度な知性を持つ生命体であれば、宇宙のどこにいても同じ物理法則を理解しているはずだからです。
そのため、レコードのジャケット(カバー)には、文字ではなく「中性水素原子(宇宙で最もありふれた元素)の電子の遷移(変化)」を図示し、それを基準とした長さと時間を「2進数」で表記しました。さらに、規則的に電波を出す天体(パルサー)からの距離と周期を計算式で示し、太陽系の位置を特定できるようにしたのです。
円周率や素数といった数学、そして物理法則。これらを用いることこそが、私たちが高度な知性を持った存在であることを証明する、究極のコミュニケーション手段でした。
徹底的に論理的な「地球のカタログ」
レコードには「地球のカタログ」として、膨大なデータが音声化されて収録されています。
自然の音: 風、雨、雷、波の音、鳥やクジラの鳴き声
人間の生活音: トラクターの音、列車の音、モールス信号
音楽: バッハやベートーヴェンのクラシック、チャック・ベリーのロックンロール、日本の尺八など、世界各地の音楽
挨拶: 古代のアッカド語から現代の言語まで、55言語の挨拶(日本語の「こんにちは。お元気ですか」も収録されています)
115枚の画像: 太陽系の図、DNAの構造、人間の解剖図、自然の風景など(※画像データを音声信号に変換して収録)
極めて論理的で、冷徹な科学的視点によって選ばれたこれらのデータ。
しかし、カール・セーガンは最後にどうしても「人間の内面(心)」を記録したいと考えました。音楽や挨拶だけではなく、人間の思考そのものを宇宙へ送ることはできないか、と。
そこでチームは、「人間の心音と脳波」を録音して収録することに決めました。
録音の担当に選ばれたのは、プロジェクトのクリエイティブ・ディレクターを務めていた若き女性、アン・ドルーヤンでした。
彼女は録音室に入り、数十分間にわたって地球の歴史や、人間の哲学、暴力の歴史、そして生命の美しさについて深く思考し、その脳波と心拍数を記録しました。
しかし実は、この緻密に計算された科学的なデータの中に、科学者たちの予想を超えた「ある強烈な感情」が紛れ込んでいたのです。
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