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トラックで運べる原子力発電所とは?

かつて原子力発電は、世界中から大きな期待を集めていました。

国家規模の予算を投じ、巨大な発電所を建設する。

それこそが、未来のエネルギーを支える道だと考えられていたのです。

しかし、その流れは大きく変わりました。

・スリーマイル島
・チェルノブイリ
・福島

相次ぐ事故によって、原子力に対する期待は一気に萎んでいったのです。

かつて「未来の主役」と見られていた原子力は、
いつしか危険で、扱いにくく、
世論の反発を受けやすい存在となりました。

実際、アメリカで原子力が再び前向きに語られるようになったのは、
つい最近のことです。

しかし、もしかすると、
この長い停滞の時間は、むしろ必要だったのかもしれません。

なぜなら、次に原子力を大きく変える技術は、
これまでのような巨大な発電所ではないかもしれないからです。

それは、トラックに載せて運べるほどの小さな原子炉。

つまり、従来の原子力発電とはまったく違う形で、
原子力を再び“未来のエネルギー”へ押し上げる可能性を秘めているのです。

超小型原子炉とは?

原子力発電は現在、世界全体の電力のおよそ9%を供給しています。

アメリカに限って言えば、その割合はさらに高く、
およそ19%にまで上ります。

つまり、原子力は今もなお
世界のエネルギーを支える重要な存在なのです。

ところが、金額面で見ると、
原子力産業は意外なほど小さな市場にとどまっています。

年間の市場規模は、およそ400億〜500億ドルほど。

世界の電力を支えている存在としては、
決して大きいとは言えません。

一体なぜなのでしょうか。

その理由のひとつは、
原子力発電の基本的な考え方が、
長い間「とにかく大きくすること」だったからです。

より大きな原子炉をつくる。
より大きな発電所を建てる。

そうすれば、経済が動き、安く、豊富な電力を生み出せる。

長年、そう考えられてきました。

しかし現実は、そこまで単純ではありませんでした。

規模を大きくすればするほど、
建設費は膨らみ、工期も延びます。

さらに、政治的な反発や規制の問題も大きくなっていきます。

つまり、「大きくすれば安くなる」はずだった原子力発電が、
実際には「大きすぎるがゆえに前に進みにくい」ものになってしまったのです。

だからこそ私は、
いま原子力の反対側で起きている動きに注目しています。

原子力を、さらに巨大な国家プロジェクトにするのではなく、
原子炉そのものを小さくしたらどうなるのか。

いま、その可能性に賭ける企業が増えているのです。

しかも、ここで言っているのは、
いわゆる小型モジュール炉だけではありません。

小型モジュール炉といっても、
実際には工業用の建物ほどの大きさになるものもあります。

そんな中、私が注目しているのは、
それよりもはるかに小さな原子炉です。


出所:datacenterknowledge.com

それが、「マイクロリアクター」と呼ばれるものです。

マイクロリアクターとは、比較的小さな電力を生み出す、
コンパクトな原子力システムのこと。

なかには、輸送用コンテナほどの大きさに収まるものさえあります。

しかも、これは単なる未来の話ではありません。

すでに現実のプロジェクトとして動き始めているのです。

実際、4月にアメリカ空軍は、コロラド州、テキサス州、モンタナ州の基地で、 マイクロリアクター計画を進める企業として、

・ラディアント(Radiant)
・アンタレス・ニュークリア(Antares Nuclear)
・ウェスティングハウス(Westinghouse)

を選びました。

目標は、2030年、あるいはそれより前に、
軍の施設内で先進型原子炉を稼働させることです。

この動きは、非常に重要な意味を持っているように見えます。

なぜなら、連邦政府がマイクロリアクターの初期市場をつくる
後押しをしている可能性があるからです。

そして、これは決して珍しい話ではありません。

・インターネット
・半導体
・民間宇宙産業

これらも、初期の成長段階では政府が大きな役割を果たしてきました。

新しい技術が社会に広がる前に、
まず政府や軍が最初の大きな顧客になる。


これは、過去にも何度も起きてきたパターンです。

では、なぜ軍はマイクロリアクターに関心を持っているのでしょうか。

その理由は、これらのシステムの特徴を見るとよくわかります。

ラディアントの「カレイダス(Kaleidos)」マイクロリアクターは、
約1.2メガワットの電力を生み出すよう設計されています。

しかも、燃料を補給することなく、5年以上稼働できると見込まれています。


出所:Radiant

一方、ウェスティングハウスの「eVinci」は、
最大5メガワットの電力を生み出すことができ、
燃料補給なしで8年以上稼働できるとされています。


出所:同社HP


もちろん、これらの数字だけを見ると、
従来の原子力発電所とは比べものになりません。

従来の原子力発電所であれば、
1,000メガワット以上の電力を生み出すこともあります。

それに比べれば、マイクロリアクターの出力はごく一部です。

しかし、それでいいのです。

なぜなら、マイクロリアクターは
都市全体に電力を送るためのものではないからです。

狙っているのは、もっと身近で、もっと非効率な電源です。

それがディーゼル発電機です。

多くの遠隔地では、今でも電力を得るために、
燃料をトラックで運ばなければなりません。

その分、コストも手間もかかります。

さらに軍事拠点では、
それが命に関わるリスクになることもあります。

歴史的に見ても、燃料を運ぶ車列は、
紛争地帯で最も狙われやすい標的のひとつでした。


出所::NARA&DVIDS Public Domain Archive

しかし、遠隔地に設置でき、
燃料補給なしで何年も稼働するコンパクトな原子炉があればどうでしょうか。

燃料を何度も運び込む必要がなくなりますし、
発電機のために燃料輸送の車を走らせる必要もなくなります。

つまり、マイクロリアクターは単に電力を生み出すだけではありません。

軍事拠点の安全性、コスト、運用の効率を根本から変える可能性があるのです。

そして、この考え方は軍だけにとどまりません。

むしろ、ここから先にあるのは、
より分散型のエネルギーモデルです。

もし原子炉を工場でつくり、
必要な場所に運んで設置できるようになれば、
原子力発電は一回限りの巨大インフラ計画ではなくなります。

もっと標準化され、もっと量産しやすく、
もっと拡大しやすい仕組みに変わる可能性があるのです。

そして私たちは、これと似た変化を過去にも見てきました。

それが、コンピューターの世界です。

かつて計算処理は、
企業や政府機関が持つ巨大なコンピューターに集中していました。

巨大なコンピューターが、限られた場所で、
大量の処理を担っていたのです。

しかしその後、処理能力はサーバー、パソコン、
そしてクラウドへと広がっていきました。

ひとつの巨大なコンピューターがすべてを担うのではなく、
さまざまな場所に処理能力が分散していったのです。

原子力エネルギーも、
同じような道をたどり始めているのかもしれません。

大型発電所から遠く離れた場所へ電力を送るだけではなく、
必要な場所に、電源そのものを配置していく。

そんな時代が始まろうとしている可能性があります。

しかも、この変化は非常に重要なタイミングで起きています。

なぜなら、世界の電力需要が急速に増え始めているからです。

AIデータセンターの建設は加速しており、
自動車も、工場も、建物も、これまで以上に電気を使う時代になっています。

そのなかでマイクロリアクターは、
遠隔地の軍事基地だけでなく、

・工場
・鉱山
・AIデータセンター

のような施設にも電力を供給できる可能性があります。

実際、アマゾンが支援するX-Energyは、
4月に119億ドルの評価額で上場しました。

このことからも、
先進的な原子力技術がどれほど真剣に受け止められ始めているのかがわかります。

そして、X-Energyはその一例にすぎません。

・オクロ(Oklo)
・ラスト・エナジー(Last Energy)
・ディープ・フィッション(Deep Fission)
・アーロ(Aalo)

なども、それぞれ異なるアプローチで先進的な原子力発電に取り組んでいます。

細かい技術や戦略は違います。

しかし、彼らが賭けている大きな方向性はよく似ています。

それは、これまでのような大型で、一つ一つ特注される原子力プロジェクトではなく、より小さく、より標準化された原子炉なら、原子力をもう一度成長軌道に乗せられるかもしれない、という考え方です。

もちろん、成功が約束されているわけではありません。

許認可は今も大きな課題です。

燃料の供給網も、まだ十分に成熟しているとは言えません。

さらに、これらのシステムを妥当なコストで、
何度も繰り返し製造できることも証明しなければなりません。

しかし、もし原子力発電が、
もはや巨大な発電所だけに頼らなくてもよくなるのだとしたら。

これは単なる「原子力復活」の物語では終わらないかもしれません。

エネルギーは、どこで作られるのか。
どのように届けられるのか。
誰がその電力を使えるようになるのか。

その仕組みそのものが、大きく変わる可能性があるのです。

私の見解

今回の話は、単に「原子力エネルギーが復活している」というだけではありません。

私が本当に注目しているのは、
原子力発電を届ける“仕組み”そのものが変わり始めているかもしれない、という点です。

これまで原子力発電といえば、
巨大な発電所を建てるものでした。

莫大な資金を投じ、長い年月をかけ、
国や地域全体のインフラとして整備していく。

それが、原子力発電の当たり前だったのです。

しかし、
もし原子炉がもっと小さくなり、巨大インフラではなく、
ひとつの設備のように必要な場所へ配備できるようになったらどうでしょうか。

その瞬間、原子力発電の存在は大きく変わります。

発電所をつくるのではなく、電源を必要な場所へ届ける。

そんな新しいエネルギーの形が生まれるかもしれないのです。

そしてこれは、いま水面下で進みつつあるエネルギー革命の中でも、
最も見過ごされている変化のひとつかもしれません。

皮肉なことに、原子力発電が再び大きな存在になろうとしている今、
そのカギを握っているのは、原子炉を「巨大化」することではないのかもしれません。

むしろ、まったく逆です。

原子炉を、これまでとは比べものにならないほど小さくすること。

その“小ささ”こそが、
原子力をもう一度、大きな未来へ押し上げる力になる可能性があるのです。

イアン・キング