脱ナフサ時代の製造業生存戦略【第2話】リサイクルは「義務」から「産業」へ〜ケミカルリサイクルが変えるバリューチェーン
〜廃プラが「ゴミ」から「原料」になる時代の、産業構造の組み直し〜
◆はじめに 第1話から第2話へ
第1話では、ナフサの四つの後継者(エタン・バイオマス・廃プラ・CO2)を並べさせていただきました。そのなかで、廃プラスチックは「日本にとって最も射程の長い後継者」だと申し上げました。
第2話では、その廃プラを掘り下げます。テーマは「リサイクルは『義務』から『産業』へ」。これまで日本のリサイクルは、容器包装リサイクル法に代表される「義務としての処理」が主軸でした。けれども2026年以降、廃プラが「原料」として価値を持ち始めると、リサイクルは産業に変わります。
わたくしは前回連載「リサイクルの真実 日本・欧州・米国・東南アジア、4つの現場から問い直す」全12回で、リサイクルの現実を腰を据えて掘り下げました。そこで描いたのは「日本のリサイクル率72%は見かけ倒し、EU基準だと実質25%」という現実です。今回の第2話は、その続編であり、より前向きな話でもあります。
「義務だから仕方なくやる」から「産業だから本気でやる」へ。この転換が、いま、製造業の現場で静かに進んでいます。その地殻変動を、現場目線で整理させていただきます。
【脱ナフサ_第2話_スライド.pdf
スライド2「義務型から産業型への構造転換」参照】
※ 従来の『義務としてのリサイクル』と新しい『産業としてのリサイクル』を、目的・主体・収益源・スケール・時間軸の5軸で対比した全体マップ。
◆そもそも「義務」と「産業」は、何が違うのか
義務型リサイクルの構造的限界
日本のリサイクルは、1995年制定の容器包装リサイクル法を起点として、「拡大生産者責任(EPR)の限定版」として発展してきました。容器を作って売る企業(特定事業者)が、自治体が分別収集した廃容器のリサイクル費用を負担する仕組みです。
この仕組みは、世界的にも先進的な試みでした。けれども、20年運用された結果、いくつかの構造的な限界が見えてきました。
•「処理コストを誰が負担するか」の議論に終始してきた。「処理した素材をどう価値化するか」の議論が浅い
•自治体が分別収集し、指定法人(日本容器包装リサイクル協会)が処理事業者に処理委託する仕組みは、「コスト最小化」を最適化する設計になっている。「品質最大化」を志向しにくい
•回収された素材の半分以上が「サーマルリサイクル」(焼却して熱回収)で処理されている。これはEU基準ではリサイクルにカウントされない
•リサイクル素材の品質保証・トレーサビリティが弱く、化学メーカーが原料として使いにくい
つまり、現状のリサイクルは「廃棄物の処理コストを社会的にシェアする仕組み」であって、「廃棄物を原料に変える産業」にはなっていません。
産業型リサイクルの三つの条件
では、産業型リサイクルとは何でしょうか。わたくしは30カ国の現場を歩いてきたなかで、産業として成立しているリサイクルには三つの共通条件があると感じています。
【条件1】廃棄物が原料として化学メーカーに売れる
欧州BASFや米国Eastmanの工場では、廃プラ熱分解油やケミカルリサイクル原料を、トン単位の長期契約で「購入」しています。価格は変動制ですが、原料市場として機能しています。これが第一条件です。日本ではまだ、この市場化が始まったばかりです。
【条件2】処理事業者が利益を出せる事業構造になっている
リサイクル業者が「赤字でも社会的使命だから続ける」のではなく、「利益が出るから続ける」状態。これは資本市場からの投資を呼び込み、規模拡大を可能にします。欧州のSUEZ、Veolia、Remondisは、いずれもケミカルリサイクル事業を成長事業として位置づけ、株主に対して収益貢献を約束しています。
【条件3】顧客企業(最終ユーザー)がプレミアム価格を支払う
LEGO、Unilever、L'Oréal、自動車メーカーなどが、リサイクル素材を「同等品質で安いから使う」のではなく、「リサイクル素材だから割増しを払ってでも使う」段階に入っています。これは規制対応とブランド価値の両方から来る要求です。
この三つが揃ったとき、初めてリサイクルは産業になります。日本では、いま、ようやくその入口に立っています。
廃棄物処理は『コスト』だった。原料リサイクルは『売上』になる。同じ作業でも、立つ場所が180度違う。
◆ケミカルリサイクル 技術の全体像と日本の立ち位置
四つの主要技術 熱分解・ガス化・解重合・溶媒抽出
ケミカルリサイクルには、四つの主要技術があります。第1話でも触れましたが、第2話では、それぞれの「産業としての成立性」という観点で、もう一度整理させてください。
•熱分解油化(パイロライシス):廃プラを400〜600℃で熱分解し、ナフサ相当の熱分解油を得る。最も汎用性が高く、既存ナフサクラッカーに直接投入できる。世界の商業化案件の主流
•ガス化:800〜1,200℃で熱分解し、合成ガス(H2+CO)を得る。製鉄プロセスとの統合、アンモニア・メタノール製造への活用が進む。日本ではレゾナックが世界唯一の商業ガス化
•解重合(ケミカルリサイクル狭義):PET、PS、PA、PMMAなど特定樹脂をモノマー単位まで戻す。原料純度が高く、食品包装向けに有利。米国Eastmanのメタノリシスが代表
•溶媒抽出:マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの中間。樹脂を溶媒で溶解し、添加剤・汚染物質を除いて再使用する。低エネルギー型の利点
脱ナフサの文脈で最も射程が広いのは、熱分解油化です。なぜなら、得られる熱分解油が、ナフサとほぼ同じ性状を持ち、既存のナフサクラッカーにそのまま投入できるからです。「集める」「混ぜない」のインフラさえ整えば、化学メーカーは設備改造なしでケミカルリサイクル製品を商業生産できます。
日本のケミカルリサイクル商業化マップ 2026年版
日本でも、複数のプロジェクトが商業稼働に入りつつあります。第1話で挙げた一覧を、より詳細に整理させてください。
•ENEOSホールディングス:川崎エリアで廃プラ熱分解油の自社製造プロジェクトを2025年から本格稼働。年間2万トン規模からスタート。住友化学・三井化学のクラッカーに供給する垂直統合モデル
•三菱ケミカルグループ:茨城県鹿島地区で英国Mura Technologyの「HydroPRS™」技術を導入。年間2万トン処理能力。HydroPRSは超臨界水を使った高効率熱分解技術で、欧州Dowもライセンス取得
•レゾナック(旧昭和電工):川崎事業所で廃プラスチックのガス化による水素・アンモニア製造を継続。年間6万トン処理能力。日本で唯一の商業規模ガス化リサイクル。アンモニアは尿素として、水素はエネルギー用途として供給
•出光興産:千葉でNesteと連携、廃プラ熱分解油の受入と既存クラッカーでの処理を2024年から開始。10,000トン規模からスタート
•住友化学・三井化学:千葉・市原コンビナートで複数の廃プラリサイクル事業を立ち上げ準備中。両社のクラッカーが地理的に近接していることを活かした連携モデル
•旭化成:ケミカルリサイクル素材を使ったポリアミド樹脂「LEONA™」のリサイクルグレードを2024年から展開。自動車・電子部材向け
•東洋紡:PET解重合技術を保有し、繊維製品(衣料・産業繊維)のPET to PETサイクルを構築中
欧米との「桁違い」のギャップ
ただし、率直に申し上げなければならない現実があります。商業規模の桁が、日本は欧米と比較して一桁小さい状態です。
日本の主要プロジェクトは年間2万トン〜6万トン規模。欧州BASFのルートヴィヒスハーフェンは10万トン、Dowのベーレンは12万トン、米国Eastmanのキングスポートは11万トン規模です。SABICとPlastic Energyの合弁プラントも、2030年までに30万トン規模に拡大計画です。
「日本は世界に5年遅れている」と前回連載でも申し上げましたが、第2話でもう一度、強調させてください。技術力ではなく、商業スケールの話です。技術は十分世界水準にあるのです。けれども、「集める」「運ぶ」「処理する」を商業スケールで束ねるインフラが、日本ではまだ未成熟です。
欧州の先行から学ぶ三つの仕組み
欧州が日本より早く商業化できた理由は、技術ではなく仕組みです。三つの仕組みが、欧州の市場を作りました。
【仕組み1】PPWR(包装・包装廃棄物規則)による需要のプル
EUのPPWRは、2030年までに包装材のリサイクル含有率を樹脂別に義務化します。PETボトル30%、その他プラスチック包装10%〜35%です。これによって、化学メーカーは「ケミカルリサイクル原料を確実に売れる」前提で投資判断できる。需要が確定すれば、供給は付いてきます。
【仕組み2】ISCC PLUS認証ベースのマスバランス方式
第1話でも触れたマスバランス方式。これがEUで先行して機能した結果、化学メーカーは既存設備を活かして「認証ベースのリサイクル製品」を販売できるようになりました。投資効率が圧倒的に高い仕組みです。
【仕組み3】拡大生産者責任(EPR)の「品質連動型」運用
欧州のEPRは、単に「企業にコスト負担させる」だけではなく、「リサイクル可能な設計をした企業の負担を減らす」「リサイクル材を使う企業を優遇する」という「品質連動型」の運用に進化しています。これがケミカルリサイクルの需要を押し上げる構造になっています。
欧州はリサイクル技術で勝っているのではない。リサイクル市場を設計する力で勝っている。
◆バリューチェーンが、根本から組み直される
従来のバリューチェーン 石油→ナフサ→化学品→製品→廃棄物
わたくしが大手ケミカルHDで機能性樹脂事業を率いていた頃、化学産業のバリューチェーンは、一方通行の直線でした。中東で採れた原油から、ナフサが分留され、ナフサクラッカーで基礎化学品になり、誘導品メーカーが樹脂を作り、加工メーカーが製品にし、消費者が使い、ゴミとして廃棄される。
この「直線型」のバリューチェーンには、構造的な前提が三つありました。
•原料は無尽蔵に供給される(石油は安く、いつでも買える)
•廃棄物は外部不経済(誰かが処理してくれる、自社では負担しない)
•規制はコストである(守る分だけ利益が減る)
この三つの前提が、いま、すべて崩れています。
循環型バリューチェーンが求める「新しい役割」
ケミカルリサイクルが商業化すると、バリューチェーンは「直線」から「環」に変わります。けれども、ただ「環」になればいいわけではありません。新しい役割が複数生まれ、それを誰が担うかが、産業の競争力を決めます。
【脱ナフサ_第2話_スライド.pdf
スライド7「循環型バリューチェーンの新しい役割」参照】
※ 従来の直線型バリューチェーンと、ケミカルリサイクル時代の循環型バリューチェーンを並べて、新しく生まれる役割(リサイクル原料商社、トレーサビリティ管理、認証機関、再生材設計コンサル等)を可視化したマップ。
具体的に、どんな新しい役割が必要になるでしょうか。現場感覚で、いくつか挙げさせていただきます。
• 【新役割1】リサイクル原料商社:廃プラ熱分解油を、複数のリサイクル業者から集めて、化学メーカーに長期契約で供給する。原油商社の廃プラ版
• 【新役割2】トレーサビリティ管理事業者:マスバランス認証のロジックを運用し、認証データの正確性を保証する。ブロックチェーン技術の活用が進む
•【新役割3】認証機関:ISCC PLUS、UL、TÜVなどの認証機関は、本格的に「リサイクル素材の認証ビジネス」に進出している
• 【新役割4】リサイクル可能性設計コンサル:製品開発段階から「リサイクルしやすい設計」を組み込む設計支援。エコモジュラデザインの実装
•【新役割5】廃棄物のマッチング・プラットフォーマー:素材別、地域別、品質別に廃棄物データを集約し、最適なリサイクル先とマッチングするデジタルプラットフォーム
•【新役割6】リサイクル素材ブランド:『rPE(リサイクルPE)』『rPET(リサイクルPET)』を、化学品ブランドとして展開する。トレーサビリティ付きで差別化
「価値を生む場所」が、上流からも下流からも生まれる
従来の化学産業では、価値は「上流」(原料・基礎化学品)で生まれ、「下流」(消費者向け製品)で消費されてきました。
循環型バリューチェーンでは、価値が「下流」からも生まれるようになります。廃棄物(廃プラ)が「ゴミ」から「原料」に変わるからです。下流が「原料源」として上流の機能を持ち始めます。これは産業構造のコペルニクス的転回です。
わたくしが30カ国を歩いてきた経験から申し上げると、この変化を最も早く理解した企業から、新しい競争優位が生まれます。「ゴミから原料を作る」という発想を、社内のどこに置くか。研究開発部門なのか、調達部門なのか、新事業開発部門なのか。組織設計レベルで、企業が問われています。
◆マスバランス方式 現実解の運用論を、もう一段深く
そもそもマスバランス方式とは
第1話でも触れさせていただきましたが、ここでもう一段深く掘り下げさせてください。マスバランス方式は、ケミカルリサイクルの商業化に欠かせない「会計の仕組み」です。
化学プロセスでは、廃プラ由来の熱分解油と、化石由来のナフサを、同じクラッカーで一緒に処理してしまうと、化学的にはどちらの分子がエチレンになったのか区別できません。そこで「会計上のアロケーション」で対応するのがマスバランス方式です。
具体例で説明させてください。あるクラッカーに、化石ナフサ80トン、廃プラ熱分解油20トンを投入したとします。クラッカーから出てくるエチレン30トンのうち、6トン(20÷100×30)を「リサイクル由来」と認定し、24トンを「化石由来」とします。投入比率に応じてアウトプットを比率配分する、シンプルな考え方です。
そして、その認証を第三者機関(ISCC PLUS等)が監査することで、「リサイクル由来エチレン」の信頼性が担保されます。
マスバランスの三つの認証スキーム
マスバランスにはいくつかの認証スキームがあります。日本の製造業として知っておくべき三つを整理します。
•ISCC PLUS:International Sustainability and Carbon Certification。最も普及しており、欧州・日本の主要化学メーカーが採用。BASF、SABIC、Dow、三井化学、住友化学、出光興産など
•REDcert²:ドイツ発の認証スキーム。EUの再生可能エネルギー指令(RED)との整合性が高い。バイオマス系で先行
•RSB(Roundtable on Sustainable Biomaterials):バイオマス系で持続可能性基準が最も厳しい。航空業界(SAF)で採用が進む
ケミカルリサイクル向けでは、ISCC PLUSが事実上のデファクトスタンダードです。日本企業がケミカルリサイクル製品を欧州市場で売るには、ISCC PLUS認証はほぼ必須と考えていただいて良いでしょう。
マスバランスの三つの運用論争 日本企業が知っておくべきこと
マスバランス方式は便利な仕組みですが、運用面では三つの大きな論争があります。日本企業が国際市場で戦うには、これらを理解しておく必要があります。
【論争1】Fuel use exemption(燃料用途除外)の扱い
廃プラから熱分解油を作る際、一部はクラッカーに投入されますが、一部はボイラー燃料などに使われます。「燃料用途分」をマスバランスから除外するかどうか、つまり「リサイクル原料として使った分だけ」をリサイクル製品にカウントすべきか、「投入した全量」をカウントできるかで、業界と認証機関の議論が続いています。
ISCC PLUSは2023年に「燃料用途は除外する」という方針を強化しました。これにより、認証ハードルが上がりましたが、信頼性は高まりました。
【論争2】Free attribution vs Proportional attribution(自由配分か比例配分か)
マスバランスでは、投入量に応じてリサイクル分を計算しますが、「どの製品にリサイクル分を割り当てるか」については二つの考え方があります。
自由配分は、リサイクル原料を投入したクラッカーの全製品(エチレン・プロピレン・BTX)の中から、企業が自由に選んで「リサイクル製品」として認定する方式。需要の高い製品に集中投入できる。
比例配分は、すべての製品に投入比率で按分する方式。透明性は高いが、企業にとっては運用負担が大きい。
ISCC PLUSは自由配分を許容しています。これにより、化学メーカーは「需要が高くプレミアムを取れる製品」(食品包装向けPE、自動車向けPP等)にリサイクル分を集中投入できます。
【論争3】食品包装への適用可否
これは欧米でも議論が分かれる論点です。「マスバランス方式で認証されたリサイクル原料を、食品包装に使ってよいか」という問いです。
化学的には、ケミカルリサイクル由来の樹脂は、化石由来と同等の純度が確保できるため、安全性に問題はありません。EFSA(欧州食品安全機関)は2022年から段階的にケミカルリサイクル素材の食品包装向け使用を認めています。米国FDAも同様の方向に動いています。
日本では厚生労働省の見解がまだ慎重で、ケミカルリサイクル素材の食品包装向け本格使用は2026年時点では限定的です。これが解禁されると、日本のケミカルリサイクル需要は一気に拡大します。
【脱ナフサ_第2話_スライド.pdf
スライド9「マスバランス方式の運用論争マップ」参照】
※ Fuel use exemption、Free vs Proportional attribution、食品包装適用可否の三つの論争を、欧州・米国・日本の立ち位置で整理したマトリックス。
◆CLOMAと東南アジア 日本だけで完結しない仕組みづくり
CLOMAという、日本発の挑戦
ここから、わたくしが実際に関わっている話を、現場感覚でお伝えさせてください。CLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)の話です。
CLOMAは、海洋プラスチックごみ問題の解決を目指して、2019年に経済産業省主導で設立された官民連携プラットフォームです。約500社(2026年時点)が加盟しており、わたくしはインドネシア協力WGのチームリーダーとして関わらせていただいています。
CLOMAの活動は多岐にわたりますが、ケミカルリサイクルの観点から重要なのは三つの取り組みです。
•素材アライアンス:リサイクル可能な素材設計と、再生材の品質基準を業界横断で議論する
•国際展開支援:日本のリサイクル技術・インフラを東南アジアに展開する具体プロジェクトを進める
•マッチング・プラットフォーム:リサイクル素材の供給側と需要側をつなぐデジタル基盤を構築中
インドネシア・ベトナム・タイ 現場で見えてきた可能性
わたくしがインドネシア協力WGリーダーとして現場を歩いて感じることがあります。「廃プラの供給ポテンシャル」と「リサイクル産業の育成余地」を同時に持っている地域は、東南アジアです。
インドネシアの2億7,000万人、ベトナムの1億人、タイの7,000万人。プラスチック消費量は急増しており、現状ではその多くが埋立か海洋流出に至っています。一方で、人件費・土地・電力コストは日本より大幅に低く、リサイクル産業の事業性は高いと見ています。
インドネシアでは、PT Infra Hijau Arkeplago(パートナー企業)と連携して、ジャワ島中部にリサイクルタウン構想を立ち上げました。回収・選別・前処理・ケミカルリサイクル・再生樹脂生産までを統合した「リサイクル産業クラスター」を造ろうという挑戦です。日本の技術と、現地の労働力・原料を組み合わせる戦略です。
ベトナム・タイでも、日系化学メーカー(住友化学・三井化学・三菱ケミカル)の現地拠点が、ケミカルリサイクル原料の調達網構築に動き始めています。
「ASEAN+日本」という選択肢
わたくしが現場で感じている可能性は、「日本国内で完結する」のではなく、「ASEANの大量供給」と「日本の高品質技術」を組み合わせるバリューチェーンです。
具体的には、こんな絵姿になります。
•インドネシア・ベトナム・タイで廃プラを大量に回収し、熱分解油を生産する
•熱分解油をタンカーで日本(千葉・川崎・水島・大分等)に輸送する
•日本の既存ナフサクラッカーで処理し、高品質なリサイクル樹脂を生産する
•ISCC PLUS認証ベースで、グローバル市場(欧州・北米・アジア)へ展開する
これは「廃プラの中東モデル」と呼んでいます。中東のナフサ供給網を、廃プラ熱分解油で組み直すイメージです。中東からの石油タンカーが、ASEANからの熱分解油タンカーに置き換わる絵姿です。
もちろん、これは2030年代の絵姿であって、いますぐ実現するものではありません。けれども、構想として持っておくことが、長期投資判断には欠かせません。
【脱ナフサ_第2話_スライド.pdf
スライド11「ASEAN+日本の循環バリューチェーン構想」参照】
※ インドネシア・ベトナム・タイの廃プラ供給と、日本のクラッカー処理能力を結ぶ「廃プラの中東モデル」の地理的・物流的マップ。
廃プラは『国内問題』ではない。アジア全体の資源として捉え直すと、日本の役割は変わる。
◆規制と顧客要求が、産業化を後押しする
EUのPPWR・ESPR 日本企業への影響
第2話を読んでくださっている経営者の方は、おそらくこう感じておられるでしょう。「ケミカルリサイクルが産業になる、というのは分かった。けれど、本当に売れるのか」。
答えは、欧州の規制が「強制的に売れる構造」を作り始めているということです。
PPWR(包装・包装廃棄物規則)は、2026年から段階的に施行され、2030年までに包装材のリサイクル含有率を樹脂別に義務化します。
•PETボトル:2030年までに30%以上
•食品接触の包装プラスチック:2030年までに10%、2040年までに50%
•食品接触以外の包装プラスチック:2030年までに35%、2040年までに65%
これは、欧州市場で商品を売る日本企業すべてに影響します。容器包装の原料を使う食品メーカー、化粧品メーカー、家電メーカー、自動車メーカー、すべてが対応を迫られています。
もうひとつ重要なのが、ESPR(エコデザイン規則)です。これは2025年から段階的に施行されており、製品の「リサイクル可能性」を設計段階から評価し、デジタル製品パスポート(DPP)で開示することを義務化します。日本の製造業も、欧州向け輸出製品はこの基準を満たさなければなりません。
顧客企業の調達基準が変わっている
規制だけが押し上げているのではありません。最終ユーザー(B2C企業、最終消費財メーカー)の調達基準も、急速に変わっています。
•Unilever:2025年までに包装の25%をリサイクル材使用に。2030年までに50%目標
•L'Oréal:2030年までに包装の50%をリサイクルまたはバイオ由来に
•Procter & Gamble:2030年までに包装の50%リサイクルプラスチック使用
•Coca-Cola:2030年までに包装の50%リサイクル材使用、2050年までに100%
•LEGO:2032年までに玩具製品をリサイクル可能素材または再生可能材料に切り替え
•BMW・Volkswagen:自動車部品のリサイクル材使用比率を段階的に引き上げ
•Apple:iPhoneやMacBookに使うプラスチックの100%リサイクル化を目標
これらの顧客企業は、規制があるから動いているのではなく、ブランド戦略として動いています。「環境ブランド」を確立することが、長期的な競争力につながると判断しているからです。
日本の素材メーカーが彼らに供給したければ、ケミカルリサイクル素材の安定供給と認証は、もはや「あるとうれしい」ではなく「ないと取引できない」レベルになりつつあります。
日本の規制の動向 遅れと、これからの加速
日本国内の規制動向にも触れさせてください。
2022年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、製造事業者にリサイクル可能設計を促す枠組みが整備されました。けれども、EUのPPWRのような「強制的なリサイクル含有率義務化」までは進んでいません。
経済産業省・環境省は2025年から「ケミカルリサイクル産業育成パッケージ」の検討を進めており、税制優遇・補助金・規制緩和を一体化した政策を準備中です。2027年頃に本格的なパッケージが出てくる見込みです。
また、第1話でも触れた厚生労働省の食品包装規制が、ケミカルリサイクル素材の本格使用解禁に向けて、有識者検討会が開かれています。2027年か2028年には解禁される見込みです。
これらが揃った時、日本でもケミカルリサイクルの本格的な需要拡大が始まると見ています。それまでに、供給側のインフラを整えておくことが、日本企業の競争力を左右します。
◆経営者が今、決めなければならない四つの判断
判断1 自社のポジショニング
第2話の最後に、経営者のみなさまが今、直面している具体的な判断軸を整理させていただきます。
まず一つめは、自社のポジショニングです。
製造業の経営者として、ケミカルリサイクルの世界で、どの立ち位置を取るか。大きく四つの選択肢があります。
①素材供給者:自社でリサイクル素材を製造・販売する。化学メーカー・専門リサイクル事業者向け
②素材ユーザー(プレミアム調達):リサイクル素材を割増し価格で調達し、自社製品のブランド価値を上げる。最終消費財メーカー向け
③素材ユーザー(規制対応):規制で求められる最低限のリサイクル材使用に留める。コスト最小化型
④インフラ事業者:回収・選別・前処理など、リサイクルバリューチェーンの中間機能を担う。物流・廃棄物処理事業者向け
どの立ち位置を選ぶかで、必要な投資・人材・パートナーが大きく変わります。これは「いつかやろう」ではなく、いま決めるべき判断です。
判断2 投資のタイミング
二つめは、いつ投資するかです。
商業規模のケミカルリサイクル設備への投資は、桁の大きな話になります。年間2万トン規模で数十億円、10万トン規模だと数百億円のオーダーです。
今すぐ投資するメリットは、「補助金が出るうち」「先行者利益を取れるうち」「人材・技術パートナーが確保できるうち」に動けることです。経済産業省・環境省の補助金は、2027年頃まで手厚く、その後は段階的に縮小すると見られます。
一方で、技術的にはまだ進化中で、今投資した設備が3〜5年で陳腐化するリスクもあります。これを避けるには、「モジュラー型」「拡張可能型」の設備設計と、技術ロイヤリティ契約の柔軟性が必要です。
わたくしの現場感覚では、「2026〜2028年が国内ケミカルリサイクル投資の黄金期」だと感じています。この3年間で動けるかどうかで、日本企業の競争力が決まると言っても過言ではありません。
判断3 パートナー戦略
三つめは、どのパートナーと組むかです。
ケミカルリサイクルは、一社で完結する事業ではありません。回収・選別・前処理・ケミカル変換・素材販売・最終ユーザーへの供給という長いバリューチェーンを束ねる必要があります。
日本企業がパートナーシップを組む際、典型的なパターンが三つあります。
•パターンA:欧州技術ライセンス+日本オペレーション。Mura、Plastic Energy、Quantafuel、QuantaSol等の欧州技術を導入し、日本国内で運用する。三菱ケミカル・出光興産が典型
•パターンB:日本技術+欧州市場展開。レゾナックのガス化、東洋紡のPET解重合などの日本独自技術を、認証取得後に欧州市場へ展開する
•パターンC:日本+ASEAN統合モデル。インドネシア・ベトナム等で廃プラ供給網を組み、日本でケミカル変換を行う『廃プラの中東モデル』
どのパターンを選ぶかは、自社の技術ポジション、資金力、市場戦略によって違います。けれども、いずれも「単独では不可能、パートナーシップ必須」という共通性があります。
判断4 人材と組織
四つめは、人材と組織です。
ケミカルリサイクル事業を立ち上げるには、これまでの化学メーカーとは違う種類の人材が必要です。
•廃棄物処理業界のオペレーション知見:これまでの化学メーカーには稀少
•サステナビリティ認証・規制対応の専門人材:ISCC PLUS、PPWR、ESPRなどに精通
•国際物流・通関の知見:廃プラ熱分解油の越境取引には、バーゼル条約・各国の廃棄物規制の理解が不可欠
•デジタル技術人材:トレーサビリティ管理、デジタル製品パスポート対応
•マッチング・営業の知見:B2BマーケットプレイスやリサイクルブランドのSCM
これらの人材を、社内で育てるか、社外から採用するか、合弁会社で確保するか。組織設計レベルの判断が問われます。
◆第2話の結びに 義務から産業へ、現場の景色は変わる
「リサイクルは儲かる」と言える時代へ
第2話の冒頭で、「義務」から「産業」へ、というテーマを掲げさせていただきました。長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございます。
わたくしは正直に申し上げたいことがあります。10年前、リサイクルの話を経営者の方に持っていくと、「コストの話」「CSRの話」として聞かれることがほとんどでした。いまは違います。「投資の話」「成長事業の話」として聞かれます。これは大きな変化です。
「リサイクルは儲かる」と、はっきり言える時代に、ようやく入りつつあります。けれども、それが日本で本格化するには、もう一段の地殻変動が必要です。規制・顧客・投資家・社員、それぞれの意識が同時に動いたとき、産業化が一気に加速します。
第2話のチェックリスト 明日からの五つの問い
第2話の内容を、明日からの経営判断に落とし込んでいただくために、五つの問いをお渡しします。
•自社のポジショニングを決めたか。素材供給者か、ユーザーか、インフラ事業者か
•欧州PPWRの2030年要求に、いま供給している製品は対応できるか
•顧客企業(Unilever、Apple、自動車OEM等)のリサイクル材調達基準を把握しているか
•ISCC PLUS認証取得のロードマップを描いているか。取らないと欧州・米国で売れない時代が来る
•CLOMA等の業界連携に参画しているか。一社で動けないインフラを、業界で立ち上げる時代
◆次回 第3話への予告
第2話では、廃プラスチックを「義務から産業へ」の文脈で掘り下げました。次回・第3話では、もうひとつの後継者の母艦である「電気」、つまり再生可能エネルギーと製造業の関係を取り上げます。
第3話のタイトルは「再エネ電力が『製造業の競争力』になる日 電力コストの地政学」。「再エネは間欠的で使えない」という現場の本音と、「2050年カーボンニュートラル」という建前の間で、製造業はどう電力戦略を組み直すか。前回連載「再生可能エネルギーと製造業 建前を脱して本音で向き合う」全12回の蓄積を活かしつつ、脱ナフサ文脈で再構成させていただきます。
第2話を読んで「うちはこの判断で悩んでいる」「ここはもっと深く知りたい」「この点の認識は違う」というお声がございましたら、お聞かせください。読者のみなさまの問いかけが、連載の質を磨き上げてくださいます。
どうぞ最後までお付き合いください。湘南の海から、横浜の港から、そしてジャカルタ・ホーチミン・バンコクの現場から、お届けします。
2026年5月 湘南・横浜にて
畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役
◆引用文献・参考資料
• 経済産業省「資源循環経済への移行に向けた政策パッケージ」2025年
• 経済産業省・環境省「プラスチック資源循環戦略」2024年改訂版
• 環境省「日本のリサイクル統計」2025年版
• 欧州委員会「Packaging and Packaging Waste Regulation(PPWR)」公式文書
• 欧州委員会「Ecodesign for Sustainable Products Regulation(ESPR)」公式文書
• ISCC PLUS 認証制度公式ドキュメント(2025年版)
• EFSA(欧州食品安全機関)「Chemical Recycling Safety Assessment」2024年
• US FDA「Letter of No Objection for Recycled Plastics」各種
• 畠山達彦 過去連載「リサイクルの真実 日本・欧州・米国・東南アジア、4つの現場から問い直す」全12回(note)
• 畠山達彦 過去連載「再生可能エネルギーと製造業 建前を脱して本音で向き合う」全12回(note)
• 畠山達彦「脱ナフサ時代の製造業生存戦略」Prologue・第1話
◆著者プロフィール
畠山 達彦 株式会社DCTA 代表取締役
大手ケミカルHDの事業会社にて機能性樹脂事業の責任者を務め、素材開発・加工技術・工場設計・生産管理に至るバリューチェーン全体の意思決定を担う。30カ国以上の事業運営を統括した後、2014年11月に独立し株式会社DCTAを設立。製造業の環境規制対応(PFAS・EU CRA等)、IoT/AI/デジタルツインを活用したスマートファクトリー構築、アジアでの資源循環ビジネス開発を中心としたコンサルティングを展開。湘南・横浜を拠点に、東南アジア・中東・インド・欧州・米国で活動中。NewsPicks EXPERT AWARD 2024 ベストフラッシュオピニオン賞2024/2025年連続受賞。CLOMA インドネシア協力WG リーダー。
会社URL https://www.dctainc.com/
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