ロシアのハイブリッド脅威 2026年1月から8月の傾向分析 短縮版
本稿は、仮創研(LLMによる思考実験・調査分析を行っている組織 https://note.com/ichi_twnovel/m/mcbf381f39cea )が保有するデータセットにもとづく『ロシアのハイブリッド脅威 2026年1月から8月の傾向分析』の短縮版である。
調べた範囲と方法、8か月の全体像、ドローン、選挙と関係した勢力、効果の問題、分析の限界の順に述べる。最後に、EUvsDisinfoのデータとの比較も行っている。
1. 調べた範囲と方法
2026年1月から8月末までに、ロシアとベラルーシ、およびその代理によるとされる強制、妨害、干渉の事案を139件集めた。手口、標的、効果、選挙との関わりの変化を追った。うち2件は、誰が実行したのかもロシアとの関係も、もとにした報道に書かれていない。対象期間は1月1日から8月31日である。ただし、実行主体が後から公表された場合など、9月初旬までの続報を補った。
もとになったのは仮創研が保有する日々の情報のデータセットと、直近の認知戦関連レポートのデータセットである。日々の情報から810件を抜き出し、内容を読んで224件の候補に整理した。重複や対象外のものを落とし、最終的に139件へ絞り込んだ。認知戦関連レポートは54件のうちロシアを扱う29件を使った。
本稿でいうハイブリッド脅威は「正式な戦争に至らない範囲で他国に加えられる強制、妨害、干渉」である。EUやNATOの定義にある「手段の組み合わせ」は、情報から事案ごとに確認することが難しい。そのため、この条件は定義の条件にはせず、次に述べる3つのタイプへの分け方に使った。
各事案を中心となった12タイプの手口に割り当て、その手口が物理的な被害を伴うかどうかで物理、混合型、非物理の3つにまとめた。物理にはドローン、物理的破壊工作、代理と犯罪ネットワークの雇用、重要インフラ攻撃が入る。混合型には選挙干渉、越境弾圧(国外にいる反体制派や同胞への脅迫や監視)、移民と国境の道具化が入る。非物理には偽情報と影響工作、政治勢力との連携、サイバー攻撃、経済的威圧、電子妨害が入る。混合型は、同じ手口のなかに物理的な被害を伴う事案と伴わない事案が混ざるものを指す。この3つのまとめ方は、事案ごとに被害の有無を判定したものではない。
誰がやったのかを断定できるのは、139件のうち12件にすぎない。 分析機関の推定が65件、当局の主張が35件、報道の示唆が20件で、残る7件は記載なしや複数の確度の併記などである。以下の傾向も、この確かさの幅を踏まえて読む必要がある。
2. 8か月の全体像
月別の集計は139件のうち、2026年より前に始まった継続中の作戦22件を除いた117件を対象とした。手口別の件数は、偽情報と影響工作が42件、選挙干渉が29件、ドローンが15件である。この3つが全体の7割を超える。月次合計は1月の15件から4月の9件まで落ち、5月に22件の山を作った。その後は14件前後で落ち着いている。
物理的な手口の割合は上がり、8月には初めて物理が最も多いタイプになった。


表は各月の事案を100パーセントとした割合であり、残りは混合型である。物理が非物理を上回ったのは8月だけだった。
変化は一直線ではない。物理の手口は2月に27パーセントへ上がった後、4月に11パーセントへ下がった。そして7月に36パーセント、8月に43パーセントと続けて上がった。混合型は33件のうち29件が選挙干渉であり、ほぼ選挙の日程どおりに動く。選挙干渉の29件を除いた88件で計算しても、物理は8パーセントから55パーセントへ上がり、非物理は92パーセントから36パーセントへ下がる。8月の逆転は変わらない。
3. ドローンの使われ方
ドローンの使われ方には、3つの型が順に加わった。 春までは偽情報などを作る材料や、供与と威嚇の道具だった。3月からNATO加盟国への墜落と侵入が続き、6月から爆発物を伴う事案が現れ、8月にはドイツの空港にまで届いた。先のパターンが後の型に置き換わったのではなく、パターンが積み重なったのである。

ドローンが関わった事案は26件あり、そのうち2026年に始まったものは24件ある(前章の「ドローン」15件はドローンが中心的役割を果たしたもののみとなっている)。大きく3つのパターンに分けられる。
第一のパターンでは、墜落した機体が情報操作の材料になった。3月25日、ロシア領空を越えたウクライナのドローンがラトビアとエストニアに落ちた。ラトビア国防省はバルト諸国がねらわれたとは見ていない。ロシアの電子戦で航法が狂った可能性を疑った。ロシア側は翌26日から、バルト三国が対ロシア攻撃のために領空を開放したという主張を流した。調査機関DFRLabによれば、国営テレビと政権幹部が軍事的な報復に触れ、この主張に裏づけがあるように見せる働きをした。
第二のパターンは、領空への侵入と墜落と撃墜である。5月20日のリトアニアのビリニュスでは、議員と閣僚が議会の地下に避難した。さらに、空港の航空交通と首都周辺の鉄道が一時止まった。ただし3月と5月にラトビアとエストニアへ落ちた機体は、各国政府の発表ではウクライナ製である。5月の事案についてバルト三国は、ロシアが誘導してコースを変えさせたと主張する。しかし、証拠は出ていない。
第三のパターンは、爆発物を伴う事案、または攻撃である。6月11日、セルビアとハンガリーの国境で、爆発物とドローンの部品を持っていた2人が逮捕された。ロシアとの結び付きは示唆の段階にとどまる。
8月4日から5日未明にかけて、ドイツのライプツィヒ・ハレ空港で爆発物を積んだドローンが見つかった。起爆装置の不良で爆発は起きず、南滑走路が一時閉鎖された。ドイツ政府は9月1日にロシアの犯行と断定した。一方、8月8日にブルガリアの天然ガスパイプラインの近くで起きたドローン爆発は、実行主体が公表されていない。同国国防省は、現時点で意図的な事案を示すものは何もないとしている。
4. 選挙と関係した勢力
139件のうち42件が特定の選挙に結びついていた。選挙に結びついた工作の着手時期はばらつく。 投票日が単一の日付で書かれ、開始日が投票日より前で、対象期間内にある25件を調べた。着手から投票日までの日数は中央値が39日である。30日以内が10件あり、90日以上前が6件ある。ただし開始日には報道日や推定日も使われている。そのため、この数字は「いつ始まったか」と「いつ見つかったか」の両方を映す。

2027年4月18日のフランス大統領選挙をねらう工作は、投票の約9か月前である2026年7月21日に現れた。中道右派の候補エドゥアール・フィリップ氏について、テレビ局BFMTVのサイトに似せた偽サイトが作られた。そこには、同氏が前頭側頭型認知症と診断されたという記事が載った。関連する動画は、X上の82件の投稿で120万回以上閲覧された。調査機関NewsGuardは、手口がロシアの影響工作Storm-1516の作法に一致するとした。
139件のうち、関係した勢力の具体的な名前がわかった事案は34件ある。協力者、受益者、拡散者として記録されたものを数えた。標的、偽装の対象、実行者として名前が出ただけのものは含めない。関わり方は、進んで協力したものから、工作に助けられただけのものまで幅がある。標的国の外にいる主体も含む。名前の記録と、協力の立証は別である。
ハンガリーでは、ロシアの工作は野党「尊重と自由」(ティサ)と党首ペーテル・マジャール氏を攻撃し、与党フィデスを助ける形で働いた。Storm-1516は1月以降に11件の虚偽を流した。ハンガリーのシーヤールトー外相は、EUの非公開協議の内容をロシア側へ伝えたとされる。干渉が標的国の政府に都合よく働くとき、対抗策をとるかどうかは政治の問題になる。ただし4月12日の投票でフィデスは大敗した。
5. 効果がわからないという問題
本稿で最も重い発見は、効果がほとんど報告されていないことである。 効果の記述がない事案が21件ある。記述がある118件も、工作の規模や到達数にとどまるものが多い。工作が見つかった時点で記事になり、その後どうなったかが追われないためである。
効果の記述を、手がかりになる語句で機械的に分類した。その結果、「政策や人事の変化」に該当するものは6件あった。しかし中身を読んで実際の変化を確認できたのは3件にとどまる。その3件はハンガリー、ラトビア、ドイツである。ハンガリーでは前章のとおり、ロシアの工作が助けた与党が大敗した。ラトビアでは5月7日の墜落の後、防空の不足への批判から国防相と首相が辞任した。ただし機体はウクライナ製である。ロシアの関与については、ウクライナ外相が電子戦による誘導妨害を指摘したという段階にとどまる。ドイツではライプツィヒの事案がきっかけとなった。ボンのロシア総領事館の閉鎖、追加制裁の提案、EUによるロシア人観光ビザの制限の動きにつながった。
語句で対象になったが、中身を読んで除いた事案のひとつがアルメニアである。6月7日の議会選挙でパシニャン首相が再選された。調査機関CheckFirstは、干渉が続いたのに結果への影響は限られたと示唆している。
効果がわからなければ、ドローンの墜落、偽動画の再生、票の買収の重さを比較できない。何が起きたかという事実だけが増え、何が変わったかがわからない。この状況が、対策の優先順位を決める妨げになっている。そもそも対策が必要なのかすら判断できない。
6. 分析の限界と残る仮説
資料は日々の報道を集めたデータセットであり、すべての事案を網羅した一覧ではない。件数の増減は、実際の活動量と報道量の両方を反映する。とくに2月は、報道のデータセットに月別のファイルがないため、他の月から遡って拾い出した事案に限られ、他の月と同じ網羅性はない。
今回用いた仮創研のデータと欧州対外行動庁(EEAS)が運営する偽情報事例データベースEUvsDisinfoと比較してみると、4月の谷と5月の戻り、6月の落ち込みが一致した。ただし、EUvsDisinfoは偽情報の主張ひとつを1件と数えるのに対し、本稿は事案ひとつを1件と数える。数える単位が違うため、実数での比較はできない。
各事案を中心となる手口ひとつに割り当てた分類も、恣意的な分類によるものである。複数の手口の重なりは集計に表れない。また、12のタイプには手段、目的、実行者の調達による分類が混ざっている。開始日に報道日や推定日を使うため、月ごとの数字は「起きた月」と「知られた月」の両方を含む。
集計からは、ロシア国内向けの宣伝、ロシアが標的になった事案、ウクライナ領内の通常の戦闘を外した。ウクライナの21件は通常の戦闘と区別できるものに限った。ただし、境界上の事案も含まれる。
EUvsDisinfoの件数も本稿の件数も、数値としての精度は高くない。残念ながら偽情報や情報操作には精度の高い統計がなく、定義も統一されていない。そのうえで、物理的な干渉の比重が高まってきた可能性は、仮説として検討する価値がある。 選挙における2度の不成功(親ロシア側の候補の敗退)と成功(極右の台頭など)が、この変化を後押しした可能性もある。今回は、その仮説の提示に留まる。
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