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AIが株価を予測し終わる頃には、もう手遅れになっている

サマリ> AIが計算を終えた頃には、 予測していた「未来」がもう過去になってしまう——高速株取引の世界で起きるこの問題を、 ソフトを速くするのではなく「どの未来を予測するか」を動的に切り替えることで解決する特許。 処理にかかる遅延時間を事前に見積もり、 その時間内にギリギリ間に合う予測対象とデータ量の組み合わせを自動選択することで、 精度と速度のジレンマを乗り越える。


2026年3月6日公報公開

株の売買を1秒間に数百回から数千回繰り返す「高頻度取引(HFT)」の世界では、マイクロ秒(100万分の1秒)単位の速度差が利益と損失を分ける。近年、この超高速取引にAI(機械学習モデル)を持ち込む動きが加速している。大量の市場データを食わせて「次の瞬間の株価」を予測させるわけだが、ここに厄介な問題がある。AIの計算が終わった時点で、予測した「未来」がすでに「過去」になっていることがあるのだ。

たとえば、AIに「0.5秒後のA社株の価格」を予測させたとする。ところが計算に0.7秒かかったら、答えが出た瞬間にはもう0.5秒後を通り過ぎている。過去の価格予測に基づいて売買注文を出しても意味がない。この特許は、この「時点乖離(じてんかいり)」と呼ばれる問題に対して、入力データの量を動的に調整するというアプローチで挑んでいる。

データを増やせば精度は上がるが、時間も食う

機械学習モデルの予測精度を上げる基本的な方法の一つは、入力データを増やすことだ。株式市場でいえば、対象銘柄の注文板(買い注文と売り注文の一覧)だけでなく、関連する先物やオプション、他の取引所の動向、原油価格の先物など、多くの情報を束ねて入力すれば、より正確な予測が期待できる。この「一度にまとめて入力するデータの量」をバッチサイズと呼ぶ。

バッチサイズを大きくすれば精度は上がる。しかし、データ量が増えれば前処理にも推論にも時間がかかる。高頻度取引ではこの数十マイクロ秒の差が致命的になる。バッチサイズを小さくすれば計算は速く終わるが、今度は予測の精度が落ちる。

つまり「精度」と「速度」はトレードオフの関係にあり、しかもそのバランスの最適解は市場の状況によって刻々と変わる。市場が荒れてデータ更新が頻繁な時と、穏やかな時とでは、同じバッチサイズでも処理にかかる時間が異なるからだ。

遅延時間を「予測」してバッチサイズを決める

この特許の核心は、バッチサイズを固定値にせず、注文が完了するまでの遅延時間を事前に予測して、その予測に基づいてバッチサイズを動的に選択する点にある。

仕組みはこうだ。システムはまず、複数の候補バッチサイズ(たとえばバッチ4、8、16)のそれぞれについて、「このバッチサイズで処理したら、注文データが取引所に届くまで何マイクロ秒かかるか」を算出する。この遅延時間の算出には、データの受信速度、前処理の所要時間、プロセッサ間のデータ転送帯域、AIモデルの演算時間、プロセッサの現在のビジー状態など、パイプライン上の複数の要因が考慮される。なお、このシステムでは前処理を担うプロセッサ(FPGA:書き換え可能な集積回路)とAI推論を担う専用チップ(NPU)を分離しており、それぞれの処理時間とチップ間のデータ転送時間を個別に見積もることで、遅延の総量を精密に予測している。

次に、予め設定された複数の「未来時点」(たとえば5単位先、10単位先)のそれぞれに対して、遅延時間の終了が間に合う最大のバッチサイズを選ぶ。「5単位先を予測するならバッチ2まで使える。10単位先ならバッチ4まで使える」というように、未来時点ごとに許容できるバッチサイズの上限が決まる。

さらにもう一段階ある。各未来時点×バッチサイズの組み合わせについて「期待収益」を計算し、最も収益が高い組み合わせを選択する。バッチサイズが大きいほど予測精度が高く1回あたりの収益率は良いが、処理時間が長いぶん単位時間あたりの取引回数は減る。逆にバッチサイズが小さければ回転は速いが精度が落ちる。この掛け算の最大値を取る、という考え方だ。

時点乖離という問いの本質

この特許が面白いのは、機械学習を速くする話ではなく、「推論の遅さを前提にして、何を予測するかを動的に変える」という発想にある。

一般的なAI高速化のアプローチは、モデルの軽量化やハードウェアの高性能化で推論時間を短縮する方向だ。しかしこの特許は、推論にかかる時間を所与として受け入れ、その時間内に有効な予測ができる「ちょうどいい未来時点」と「ちょうどいいデータ量」を選ぶ。速度が足りないなら、予測する対象のほうを調整するという逆転の発想だ。

高頻度取引に限らず、自動運転やロボット制御など「リアルタイム性が求められるAI推論」全般に通じる問題設定でもある。計算が終わった時には状況が変わっている、という課題は、AIの応用が広がるほど多くの場面で顔を出す。

特開2024-133549 / リベリオンズ インコーポレイテッド


Co-Authored-By: Claude 本記事は特許出願の公開公報に基づいています。権利化の状況など最新のステータスは J-PlatPat の経過情報をご確認ください。

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