菜緒と僕 100話 One Love
夜のコンビニ。
自動ドアが開くたびに、
冷たい空気が足元を通り抜ける。
店の横のベンチ。
そこに、
見慣れた背中があった。
小坂菜緒。
アイスを食べている。
無言で。
翼は少しだけ安心した。
「……やっぱりここか」
ゆっくり近づき、
隣に座る。
菜緒は、こちらを見ない。
「なんやねん」
低い声。
「浮気者はあっちいけ」
翼は小さく息を吐く。
「浮気ちゃうて」
「女の子から電話来とったやん」
「仕事や」
「甘えとったやん」
「甘えられただけや」
「普通に答えとったやん」
翼は少し黙る。
何を言っても、
今の菜緒には届かない。
だから。
翼は、急に歌った。
「百年先も愛を誓うよ♪」
菜緒が止まる。
「……は?」
翼は続ける。
「君は僕の全てさ♪」
菜緒は顔をしかめる。
「なんやねん」
でも、
怒ってはいない。
翼は、まっすぐ前を見たまま歌う。
「信じてる♪ただ信じてる♪
同じ時を刻む人へ♪」
菜緒は、アイスを持つ手を止めた。
翼は少しだけ、
菜緒の方を見る。
「どんな菜緒も♪
どんな僕でも♪
ひとつひとつが愛しい♪」
沈黙。
コンビニの機械音だけが聞こえる。
菜緒は小さく言う。
「…………わかってるわ」
翼は、最後まで歌う。
「君がいれば何もいらない♪
きっと幸せにするから♪」
菜緒の声が震える。
「……本当か?」
翼は、即答した。
「本当やで」
そして、
菜緒の方を向く。
「菜緒しかおらんのや」
菜緒の目が、揺れる。
「……浮気するなや」
「せえへん」
「絶対やで」
「絶対や」
翼は静かに言う。
「この世で一番好きなのは、菜緒だけやで」
その瞬間。
菜緒が、
翼に抱きついた。
強く。
壊れそうなくらい。
「……嫌いになったか?」
涙声。
翼は迷わず、
抱きしめ返す。
「よけい好きになった」
菜緒が泣き出す。
「……重い?」
翼は笑う。
「愛が重くて、嬉しいわ」
菜緒は顔を埋めたまま、
小さく言う。
「……翼は、菜緒の全部なんや」
翼は、頭を撫でる。
コンビニの明かりの下で、
二人の影が、
ひとつに重なっていた。
百年先も、
この瞬間を、
きっと忘れない。

後日談へ続く
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