⑦夜の合言葉(最終話)
一日が終わって、まぶたが重くなる。
眠りに落ちる、あのやわらかい境目。
うとうとしながら、明日のことを思うこと、ありませんか。
じつはその時間が、下意識にいちばん近づける時なのです。
下意識へ願いを伝えること。
これを、昔から「自己暗示」と呼んできました。
むずかしそうな名前ですが、やることは、静かなお願いごとです。
ただし、ひとつだけ、大事なコツがあります。
命令は、かならず「肯定」のかたちで伝えること。
たとえば、忘れ物をなくしたいとき。
「忘れないようにさせて」ではなく、「思い出させてください」。
謙虚になりたいとき。
「自慢しないよう助けて」ではなく、「謙虚になる方法を教えてください」。
この違い、お分かりいただけますか・・・
なぜでしょう。
下意識は、何かを建てる存在だからです。
壊したり、禁じたりは、そもそも得意ではありません。
暗い部屋を思い浮かべてください。
暗さを追い払う方法は、ひとつだけ。
光を入れることです。
「暗さ」と戦うのではなく、「光」を招く。
下意識へのお願いも、まったく同じです。
そして、いつ伝えるか。
いちばん伝わりやすいのは、夜、眠りに落ちる直前。
表の意識と奥の意識のあいだの、仕切りがやわらぐ時間だからです。
その中間のまどろみに、そっと願いを手わたす。
「これこれを、かなえてください」
そう心の中で告げて、あとは忘れて、眠りにゆだねる。
朝、その願いは、静かに動きはじめています。
ここまでのお話で、心配や不安を抱えたまま眠りにつくことが、どのようにドミノのように連鎖していくのか、感じていただけたでしょうか。
ぜひ、この連鎖を、ここで断ち切っていただきたいと思います。
さて。
意志、習慣、自己暗示。
三つの道具を、ご一緒に見てきました。
ここで、いちばん大切なことを。
これらの力はどれも、あなたの外から借りてくるものではありません。
すべては、あなたの内に在る「魂」から、わき出しています。
そして魂が、その力をふるうただひとつの目的は。
あなた自身が、前へ進むことです。
歩いてきた道を、そっとまとめておきます。
①意志とは、下意識の促しを、こちらが受け取ること。表の意識だけの力ではない。
②意志を養う道は二つ。促しに気づくこと、そして分析して、言葉と行動にすること。
③習慣とは、繰り返した行いが、下意識の法則になったもの。
④下意識は演繹に似た働きをしながら、前向きな命令ほど、熱心に実行してくれる。
⑤だから悪い習慣は、後ろ向きの法則を、前向きの法則に置き換えれば、変えられる。
⑥その置き換えを助けるのが、夜、眠りぎわに伝える自己暗示。
⑦そしてこれらの力はすべて、内なる魂から生まれ、私たちの進歩のために働いている。
下意識という、奥深い部屋。
その扉の開け方、片づけ方、そして使い方を、少しずつ確かめてきました。
見上げて、確かめて、また歩く。
星を見上げて、足元も見る。
たしか、タレスとアリストテレス。
ふたりが教えてくれたことでした。
その静かな一歩が、次の一歩を呼びます。
そして、その一歩は、もう、あなたの中にあります。
長い道のりを、ここまでご一緒くださって、ありがとうございました。
忘れがたき古い友へ。
最後に、一緒にすこしだけ空を見上げて、この「下意識」連載の幕を、閉じたいと思います。
この連載でお伝えしたかったのは、じつは、新しい知識ではありません。
あなたが、もうとっくに知っていること。
それを、ひとつずつ、丁寧に思い出していく。
思い出しながら、人生を丁寧にあゆんでいく。
たぶん、それだけです。
見つめてきた下意識は、直感や、祈り、心のつながりに、いちばん近い場所にありました。
どれも、教わって覚えるものではありません。
はじめから、あなたの内に在ったものです。
じつは、その力だけを頼りに生きていた、と語られる人々の話があります。
レムリアという、古い神話です。
「かつて海の彼方に、レムリアという大陸があり、そこに高度な文明を持つ人々が暮らしていました」
そんな、古い神話として語られる物語です。
レムリアの人々は、現在の私たちのように、知識を頭に詰め込むことで文明を発展させたのではなく、
直感。
意識。
音。
祈り。
詩。
そして、心と心のつながり。
そうしたものを大切にしていた、と語られています。
けれど、いつの時代も同じです。
人々は次第に、調和よりも欲望を優先するようになりました。
そして文明は衰え、やがて大陸そのものが海に沈んでいった。
そんな悲しい神話です。
大陸が海に沈みゆく中、神官たちは、願いと命を懸け、最後まで共に唄い続けたといいます。
「同じ過ちを、もう繰り返さないように」
そして、
「いつかまた、出会えるように」
そんな願いを込めて。
そんな唄が、いまも、どこかで続いているとしたら。
この歌を共に聴いて、もし魂が、そして感情がそっと揺れたなら、それで十分です。
そしていま、こうして、また会えたような気がしています。
Auld Lang Syne。
次の連載を、お待ちください。
空を見上げるお話、「アトランティス」です。
富士山麓よりあなたへ。
ボンちゃん。
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