見出し画像

【掌編小説】カァンカァンカァンカァン |【毎週ショートショートnote】【踏切オーディション】

カァンカァンカァンカァンカァンカァン
向こう側では白い軽トラが停まっている。運転手は警報音のリズムに合わせて、ハンドルを小刻みに指で叩いている。
カァンカァンカァンカァン
右には線路を跨いだ駅が見える。窓の向こうでは、家路を急ぐ人が小走りになっている。
カァンカァン
左には跨線橋が見える。車のライトが途切れることなく流れている。
カァンカァンカァン
後ろを振り向くとミニバンが三台並んでいる。無言で順番を待っている。
そして、真後ろには地下遊歩道へ繋がる階段。買い物袋を手にした女性が降りていく。その足音さえも、あの滑舌テストのリズムに聞こえる。
カァンカァンカァンカァンカァン

高級カカオ製品企画課長の看過できない過干渉に感化され、カカオの花冠と果実を果敢に獲得。

カァンカァンカァンカァンカァンカァン
新発売チョコレートのプロモーションイベント。司会者選考で噛んでしまった。
カァァァン
頭の中で鳴った鐘ひとつの音が、繰り返し鳴り響いている。

(410字)


あとがき

最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
本作は、田原にか様の企画に参加させていただいております。
この場をお借りしてお礼申し上げます。
いつも素敵なお題をありがとうございます。

#毎週ショートショートnote
#踏切オーディション

今回のお題は『踏切オーディション』。

執筆にあたり、自分自身に二つの課題を設けてみました。
本文中に『踏切』、『オーディション』の二つの言葉を使わないこと、そしてジャスト410文字で書き切ることです。
そこで主役に据えたのが、あの警報音でした。定番の「カンカン」ではなく、あえて「カァンカァン」と表現したことで、別の鐘の音が連想されたことが発想の出発点でした。

「カァン」の回数を増減させれば、410文字の調整自体は簡単と思ってました。しかし推敲を重ねるうちに、主人公の視線の動きや感情を考えると、どうしてもこの回数、このリズムじゃなきゃダメだという強いこだわりが湧いてきてしまい、大いに試行錯誤することに……。
そうして無事にジャスト410文字の物語として着地させることができました。

音の響きと共に、主人公の心の残響を感じ取っていただけていれば幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!