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春の空気に誘われて、スケッチブックを持って旅に出てみた。

暖かくなってくると、気持ちも身体も自然と軽やかになる。そこでスケッチブックとカメラを持ち、日帰り旅に出かけることにした。

普段は、どこへ行くにも自分や家族のことで頭がいっぱいで、景色をゆっくり味わう余裕なんてなかなかない。
けれど「今日はスケッチをする」とひとつ決めて外に出てみると、不思議と目に入ってくるものが変わってくる。


ただ歩いているだけなのに、風の強さや、光のやわらかさ、道ばたに咲く花にまで、自然と意識が向く。


途中で見つけた、評判のいいお蕎麦屋さんにふらりと立ち寄ってみた。
案の定、店の外には何人もの人が並んでいて、その人気ぶりが伺える。

今日は、焦る気持ちはなかった。
むしろ、この「待つ時間」さえも楽しんでみようと思えるくらい、心にゆとりがある。

手書きの駐車場看板の、少し歪んだ文字。
暖簾をくぐるときの、あのちょっとワクワクする感じ。
そんなひとつひとつにときめいて、スケッチブックをそっと開く。

名前を呼ばれて店内に入ると、外の風が心地よく抜ける居心地の良さそうな席に案内された。

忙しく立ち働く店員さんたちのきびきびとした動きと、ふとした瞬間に見せるやわらかな笑顔。
美味しそうにお蕎麦をすする音や、思わずこぼれる「おいしいね」という会話。

その場に流れるすべてを残しておきたくなる。

運ばれてきたお蕎麦は、もちろん期待を裏切らない美味しさで、「ごちそうさまでした」と心の中で何度も手を合わせたくなるほどだった。

お蕎麦屋さんでのスケッチ


食後に立ち寄った公園では、春風がやさしく頬をなでる。
子どもたちの笑い声や、ときどき混ざる泣き声。
遠くから聞こえる犬の鳴き声。
炭酸飲料を「シュパッ」っと開ける、あの軽やかな音。
どこからともなく漂ってくる、あたたかい食べ物の香り。

スケッチをしようと意識しているだけで、五感がいつもより活発に働いてくれていると感じる。
同じ場所にいるはずなのに、受け取れる世界の輪郭が、少しだけ濃くなる。

公園とカフェでのスケッチ

きっと、スケッチや写真が上手な人は、ただ「見る」のではなく、こうして世界を丁寧にすくい上げているのだろう。

私も、そんなふうに世界を受け取れる人でありたいと思う。

特別な場所に行かなくても、特別なことをしなくても、気づけていないものがまだまだ身近に溢れている。

ほんの少しだけ立ち止まって、目を凝らしてみるだけで、何気ない日々がもっと豊かで愛しいものに変わっていく。そんな気がした。



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