煙混じりの夜
二千十六年
八月二十八日
僅かに雲がかかった月と夜が在った
1章.JPS
最近、つくづく何も上手くいかなくなった。
無気力に夜に起きる生活を繰り返し、家の喫煙所には中々出せない先週のゴミ袋、と換気扇の下でシケモクが積もった灰皿。
「あぁ、くそ、あとタバコ2本じゃん。あぁ…だる」
散らかった部屋の中を探し回ってもこの箱しかない。
荒んだ猫背で不揃いのサンダルに足を突っ込み、ドアを開ける。
怠い部屋の外には、ただ静かに夜が在った。
BiCを擦る。シュ。
「スーッ。…ハァーッ」
部屋とは違う夜の空気を煙と一緒に吸うと、少しだけ呼吸が楽になった。
少し今日は普段よりゆっくりと、いつものコンビニへ向かって歩く。
「いらっしゃいませー。」
いつもの女性店員がいる。
缶コーヒーをレジ前に置きボソボソと声を絞り出した。
「アッ…JPS、ひとつ。」
「ありがとうございましたー。」
「....あざっす。」
....ウィーン。
「ハァ。」
外の空気を吸うと、緊張が解けて2本目に火をつけた。
アパートの前に着いた瞬間足が止まった。
そのまま部屋に戻る筈が、足が反対を向いて歩いている。
このコンビニの先、夜が深くなっていく未知なる道。
弱々しい足取りで進んでみる。
あぁ、そういえば高校の頃バイト終わりの先輩が「なんかさ、タバコ吸いながらコーヒー飲むと、よし頑張るかぁってなるんだよな。」
その時の俺は「そういうもんなんだね。」と言い、甘いカフェラテを飲んでいた。
自分がアテもなく歩き出した方向には、国道と交互する光。
「…先輩、俺なんかわかった気がするよ。」
2.OPTION PURPLE
此処最近、私は夜に起きる。
前日のメイクが落ちていない。
貴方が居ないせいで、無意識に空とわかっている冷蔵庫を開ける癖がついた。
カチャ…。
「…お腹減った。」バタン…。
フラフラした足取りで玄関に向かう。
ガチャ…。
「ん…?あっ…、」
部屋に入り直した。
玄関横に忘れていた家の鍵とオプションを手に取って、国道沿いの24hのお弁当屋さんに向かっていく。
いつも国道から一本内側の道を2人でタバコを吸いながら歩いていた。
2人だけの痕跡を探しながら歩いた。
在ったのは夜だけだった。
此処を曲がればお弁当屋さんの筈なのに、真っ直ぐ進んだ。
この先は、2人で行ったことがない道。
一緒に歩いてみたかった道。
夜が深くなっていくような道。
ようやく初めて先に進める。
タバコを咥え、僅かに緊張感を持ちながら、初めて踏む雑居ビルの影。
「...プチッ...カチャ…スーッ。…....フフフ。」
その大きな影を過ぎた瞬間、メンソールの煙と笑いが漏れる。
「...ヘヘ...エヘヘ...」
スキップに近くなっていく足取り。
タバコの煙が跡を追う。
道の先には赤いコンビニと国道。
行き交う車の光が過ぎるたびにチラチラと猫背の人のシルエットが見えた。
空いたコーヒー缶を灰皿にして歩いている。
「いいな、私もそれしよ。」
