『巨大製薬会社の陰謀 / THE CRIME OF THE CENTURY』(2021年、Alex Gibney)

  全米を震撼させたオピオイド犯罪の領袖、パデュー・ファーマの訴訟だが、74億ドルで最終和解となった。以前の和解条項に含まれていたサックラー家の免責はなし。サックラーの資産は約10億ドルと言われていたので、どうやって払うんじゃい、となるところだが、分割払いで15年で払っていくらしい。あとはタックスヘイブンに隠し財産がまだまだあるのでそれも差し押さえるとか。

 そのサックラー家にフォーカスしたドキュメンタリーが記事タイトル。監督のAlex Gibneyは、最近、シリコンバレーの女詐欺師によるセラノス事件のドキュメンタリーを見たばかり。やや演出が長くて冗長だけど、質の高いドキュメンタリー。そしてこれを数十本と量産しているすごい監督だ。
 本作は前後編で2部に分かれており、2部はオピオイド関連で初めて刑事告訴されたインシス社にスポットライトが当たっているのだが・・・これが事実は小説よりを地でいくすさまじい面白さ。いや、事件それ自体は、医者にがんがんわいろを渡して(直接渡すとバレるので講演会名義で大金を渡したり、女性営業による性的接待を行う――最近話題になっていた東大医学部教授の性接待もそうだが、医療界はほんとにやべーな)、不必要な処方箋を乱発させるというあまりにも普通のやり方(これで捕まらないほうがおかしい)なんだけど、登場人物が濃すぎる
 まず社長のカプールがやばい。インド出身で、移民として成功したというサクセスストーリーなのに、実はめっちゃ汚い金の亡者というのがまずあまりにメロドラマチック。しかも見た目が完全に悪の博士(実際に医学博士で、薬も彼が開発した)。しゃべり方も悪役そのまま。そのしわがれ声でセミナーに登壇し、「みなしゃん、いいでしゅか・・・起業家とは、夢を現実に変える者なのでしゅ!!!!」みたいな変なスピーチをしている冒頭からガツンとやられる。彼の会社は完全にブラックで、ビッグモーター顔負けの超絶プレッシャーを営業部にかけまくることで会社を大きくしていった。
 その営業で頭角を現したのがアレック・バーラコフ。司法取引したの2年くらいででもう出所したのだが、それにしてもペラペラとカメラの前でよーしゃべる。完全に体育会系(だって元体育教師だから)で、イッっちゃってる。日本の商社とかで大活躍するタイプ。電通マンにも多そう。
 彼がストリップ劇場で引き抜いた元ストリップ嬢のシングルマザーサンディ・ナイデル(通称サンライズ・リー)。ハワイ出身で、その魅力的な外見を武器にするだけでなく、とてつもない営業能力と知性をもち、看護関係の前歴まである知性派タイプ。まさに不二子ちゃん。カメラの前でも、うぶな男性視聴者ならつい、「サンライズちゃん・・・悪いやつらに騙されたんだね。子供のために一生懸命働いてただけなのに」とオピオイドがキマってるかのようにコロッと騙されるだろう。しかしその瞬間、カットが麻薬捜査官に切り替わり「彼女の外見に騙されてはいけません、彼女は悪だくみに長けた非常に狡猾な犯罪者です」という捜査官の警告とともに、インシスの営業ネットワークの図でがっつり幹部枠に名前がでかでかと載っているサンライズちゃん。いやこれもうドラマやん・・・。

 あれだけやっといてカプールは懲役たったたの5年ちょい。減刑理由のひとつは多額の寄付金や慈善事業によるものらしいのだが、サックラー家も自然史博物館からなにからいろんな学術や慈善団体に寄付しているので、名前を記念した事業が山ほどある。もとは移民の医療従事者だった兄弟が製薬会社を買収し、90年代半ばまでは地味な中堅製薬会社だった。しかし96年からオキシコドンを発売し、これを依存性のない薬だと偽り、医者に営業をかけまくる。たいした薬でもないのに、宣伝と営業だけで世界有数の大企業になり、一族は資産家に。ほんととんでもねー話だなと。

 コカイン、ヘロイン、オピオイド、結局、アメリカの成功ってこうやって構造的に弱者を作り出し維持することで成り立ってるよね。
 2年ぐらい前、ポートランドに行ったときには、朝から1ブロックあるけば一人か二人、とんでもない格好(それこそウン〇の途中みたいにパンツをずり下げたまま座ってるとか)で動かない人が必ずいた。マジで異常な風景だった。日本も格差社会になっているが、アメリカはガチの格差社会。道を歩けば必ず、スーツ着て高級車運転している人と、ホームレスや中毒者が同じ場所にいる。こんな世界、狂ってるでしょ。

星4

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