Collatz有限観測から「どこまで情報を失えるか」を調べる
有限情報と安全境界
前半|数学としての整理
1|出発点
Collatzの有限prefixについて、これまでに
合同類 mod 2^j
↔ parity word
↔ q駆動 admissible D-path
↔ admissible affine data (m,c)
という対応関係を調べてきた。
これらは別々の現象というより、同じ有限prefixを異なる表現から見た構造として扱える。
first coefficient crossingでは、
g = 2^j − 3^m > 0
とおくと、
ρ = c / (gn)
であり、
ρ < 1 ↔ T^j(n) < n
が成り立つ。
したがってρ=1は、ordinary stoppingに対する正確な代数的境界になる。
2|最初の制約剥離
ここで、
parity / path / affine (m,c)
を保持したまま、cと正しいresidue nとの結合だけを切断した。
すると、
ρ ≥ 1 ↔ n ≤ c/g
となる。
有限に調べた first-crossing pathでは、nを自由化するとρ≥1を容易に構成できた。
したがって少なくとも調査範囲では、
affine構造 (m,c) だけからρ<1が自動的に導かれているわけではない。
正しいresidue nとの結合が、ρ<1を支える制約の一部になっている。
3|residue情報を段階的に剥がす
次に、residue情報を完全に消すのではなく、
mod 2^j
→ mod 2^(j−1)
→ …
→ mod 2
と一bitずつ緩和する。
N_k = residue情報を mod 2^k まで保持した状態
と定義する。
そして、その条件と両立する整数のうちρを最大化する側を調べる。
ここから、
k*(j) = ρ<1を保証するために必要な最小residue情報量
という量が現れる。
4|j=8で観測された情報境界
j=8ではfirst-crossing pathは7本。
c側についても、
C_s = cを生成するodd位置情報をs個まで保持
として情報を段階的に緩和した。
すると、今回定義したモデルでは、
N_6 → ρ≥1が可能
N_7 → 全状態でρ<1
という明確な境界が観測された。
さらに、c側の情報量を変えても、このN_6 / N_7という境界位置は動かなかった。
したがってj=8では、
residue側の情報がρ<1の境界位置に強く関与し、c側の情報は安全側に入った後のρの大きさを変化させている。
という有限観測が得られた。
これはまだj=8での結果であり、一般化はしない。
5|二重符号化という見方
full parity informationは、
parity word → c
だけでなく、
parity word → residue n
にも反映されている。
したがって、
parity
→ c側への符号化
→ n側への符号化
→ cとnの結合
→ ρ
という構造として見ることができる。
現在の仮説は、
ρ<1を支える制約は単独のcまたはnではなく、同じparity構造が複数の表現へ保存され、その結合によって生じている可能性がある。
というものになる。
6|次に測る量
重要なのは、必要bit数k*(j)だけではない。
prefix全体の長さjに対して、
I(j) = k*(j) / j
という「必要情報保持率」を考える。
これによって、
k*(j) ≈ j
→ 深くなるほど、ほぼ全情報が必要
k*(j) ∝ j だが比率<1
→ 一定割合の情報が必要
k*(j) = o(j)
→ 必要情報量の割合が減少
k*(j)が有界
→ prefixがどれだけ長くなっても有限量のresidue情報で足りる
という、まったく異なる構造を区別できる。
現段階ではどれになるか未確定。
7|数学側の次の問い
したがって次の有限実験は、
j = 10, 13, 16, …
について、
k*(j)
と
k*(j)/j
を測定することになる。
問いは、
first-crossing prefixが長くなるにつれて、ρ<1を維持するために必要なresidue情報量は、どのように成長するのか?
ここまでが数学側の現在地。
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後半|同じ問いを「ラーメン屋」に変換する
1|ラーメン屋にはたくさんの客が来る
一軒のラーメン屋を考える。
店主は、毎日やってくる客について、
「この客は大丈夫か?」
を判断している。
ところが客についての情報を、全部永久に覚えておくことはできない。
そこで問いを変える。
どこまで客の情報を忘れても、安全な判断を維持できるのか?
2|二種類の記憶
店主には大きく二種類の情報があるとする。
n側の情報
→ 客を識別するための「顔の記憶」
c側の情報
→ その客がこれまで見せてきた「歩き方・服装・行動の癖」
完全に覚えていれば、その客をかなり細かく識別できる。
しかし少しずつ忘れていく。
3|どこで危険客が混ざり始めるか
顔の記憶を、
8段階覚えている
→ 7段階
→ 6段階
→ 5段階……
と少しずつ曖昧にしていく。
すると、ある地点までは問題が起こらない。
ところが一段さらに忘れた瞬間、
「この記憶に当てはまる客の中に、危険な客も混ざる」
という状態になる。
そこが「安全境界」。
4|j=8の街
小さな街で実験したとする。
客を完全に識別するには8段階の顔情報がある。
実験すると、
7段階残す → 全員安全
6段階まで落とす → 危険な候補が混ざる
という境界が見つかった。
ここで重要なのは、
「顔を7割覚えている」
ではない。
8段階中7段階なので、この場合は7/8。
街の規模が変われば、この割合も変わる。
5|街を大きくする
次にもっと大きな街へ行く。
10段階必要な街。
13段階必要な街。
16段階必要な街。
そこで同じ実験をする。
そして、
何段階まで顔を覚えていれば、危険客が混ざらないのか?
を測る。
6|本当に知りたいこと
街が巨大になるにつれて、
必要な記憶も同じ速度で増えるのか。
それとも、
街はどんどん巨大になるのに、必要な記憶はそれほど増えないのか。
ここが本当の問いになる。
つまり、
世界が複雑になったとき、安全を維持するために必要な情報の「量」と「割合」はどう変化するのか?
7|数学へ戻す
ラーメン屋でいう、
街の複雑さ → j
必要な顔情報 → k*(j)
必要な記憶の割合 → k*(j)/j
安全境界 → ρ=1
となる。
だからラーメン屋の問いを数学へ戻せば、
有限prefixが長くなっていくとき、ρ<1を保証するために保持しなければならない情報量は、どのように成長するのか?
になる。
現在の問い
数学から始まった研究は、
「ρ<1か?」
だけではなく、
「ρ<1という性質を維持するためには、元の有限構造からどれだけの情報を保持していなければならないのか?」
という問いまで来た。
そしてその情報量をprefix長jに対して追えば、
構造が大きくなる速度と、それを拘束するために必要な情報が増える速度
を比較できる。
現在はまだ有限観測。
次に見るのは、
j=10 → j=13 → j=16 → …
と街を大きくしたとき、
安全のために覚えておかなければならないものが、どの速度で増えるのか。
そこが次の観測点になる。
