【詩集】夜光静-YAKOUSEI-
撮影:卯野有希路(IPhoneで撮影・Snapseedで加工)
はじめに
この詩集は、詩と夜を愛する全ての者たちと、私の詩生活を応援してくれる家族や友人たちに捧げる。

夜は、己を見つめる時間に相応しい。
街が寝静まり、孤独な時間が流れる。温かい紅茶とランプの輝きをお供にして、日々の苦労で弱った心を落ち着かせる。時には紅茶をお酒に変えて、日々の嫌なことを酒気帯びつつ洗い流す。
アルコールが含まれるか否かどうであれ、私はそこで誰とも群れず、独り詩を書くのが好きだ。
そんな好きな時間を大きなテーマにして、私は『夜光静-YAKOUSEI-』という名で、初めて詩集を編んでみた。
小説家志望だった頃に書いた詩、一度夢を諦めて詩生活に入ってから書いた詩などを一部再編集したもの、詩集の為に書き下ろした詩、そして自ら撮った写真を収録し、私なりの「夜」を再現してみた。
実に身勝手な願いではあるが、是非ともこの詩集から「夜」を感じて頂いて、共にこの「夜」を共有出来たら私は嬉しく思う。
19:00
コンビニ袋をぶら下げて、好きな曲を聞く。
お気に入りの道を歩いて帰る。
翌日の事は一旦忘れて、夕飯を想像する。
小さな幸せを重ねる、夜の始め。
毛布
毛布に包まって夜を待つ
間接照明に照らされたその顔は
どこか淋しげで
どこか楽しげだった
星間の中で流れる刻は
過去のトラウマさえも置いていく
ドリーム・ポップを聴きながら
来たる闇へと期待する
毛布に包まって夜を待つ
ヒーターに当たるその眼は
どこか幼気で
どこか達観的だった
されど 毛布は喋らない
だけど 毛布は側にいる
一枚の毛布もまた
夜の信者となったのだ

或るシューゲイザー
音の歪みが脳を焦がし
電子の弦が胸を揺るがす
情景を投影
そこに光が見えた
一本の街灯を周囲を
無邪気に飛ぶ神経反射
雲間から見える群青が
薄い羽から透けている
……もう 陽は落ちたんだ
波とノイズだらけのカーステレオが
不愉快に 不可解に共鳴する
インクを落とした様な砂の上で
ネオンと鏡の幻覚を切望した
息は白い
夜風が嫌に冷たい
ヘッドフォン越しに
君の声が聞こえた
そこから聞こえる悲しげな君の声は
不思議と心地よく感じた
君はいつか
あの夜空を飛ぶ鳶よりも
遥か彼方に行ってしまうんだね
履いていたシューズを見下ろす
灰色の砂だらけのシューズは
古くボロボロでみすぼらしい
あぁ 夢なのかな
僕は思わず泣いた
20:00
ゴールデン・タイムのテレビ画面。
華やかな偶像たちはショーを展開する。
気だるげに眺める視線は、痛みを含んでいる。
目をつぶったら、少し楽になるかな?

人工衛星
人工衛星は点滅する 宙で独りぼっち
自分の存在を表す為に 赤い光を夜に点滅させる
人工衛星は落ちてこない 宙で独りぼっち
他力のプログラミング通りに 安全第一な飛行をしている
人工衛星は語らない 宙に独りぼっち
反論する事なく 黙々と仕事をこなす
人工衛星は帰らない 宙に独りぼっち
人工衛星は永遠に帰らない
暗闇で独りぼっち
セシル
ポッドキャストに耳を傾け
夜風に紛れたセシルは笑う
狐の目尻は星を見上げ
白い肌は冷気を透す
甘い香りの香水に
タバコの苦みが混じって巣食う
黒色に染まった日常
セシルはそれでもめげなかった
煙の中の輝きを探して
暗闇に中を歩いている
自分で蒔いた種なのに
人のせいだと思うしか無かったのだ
21:00
明日の足音を意識する。
歩幅は小さいけど、音は確か。
パジャマに袖を通して、窓の外を見る。
外の黒は濃くなっていた。
遅めの帰路
水面に三日月
水鳥たちの眠り
錆びた自転車
コンビニ袋に入った漫画雑誌
そして 安売りの弁当
先なんて考えず
楽しければいいと思っていた
かつての幻影を破棄せざるを得なかった
寂しい背中の大人
今日も独り帰路に就く

スローリーダウン
落ちていく
僕等はゆっくり落ちていく
それは安らぎか
それとも悲しみか
月夜の水面に写る顔
ゆらゆらと揺らめく反射は消えた
それは笑っているか
悲しんでいるか
永遠かと思える刻は重なり
僕等はそこに生きている
いずれ来る終わりは
何も言わずに忍び近づく
そこに遺った骨だけは
世界の隅に置いといてくれ
月夜は迷いを示す
僕等はずっと落ちていく
終わりのない終わりに
22:00
月のカーブは緩やかだった。
もう、この夜が来て時間が経った。
僕は夜に秒針の管理を引き継がせ、夜風に当たった。
風は滑らかに頬を掠め、そのまま闇の奥へと消えていった。
ミニシアターのレイトショー
炭酸ジュースの酸が抜ける度
アイ・ラブ・ユーが聞こえてくる
ポップコーンが床に落ちると
辺りは一面火の海だ
誰もいないミニシアターで
仕事終わりの僕は 映画を観ていた
無名監督の知らない物語
下手な演技が鼻につく
金にもならない作品は
熱意だけでも価値があった
されど 深夜 リクライニングシート
GABAを含んだドリンクと錯覚して
熱意だけではどうにもならない
ミニシアターのレイトショーは
色彩を感じられなくなった
無抵抗で無知な僕は
儚く時間が加速した

風を詠む君へ
夜の風は冷たく
乾いた香りが部屋を覆っている
柔肌の温もりなどとっくに無く
ただ霧の晴れない明日を思うだけ
君が風を詠んでから
トマトスープの温かさを知った
君が風を詠んでから
草木の胸騒ぎを知った
君を風を詠んでから
積まれた古書の懐かしさを知った
君が風を詠んでから
永遠の中の存在価値を知った
だから 眠れぬ深夜の旅に出る
ねぇ 君は何処にいるの?
風と共に去った君
手からすり抜けた虚像の感触
君はちぐはぐな己を嫌ったから
僕の前から消えたんだね
追っても 追っても
君はいない
追っても 追っても
影はいない
……もう疲れた
だから 我を捨てた
モノクロームな視界が広がる
ただ 憎い風が吹くだけだった

23:00
布団は巣穴の中。
入るだけでほっとする。
心の浄化は朗らかなまま、そして穏やかなまま。
包まれた魂は、そのまま睡魔に囁かれた。
さよならトレイン
最終電車の最後尾
数人の抜け殻だけが座っている
疲労の仮面を付けた僕は
微睡の魔に囁かれていた
町々は眠りの中
寝息を立てて明日を待っている
車窓から見えるその寝顔を
薄く開けた眼で見つめた
僕は何も発さず
静かに「さよなら」と告げた
蛍光灯の光
風の走る音
不安を攫い
逃避する夜
最終電車の最後尾
僕の街まであと少し……

カフェインと馬鹿
カフェインを流し込んで
己に鎖を掛ける
生物的本能を
科学的にシャット・ダウン
世界はもう眠る
時計の針も見守る
だけど 時間の足りない僕らは
気合いを入れて飲み干した
命を削ってでも
やりたい事がある
カフェインを味方にして
果たさなきゃならない事がある
喝を入れて
目を輝かす
数分を対価にして
今に生きる 馬鹿な僕ら

クラゲ
君は月夜の使者
深い海からやって来た
ゆらりゆらり
幻想の様な儚さを纏う
君のドレスは
純白に輝くだろう
不死の美しさは
唯一無二の芸術
波に揺られて
ヒラヒラと舞う
君は浮遊する
俗世に地を着けない
それが君の
最適解だった
今宵は満月
君の命日
君は死んだ魂を
クラゲと化して泳いでる
淡い光の中
君は天へと飛んだ
24:00
無意識下にある夢魔の園で、日めくりカレンダーを一枚破る。
もう別の日なんだ。
シームレスな交代は、正にベテランの域。
温もりのある布団の中で、静かな称賛を送った。
It's a small world.
「世界は僕らのもの」
勝手に宣言しよう
口うるさい大人たちが眠っている
朧月の夜に
国道沿いのファストフード店は
夜の住人が疎らに居座っている
そこで苦いコーヒーを買って
深い深い夜を飛ぼう
街灯に群がる小さな虫と
僕らしか知らない背徳の時間
King Gnuを聴きながら自転車を走らせ
穏やかな海岸へと行こう
ほら 夜の魔人は見つめている
僕等の独立宣言を
さぁ この眠れないこの夜を
僕等唯一の世界にしよう
そしたら自由にダンスしよう
そして高らかに歌おう
さぁ この眠れないこの街を
僕らの小さな世界にしよう

シーラカンス
布団に潜るシーラカンスは
鱗のパジャマと共に寝る
死に近い闇に紛れながら
まだ見ぬ陽の夢を見るか?
ノクターン
ベランダは闇
夜は深く時を刻む
今日の風は湿っぽく
止んだ雨の匂いが優しく撫でた
食べ残したピザと
飲みかけのドクターペッパーは
ラブシーンを映すNetflixに
冷たい視線を注ぐ
ここに愛など無い
この部屋を出て
タバコに火を付けたら
かつての観覧車の影が
物哀しそうに見ている気がした
虫の鳴き声と
街の眠りが混ざり
それがノクターンとなって
哀愁を創り上げる
夜は一つだった
数時間後の太陽は
この哀しみを知らない
晴れない心に
夜の深みが沁みる
ノンレムじゃ和らげない
傷もあるんだね
だから僕は
夜が嫌いなんだ
今夜もまた
ノクターンが聴こえる

25:00
頭痛と眼精疲労を抱えたボヘミアン。
枷をかなぐり捨てた事を、少し後悔した。
映画のエンドロールはもうすぐ終わる。
彼もまた、ベッドの上に身を置く覚悟をした。
Midnight Dirty Work's
眠れない夜は
ワープロに向かう
何も深く考えないまま
ただ自分の想いを打ち込む
耳からは心地の良い チルなポップを感じ取る
眼からは眠気を奪う ブルーライトを感じ取る
頭がパンクしない様に カフェインを流し込む
終わりのない夜に 言葉を紡ぐ
もう何回 この夜を過ごしたんだ
あと何回 この夜を過ごさなきゃならないんだ
寝れない苛立ちと 眼に流れる血流のストレス
最低な夜を自分は自ら進む
「本当に最低な夜だ」

クローゼットのプラネタリウム
クローゼットに
昔買ったプラネタリウム
定められた量の
星の輝きだけでは
広大な小宇宙を
真似する事は出来ない
星降る夜と夜行バス
星降る夜に
夜行バスに乗る
君の好きなものを
沢山カバンに詰めよう
日頃疲れている君へ
もう少し待っていて
静かな夜の高速道路から
君の住む街に行こう

鯨の子
深夜の海辺で鳴いている 鯨が一頭鳴いている
なぁ 友よ
君はどう思う?
あそこにいるのは子供の鯨 群れからはぐれた迷い鯨
夜の闇に潜みながら 深い孤独に覆われて
無干渉の時に囚われている
寂しかろう 寂しかろう
あの子はまだ幼いのに
遠くで回る回転灯は?
あの子の親を探さずに 任された仕事を全うする
あの子なんて無視する 彼みたいな無慈悲な奴は
この世でも少なくないだろう?
寂しかろう 寂しかろう
あの子はまだ幼いのに
なぁ 友よ
僕等はどうしたらいい?
僕等は手を出せないんだ
助けてくれと言われても 遠く黙って傍観するだけ
見るだけが正義じゃない だけど志のみでは救えない
寂しかろう 寂しかろう
あの子はまだ幼いのに
深夜の海辺で鳴いている 鯨が一頭鳴いている
夜明けに逢える仲間を思って……
彼は孤独に鳴いている
26:00
静の時間は、寝息と共に。
蛍光灯の放電音もそれらにフィーチャリングする。
生の動きも、僅かに交じっている。
星は、光を増している。
Lo-fi&Dust
卓上ライトに群がる
小さな埃たちは
果て無き時間の深さを
本能で知っている
バックグラウンドで流れる
ローファイ・ヒップホップに
眠気がチューニングし
脳内の夢魔が踊る
魂だけは知っている
これに言語は必要無かった
暗闇に身をまかせ
短い生命を燃やしている
踊る 踊るよ
痛みを抱えて卓上で

砂上の月
もしも
僕の心臓を砂に埋めるなら
真っ白な月の見える
素晴らしい夜にしてほしい
幸福の先に
広大な夜天があれば
僕は己の命を棄てて
身を投げ出そう
切り取られた魂に
美意識はあるんだ
消えない肉塊
動かない心臓
見えない後悔
全部埋めてくれ
月は呪われ
今も迷う
彼が再び笑うなら
死して道化になろう

27:00
起きているのは夜の住人のみ。
朝を信じる者は誰もいない。
暗闇の中で抱擁して、
星の輝きに、取って付けた希望を掲げた。
羽音
深夜 羽音で目覚めた
バタバタ忙しく動く音で
夜行性の空気読まずさんは
己の命を無駄にしている
僕はベッドに横たわりながら
その音に耳を澄ました
プラスチックが擦れる様
バタバタ バタバタ鳴る
……あぁ そうだ
俺もあんな風に 馬鹿正直に生きたいんだ
怒りは無かった 逆に彼に尊敬した
小さな夜行性の
忙しく動く 空気読まずに
……俺は彼に憧れた

ニュクス
布団の中で耳をすませば
ニュクスの声が聞こえる気がした
暗い天井から細い腕を伸ばし
ニタリと得意気に笑う
思考の読めない女神の囁きは
永遠の恐怖を感じさせた
明けなれば どうしよう
落ち着いているのに 高鳴る心臓
金縛りにあった様に
僕は ただ横になるしか出来なかった
だけど 何故だろう
明けなくてもいい そんな気さえあるんだ
女神の手は
凍てつく様に冷たいんだ
だけど 何処か落ち着いて
それに身を任せる自分がいる
……そうか
僕は太陽が嫌いなんだ
夜の信者は
闇に解けるのを受け入れる
闇の中に
己の理想を願う
僕は 静かに意識を堕とし
精神を断つ
夜は また深くなる

2?:00
今何時?
誰かに聞いても答えは返ってこない。
ここにいるのは、一匹の蛾だけ。
独り生きる、一匹の蛾だけ
夜光静
1
彼は独り
生まれた時から夜だった
街灯に照らされた葉脈の裏
胡麻粒ほどの小さな卵
誰にも知られずに生まれた命を
祝う声は無かった
鈴虫の歌と
川のせせらぎ
夜の散歩と共にする
煙草の煙と香り
五感を刺激するそれらは
幼虫の姿形を知らない
だから彼に
バースデイはない
陰から這い出た肉体は小さく
ひ弱な呼吸で風は起こらない
夜はその小さき者を
黙って抱擁し笑っていた
彼は独り
だけど 寂しくはなかった
2
這って 這って
夜の隅
葉はサワサワと
幼虫を乗せて揺れている
難破船の迷いの様に
生きる魂は方向が定まらない
だだ 今できる事は
目の前の葉を食らう事だけだった
暴走車のヘッドライトが
刹那 葉を照らす
その一瞬のスポットライトで
誰か彼に気づいただろうか
這って 這って
夜のワンシーン
葉はサワサワと
歩みに揺れて鳴いている
誰の目にも写らない
くだらないワンシーン
だけど 彼にとって
その場所だけが 生命線の舞台
3
溜めてきた栄養
鎮まる脈拍
一時の生の歓びを犠牲に
彼は永い眠りに就く
殻に包まり
五感を遮断し
ただ 己と向き合い
細胞を分裂させる
誰にも見守られない
けど 寂しくは無い
未来に託すこと
不確定な幻想を描くこと
浮ついた無知無学に
身を委ねる
ただ それしかできない
空想の殻の中
分裂する
これから 広がるだろう羽は
彼の想像よりも大きかった
4
独り
蛾は夢を見た
あの輝きの先に
生の価値が見出せると
それは生まれた時
小さな卵から
人知れず この世に
生を宿した時からだ
彼が生まれた時
住宅街は闇の中にいた
彼がそれを「夜」だと認識したか
定かではない
だけど その暗闇の中に
点々と光がある事が
視覚不良の彼にとって
生の価値を感じさせた
幼虫 さなぎ
流れる一生
永い 永い地の記憶に
刻まれることのないワン・カット
けど 生きてる
誰にも知られずに 生きてる
それだけでいい
それだけで 彼は満足だった
彼は幸せをだった
ノイズ交じりの蛍光灯
バチバチと当たる身勝手な習性
この 魂を削る感覚さえ
彼にとっては喜びだった
5
生の戯れ
夜の戯れ
いつ始まったか分からないけど
始まるものには いずれ終わりが来る
静謐な夜の中で
気づけば月は 唯一の友人だった
照らす優しさの理由は
敢えて語られなかったけど
苦しみの中に 錯覚しながら生きていた友人の
その萎れた死に体に
一生懸命 慈悲を注いだ
対価を求めるなんて失礼だ
友情に等価交換は無く
ただ 信頼の上に
関係が構築されていた
終わりを察した月は語った
無限数の夜を
語り切れない 記しきれない程の
美しきページたちを
それは毛布の中の安堵
それは人工衛星の盲点
それは夜を愛する恋人たち
それは夜を妬む労働者たち
それは気楽な幽霊
それは悲しき鯨の子
それは疲労の上の生活の歯車
それは恐怖の中の信望
それはデスクからの発信
それはただの狂信
それはただの失踪
数多の夜はスクリーンの様に
時間の瓶詰に収められた
月はそれを口出さず見つめ
それを母親の様に傍観している
「何故?」と問われても答えない
ただ そこにあるから
ただ 目の前に生きているから
そこに確かな慈愛があるか
それは分からない
だけど この不完全な世界に
唯一の正解はない事は分かっていた
月が語り終わると
夜風がヒュウと 優しい吹いた
薄汚れて朽ちた羽で
生を求めたのも正しい
残り僅かな命を
浪費したのも正しい
いずれ消える身を
無視したのも正しい
そして 輝きの果ての夢も
正解でしかない
蛾は最期まで正しかった
月は理解していた
土に還る
風に交わる
命の蝋燭が消える
月に看取られる
……さよならは聞こえない
けど 哀しかった
6
月は最後まで 優しい眼差しで
ただ 死を見守る
これで生の記録が途絶えた
だけど 秒針は動いている
夜光 静の中
町はまだまだ眠る
それぞれの夜は続く
……いつまでも 月は光り続ける

あとがき
まず、このあとがきは投稿の数日前に急ピッチに書いている。
それまで書いていたあとがきが、ほぼ「この詩集は良いものだ」と自画自賛することしか書いていなかった。客観的に読んで「厚かましい」と思った私は、急遽であるが0から書き直すことにした。800字以上書いた労力と時間は無駄になったけど、私は良い判断を下したと思い込む事にする。
今回、初めて詩集を編んでみたが、「詩集作り」は思っていたより疲れるものだと、作業していて常々思っていた。
この詩集の為に、新たに詩を書いたり、過去から詩を集めた。写真を撮ったり、過去のフォルダから写真を集めた。それらの材料たちからいいものを厳選し、構成を考えた。色々と吟味しつつ、再構成と修正を繰り返して、ようやく一つの詩集となった。
ただ一人黙々と作業を続けていて、「本当にこの詩でいいのであろうか」「この構成でいいのであろうか」と悩み苦しんだ。ただ苦しんだ分、愛着が湧いたのも確かだ。
最初に書いたあとがきが自画自賛ばかりになってしまったのも、こういう苦労があって、愛が溢れてしまった故の結果なのだろうと思う。これは、創作をする多くの人が共感することだろうと思う。
さて、こうやって詩集を作り上げたことは良いのであるが、こういった作業をしていて度々「詩の意義」について考えることがあった。
私自身、未だに「詩を書くことにおいての正解」が分からない。大学時代に中原中也の研究をして、その時の経験を基に詩を書き始めて数年経過した。それまでに様々な詩や詩論を読んだりしたけど、その答えは未だに見つからず。
ただ、何処ぞの誰かが「詩に答えは無い」と唱えていた。答えは無いからから、唱えられている詩論は各詩人によって違いがある。
それらは発言者の感性や思考によって答えがバラバラになるし、それらは100%共感されることも無いし、100%否定されることも無い。だからこそ、それが「文学らしい」と言えてしまうのであろう。
そんなことを思いつつ、未だ掴めない答えを探りながら詩集を編んでいたが、詩集を編んでも分からない。寧ろ、更に深みにはまったような気がする。
けれど、不思議と悩む気持ちは前よりかは薄らいでいる。寧ろ。この深みにはまる感覚を楽しんでいる。
答えのない問題を楽しむ心。このワクワク感もまた、「文学らしい」のかも知れない。そのことに気付けたという事が、この詩集を作った上での最大の収穫だと言えよう。

最後になるが、どんな夜も必ず明ける。始まりがあれば、終わりは必ず来る。ただ、「終わる」という事は必ずネガティヴな事象であるとは言えない。終わるからこそ、その後に新たな始まりが訪れるのである。
私もまた、このあとがきを書いていて、「あぁ、もう間もなく終わるのか」と、寂しく思っている。だけど、これから書きたい題材もあるし、詳しくは言えないが個人的にやりたいことも沢山ある。だから、私はそんな終わりに敬意と愛情を抱くことにする。
そんなこんなで、自分の今ある想いを書き終えたので、これらを『夜行静-YAKOUSEI-』の締めとさせて頂く。
では、またいずれ。何処かの夜で。
2025年4月某夜 自室にて
卯野有希路
