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【詩集】夜光静-YAKOUSEI-


撮影:卯野有希路(IPhoneで撮影・Snapseedで加工)



はじめに




 この詩集は、詩と夜を愛する全ての者たちと、私の詩生活しせいかつを応援してくれる家族や友人たちに捧げる。







 夜は、おのれを見つめる時間に相応ふさわしい。


 街が寝静まり、孤独な時間が流れる。温かい紅茶とランプの輝きをおともにして、日々の苦労で弱った心を落ち着かせる。時には紅茶をお酒に変えて、日々の嫌なことを酒気帯しゅきおびつつ洗い流す。
 アルコールが含まれるか否かどうであれ、私はそこで誰ともれず、ひとり詩を書くのが好きだ。


 そんな好きな時間を大きなテーマにして、私は『夜光静やこうせい-YAKOUSEI-』という名で、初めて詩集をんでみた。
 小説家志望だった頃に書いた詩、一度夢を諦めて詩生活しせいかつに入ってから書いた詩などを一部再編集したもの、詩集の為に書き下ろした詩、そして自ら撮った写真を収録し、私なりの「夜」を再現してみた。


 実に身勝手な願いではあるが、是非ぜひともこの詩集から「夜」を感じて頂いて、共にこの「夜」を共有出来たら私は嬉しく思う。



19:00




 コンビニ袋をぶら下げて、好きな曲を聞く。
 お気に入りの道を歩いて帰る。
 翌日の事は一旦忘れて、夕飯を想像する。
 小さな幸せをかさねる、夜の始め。




毛布

 毛布に包まって夜を待つ
 間接照明に照らされたその顔は
 どこかさびしげで
 どこか楽しげだった

 星間の中で流れるとき
 過去のトラウマさえも置いていく

 ドリーム・ポップを聴きながら
 来たる闇へと期待する

 毛布に包まって夜を待つ
 ヒーターに当たるその
 どこか幼気おさなげ
 どこか達観的たっかんてきだった

 されど 毛布は喋らない

 だけど 毛布は側にいる

 一枚の毛布もまた
 夜の信者となったのだ





シャッター街はひとみを閉じて、もう来ない朝を待つ。




或るシューゲイザー

 音のひずみが脳をがし
 電子のげんが胸をるがす

 情景じょうけい投影とうえい
 そこに光が見えた

 一本の街灯を周囲を
 無邪気むじゃきに飛ぶ神経反射
 雲間くもまから見える群青ぐんじょう
 薄い羽からけている

 ……もう は落ちたんだ

 波とノイズだらけのカーステレオが
 不愉快に 不可解に共鳴きょうめいする
 インクを落とした様な砂の上で
 ネオンと鏡の幻覚を切望せつぼうした

 息は白い
 夜風がいやに冷たい

 ヘッドフォン越しに
 君の声が聞こえた
 そこから聞こえる悲しげな君の声は
 不思議と心地よく感じた

 君はいつか
 あの夜空を飛ぶとんびよりも
 はる彼方かなたに行ってしまうんだね

 いていたシューズを見下ろす
 灰色の砂だらけのシューズは
 古くボロボロでみすぼらしい

 あぁ 夢なのかな
 僕は思わず泣いた






20:00




 ゴールデン・タイムのテレビ画面。
 はなやかな偶像ぐうぞうたちはショーを展開する。
 気だるげに眺める視線は、痛みを含んでいる。
 目をつぶったら、少し楽になるかな?




簡易的な額縁の中に、小さく幼稚ようちな月。




人工衛星

 人工衛星は点滅てんめつする そらひとりぼっち
 自分の存在をあらわす為に 赤い光を夜に点滅させる

 人工衛星は落ちてこない 宙で独りぼっち
 他力たりきのプログラミング通りに 安全第一な飛行をしている

 人工衛星は語らない 宙に独りぼっち
 反論する事なく 黙々もくもくと仕事をこなす

 人工衛星は帰らない 宙に独りぼっち
 人工衛星は永遠とわに帰らない
 暗闇で独りぼっち




セシル

 ポッドキャストに耳をかたむ
 夜風にまぎれたセシルは笑う

 きつね目尻めじりは星を見上げ
 白い肌は冷気れいきすか
 甘い香りの香水に
 タバコの苦みが混じって巣食すく

 黒色に染まった日常
 セシルはそれでもめげなかった
 煙の中の輝きを探して
 暗闇に中を歩いている

 自分でいた種なのに
 人のせいだと思うしか無かったのだ





21:00




 明日の足音を意識する。
 歩幅ほはばは小さいけど、音は確か。
 パジャマに袖を通して、窓の外を見る。
 外の黒は濃くなっていた。




遅めの帰路

 水面みなもに三日月
 水鳥みずどりたちの眠り
 びた自転車
 コンビニ袋に入った漫画雑誌
 そして 安売りの弁当
 先なんて考えず
 楽しければいいと思っていた
 かつての幻影を破棄はきせざるを得なかった
 寂しい背中の大人
 今日も独り帰路に就く




水面に映る、貼り付けた笑顔の君。




スローリーダウン

 落ちていく
 僕等はゆっくり落ちていく

 それは安らぎか
 それとも悲しみか

 月夜の水面にうつる顔
 ゆらゆらと揺らめく反射は消えた

 それは笑っているか
 悲しんでいるか

 永遠えいえんかと思えるときは重なり
 僕等はそこに生きている

 いずれ来る終わりは
 何も言わずに忍び近づく

 そこにのこった骨だけは
 世界の隅に置いといてくれ

 月夜は迷いを示す
 僕等はずっと落ちていく

 終わりのない終わりに





22:00




 月のカーブはゆるやかだった。
 もう、この夜が来て時間が経った。
 僕は夜に秒針の管理を引き継がせ、夜風に当たった。
 風は滑らかにほほかすめ、そのまま闇の奥へと消えていった。




ミニシアターのレイトショー

 炭酸ジュースの酸が抜ける度
 アイ・ラブ・ユーが聞こえてくる
 ポップコーンが床に落ちると
 辺りは一面火の海だ

 誰もいないミニシアターで
 仕事終わりの僕は 映画を観ていた

 無名むめい監督の知らない物語
 下手な演技が鼻につく
 金にもならない作品は
 熱意だけでも価値があった

 されど 深夜 リクライニングシート
 GABAギャバを含んだドリンクと錯覚さっかくして
 熱意だけではどうにもならない

 ミニシアターのレイトショーは
 色彩を感じられなくなった

 無抵抗で無知な僕は
 はかなく時間が加速した




酒屋の自販機横には、缶の亡骸なきがらが積まれている。




風を詠む君へ

 夜の風は冷たく
 乾いた香りが部屋をおおっている
 柔肌やわはだの温もりなどとっくに無く
 ただきりの晴れない明日を思うだけ

 君が風をんでから
 トマトスープの温かさを知った
 君が風を詠んでから
 草木くさき胸騒むなさわぎを知った

 君を風を詠んでから
 まれた古書こしょの懐かしさを知った
 君が風を詠んでから
 永遠えいえんの中の存在価値を知った

 だから 眠れぬ深夜の旅に出る
 ねぇ 君は何処にいるの?

 風と共に去った君
 手からすり抜けた虚像きょぞうの感触
 君はちぐはぐな己を嫌ったから
 僕の前から消えたんだね

 追っても 追っても
 君はいない

 追っても 追っても
 影はいない

 ……もう疲れた
 だから を捨てた

 モノクロームな視界が広がる
 ただ にくい風が吹くだけだった




子供たちのいない公園は、命の無い古戦場と同じ。





23:00




 布団は巣穴の中。
 入るだけでほっとする。
 心の浄化はほがらかなまま、そして穏やかなまま。
 包まれた魂は、そのまま睡魔すいまささやかれた。




さよならトレイン

 最終電車の最後尾
 数人の抜け殻だけが座っている

 疲労の仮面を付けた僕は
 微睡まどろみの魔にささやかれていた

 町々は眠りの中
 寝息を立てて明日を待っている

 車窓しゃそうから見えるその寝顔を
 薄く開けた眼で見つめた

 僕は何も発さず
 静かに「さよなら」と告げた

 蛍光灯の光
 風の走る音
 不安をさら
 逃避とうひする夜

 最終電車の最後尾
 僕の街まであと少し……




枯れたオアシスに、蛇口じゃぐちひねれば戻る簡易さは要らない。




カフェインと馬鹿

 カフェインを流し込んで
 おのれくさりを掛ける
 生物的本能を
 科学的にシャット・ダウン

 世界はもう眠る
 時計の針も見守る
 だけど 時間の足りない僕らは
 気合いを入れて飲み干した

 命を削ってでも
 やりたい事がある
 カフェインを味方にして
 果たさなきゃならない事がある

 かつを入れて
 目を輝かす
 数分を対価にして
 今に生きる 馬鹿な僕ら




月明かりの道を歩いて、天国に行けたらいいな。




クラゲ

 君は月夜の使者
 深い海からやって来た
 ゆらりゆらり
 幻想げんそうの様な儚さをまと
 君のドレスは
 純白じゅんぱくに輝くだろう
 不死の美しさは
 唯一無二の芸術
 波に揺られて
 ヒラヒラと舞う

 君は浮遊する
 俗世ぞくせに地を着けない
 それが君の
 最適解だった

 今宵こよいは満月
 君の命日

 君は死んだたましい
 クラゲと化して泳いでる
 あわい光の中
 君はそらへと飛んだ





24:00




 無意識下にある夢魔むまそので、日めくりカレンダーを一枚破る。
 もう別の日なんだ。
 シームレスな交代は、正にベテランのいき
 温もりのある布団の中で、静かな称賛しょうさんを送った。




It's a small world.

 「世界は僕らのもの」
 勝手に宣言しよう
 口うるさい大人たちが眠っている
 朧月おぼろづきの夜に

 国道沿いのファストフード店は
 夜の住人がまばらに居座っている
 そこで苦いコーヒーを買って
 深い深い夜を飛ぼう

 街灯に群がる小さな虫と
 僕らしか知らない背徳はいとくの時間
 King Gnuキング・ヌーを聴きながら自転車を走らせ
 穏やかな海岸へと行こう

 ほら 夜の魔人は見つめている
 僕等の独立宣言を
 さぁ この眠れないこの夜を
 僕等唯一の世界にしよう

 そしたら自由にダンスしよう
 そして高らかに歌おう
 さぁ この眠れないこの街を
 僕らの小さな世界にしよう




海沿いの国道に深く刻まれたバイク音は、暴走と劣等感のあと




シーラカンス

 布団にもぐるシーラカンスは
 うろこのパジャマと共に寝る
 死に近い闇にまぎれながら
 まだ見ぬの夢を見るか?




ノクターン

 ベランダは闇
 夜は深く時を刻む
 今日の風は湿しめっぽく
 止んだ雨の匂いが優しくでた
 食べ残したピザと
 飲みかけのドクターペッパーは
 ラブシーンを映すNetflixネットフリックス
 冷たい視線を注ぐ

 ここに愛など無い

 この部屋を出て
 タバコに火を付けたら
 かつての観覧車の影が
 物哀ものがなしそうに見ている気がした
 虫の鳴き声と
 街の眠りが混ざり
 それがノクターンとなって
 哀愁あいしゅうつくり上げる

 夜は一つだった

 数時間後の太陽は
 このかなしみを知らない
 晴れない心に
 夜の深みがみる
 ノンレムじゃ和らげない
 傷もあるんだね
 だから僕は
 夜が嫌いなんだ

 今夜もまた
 ノクターンが聴こえる




闇に溶けた風船は、皆に忘れられて行方不明。





25:00




 頭痛と眼精疲労がんせいひろうを抱えたボヘミアン。
 かせをかなぐり捨てた事を、少し後悔した。
 映画のエンドロールはもうすぐ終わる。
 彼もまた、ベッドの上に身を置く覚悟をした。




Midnight Dirty Work's

 眠れない夜は
 ワープロに向かう
 何も深く考えないまま
 ただ自分のおもいを打ち込む
 耳からは心地の良い チルなポップを感じ取る
 まなこからは眠気をうばう ブルーライトを感じ取る
 頭がパンクしない様に カフェインを流し込む
 終わりのない夜に 言葉をつむ

 もう何回 この夜を過ごしたんだ
 あと何回 この夜を過ごさなきゃならないんだ
 寝れない苛立ちと 眼に流れる血流のストレス

 最低な夜を自分は自ら進む

 「本当に最低な夜だ」




僅かな光を求めて歩く、夜の放浪者ほうろうしゃの為に温もりを。




クローゼットのプラネタリウム

 クローゼットに
 昔買ったプラネタリウム
 さだめられた量の
 星の輝きだけでは
 広大な小宇宙しょううちゅう
 真似する事は出来ない




星降る夜と夜行バス

 星降る夜に
 夜行バスに乗る

 君の好きなものを
 沢山カバンに詰めよう
 日頃疲れている君へ
 もう少し待っていて

 静かな夜の高速道路から
 君の住む街に行こう




「光の龍を見た」と、子供のようにはしゃぐ高速道路上。




鯨の子

 深夜の海辺で鳴いている くじらが一頭鳴いている

 なぁ 友よ
 君はどう思う?
 あそこにいるのは子供の鯨 群れからはぐれた迷い鯨
 夜の闇に潜みながら 深い孤独に覆われて
 無干渉むかんしょうの時にとらわれている

 寂しかろう 寂しかろう 
 あの子はまだ幼いのに

 遠くで回る回転灯かいてんとうは?
 あの子の親を探さずに 任された仕事を全うする
 あの子なんて無視する 彼みたいな無慈悲むじひな奴は
 この世でも少なくないだろう?

 寂しかろう 寂しかろう
 あの子はまだ幼いのに

 なぁ 友よ
 僕等はどうしたらいい?
 僕等は手を出せないんだ
 助けてくれと言われても 遠く黙って傍観ぼうかんするだけ
 見るだけが正義じゃない だけどこころざしのみでは救えない

 寂しかろう 寂しかろう
 あの子はまだ幼いのに

 深夜の海辺で鳴いている 鯨が一頭鳴いている
 夜明けにえる仲間を思って……

 彼は孤独に鳴いている





26:00




 せいの時間は、寝息と共に。
 蛍光灯の放電音もそれらにフィーチャリングする。
 生の動きも、わずかに交じっている。
 星は、光を増している。




Lo-fi&Dust

 卓上たくじょうライトに群がる
 小さな埃たちは
 果て無き時間の深さを
 本能で知っている
 バックグラウンドで流れる
 ローファイ・ヒップホップに
 眠気がチューニングし
 脳内の夢魔むまが踊る

 魂だけは知っている
 これに言語は必要無かった
 暗闇に身をまかせ
 短い生命いのちを燃やしている

 踊る 踊るよ
 痛みを抱えて卓上で




住宅街の静けさに、夜の精はクスクス笑う。




砂上の月

 もしも
 僕の心臓を砂に埋めるなら
 真っ白な月の見える
 素晴らしい夜にしてほしい

 幸福の先に
 広大な夜天よぞらがあれば
 僕は己の命をてて
 身を投げ出そう

 切り取られた魂に
 美意識はあるんだ

 消えない肉塊にくかい
 動かない心臓
 見えない後悔
 全部埋めてくれ

 月は呪われ
 今も迷う
 彼が再び笑うなら
 死して道化どうけになろう




老いた灯台は、無数の夜を浪費ろうひする。





27:00




 起きているのは夜の住人のみ。
 朝を信じる者は誰もいない。
 暗闇の中で抱擁ほうようして、
 星の輝きに、取って付けた希望をかかげた。




羽音

 深夜 羽音で目覚めた
 バタバタせわしく動く音で

 夜行性の空気読まずさんは
 己の命を無駄にしている

 僕はベッドに横たわりながら
 その音に耳をました

 プラスチックがこすれる様
 バタバタ バタバタ鳴る

 ……あぁ そうだ
 俺もあんな風に 馬鹿正直に生きたいんだ

 怒りは無かった 逆に彼に尊敬した

 小さな夜行性の
 忙しく動く 空気読まずに

 ……俺は彼に憧れた




ベンチの脳裏に、き恋人のポートレート。




ニュクス

 布団の中で耳をすませば
 ニュクスの声が聞こえる気がした 

 暗い天井から細い腕を伸ばし
 ニタリと得意気とくいげに笑う
 思考の読めない女神の囁きは
 永遠とわの恐怖を感じさせた

 明けなれば どうしよう
 落ち着いているのに 高鳴る心臓
 金縛かなしばりにあった様に
 僕は ただ横になるしか出来なかった

 だけど 何故だろう
 明けなくてもいい そんな気さえあるんだ

 女神の手は
 てつく様に冷たいんだ
 だけど 何処か落ち着いて
 それに身を任せる自分がいる

 ……そうか
 僕は太陽が嫌いなんだ

 夜の信者は
 闇に解けるのを受け入れる
 闇の中に
 己の理想を願う

 僕は 静かに意識をとし
 精神を

 夜は また深くなる




ノイズとなって消えたら、遺灰いはいはそのままにしてくれ。





2?:00




 今何時?
 誰かに聞いても答えは返ってこない。
 ここにいるのは、一匹のだけ。
 独り生きる、一匹の蛾だけ




夜光静

 彼は独り
 生まれた時から夜だった

 街灯に照らされた葉脈ようみゃくの裏
 胡麻粒ごまつぶほどの小さな卵
 誰にも知られずに生まれた命を
 祝う声は無かった

 鈴虫の歌と
 川のせせらぎ
 夜の散歩と共にする
 煙草たばこの煙と香り
 五感を刺激するそれらは
 幼虫の姿形を知らない
 だから彼に
 バースデイはない

 かげからい出た肉体は小さく
 ひよわな呼吸で風は起こらない
 夜はその小さき者を
 黙って抱擁し笑っていた

 彼は独り
 だけど 寂しくはなかった


2

 這って 這って
 夜のすみ
 葉はサワサワと
 幼虫を乗せて揺れている

 難破船なんぱせんの迷いの様に
 生きる魂は方向が定まらない
 だだ 今できる事は
 目の前の葉を食らう事だけだった

 暴走車のヘッドライトが
 刹那せつな 葉を照らす
 その一瞬のスポットライトで
 誰か彼に気づいただろうか

 這って 這って
 夜のワンシーン
 葉はサワサワと
 歩みに揺れて鳴いている

 誰の目にも写らない
 くだらないワンシーン
 だけど 彼にとって
 その場所だけが 生命線の舞台


3

 めてきた栄養
 しずまる脈拍みゃくはく
 一時いっときの生のよろこびを犠牲に
 彼はながい眠りに

 殻に包まり
 五感を遮断しゃだん
 ただ 己と向き合い
 細胞を分裂させる

 誰にも見守られない
 けど 寂しくは無い

 未来に託すこと
 不確定な幻想を描くこと
 うわついた無知無学むちむがく
 身を委ねる

 ただ それしかできない

 空想の殻の中
 分裂する
 これから 広がるだろう羽は
 彼の想像よりも大きかった


4

 独り
 は夢を見た
 あの輝きの先に
 生の価値が見出せると

 それは生まれた時
 小さな卵から
 人知れず この世に
 生を宿やどした時からだ

 彼が生まれた時
 住宅街は闇の中にいた
 彼がそれを「夜」だと認識したか
 定かではない

 だけど その暗闇の中に
 点々と光がある事が
 視覚不良の彼にとって
 生の価値を感じさせた

 幼虫 さなぎ
 流れる一生
 永い 永い地の記憶に
 刻まれることのないワン・カット

 けど 生きてる
 誰にも知られずに 生きてる
 それだけでいい
 それだけで 彼は満足だった

 彼は幸せをだった

 ノイズ交じりの蛍光灯
 バチバチと当たる身勝手な習性
 この 魂を削る感覚さえ
 彼にとっては喜びだった


 生のたわむ
 夜の戯れ
 いつ始まったか分からないけど
 始まるものには いずれ終わりが来る

 静謐せいひつな夜の中で
 気づけば月は 唯一の友人だった
 照らす優しさの理由は
 えて語られなかったけど
 苦しみの中に 錯覚しながら生きていた友人の
 そのしおれた死に体に
 一生懸命 慈悲を注いだ
 対価を求めるなんて失礼だ
 友情に等価交換は無く
 ただ 信頼の上に
 関係が構築されていた

 終わりを察した月は語った
 無限数の夜を
 語り切れない 記しきれない程の
 美しきページたちを

 それは毛布の中の安堵あんど
 それは人工衛星の盲点もうてん
 それは夜を愛する恋人たち
 それは夜をねたむ労働者たち
 それは気楽な幽霊
 それは悲しき鯨の子
 それは疲労の上の生活の歯車
 それは恐怖の中の信望しんぼう
 それはデスクからの発信
 それはただの狂信
 それはただの失踪

 数多あまたの夜はスクリーンの様に
 時間の瓶詰びんづめに収められた
 月はそれを口出さず見つめ
 それを母親の様に傍観している
 「何故?」と問われても答えない
 ただ そこにあるから
 ただ 目の前に生きているから

 そこに確かな慈愛があるか
 それは分からない
 だけど この不完全な世界に
 唯一の正解はない事は分かっていた

 月が語り終わると
 夜風がヒュウと 優しい吹いた

 薄汚れてちた羽で
 生を求めたのも正しい
 残りわずかな命を
 浪費したのも正しい
 いずれ消える身を
 無視したのも正しい
 そして 輝きの果ての夢も
 正解でしかない

 蛾は最期まで正しかった
 月は理解していた

 土に還る
 風にまじわる
 命の蝋燭ろうそくが消える
 月に看取みとられる

 ……さよならは聞こえない
 けど 哀しかった


 月は最後まで 優しい眼差しで
 ただ 死を見守る

 これで生の記録が途絶えた
 だけど 秒針は動いている

 夜光やこう せいの中
 町はまだまだ眠る
 それぞれの夜は続く
 ……いつまでも 月は光り続ける




雲間から聞こえた、淡い「さよならごめんね」。





あとがき




 まず、このあとがきは投稿の数日前に急ピッチに書いている。
 それまで書いていたあとがきが、ほぼ「この詩集は良いものだ」と自画自賛じがじさんすることしか書いていなかった。客観的に読んで「厚かましい」と思った私は、急遽きゅうきょであるが0から書き直すことにした。800字以上書いた労力と時間は無駄になったけど、私は良い判断を下したと思い込む事にする。


 今回、初めて詩集を編んでみたが、「詩集作り」は思っていたより疲れるものだと、作業していて常々思っていた。
 この詩集の為に、新たに詩を書いたり、過去から詩を集めた。写真を撮ったり、過去のフォルダから写真を集めた。それらの材料たちからいいものを厳選げんせんし、構成を考えた。色々と吟味ぎんみしつつ、再構成と修正を繰り返して、ようやく一つの詩集となった。
 ただ一人黙々と作業を続けていて、「本当にこの詩でいいのであろうか」「この構成でいいのであろうか」と悩み苦しんだ。ただ苦しんだ分、愛着あいちゃくいたのも確かだ。
 最初に書いたあとがきが自画自賛ばかりになってしまったのも、こういう苦労があって、愛が溢れてしまった故の結果なのだろうと思う。これは、創作をする多くの人が共感することだろうと思う。


 さて、こうやって詩集を作り上げたことは良いのであるが、こういった作業をしていて度々たびたび「詩の意義」について考えることがあった。
 私自身、未だに「詩を書くことにおいての正解」が分からない。大学時代に中原中也なかはらちゅうやの研究をして、その時の経験をもとに詩を書き始めて数年経過した。それまでに様々な詩や詩論しろんを読んだりしたけど、その答えは未だに見つからず。
 ただ、何処ぞの誰かが「詩に答えは無い」と唱えていた。答えは無いからから、唱えられている詩論は各詩人によって違いがある。
 それらは発言者の感性や思考によって答えがバラバラになるし、それらは100%共感されることも無いし、100%否定されることも無い。だからこそ、それが「文学らしい」と言えてしまうのであろう。
 そんなことを思いつつ、未だ掴めない答えを探りながら詩集を編んでいたが、詩集を編んでも分からない。むしろ、更に深みにはまったような気がする。
 けれど、不思議と悩む気持ちは前よりかは薄らいでいる。寧ろ。この深みにはまる感覚を楽しんでいる。
 答えのない問題を楽しむ心。このワクワク感もまた、「文学らしい」のかも知れない。そのことに気付けたという事が、この詩集を作った上での最大の収穫だと言えよう。




……今日も夜が明ける。




 最後になるが、どんな夜も必ず明ける。始まりがあれば、終わりは必ず来る。ただ、「終わる」という事は必ずネガティヴな事象じしょうであるとは言えない。終わるからこそ、その後に新たな始まりが訪れるのである。
 私もまた、このあとがきを書いていて、「あぁ、もう間もなく終わるのか」と、寂しく思っている。だけど、これから書きたい題材もあるし、詳しくは言えないが個人的にやりたいことも沢山ある。だから、私はそんな終わりに敬意と愛情を抱くことにする。


 そんなこんなで、自分の今ある想いを書き終えたので、これらを『夜行静-YAKOUSEI-』のめとさせて頂く。
 では、またいずれ。何処かの夜で。



 2025年4月某夜 自室にて
卯野有希路うのゆきじ






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