『足仲彦記』(還れぬ王)第一章…
第一章 最初の断絶
古事記に描かれる天若彦は、天より遣わされ、弓と矢を授かり、国を視よと命じられた存在として語られている。
地に降りた彼は大国主の娘を娶り、そのまま国に留まり、八年のあいだ天への報告を行わなかった。
王が戻らないという出来事は、ひとりの反逆として片づけられるものではない。
それは巡り、視て、還るという王の道そのものが止まった瞬間であり、天と地を結ぶ回路が静かに途絶えたことを意味していた。
天は異変を察し、使者を送り真意を問う。
しかし天若彦は、かつて天から授かった矢を放ち、その使者を射抜いてしまう。
矢は血を帯びたまま天へ届き、天はその矢を再び地へ返し、今度は天若彦自身の胸を貫いた。
ここで語られる王の死は、終わりとして閉じられてはいない。
鳥が集められ、喪屋が建てられ、八日八夜にわたり歌と哭きが続き、ある伝承では王は天へ引き上げられ、また別の伝承では喪屋が切り倒され地に落ちて山となったとも語られる。
王は還り、同時に地に残る。
昇るものと埋もれるもの、回帰と定着、その両方を同時に語ろうとした痕跡がここに残されている。
同じ構図は後に語られる饒速日にも重なり、王そのものではなく、王を示すものだけが地に残されるというかたちへと変わっていく。
そしてこのときから、人々は王が本当に還ったのかどうかを、はっきりとは語らなくなっていった。
