世界を感化する力
私の生涯に深い感覚を与える一つの
言葉を皆様の前に繰り返したい。
ことにわれわれのなかに一人アメリカのマサチューセッツ州マウント・ホリヨーク・セミナリーという学校へ行って卒業してきた方がおりますが、この女学校は古い女学校であります。
たいへんよい女学校であります。
しかしながら、もし私をしてその女学校を評せしむれば、今の教育上ことに知育上においては私はけっしてアメリカ第一等の女学校とは思わない。
米国にはたくさんよい女学校が、ございます。スミス女学校というような
大きな学校もあります。
またボストンのウェレスレー学校、
フィラデルフィアのブリンモアー学校というようなものがございます。
けれどもマウント・ホリヨーク・セミナリーという女学校は非常な勢力を
もって非常な事業を世界になした
女学校であります。
それが世界を感化するの勢力を持つにいたった原因は、その学校には
エライ非常な女がおった。
その人は立派な物理学の機械に優って、立派な天文台に優って、あるいは立派な学者に優って、価値のある魂を持っておったメリー・ライオンという女でありました。
その生涯をことごとく述べることは、今ここではできませぬが、この女史が自分の女生徒に遺言した言葉は、
われわれのなかの婦女を励まさねば
ならぬ、また男子をも励まさねばならぬものである。
すなわち私はその女の生涯をたびたび考えてみますに、実に日本の武士の
ような生涯であります。
彼女は実に義侠心に充みち満みちておった女であります。彼女は何というたかというに、彼女の女生徒にこういうた。
「他の人の行くことを嫌うところへ
行け」
「他の人の嫌がることをなせ」
これがマウント・ホリヨーク・セミナリーの立った土台石であります。
これが世界を感化した力ではないかと思います。他の人の嫌がることをなし、他の人の嫌がるところへ行くという精神であります。
内村鑑三「後世への最大遺物」より
「VUCAの時代」と言われて久しい。VUCAとは、Volatility「変動性」Uncertainty「不確実性」
Complexity「複雑性」
Ambiguity「曖昧性」の頭文字を
取った造語で、社会やビジネスに
とって、未来の予測が難しくなる
状況のことを意味している。
自分自身、VUCAの時代と言われる
前から、VUCAな人生を歩んできたのである。
「なぜに危ない方ばかりを選択するような難しい人生を歩んできたのか」
いつも自問自答してきたのである。
今あらためて思う。
「VUCAの時代を生きる若者に、
何かを伝えたい」
もし自分が、そう思うならば、
まず自分が、VUCAな人生を生きて
こなければならなかったのである。
自らが、リスクを避けた選択を重ね、安全地帯から、物知り顔で、「OODA(ウーダ)ループ思考が必要だよ」と語っても、若者には、決して伝わらないのである。
VUCAな人生を生き、満身創痍の切り傷を通して得られた真実しか、
今を生きる若者には、伝わらないのである。
そういった意味で、
「他の人の行くことを嫌うところ
へ行け」
「他の人の嫌がることをなせ」
メアリーライオン女史のこの言葉は、
どのような時代であっても、世界を
感化する力をもっているのである。
なぜならば、彼女自身が、VUCAな
人生を生き、その経験から生まれた
真実の言葉だからである。
