掌編小説|いたずらの予感
その日、私はなぜか目が覚めてしまった。
暗闇に、秒針の音がひとつ、ひとつ、夜を刻んでいく。
夜の帳に包まれた部屋の中にはカボチャのライトがオレンジ色の光を放ち、部屋を照らしている。
しんとした静寂の中、ふとスマホの通知がふわりと光る。
『トリック・オア・トリート!』
――こんな時間に誰だ。
送信主を見ると――遥輝くん。
メッセージを見た途端、私の頬がゆるむ。
いつも会社ではクールな感じなのに、ふと見せる少年のような一面に、心臓の鼓動が高鳴る。
『お菓子なら、あげないわよ』
『じゃあ、悪戯してもいいんですか? 侑里さん?』
顔が急に熱を持つ。私は震えながらスマホに指を走らせる。鼓動が早くなって、空回りしそうなリズムを刻みながら。
『明日、会社で何かあげるから』
『楽しみにしてます』
ここまで見て、私はスマホをベッドに投げるように置き、顔の熱がとれないまま気がついたら朝になっていた。
――頭がぼーっとする、きっとあのメッセージのせいだ。
朝、私は通勤カバンに用意しておいた衣装とキャンディを忍ばせた。
ハロウィンは仮装勤務が許可されている。むしろ推奨されている。仕事ながらお祭りのような一日。
ネイルも今日だけはハロウィン仕様の黒とオレンジを光らせる。
魔女の衣装に着替え、いつものように仕事をする。
周りも働くお化けやゾンビやミイラが非日常を彩る。仕事も魔法で片付けられればいいのに。そう思いつつ、パソコンに向かうドラキュラ――遥輝くんの後ろへ立つ。
「はい、トリート」
それを見て彼はふっと笑う。
「いちご味……。ホント好きですね」
「べっ……別に、下のコンビニで目についたのがたまたまいちごミルク味だったから――!」
背を向け立ち去ろうとすると、ぼそっと低い声がする。
「仕事の後、このまま街のハロウィンイベントに行きません? せっかくですし」
――ああ、もう、彼にはかなわない。
私は背を向けたままコクコクと頷いた。
……街の灯りが、少しだけ甘く見えた。
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