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『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』の感想~陽気で最強

皆さんは、今年のサッカーW杯は楽しめましたでしょうか。
私の場合、決勝でスペイン対アルゼンチンという、好きなチーム同士のカードを見れて眼福でした。
今回のスペインは本当に強かったですね。前回のカタールW杯で日本相手に逆転負けしたり、モロッコ相手にPK戦でストレート負けしていたのが嘘のよう。
そんな時しみじみ思い出します。EURO2008で現在のパスサッカー、すなわちティキタカに開眼し、南アフリカW杯で悲願のW杯初優勝を飾った最初の黄金期のことを。
私がちょうどサッカーに興味を持ち始めた頃だったので、なおさら思い出深い。

というわけで、その頃の代表の空気感を切り取ったルポ『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』を見てみましょう。


読んでみて真っ先に思ったことは「チームの仲がとにかくいい」
かつては「両者は、部外者に本当に衝撃を与えるほどの激しさでお互いを憎み合っている」と評されるほどの関係であるレアル・マドリードとバルセロナが象徴するように、歴史的な地域間対立でまとまらないと言われていたのが嘘のよう。
ポジション争いのライバルでも関係なく信頼関係を築いていた。
選手たちはサッカーを抜きにすれば本当にごく普通のあんちゃん。
まるで中高生みたいに「青春してます」って感じで見てて気持ちいい。
しかもやたらウ〇コの単語が飛び交うわ、ビンゴゲームでラモスとナバスはイカサマしてくるわ、チャビやレイナは変なあだ名付けてくるわ。
試合中ですらカプデビラがジョークを飛ばしまくるので、周りが堪えるのに必死だったとか。

あだ名の例
カシージャス→モフェタ(スカンク:由来は若い頃はよく屁をこいていたかららしい)、
セスク→エンパナーダ(うっかり屋なため、ぼーっとするという意味もあるempanadaとつけられたっぽい)
シャビ・アロンソ→デクスター(『デクスター 警察官は殺人鬼』の主人公と似てるから)

それでチャビのあだ名はズバリ「ペロポ(アソコの毛)」。
驚いたことに下町でよく使われるあだ名らしい。
しかも彼のターンは「La Pelopina」と呼ばれ、何なら自身は所有していたヨットに「La Pelopina」と名づけていた。
……そんなに気に入ってるんだこの名前……

このように、日本の感覚からすると失礼極まりないネーミングの数々ですが、「あだ名は冗談のわかる、言っても怒らない者に付けるのがコツ」というのは仰る通り。
おとなしいタイプであるイニエスタに対しては「アンドリュー」と、いたって普通の名前を付けていた。
相手によって配慮できるあたりも、空気のよさを象徴しています。

16章のうち、このあだ名エピソードを含めて4章が選手の暇つぶし方法について。
ラモス謹製サウンドトラックにマラドーナへのオマージュソング『La mano de dios(神の手)』が入っていたのは嬉しかったし、プジョルはサッカーくじの胴元。しかも代表内ではサッカーくじが伝統となっていて、チームメイト全員真面目にやっており、監督のアラゴネスもチームマネージャーと組んでお忍びで参加していた。

そのアラゴネスは、勝てなかったスペイン代表にティキタカを定着させ、EURO2008優勝に導いた名将。
彼の人心掌握術は、まさにお手本のよう。

「全員の頭と口にいくつかのことを刻み込む。冗談のような言い方もあったが健全だった。まっすぐ核心を突くのが彼のやり方。微妙な指摘とユーモアでやるべきことがクリアになり、しかも楽しかった」とルベン・デ・ラ・レッド。
選手たちが知らなかったのは、すべての話には裏があったこと。「爆笑の後に、選手が気づかないうちに基本的な戦術の約束事が挟み込まれる。ユーモアの後にキーとなる言葉が続く。広くプレーする、中盤で回す、ボールを保持する、1人のSBが上がったらもう1人は上がらない、前線では馬鹿げたことをしない。こうした明確なアイディアを伝えるのが、ルイスの名人芸だった」とエンリケス。

『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』P89-90

こうして見ると、稀代の迷監督ドメネクによってチームが崩壊していったフランス代表と残酷なまでの対比となっています
占星術で選手を選ぶ、練習でバギーレースをさせるetc……
雲泥の差!
当時のフランス代表がいかに酷い状態だったかは『レ・ブルー黒書――フランス代表はなぜ崩壊したか』やドキュメンタリー『内紛劇はこうして起きた: 崩壊と反乱のレ・ブルー』が詳しいです。

むろん、試合についてのエピソードも豊富。
特に最大のターニングポイントとなったEURO2008のイタリア戦のエピソードが印象的。
当時スペインにとってイタリアは天敵中の天敵で、実に88年もの間勝ったことがなかった
代表は1920年のアントワープ五輪のために創設された。つまり、草創期に一度勝ったきり。本当に高い壁だったわけです。
しかし天敵を相手にしても選手たちは臆することはなかった。

パロップ「イタリア国歌のメロディーで歌詞だけ変えた。『イターリア、イターリア!風と共に去りぬ!』」
プジョル「イタリアと戦うというのに、誰も荷物の整理をしていなかった。万が一敗退したことを考えて片付け始めている者が、実は今まではいた。だが、今回は誰の頭にもそんな発想はなかった。勝つぞ、と信じて疑わなかった」

何という強気なメンタリティ。これがフィクションだったら勝ち確演出です。
実際、PK戦の末にイタリアを突破し、そこからあれよあれよという間にEURO制覇。ここから黄金期につながっていきます。

南アフリカW杯では、初戦のスイス戦を落としてバッシングに晒されても、選手たちからは悲観的でなく希望と自信に満ちあふれた言葉が出ていたという。
そこから徐々に調子を上げていき、ついにW杯8か国目の歴代優勝国として名を連ねることに。
決勝のオランダ戦で決勝点を挙げたイニエスタの、亡き親友へ捧げたメッセージ「DANI JARQUE SIEMPRE CON NOSOTROS(ダニ・ハルケ 僕たちはいつも一緒だ)」に泣かされた人も多いはず。

それまで、期待されればされるほど盛大にコケていたスペインがどうしてここまで強くなったかは数々の分析や説明がなされてきましたが、本作は当事者たちに語らせたもの。
訳者は「愉快でちゃらんぽらんゆえに成立した」と語っておりますが、まさにその通り。
スポーツものは普通、「貧困など不幸な境遇からの脱出」「怪我との戦い」「ポジション争い」など、重かったりギスギスする要素が含まれているものなのに、本作はそうした要素は多少はあれど、スペインという国のイメージそのままにカラッと爽やかな空気が全体を通して流れていました。
ここまで明るい雰囲気のスポーツ内幕ものは珍しい

きっと今回優勝したスペイン代表も、同じような空気が流れていたのでしょう。

W杯初制覇時に出回ったシンプソンズ風ラ・ロハ。
選手たちは本当にこのイラストみたいな雰囲気でした

#読書感想文


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