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g33 透明な筐体に宿ったWebの夢──au「Fx0」のデザイン哲学と現在地

Webという無限の可能性を秘めたプラットフォームと、吉岡徳仁氏による革新的なデザインが融合した、日本の携帯電話史における特異点。それが2014年のクリスマスの日にau(KDDI)から発売されたFirefox OS搭載スマートフォン、Fx0(LGL25)です。

​iOSとAndroidによる複占市場が確立されていた当時、第3のOSとしての覇権を争い、そして散っていったこの端末は、単なる工業製品を超えた思想の塊でした。OSの特性、デザインの哲学、そして現在の立ち位置まで、このユニークな存在について網羅的に解説します。

​第3のOS、Firefox OSの夢と特異性

​Fx0を語る上で欠かせないのが、その心臓部であるFirefox OSです。Mozilla Corporationが開発したこのOSは、The Web is the Platformという理念を掲げていました。

​当時のスマートフォンアプリは、iOSやAndroidそれぞれのネイティブ言語で開発する必要があり、Webの世界とは分断されていました。しかし、Firefox OSはHTML5やJavaScriptといったWeb標準技術ですべてのアプリケーションを動作させる構造を採用しました。つまり、端末そのものが高性能なWebブラウザであり、アプリもUIもすべてがWebサイトのような構造で動いていたのです。

​これは開発者にとって非常に魅力的な構想でした。Webサイトを作る技術があれば、そのままスマートフォンアプリが作れる。世界中のWeb開発者が潜在的なアプリ開発者になるというオープンなエコシステムを目指していました。Fx0は、この理想をハイエンドなハードウェアで実現しようとした、世界でも稀な挑戦的な端末でした。

​吉岡徳仁氏による透明な美学

​Fx0が現在でも愛好家を惹きつけてやまない最大の理由は、その圧倒的なデザインにあります。世界的なデザイナーである吉岡徳仁氏が手掛けたこの端末は、単なるスケルトン(透明)ではありません。

​コンセプトは「中身からのデザイン」です。通常、電子機器の内部基盤は隠すべき無機質なものとして扱われますが、Fx0ではそれ自体を美の構成要素として捉え直しました。筐体には半透明のポリカーボネートが採用されていますが、これは完全に透明ではなく、わずかにゴールドがかったあめ色をしています。これにより、内部のメカニズムが露骨に見えすぎるのを防ぎつつ、高級感のある奥行きを演出しました。

​特筆すべきは、内部レイアウトの再構築です。見られることを前提としていなかったバッテリーやアンテナ、基板の配置を、美しく見えるようにゼロから設計し直しています。これにより、メカニカルでありながら有機的な、不思議な調和が生まれました。

​ホームボタンにはFirefoxのロゴである狐が刻印されており、画面を点灯させるとその狐が内側からぼんやりと光る演出が施されています。これは、Webの世界への入り口を示唆する象徴的なディテールでした。

​独自の金属フレームと「金のネジ」

​デザインへの執念は、筐体を支えるフレームやネジ一本にまで及びました。Fx0の内部に見えるシルバーの金属フレームは、剛性を保つだけでなく、視覚的な引き締め役を担っています。

​そして、Fx0を象徴する最もマニアックなパーツが、正面から見て右上に配置された1本の特殊なネジです。他のネジが一般的なプラスネジやトルクスネジであるのに対し、ここだけは独自形状のヘキサゴン(六角)型の装飾ネジが採用されており、これだけが鮮やかなゴールドに輝いています。

​この金のネジは、単なる固定具ではなく、デザイン上のアクセントであり、ユーザーが裏蓋を開けてバッテリーやSIMカードを交換する際の視線の起点となるよう計算されていました。工業製品の大量生産品でありながら、工芸品のようなこだわりが詰め込まれていたのです。

​つくる自由とハッカビリティ

​Fx0は、ギーク(技術愛好家)やクリエイターに向けた端末であることを隠そうともしませんでした。auは発売と同時に、Fx0の背面カバーの3Dプリンター用CADデータを無償で公開しました。これは携帯電話業界としては極めて異例の措置です。

​ユーザーは自分好みのケースや背面カバーを自由にデザインし、出力することができました。これは、Webが本来持つ「誰でも参加でき、誰でも作れる」というオープンな思想をハードウェアレベルで表現したものです。実際に、アンテナを拡張したケースや、グリップ力を高めたカバーなど、ユーザーによる様々なMOD(改造)文化が生まれました。

​夢の終わりと現在のFx0

​しかし、革新的な挑戦は商業的な成功とは結びつきませんでした。iOSとAndroidのエコシステムはあまりにも強固で、アプリ不足や動作速度の面でFirefox OSは苦戦を強いられました。2016年、MozillaはFirefox OSのスマートフォン向け開発の終了を宣言。それに伴い、auにおけるFx0の展開も終了しました。

​現在、Fx0を実用的なスマートフォンとして使用することは困難です。OSの更新は止まり、対応するWebサービスも激減しました。セキュリティの観点からも、日常的な通信端末として使うことは推奨されません。また、修理受付も終了しており、バッテリーの入手も困難になっています。

​コレクターズアイテムとしての価値

​実用性を失った今、Fx0はデジタル遺産としての地位を確立しています。その美しすぎるデザインから、インテリアとして飾るために入手するコレクターも少なくありません。電源が入らなくなったとしても、吉岡徳仁氏のアートワークとして成立する造形美を持っているからです。

​また、一部の熱心な技術者の間では、この端末にAndroidを無理やり移植したり、LinuxベースのOSを動かしたりする実験台として愛され続けています。かつて「Web is the Platform」を夢見た金色の端末は、その役割を終えましたが、日本のキャリアがこれほどまでに冒険的で、デザインと理念にコストを掛けた時代があったことを証明す
るモニュメントとして、静かに輝き続けています。



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