株主の手紙はなぜ、まだ封書のままなのか
机のすみに、A4 より少し小さい白い封筒が 2 通、並んでいます。差出人は同じ信託銀行。住所も部署名もそっくり同じ表記なのに、封筒は 2 通あって、中には別々の銘柄の株主総会招集通知が入っていました。
たった 2 通です。山積みになっているわけでも、毎日来るわけでもない。それでも開封しないまま机のすみで止まっていたとき、ちょっとした疑問が頭に残りました。
これ、なんでまとめて 1 通にならないんでしょうか。

配当通知も総会の招集も、発行会社ごとに「株主名簿管理人」が出しています。差出人の住所が同じでも、書面の主体は別会社なので束ねられない、というのが構造的な理由です。電子提供制度や議決権電子行使の仕組みは少しずつ進んでいますが、個人の手元で「封書がゼロになる」状態には、まだだいぶ距離があります。
同じ銀行から、別の封筒で届く
ぼくは銘柄を 2 つしか持っていません。たまたま今回は、株主名簿の管理を引き受けている信託銀行が 2 つとも同じでした。だから差出人の住所も部署名もまったく同じ。なのに封筒は 2 通あって、それぞれ片方の銘柄の総会通知だけが入っています。
ここがまず引っかかったところで、調べてみると理屈ははっきりしていました。封筒を出している主体は信託銀行ではなく、その銘柄を発行している会社なんですね。信託銀行は「株主名簿管理人」として、発行会社の代行で出しているだけ。だから、同じ住所から同じ銀行の名前で届いても、書面の差出人は別々の会社です。法的な書面の主体が違うものを、勝手にまとめて 1 通にすることはできない。
ぼくの机の上にある 2 通も、たぶんあの銀行のどこかで、いったん別の山に積まれて、別々に封入機を通っているわけです。なるほど、と思いました。思っていたよりずっと根が深い。
「電子提供制度」はあるんだけど
紙を減らす制度自体は、もう走っています。2023 年 9 月から、上場会社は株主総会の資料を原則ウェブで提供する形に変わりました。「電子提供制度」と呼ばれる仕組みです。
ただ、これで配当通知も含めて全部が電子になるかというと、そうじゃない。電子提供制度がカバーしているのは総会資料の本体で、株主には「ウェブのここに資料が置いてありますよ」というアクセス通知書が紙で届きます。封筒の枚数は減らない。配当金計算書はまた別の話で、こちらは依然として紙が基本です。
加えて、株主が「ぜんぶ紙でほしい」と請求する権利も残っています。これは情報格差をなくす意味で大事な権利なので、消える方向にはたぶんいかない。

上の図はその関係をざっくり描いたものです。発行会社 → 株主名簿管理人 → 株主、というラインが銘柄ごとに独立していて、横の連携が無い。投資家側から見ると、入り口が銘柄の数だけ並んでいる状態です。だから 2 銘柄なら 2 通、10 銘柄なら 10 通、束ねる入口がそもそも制度上ない。
では証券会社でまとめられないのか
「証券口座があるんだから、証券会社側でまとめて電子化してくれればいいのに」と最初は思いました。実際、議決権電子行使プラットフォーム(ICJ)という仕組みもあって、機関投資家を中心に普及しています。個人向けにも「スマート投票」のような名前で、証券会社のアプリから議決権を行使できる導線は増えてきました。
でも、これも一本化からは遠い。証券会社が橋渡ししているのは「議決権の電子行使」の部分が中心で、配当通知や総会資料そのものの配信ではないからです。複数の証券会社に口座を分けている個人投資家だと、ますますバラバラに見える。
そして、もし証券会社が株主への通知をぜんぶ束ねようとすると、株主名簿との突合が必要になります。証券会社の口座 ID と、発行会社が持っている株主名簿は、ふだんは保管振替機構(ほふり)を介してつながっているだけで、「この人=この株主」を投資家本人が一意に名乗れる仕組みが、外向きには用意されていない。本人特定のキーが、市場側にも投資家側にも見当たらない。
マイナポータルが受け皿になれたら、というつぶやき
ここで自然と出てくるのが、「マイナポータルが受け取り口になればいいのに」という、ほぼ妄想に近い話です。本人特定のキーは国民全員が持っている。住所変更も連動できる。届いた書類が日付順に並んで、配当の入金も招集の通知もアプリの 1 画面で読める。議決権行使ボタンも横に並んでいて、ぽちぽち押せる。
これができたら、机の上の 2 通の封筒も、本当にゼロになります。

上の図は、その妄想を絵にしてみたものです。差出人がバラバラなまま届く配当通知も招集通知も、本人特定キーで一回名寄せできれば、1 つの受け取り箱に時系列で並ぶ。招集通知の横に「議決権を行使」ボタンが、配当の横に「入金済」のバッジが見える。住所変更も連動する。実装イメージとしては素直なはずです。
ただ、マイナンバーは利用範囲が法律で厳しく絞られていて、税・社会保障・災害対応が原則。民間取引で「本人確認の番号」として使うには別建ての整理が必要で、そう簡単には増やせない。住所変更の自動連動も、信託銀行の株主名簿側を書き換える権限の話になるので、いまの建付けでは外側から押し込めない。
しくみとして無理という話ではないけれど、関係者が多すぎて、どこから始めても 10 年仕事に見える。だから誰も最初の一歩を踏み出さない、というのが現状なんだと思います。
それでも、小さく前には進んでいる
文句ばかり書いていますが、ぜんぶ止まっているわけでもありません。電子提供制度で総会資料そのものは確実にウェブに集まるようになったし、議決権電子行使は個人にも開かれてきました。配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」にしておくと、証券口座にそのまま入金されるので、少なくとも振込先を書いた紙だけは目に入らなくなります。
ぼく自身がやっているのは、開封したらすぐ写真を撮って一つの場所に放り込む、くらいのささやかな運用です。あとで読み返すのは大半が議決権行使書の期限と配当の金額くらいなので、それで困ってはいません。封書を一本化する仕組みがいつか来るとうれしいけど、待っているあいだは、目の前の 2 通を片付けるところからです。
小さく。机のすみの封筒を、その日のうちに開けることだけ、これからも習慣にしていきます。
※ ヘッダー画像は AI(画像生成)で作成しています。
書いた人: ishizakahiroshi
群馬の北部で、保護猫2匹と暮らす、在宅エンジニア(何でも屋)
https://github.com/ishizakahiroshi
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