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#1 厚生労働省が発表した「病院の情報システムの刷新に係る方向性について」概要と展望を解説 【書き起こし】

この記事は、ポッドキャスト「ispec医療DX通信」第1回の書き起こし記事です。音声を聴く時間が取れない方や、資料として残しておきたい方はぜひご活用ください。

ispec医療DX通信は、医療介護領域でシステム開発を行う株式会社ispecが情報発信する番組です。
電子カルテをはじめとする医療基幹システムのクラウド化・モダナイズや、AI 活用による医療DXを手がけるispecが、医療DXの最前線でキャッチしたニュースや政策動向をお届けします。
パーソナリティーは、ispec CEOの谷村がつとめます。

テーマ:「病院の情報システム刷新に係る方向性」

今回は番組の初回ということで、少し前の話題にはなりますが、2025年1月22日に厚生労働省が発表した資料「病院の情報システム刷新に係る方向性」について、その概要と今後の病院DXや市場の展望についてお話ししたいと思います。
資料の中で最も大きなポイントは、「院内の情報システムをオンプレミスからクラウドへ移行していこう」という方針が厚労省から明示されたことです。これまで、ここまで明確に打ち出されたことはなかったと思いますが、今回はワーキンググループで協議が進み、方針として合意が取れたようです。

病院の情報システムに関する現状・課題、目指すべき姿

現状の課題として、主に4つのポイントが挙げられていました。

  1. サイバーセキュリティ対策の強化

    1. 攻撃の高度化が進む中、病院単独で十分な対策を講じるには限界があります。

  2. IT人材の確保

    1. 少子高齢化による、医療費増加と担い手不足が課題となる中で、より質が高く効率的な医療提供体制を構築していく必要があります。システムのクラウド化を進め、カスタマイズ箇所を極力減らす方針がある中、対応できるIT人材の確保が課題となっています。

  3. 制度変更へ柔軟に対応できる仕組み作り

    1. 診療報酬改定や新たな書類対応など、制度変更に迅速に適応できるシステムの整備が必要です。前回の改訂では「療養計画書の作成が生活習慣病の算定を取るのに必要となる」など、細かい対応が求められました。国の方針に柔軟に対応するためのDX基盤が必要です。

  4. オンプレからの移行

    1. 限られた人材・予算の中で、個別対応を行うのは厳しく、従来のオンプレ型からのクラウド型への標準移行が不可欠です。

病院の情報システムの刷新に関する方針

資料の中では、今後の方針として以下の5点が掲げられていました。

1.クラウド型システムへの移行体制整備(2030年まで)

病院の中核となる電子カルテをはじめ、会計システムやFAX、画像なども含めて、クラウド化を進める体制を2030年までに整備することが目標とされています。
ただし、「希望する病院が移行できる体制を整える」という表現になっており、必須ではなく段階的な導入を想定しています。

2.標準仕様の整備と民間への開放

国が医療情報システムの標準仕様を整備し、民間に発信することで、共通の仕組みを持った製品開発を促す方針です。要件定義書ほどではないだろう…という見解ですが、2025年度をめどに、その仕様が詳細なガイドラインとして公開される予定です。

3.カスタマイズの極小化

病院ごとの個別カスタマイズを減らすことで、保守の負担を軽減し、標準的な運用を目指します。アップデートのたびに個別対応が必要になる現在の仕組みは、病院への請求が重なってしまうため、病院とベンダー、双方にとって不利な状況です。アプリケーション及びインフラまで、運用方法の見直しが求められます。

4.データの引き継ぎ・互換性の確保

今後のクラウド移行にあたり、既存システムとの互換性を維持しながらデータをスムーズに引き継げるような仕組みが求められています。

5.標準マスター・標準コードの利用促進

医薬品や検査などのマスターデータに対し、標準コードを使った共通運用を促進していくことで、互換性の高いデータ利活用を目指します。

クラウド事業者の堅牢なセキュリティ基盤を活用する方が、はるかに現実的

医療以外の業界では、「クラウドへの移行が安全である」という考えが広がり、2010年代にはクラウド化が大きく進みました。しかし病院を中心とした医療の業界では「オンプレの方が安全」とされてきた時期が長く、その動きが遅れていました。
けれども実際には、個別の病院が自前でセキュリティ対策を講じるよりも、Amazon(AWS)やGoogle(GCP)、Microsoft(Azure)といったクラウド事業者の堅牢なセキュリティ基盤を活用する方が、はるかに現実的で安全であるという見解を持っています。

例えるなら、自分たちで要塞を築くのではなく、堅牢な城に入って守ってもらうという考え方ですね。城を襲うハッカー…山賊や海賊も日々進化している中で、医療施設側が自ら大量投資を行い、城を強化することは現実的ではなく、クラウド事業者の専門性を活かして強化された城に入る方が安全…といった感じでしょうか。

これが今回の方針の根幹でもあり、「病院単独ではもう限界だ」という判断の現れだと思います。

クラウド化が拓く医療DXの未来

病院DXの技術進化を阻んでいた“クラウドでない”現状

これまで、病院におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)は、技術的な進化があまり進まなかった印象があります。これは、院内システムがクラウド化されていなかったことが大きな要因だと感じています。
病院とクリニックでは状況が異なり、クリニックは比較的クラウド電子カルテの導入が進んでいますが、病院に関してはまだ90~95%ほどがオンプレミス環境だと認識しています。

病院におけるSaaS開発の制約

上記の環境下で病院向けにSaaSを開発する場合、電子カルテのデータにアクセスしたり、情報を書き込む必要があります。しかし実現するハードルは高く、ほとんどの企業は電子カルテに依存しない業務領域に特化したスタンドアローン型のSaaSを開発してきました。例えば、入退院の患者情報を外部と連携するための「CAREBOOK」などが代表例です。
このような方式が「王道」とされてきた背景には、病院内のPCのほとんどがインターネットに接続されていないという現状があります。

院内ネットワークの制約

病院では、インターネットに接続できるPCがそもそも限られており、多くは電子カルテ端末として、院内ネットワーク専用で使われています。体感値ではありますが、仮にネットに接続できるPCがあったとしても、全体の1割以下程度であると認識しています。
しかも、配置も限られており、業務の動線とは分離されているため、普段の業務で外部サービスを使うのは非常に難しい状況でした。
そのため、電子カルテと密接に連携するサービスを作ることは、導入費用・スケーラビリティの面を踏まえ、予算が十分にない状況下では成立しない状態が長く続いていました。

クラウド化と生成AIがもたらす変化

大きな転換点となるクラウド × LLM

こうした状況に、大きな影響を与えるのが「クラウド化の加速」と「生成AI/LLMの進化」です。この2つの動きによって、病院基幹システムとしてのクラウド利用が現実味を帯びてきました。今回の資料にも、API連携の促進についても触れられており、クラウドベースでのシステム構築が進めば、電子カルテのデータを活用した新たなサービスが展開しやすくなると考えられます。

広がる事業機会

例えば、以下のような分野にはすでに多くの企業が参入し始めています。

  • 生成AIによる退院サマリーの自動作成

  • 音声入力によるカルテの自動記録

今後は、これら以外の領域でも技術革新が加速し、病院DXの事業機会はますます拡大すると予想されます。また、クラウド化が進むことでインフラコストも下がり、病院側の投資余力が広がるという効果も見込まれます。

医療機関とのビジネスの現実性

医療機関から直接収益を得るビジネスがどこまで成立するかは、別途検討が必要ですが、柔軟なビジネスモデルを組み合わせることで、病院DXに関する事業の可能性は大いに広がるはずです。新しい企業やプロダクトが登場し、それがAPI連携を通じてエコシステムとして回っていく。そんな未来が少しずつ現実になり始めていると感じています。

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