#3 地域医療DXの核心? 病院を“建物”から解放するビジネスモデル転換 | aritakuさん対談 【書き起こし】
この記事は、ポッドキャスト『医療DX通信』第3回の書き起こし記事です。音声を聴く時間が取れない方や、資料として残しておきたい方はぜひご活用ください。
ispec医療DX通信は、医療介護領域でシステム開発を行う株式会社ispecが情報発信する番組です。電子カルテをはじめとする医療基幹システムのクラウド化・モダナイズや、AI 活用による医療DXを手がけるispecが、医療DXの最前線でキャッチしたニュースや政策動向をお届けします。パーソナリティーは、ispec CEOの谷村がつとめます。
オープニング
ゲスト紹介
谷村:
本日は、ゲストをお呼びしております。ポテック代表のaritakuさんこと、有村 琢磨さんです!
aritaku:
株式会社ポテックの代表をやっています、有村 琢磨です。Xでは@aritaku03 で情報発信しています。2016年ごろから医療ITに深く関わり、医療・ヘルスケア領域のプロダクト開発を中心に活動してきました。直近まではデジタル庁医療班で、医療DX関連プロジェクトのPMを担当していました。よろしくお願いいたします。
谷村:
あれ…aritakuさんって、元々薬学部ご出身でしたっけ?
aritaku:
そうなんですよ。仕事として関わる前から、割と医療には触れてきたんですよね。
谷村:
割と長くやり取りしてきていますけど、つい最近まで知らなかったです(笑)。 もう9年ほどこの領域にいらっしゃるってことですよね。長く医療に関わられている中で、結構変化とか感じられていますか?
aritaku:
そうですね…。Apple Watchが出た頃から「Apple Watchで何ができるのか?」みたいなブログを書いたりもしていて、もう10年近く医療領域を見ているかもしれませんね。
その間感じた変化について、ざっくり言うと『ヘルステック』という幻想が解けた10年間だったかなと思います。昔"〇〇テック"が流行った頃、フィンテックは伸びましたがヘルステックはみんなが期待しているほど市場が伸びなかったように感じます。原因は “ヘルステック” という言葉そのものだったんじゃないかと思っています。"テック"によって新しい市場やマーケットニーズが生まれる領域かというと、そうではなかったと。何となく気づいていった10年間だったと僕は捉えています。
aritakuさんのポッドキャスト
谷村:
ちょうどそのヘルステックのお話は、aritakuさんのポッドキャストでもされていましたよね?
aritaku:
そうですね。NotebookLMで作成したコンテンツを1点挙げています。
4月にやったヘルステック市場の分析をPodcast化しました。結構自信作の資料をちゃんとNotebookLMが聞きやすくまとめているので、ぜひ聞いてみてください!
— aritaku (@aritaku03) May 1, 2025
Listen to "国内ヘルステック市場の次の10年の震源地はどこか?" by ポテックテックトレンド. https://t.co/vTq08JamTU
谷村:
そのコンテンツ内で話されていた内容として、その当時バブル的に盛り上がったけれど、「実際上場した企業はどこだっけ?どんな傾向があるっけ?」と振り返っていったところ、成熟した既存の市場で戦ったところが伸びたよね!…といったお話をされていましたね。
aritaku:
そうですね。プロダクトアウトではほとんど伸びなかったなと。一方で、既存のビジネスモデルで勝負をした場合、たとえば人材ビジネスや診療サマリー、AI医療機器の領域では、従来と同じ市場ルールが明確に残っていて、そこに新しい製品を投入するだけということもあり比較的参入しやすかったと思います。フェムテックなど他のヘルステック分野よりもずっと入りやすかったのではないでしょうか。
谷村:
なるほど。資金調達からファンドの運用期間を考えると、長くてもおよそ10年で一巡するくらい。その1サイクルがちょうど回った今、ようやく結果が見え始めた感じですかね。
aritaku:
そうですね。今日お話ししようとしている「テクノロジーよりビジネスモデルを注視すべき」という点に繋がるかもしれません。キーワードは”医療DX”ですが、重要なのはDXによって医療サービスの業態そのものがどう変わるか。それにより、医療機関に従事する方々の収益モデルのあり方がどう変わるか。そういった部分を考えると、これからのビジネスのヒントが見えてくる。最近はそんなふうに考えていますね。
対談:テーマ『地域医療DX』
医療サービスの硬直化…「分解と再構築」による可能性
谷村:
今日お話しするテーマは『地域医療DX』です!aritakuさんもXで発信されていますが、今求められているのは病院単体のDXではなく、地域全体を視野に入れた医療DXだと私も感じています。
病院は国が医療サービスを提供する際の一要素にすぎず、業務レベルのDXだけでは不十分です。2040年を見据えた新しい地域医療構想や病床削減の補助事業などを踏まえると、病院の形が変わる中で「地域として、国として、医療と福祉をどう届けるか」という視点がますます重要になると感じます。今日はそのあたりを一緒に掘り下げていきましょう。
aritaku:
テーマの前提となるのが、"従来の社会保障が成り立たない状況"と"地域全体で効率的にサービス提供を考えないと医療が維持できない状況"ですよね。 谷村さんはこのあたり、現場で顕著に感じる瞬間はありますか?
谷村:
自分が関わっていた病院さんでも、コロナ前までは黒字を維持していたんですが、パンデミック後は入院数が減り、コロナ補助金を受けても収益を確保するのが難しくなっていましたね。そんな状況下で、医療法人さんによっては、特養を新設して従業員さんの一部に移っていただいたりもしています。
国の動きについても、病床削減を急ピッチで進めている印象はあって、病院という枠組み自体が地域経営の中で再編を迫られていると感じます。具体的には、病棟を介護施設や訪問系サービスへ転換するなど、地域ニーズに合わせて事業形態を変えざるを得ない状況です。 診療報酬の見直しを含む財務面の変化も進行中で、現場でもその兆しがはっきり見え始めています。
aritaku:
今の地域医療が直面する限界は、どこに原因があるとお考えでしょうか。資源不足、財源不足、それとも単純な人手不足など…実務のなかで体感されている課題があれば、ぜひ伺いたいです。
谷村:
自分はいわゆる過疎地の病院に深く関わった経験は少なく、むしろ地方でも比較的栄えているエリア周辺の病院を見ることが多いのですが、そうした施設で最も大きい課題は診療報酬、つまり"財源管理"の課題が多いように感じます。入院数が減るなか、限られた人員で売上規模をどう維持するかが問われる一方、経営レベルでPDCAを回している病院は多くありません。経営層が戦略を描いても、それを現場オペレーションに落とし込むプロセスが弱く、そこに苦労されているケースが目立つというのが実感です。
aritaku:
僕の見方では、問題は地域医療ではなく、医療そのものが硬直的なサービス提供になっていることにあると感じます。建物というハード、ビジネスモデルや収益構造、さらには医療従事者の職能も固定化され、新たな社会的ニーズに応えられなくなっているのです。谷村さんがさっき指摘していたように、財源管理とサービス運営を切り離した形で進めないと立ち行きません。
したがって地域医療DXの第一歩は、建物の管理主体と医療サービスのオペレーション主体を明確に「分離する」ことだと考えています。
谷村:
「分離する」って具体的にどういうイメージですか?
aritaku:
具体例としては、不動産投資信託『REIT』の仕組みを病院や福祉施設に応用した『ヘルスケアREIT』という分野があります。
ヘルスケアREITは、世界市場では米国がシェアの約8割を握り、他分野のREITと比べても配当利回りが高く安定していることで知られています。日本ではまだ事例が少ないものの、公立病院が赤字補填に毎年多額の公費を投入している現状を考えると、導入余地は大きいんです。たとえば、建物の所有権は自治体が保ちつつ、数十年単位の運営権を民間に委ねる『コンセッション方式』を採れば、自治体は不動産オーナーとして残り、病院経営は民間が担う形に分離できます。
そういった形で、公立病院では自治体が建物のオーナーとして所有を続け、医療サービスの運営は別の主体に委ねるという考え方もあるんですね。ここにヘルスケアREITを組み合わせることは活動の余地があるなと思ったりしていて、今後こうした事例が増えるといいなと勝手に妄想しています。
先行事例と病院再編の現実
谷村:
実際の事例もあったりするんですか?
aritaku:
はい。日本国内だと病院よりかは、サービス付き高齢者向け住宅とか、有料老人ホームのような施設で実際に動いていたりしますね。
谷村:
公立病院や公的施設などは赤字が特に深刻で、統計でも平均赤字率は約7%に達しています。この状況を考えると、施設の運営は民間法人に委託し、自治体は所有者として関与する形に切り替えたほうが望ましいってことですかね。
aritaku:
そうですね。公立か民間かを問わず、病院には地主・不動産オーナー・医療サービス提供者という、異なる専門領域が存在していると思っています。これらの役割を分離して担わせるほうが、実は社会全体にとってはるかに効率的な選択肢なんじゃないかと思っているんですよね。
谷村:
自分はどうしても病院についての解像度が高いので、イメージが病院施設に寄ってしまうんですけど…病院内部の業務もさらに切り分けられそうだと感じましたね。
最近はLLMの登場で、まず業務をBPOに出して、後から自動化するケースが増えていますが、それ以外にも検査や薬剤管理、手術資材の在庫管理など、すでに医療材料メーカーが在庫を直接管理しているような分野があります。そういった分野は、もっと外部に委ねて集約できる余地がありそうです。病院は診療というコア業務に専念し、ルーティン作業や資材管理は外部化する。こうして役割を分散・再配置すれば、地域全体で効率化が進み、先ほどのDX効果もより発揮できるはずです。
aritaku:
業務や経営主体を"分解して再構築する"発想は、地域医療DXで一番有効なアプローチだと思います。ただ、1つだけポイントがあると僕は思っていて、単に業務だけを切り出すと、短期的なアウトソーシングに終わり、市場のパイを奪い合うだけで構造は大きく変わらないんじゃないかと思っています。
変化を起こすには「経営分離」を徹底する必要があると考えています。建物の管理と医療チームの運営を分ければ、医療保険外のビジネス活動を展開する余地が広がるんじゃないかと思っています。たとえば、5階建ての病院施設の中で、最上階をクリニック、次の階を老人ホーム、下層階を従来どおりの病院といった多用途化をする。さらに同じ医療サービスのオペレーションチームを、月〜水は保険診療、木・金は自由診療やメディカルツーリズムで海外の方の対応に充てるなど、リソースを柔軟に配置すれば、展開できるビジネスの幅が増え、新しい市場に参入できるのではないかと思います。
谷村:
確かに。今までだったら病院の主業務は医療保険による診療提供だけですが、それを同じ施設の中で複数の事業を展開するという選択肢が生まれてきたわけですね!
ただ、クリニックと薬局、あるいは病院と薬局を同じ建物に入れるのは、診療報酬の制約で売上が目減りする恐れがあって、これまでは難しいとされてきたと思うんです。それって今の制度でも実際に実現できるんでしょうか?
aritaku:
実は事例もあるんですよ。ヘルスケアREITが運営する大阪のある病院では、さっき話したような大きな施設を作って、1~3階をリハビリ病院、上階にクリニックや有料老人ホームを併設しています。国内ではまだこの1例のみなので、かなり先端的な事例にとどまっていますが、方法次第で十分実現可能だと思います。
隣接業界で僕がすごく面白いと思ったのが、ウェディング業界が既に同様のモデルを採用していることです。日本では若者人口が減っていて、結婚式の選択肢も多様化していて、ウェディングの市場が縮小しています。それでも、昔建てられた式場は資産として残り続けている。この厳しい市場の中、ビジネスモデルの転換が進んでいるみたいなんです。
アメリカではもともと『式場運営』と『ウェディングプランニング』が別会社で分業されていましたが、日本はバブル期の勢いで両方を一体で抱える形態が主流となっていました。ただ、一体型では維持が難しくなり、最近は施設運営とプランニングを切り離す方向へシフトし、うまい具合に経営が分離しつつあります。式場は挙式が入る日はウェディングに専念し、それ以外の日はビジネスイベントなどに活用するといった形で、いろんな用途に対応しているんです。
まさに医療も、同じような形をとらないといけない時期に来ているんじゃないかと思ったりしています。
谷村:
なるほど。医療は規制が厳しく参入障壁も高い産業ですが、もはやそうも言っていられない状況であることは間違いないですし、病院では機能分化が長く試されていたところから、地域包括ケアや在宅医療の推進で、そういった動きは加速すると感じます。今後は病院単体の改革にとどまらず、異なる事業体との統合経営まで視野に入れた取り組みが大事になりそうですね。
aritaku:
そうなったときに、我々のようなITを軸として医療DXを推進する立場の人間が考えるべきなのは、資産効率性を拡大するためのツールの開発かなと思います。たとえば、病院施設を最適に運用する建物管理のSaaSであったり、医療スタッフの稼働時間・コスト・売上を案件単位で可視化し、稼働率を最大化するリソース管理システムであったり…コンサル業界のプロジェクト管理に近い仕組みを医療現場へ移植するイメージですね。こうしたソリューションが広まれば、病院DXに求められるサービスの質も向上して、我々もとってもビジネスを進めやすくなると思っています。
谷村:
なるほど…面白いです。こういった話は初めて聞きました! これは病院DXや医療法人DXというより…むしろ法人経営そのもののDXや経営管理DXに近いですね。
aritaku:
結局のところ、ビジネスモデルそのものの変革が必要なんですよね。
谷村:
そうですね。いま病院に求められているのは、選択肢を広げることだと思います。サテライトクリニックの設置、訪問診療、介護・福祉事業への参入などは王道の選択肢ですが、それだけでは足りないってことですね。もはや既存の建物や経営資源をも機能ごとに切り分け、医療・福祉以外のサービスにも活用するといった発想を持つことが大事ですね。
その流れを後押しするDX・IT支援を提供できればいいのかなと。初めて伺った発想でとても面白いです!
aritaku:
最近、メディカルツーリズムへの対応や、医療機関が分散型治験(DCT)を実施できる体制づくりとか…各産業ごとの新たなニーズをいかに捉えるかということを仕事の中で取り組んでいます。
そこで行き着いた結論が、日本はグローバルな市場の潮流に後れを取っているということです。なぜかという根本を探ると、医療機関側が変化に対応できていない点が挙がります。背景の1つが、これまでの医療保険制度に最適化された旧来型ビジネスモデルを続けてしまっていること、それから巨大な建物構造に医療サービスが縛られ、柔軟にビジネスモデルやサービス提供形態を変えられないこと…この二つの構造的問題があります。結果として、市場全体のネックになっているんですね。これを解消するには、病院の"建物"そのものを建て直し、今の医療構想を立て直す手段がないんじゃないかと思っているんです。
あるいは、病院を建て替えずに打開策を探るとすれば、まずは所有(建物管理)と運営(医療オペレーション)を切り離す「経営分離」が出発点になるだろうと妄想していたりします。
谷村:
確かに、建物を建て替えずに老朽化を放置すると、漏水などの問題が起きやすいと、知り合いの病院でも伺っていますね。とはいえ建て替えが避けられない場合でも、次期の経営構想を前提に計画すべき、ということなんですかね。
aritaku:
そうですね。最近目にした東北のニュースなんですけど、仙台市内にある4つの病院を医療圏に合わせて再配置や、移設を含めたリバランシングをしようという計画を、県知事と市長が公約に掲げて取り組んできたらしいんですね。けれど、地元住民からの「病院が移転したら我々の生活はどうなるんだ」と反対の声が強く、計画がなかなか進まないようでした。
やっぱり病院の建て替えや移転は莫大なコストがかかる上に、地元住民の合意形成も難しくて、めちゃくちゃ大変なんだな…と。そんなことをやってる余裕はないよなと思いましたね。建て直しが理想的な手段と分かっていても、なかなか難しそうだなって。
谷村:
利用者からすると、今まで通い慣れた施設がガラッと変わっちゃう…みたいな視覚的インパクトも大きいはずですよね。そこもなかなか一筋縄にはいかないですね…。
今日は、地域医療の話から始まり、建物管理や経営体制を分解・再構築する話まで幅広くお話を伺えました。具体例としての施設運用のあり方なども含め、個人的にはめちゃくちゃ面白いお話が伺えた、満足な回でした!ありがとうございました!
お知らせ
aritakuさんからのお知らせ
最近、自分たちで調剤薬局を立ち上げられないか模索しています。薬局経営に詳しい方がいらっしゃれば、ぜひご連絡いただけると嬉しいです!
aritakuさんX:@aritaku03
株式会社ポテック:https://pottech.co.jp/
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「ispec医療DX通信』
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パーソナリティーは、ispec CEOの谷村がつとめます。
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初回の#1では、2025年1月22日に厚生労働省が発表した「病院の情報システム刷新に係る方向性」について。
— 株式会社ispec (@ispec1nc) May 8, 2025
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