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PoliPoli × ispec対談【前半】 政策DXと医療DX──社会インフラを再設計するスタートアップの戦略

PoliPoliが目指す “政策DX” による行政・政治のしくみづくり。ispecが見据える “地域医療インフラ” の刷新。ともに暮らしを支える社会基盤を舞台にしながら、旧来の慣習・制度・技術が絡み合う複雑領域へ敢えて踏み込んでいる。──なぜ、あえて難度の高いドメインに挑むのか。
今回は、株式会社PoliPoli COOの山田 仁太さんと、株式会社ispec CTO山田 祐亮の対談を通じて、両社の戦略と現場での試行錯誤から、その推進力の源流を探ります。記事の後半は、PoliPoliさんnoteをご覧ください。
(対談日:2025年4月22日)

左:ispec山田 右:PoliPoli山田(やまじん)

山田 仁太(以下、やまじん)(@j1ntay
株式会社PoliPoli 取締役執行役員COO
大阪府出身。慶應義塾大学卒業。 小中学生時代に起こった2度の政権交代から感じた政治の不安定性や街頭演説のアナログな姿を見て、政治・行政のシステムに違和感を覚える。テクノロジーを使って政治・行政の仕組みを変えようと思い、PoliPoliを共同創業。
2024年2月よりCOOを務め、『PoliPoli Enterprise』事業・新規事業を管掌。

山田 佑亮(以下、山田)(@yamad07
株式会社ispec 取締役CTO
慶應義塾大学政策・メディア研究科にて機械学習の研究を行い、ACM Multimediaや情報処理学会論文誌で研究が採択。株式会社タイミーの立ち上げ期の開発リードやSaaSプロダクトのプロダクトマネージャーを経験。2019年より株式会社ispecのCTOに就任。2025年4月よりデジタル庁の医療班として医療DXの推進に従事。


社会インフラが抱える課題・再設計に向けた戦略

声を集め、整理し、政策に転換する、”場づくり”から始まったPoliPoliの政策DX

ispec 山田:
PoliPoliさんは、政治家・行政・企業の三者をつなぐ政策提案プラットフォームを開発し、現在は特に企業向けの支援に注力されているとうかがっています。これまでの歩みと今後の方針について聞かせてください。

PoliPoli やまじん:
はい。創業時には「プロダクト一本で課題を解決できるのでは…!」と試行錯誤しましたが、どのプロダクトも単体では課題を解決できないと痛感しました。国会や行政の方々は、いまだにFAXを使うような環境にいて、そもそも対話できる相手が限られる環境にいらっしゃいます。そこへいきなりプロダクトを持ち込んでも、五段階くらい飛び越えた提案になってしまいます。

やまじん:
そこで最初は”場づくり”に注力しました。『PoliPoli』を中心とした既存のプラットフォームを使って意見を集め、その声を整理・分析して政策に反映できる形にする伴走支援をメインに展開し、解決策案を持つ企業やNPO、有識者、政治家、行政の方とコミュニケーションを重ねましたね。ただ、どうしても支援としてできることが限られてしまうケースが多く、「業務フロー自体をテクノロジーで変えたほうが圧倒的に効率が良い」と気づきました。
この伴走支援を通し、まずは要件を整理する。業務の流れを把握したうえで、AIを組み込み業務全体を丸ごとアップデートすることを展望としています。すでに政治家や行政ともネットワークがあるので、その顧客基盤に日々のタスクをAIベースで組み込むイメージです。組織内に”AIエージェントを設置する”ような感じですね。現状のプロダクトでもAIを一部活用していますが、現在開発中のプロダクトを含め、全体にAIを組み込んだ方向にアップデートしていきたいと考えています。

PoliPoliさんが開発中の新規プロダクト(イメージ)

山田:
最終的に業界全体の業務フローをAIベースに変える展望がある中で、まずは企業や行政から入り込むといったイメージですか?

やまじん:
そうですね。国会議員の仕事は様々な提案を受け取り、官僚と調整しながら最終決定するのが主ですが、このプロセスには明確な手順や仕組みがありません。良い提案は政治家や行政にも歓迎されますし、企業側が提案を出したり、自社のリスクを踏まえて意見を送ったりする影響力は大きいです。私たちのプラットフォームでも企業が政策提言を提出することがありますが、内容次第で通るかどうかが決まります。つまり、”提案を書く段階”で成果が大きく左右されます。政府が現在重視する課題を正確に把握できれば、良い提言が作れると考えています。

山田:
企業側の提案の質とスピードを高めることが政策全体の質を引き上げる鍵であり、PoliPoliさんはその部分に切り込んでいるんですね。

やまじん:
そうです。最近ではラピダスの半導体の事例もあり、「政策経営を進めよう」という動きが企業間で高まっています。(「政策経営」:政治・行政の動きを見ながら政策と経営戦略を一体化させる経営アプローチ)
しかし、いざ政策経営を推進しようとすると、人材不足という課題に直面します。新規採用を進めたり、業界団体に加入して情報を収集したり、経営トップが政策経営に割く時間を増やしたり…現実にはこれらの対応に留まることが実情です。そして、人を増やすには当然コストがかかりますし、適切なアプローチを取れずに上手く事を運べないと、さらなる人員追加が必要になり、コストが膨らむ悪循環に陥りがちです。
だからこそ効率化のために、先にテクノロジーを導入したほうが良いんですよね。たとえば、情報収集を従来なら5人で行うところを、1人がプロダクトを活用して担当し、残りの4人は具体的な提案づくりに集中する…とか。こうして企業側のDXを進めれば、政策経営もよりスムーズに推進できると考えています。

山田:
「政策の質や意思決定のスピードを高めるために企業側から介入する」という発想は最初イメージしづらかったのですが、今の話を聞くと確かに合理的ですね!

やまじん:
政治や行政の方々は、もともと既存業務で手一杯なんですよね。ITリテラシーにハードルを感じる部分もあるので、そこで「新しいツールも使ってください!」と追加でお願いしても、なかなか導入が難しいんですよね。

山田:
確かに、導入のハードルという面でも、企業側からのほうがスムーズに進められそうですね。

効率的な医療体制の下支えを目指す、ispecの医療DX

やまじん:
ispecさんが取り組まれている医療分野は、どのような状況でしょうか?電子カルテをはじめとした医療基幹システムのクラウド化やモダナイズ、さらにAIの活用を通じて医療DXを推進し、病院などの業務フローを再構築されていると伺っています。

山田:
医療の現場にも特有の事情がありますね。
まず、多くの医療機関が「うちの業務フローが標準」と思い込みがちなんですけど、実際には病院ごとにフローがまったく異なるのが現状です。一般的なSaaSであれば、プロダクトが普及する中で利用者が業務をツールに合わせ、自然と“標準”が形成されていきますよね。しかし電子カルテ市場では、“病院ごとにカスタマイズするのが前提”という慣習が根強く存在しています。多くの施設がオンプレミス型で導入しており、「○○病院向けにこの機能を変えてほしい」といった個別の改修依頼が当たり前に受け入れられてきました。結果、業界全体として共通の仕様=“標準”がほとんど確立されていないんです。
こうした環境では、業務フローのアップデートにも大きな壁があります。”ITに合わせて業務フローを変える”という発想がなかったり、組織体制が変革を後押しする構造ではなかったりと、実務的にも心理的にも高いハードルになっています。

そんな中、ispecでは”病院と取引のある企業”と連携した開発に注力しています。株式会社は法的に病院経営はできませんが、会計や物品管理といった病院の特定業務を担う形で、実質的に複数の医療機関の運営に関与している企業もあるんです。そういった企業と連携し、複数病院の業務フローを標準化・効率化する専用システムの開発をispecが担っています。
また、病院と介護施設を併設するなど多角的に医療・介護事業を展開している法人では、既存システム同士の連携が煩雑になっていることも多く、複雑かつ特殊な業務フローに対応したシステムの開発を受けることもあります。

山田:
現状は、後者の特殊な業務フローにカスタマイズする開発が多く、プロダクトを横展開しづらいという課題が残っています。ある病院でうまくいった手法が、別の病院では通用しないことも多く、施設ごとに課題もバラバラです。こうした状況の中、「どこまで共通化できるか」「標準をどう広げられるか」が最も真剣に取り組んでいるところですね。
まずは1つの施設、あるいは1つの企業に深く入り込み、徹底的に業務フローを理解することから始めています。病院の課題はネット検索では到底見えてこないので、実際に訪問して現場の声を聞き、課題を明確にすることが重要ですね。
その上で、横展開の段階では他施設の課題も見る必要が出てきます。たとえば機能のオン/オフで対応差を吸収するのか、プロジェクト管理の工夫で共通化できるのか、といった判断をする。共通化できる部分があれば、機能や設計を一本化して対応していきます。「共通化して解ける課題をどこまで見いだせるか」が勝負ですね。

やまじん:
これは電子カルテだけに絞った話ではない、ということですよね?

山田:
そうですね。電子カルテはパートナー企業と共同開発していますが、それとは別に周辺システムを自社で開発しています。
現在開発中なのが“PRM(Patient Relationship Management)”です。CRMを医療向けに応用したもので、医療法人が複数の病院や介護施設を運営する中で、『患者の状態』と『各施設の空き状況』をリアルタイムで照合し、適切な施設とサービスを自動で提案・連携する仕組みを目指しています。患者により良いケアを提供でき、病院側もベッド稼働率や収益を最適化できます。当然、電子カルテとの連動が前提なので、カルテ開発の支援とPRMと一体化させる構想です。
PRMで重視するのは『医師の診断情報』『患者の状態』『施設のリソース状況(空きベッド・スタッフ配置など)』の3点です。「この患者さんを入院させるべきか、それともリハビリ施設に移すべきか、今空きがあるのはどこか…」など、患者の移動判断を経営上の制約まで加味して最適化するのがPRMの役割です。

やまじん:
病床数など、病院データの管理が重要になりますね。

山田:
ベッドの空き、スタッフ配置、経営指標を統合し、リアルタイムで最適化する…ここが大きなチャレンジですね。現在は1法人内での運用を想定していますが、将来的には地域包括ケアを見据え、病院と介護施設を横断する情報基盤に発展させたいです。高齢者や精神疾患のある方を入院させ続けるのではなく地域で支える方針がある中で、施設間のスムーズな連携が求められますが、現時点でそれを叶える仕組みはほとんどありません。
技術的なインフラとして”法人内での情報の流れを良くすること””法人と地域全体をまたいでの情報連携をどうするか”この2つが求められています。

構造化データが少ない領域でのプロダクト開発の難しさ

データ連携の現状「そもそもシステムに情報がない」「標準規格が存在しない」

山田:
PoliPoliさんのプロダクトには、システム連携の方針はあるんですか?

やまじん:
現状、連携の予定はほぼありません。というのもこの領域には、そもそもシステムに載る情報がほとんど存在しないんですよね。企業担当者は、各省庁や政党の動き、報道、議員との会話メモなどを頼りに、断片的な情報を整理しながら判断しています。 仮に連携するとしても、Teamsや社内イントラとの接続程度で、私たちの生成データをWordなど任意のツールに出力するのが現実的な活用方法ですね。

山田:
PoliPoliさんの領域は、”構造化されていないデータをゼロイチで貯めていく”フェーズであり、将来的に多方面で活用されそうですね。
医療分野はすでに多くのシステムが導入されており、データ連携そのものが大きな課題なんですよね。構造化データの少なさよりも、オープンな規格がないことが問題です。海外ではEpicのように、HL7 FHIRという標準規格に沿ってAPIが整備されていますが、日本ではこれまでのベンダーのビジネス上の理由で規格をオープンにするメリットが薄いため、電子カルテとシステム間の連携は毎回個別に実装をしており、高いコストがかかるのが現状です。私たちとしては、ここを何とか変えたいと考えています。

やまじん:
データベースのテーブル定義も病院ごとに違うんですか?

山田:
バラバラですね。院内で使う分には独自でも成立しますが、外部システムと連携する際は共通フォーマットが求められます。バラバラな形式だと連携が一気に難しくなるんです。
一般的なSaaSなら、クラウド同士のAPI接続でZapierなども使えますが、医療では接続先がオンプレミスであることが多く、まずクラウド移行が必要…そのうえでようやく連携に進めるという長い道のりになります。これが医療ITが特殊といわれる所以ですね。
私たちは現在、電子カルテを中心に開発していますが、今後は『部門システム』と呼ばれる周辺システムをいかにクラウド化し、連携速度を高めるかが課題です。ここが大きなボトルネックなので、重点的に取り組みたいです。

AI活用の”ハードル”と、安心を担保する“見せ方”

やまじん:
ここまで『構造化データ』の話をしてきましたが、私たちが実際に扱うのはPDFが中心なんですよね。たとえば気象庁の資料でも、コピペできるものもあれば、文字化けしていたりやパスワード付きで扱いづらいものもあります。加えて、”データが存在しない””所在が不明”といったケースもある。まずはこれらの情報をAIが読み取れる形式に整えるのが私たちの第一歩です。

山田:
その状況やステップについては、我々と発想が近いです。医療業界も未だFAXが主流で「なぜ医療業界からFAXが消えないのか」よく話題になっているほどなんですよね。
私たちは現在開発しているPRMの中で、FAXで届いた紹介状などをスキャンし、LLMで自動構造化してカルテに反映する機能を開発中です。たとえば「××さんは、〇〇病院から紹介され、症状は△△」といった情報が、医師の画面に整理された形で表示されます。これだけで診療の立ち上がりが格段にスムーズになります。
非構造データの一元管理は、今最も価値が出やすい領域だと感じていて、事業としてもここで先行優位を築きたいですね。

やまじん:
ただ行政側には、あえてデータを“見えづらくしている”ケースもあるので、配慮した見せ方が必要そうですね。

山田:
そうなんです。最終的にシステムを導入するか、それとも技術を採用するかを判断する場面では、単に「技術で課題を解決できます」と伝えるだけでは不十分だと感じます。たとえば「これまでの運用と大きな差はありませんよ」と伝えるための見せ方や、「実際にはこう使います」と具体的に使用方法を伝えることが意外と大切です。 ツール自体の性能だけでなく、導入時にその価値をどう見せるかも決め手になりますよね。

やまじん:
理論上は「できます」と説明できても、導入には別の難しさがあって、プロとしていかに切り込むかが大事ですね。たとえば大手企業はリスク回避志向が強いため、8〜9割の情報は一目で把握できる設計にし、詳細は必要に応じてプロフェッショナルサービスで補う形式にして、安心して使いはじめていただけるようにしています。
特にAIの活用においては100%の保証が難しい分、万が一の不足も補完可能な仕組みや、必須情報のテンプレを提示するなどの工夫が必要になりますね。
こうしてチェックすべきものをなるべく減らし、負担をグッと減らすことが大切だと感じます。

山田:
そうですね。最近はシステムにBPOを組み合わせるケースも増えています。医療では情報の漏れやミスが絶対に許されないので、”最終チェックは人が行う”工程を設け、安全性を担保する…AIによる効率化でコストを抑えつつ、人の力で信頼性を補う“技術+人”のハイブリッドは、導入時の心理的ハードルを下げる上で重要ですね。

社会実装に向けたロードマップと未来展望

「地域医療インフラ」と「政策DX」、両社が描くロードマップ

山田:
現状はまだ1施設に導入し、次の1件を検証中という段階ですが、目指しているのは単なる病院システムではなく『地域医療インフラ』です。高齢化が進み、患者を”特定の病院だけでみる時代”から、”地域全体で支える時代”へと移行しています。
しかし、患者情報を地域間でシームレスに連携できる安定した技術基盤は、まだ多くありません。だからこそ、私たちは”地域連携の中核”をつくることに注力しています。電子カルテを含めた、あるべき全体像を設計したうえで、必要なパーツを順に開発していきたいです。
PoliPoliさんはいかがですか?

やまじん:
フェーズはいくつかありますが、企業向けにはまず”政府が求める要件に合致した質の高い提案”が出せる体制を整えたいです。その情報を経営判断にも活用してほしいのですが、対応できる人材は限られ、営業の進め方も確立されていません。これまでは元官僚や議員秘書がメンバーとして加わり属人的に動いてきましたが、そうした専門人材ばかりを増やすことも難しいです。プロフェッショナルが担うべき業務と、データ収集など分担可能な業務を切り分け、再利用できる形に整備することが極めて重要であると考えています。
次に、判断フローと業務の標準化です。大企業の場合、”自社で政策提言をまとめる””業界団体経由で政策営業する””コンサルに委託する”と、手段は複数ありますが、ケースごとの判断基準や体系的な判断フローが整っていません。結果、業務の見通しが立ちにくく、DXが進まない一因になっていると感じます。まずは業務を整理し、どこがデジタル化可能かを切り分けて明確化する必要があります。

また、政府と連携する際には”日本全体の収益を伸ばし、同時にコストを削減する”という視点が不可欠です。売上を伸ばすには、海外から資金を呼び込む仕組みも必要ですが、各国のロビー活動や省庁調整は依然として非効率です。政策形成のプロセスも国ごとに異なり、グローバルに共通した型がほぼありません。そこをもっとシステマチックに、たとえば「BizDev部門が政府と連携して新規事業を創出する」体制を整えることで、企業はより攻めの姿勢を取りやすくなると考えています。バックオフィス業務は省力化し、営業や事業開発にリソースを集中させる。このような体制づくりが今、最も重要だと考えています。

山田:
そうですね。日本社会の視点、また医療政策の文脈でも”収益を生みつつ、医療費や赤字病院のコストを抑える”ことが重要です。
PoliPoliさんの話で印象的だったのは、目の前の顧客課題に丁寧に向き合いながらも、”その先で良い政策をどう生むか”というマクロ視点を忘れないこと…ミクロとマクロを行き来する姿勢にバランスの良さを感じました。
足元でプロダクトを形にしながら、明確なビジョンを描く。このスタンスはエンジニアにとっても魅力的で、結果として良いプロダクトを生むはず、と。そんな確信を持ちました。

対談の続きは、PoliPoliさん側の記事へ

PoliPoliさんnoteでは、具体的な組織の体制や開発プロセスにおいて大切にしていることなど、更に深掘りした内容を掲載中です。
本記事と合わせて、ぜひお読みください。

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