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#5 カルテは誰のものか?──第27回 医療マネジメント学会 参加レポート

この記事は、ポッドキャスト「医療DX通信」第5回の書き起こし記事です。音声を聴く時間が取れない方や、資料として残しておきたい方はぜひご活用ください。

この番組は、「医療DXの土台をつくる」というミッションを掲げる ispec(アイスペック) が配信しています。医療安全、医療インフラ、電子カルテといった領域で、医療DXの推進に取り組んでいます。
番組では、医療DXの最前線でキャッチした最新のニュースや政策動向をお届けします。パーソナリティーは、ispec CEOの谷村がつとめます。

テーマ 『第27回 医療マネジメント学会学術総会の振り返り』


7月18日(金)-19日(土)に仙台で開催された「医療マネジメント学会」に初めて参加してきました。本日は、全体的な振り返りと、2つのトピックス「コミュニティで学ぶことの貴重さ」「医療の質と安全性を支える“情報の透明性”」をお話しします。

全体的な振り返り


振り返りとして、会場の様子や個人的な学びについてお話できればと思います。

アクセスとスケジューリング

学会は「仙台国際センター」と「江陽グランドホテル」の2か所を会場に開催されました。2つの会場を行き来する必要があり、20分に1本ほどのシャトルバスが運行されていたため、移動はある程度スムーズでしたが、バスの待ち時間と移動時間を合わせると片道30分ほど見ておく必要があり、タイムロスは少し感じました。そのため、参加したいセッションのスケジュール調整には苦労しました。
ただ、仙台駅からすぐの会場だったので、アクセス自体は便利で助かりましたね。

仙台ならではの体験

移動には苦戦したものの、同学会で行われた懇親会では地元名物の「牛タン」を屋台形式で提供してくださるなど、学会の合間に楽しむことができました。味もすごく美味しくて…(ごちそうさまでした!)
あと、津軽三味線の日本一に輝いた奏者の方が演奏してくださって、それもすごく印象的で。学会に参加するだけで仙台の文化にも触れられたのは、とても良い体験でした。
特に今回は、初日の朝に仙台へ向かい、2日目の夜にはそのまま帰ってくるというスケジュールだったので、個人的に観光するような時間はなかなか取れなかったんです。でもその分、学会の中で仙台らしさを十分に楽しむことができて、「参加してよかったな」「仙台に学びに来てよかった」と、非常に充実した2日間となりました。

セッションの印象「多職種で共有する実践知」

私は今回、医療DXや医療安全に関連したセッションを中心に参加しました。講演では、医師、看護師、薬剤師、療法士、放射線技師など、さまざまな職種の方々が登壇されていました。発表だけでなく、質疑応答の時間にも多職種からの質問が飛び交っていて、”現場のリアル”が行き交うような、非常ににぎやかな雰囲気が印象的でした。
ただ、知り合いとも話していたのですが、ほかの専門領域に特化した学会と比べると、内容としては少しふんわりしているというか、どちらかというと「実践の共有」がメインになっている印象でした。たとえば、数値を使った厳密な研究報告というよりは、各病院での取り組み事例を発表して、それを参加者が自分の現場に持ち帰って参考にする、みたいな空気感ですね。これはこれで、すごく意義のある場だなと感じました。
ポスターセッションと同じ会場内に企業展示もいくつかあって、会場の中央付近にブースが配置されていたんですが、ちょっとスペースがぎゅうぎゅうで、正直入りづらいなと感じる場面もありました。もう少しブース間に余裕があると、立ち寄りやすくてありがたいかもな…と個人的には感じましたね。
私は今回は展示などはせず、一般参加者としての参加でしたが、そんなことも含めていろいろ感じることができました。

学会で感じた二つのこと


今回の学会を通じて、特に印象に残ったことを大きく二つ、お話ししたいと思っています。
1つは、コミュニティで学ぶことの貴重さについて。これは会場の雰囲気だったり、参加者同士のやりとりから強く感じた部分です。
2つ目が、セミナーでの学び、医療の質と安全性を支える“情報の透明性”についてです。私が参加したセッションの中でも、群馬大学の田中和美(たなか かずみ)先生 の講演がとても興味深くて、その内容に少し触れながらお話できればと思います。

1.コミュニティで学ぶことの貴重さ


臨床の現場から生まれる学びの熱量

やっぱり各病院の皆さんが、日々の業務をこなしながら、その中で学びを得て、新しい取り組みにチャレンジして、その結果をちゃんと測定して共有している姿がとても印象的でした。
研究が本職というわけではない中で、あれだけ忙しい臨床業務の合間をぬって、きちんと発表までされている。その姿勢には、本当に尊敬の気持ちしかありません。発表を聞きながら、他の病院の取り組みを熱心にメモを取っている方も多くて、「学びを持って帰ろう」という意欲が強く伝わってきました。そういう勉強熱心さが、この学会のすごく良いところだと感じました。
私自身、学生時代に機械学習やAI系の学会にはよく参加していたんですが、それらとはまた違った大変さがあるなと改めて思いました。IT系の研究って、ある意味“それを研究すること自体が仕事”だったりもしますが、医療の方々はそうじゃない。日々の診療や臨床業務がメインの中で、合間にこうした研究や発表を行っている。その難しさのレベルは数段違うと思います。

貴重な学びとつながりを、どう持ち帰るか

参加者の方々と話していると、「他の病院さんとつながる機会は、こういう学会ぐらいしかないんです」とおっしゃっている方もいて。だからこそ、こうした場で多様な取り組みに触れることに意味があるんだなと感じました。とはいえ、会期中の限られた時間で、すべての発表に注目するのは難しいですし、「せっかくの知見がそこでしか共有されない」というのは、ちょっともったいないとも感じました。
たとえば”CS”と呼ばれるコンピュータサイエンス系の学会だと、”arXiv(アーカイブ)”という、学会に投稿する前に論文をオンライン上に公開できる仕組みがあります。そこである程度、事前に議論が行われたり、その後に正式に学会に投稿されたりする流れがあるんです。
もちろん、医療のような分野では事前に情報を広く公開することで、患者さんの目に触れてしまったり、誤解や不安を招いたりするリスクもあるので、単純にその仕組みが良いとは言えません。でも、何かしらの形で、他の病院の取り組みをもっと広く共有できる仕組みがあってもいいんじゃないか、と感じました。

2.医療の質と安全性を支える“情報の透明性”


2つ目にお話ししたかったのが、群馬大学の田中和美(たなか かずみ)先生による講演です。
医療安全に関する教育セミナー枠で、「患者(人間)中心性とは何か――世界のトレンドを正しく理解する」というテーマで話されていました。

田中先生のご経歴──医療安全の現場と国際経験を持つ専門家

実は、田中先生のことを私は事前に知らなかったので、講演後に調べてみたんです。すると、すごい経歴の持ち主でした。
先生は、群馬大学大学院 医学系研究科「医療の質・安全学」分野の教授であり、群馬大学医学部附属病院 医療の質・安全管理部 部長も務めていらっしゃいます。学歴も非常にユニークで、東京大学 薬学部を卒業された後に、薬学の修士課程を修了。そこから群馬大学 医学部に編入し、医学の学位も取得されたそうです。その後は、呼吸器外科医として群馬大学病院で臨床に従事されてきました。
さらに、2019年から2020年には、WHO本部の患者安全部門に派遣され、国際的な医療安全の現場でもご活躍された経験をお持ちです。その後、日本に戻り、群馬大学で安全管理部長などの要職を歴任されているという流れです。
講演では、患者とカルテを共有する取り組みについて、群馬大学附属病院での実践例を交えて紹介されていました。

「カルテは誰のものか?」──田中先生が投げかけた問いと実践

田中先生の講演の中で特に印象に残ったのが、「カルテは誰のものか?」という問いかけです。
これは、「病院のものなのか、患者さんのものなのか?」 という話なんですが、いろいろな病院でも議論されてきたそうです。
結論としては、「どっちも!ですよね」と。両方の側面がある、ということでした。
たしかにカルテには、患者さんの個人情報や検査結果など、患者さん自身が提供した情報が書かれています。そういう意味では”患者のもの”とも言えますし、一方で、それを記録して管理し、責任を持つのは病院側なので”病院のもの”とも言える。
この二面性を理解したうえで、カルテをどう活用するかを考えるべきだ、と話しておられました。

群馬大学病院の実践──常時閲覧可能なカルテ共有

実際に群馬大学医学部附属病院では、過去に医療事故が重なって発生した時期があったそうです。その反省をもとに、患者が自分の診療記録にアクセスできる仕組みを導入した、という取り組みが紹介されていました。
これは、いわゆる”カルテ開示”とは異なり、患者さんが「見せてください」と申請するものではなく、常時アクセス可能な共有の仕組みです。患者さんにはIDとパスワードが発行されており、専用端末を使って、自分の診療記録や看護記録、検査画像などを閲覧できる仕組みになっているとのことでした。

記録の質向上と情報の住み分け

この制度の導入にあたっては、診療録の記載方法も見直しが行われたそうです。
たとえば、

  • プライバシーに関わる不必要な情報

  • 個人的な感情

  • 患者に対する誹謗中傷

などは、絶対に記録しないというルールが徹底され、医療者の記録の質自体も向上したという話でした。
また、患者さんに開示しない診療録とは別に扱うべき情報についても、明確なルールが設けられています。たとえば”接遇”、患者対応に関する情報や、スタッフ間で共有したいけれど診療録とは別物の内容は、別枠で記録することになっているそうです。
つまり、診療録と、内部で共有すべき業務情報をしっかり住み分ける、という前提のもとで患者へのカルテ共有が行われているということでした。

制度の運用状況と現場の反応

今回の講演で紹介された取り組みでは、一応「こういう場合には患者さんが共有を拒否できます」というルールも設けられているそうです。ただ、これまで実際にそのルールが適用されたケースはなかったとおっしゃっていました。
また、精神科の患者さんについては別で、診療録を見ることが治療に影響を与える可能性があるという配慮から、現在はカルテ共有の対象外とされているそうです。
現在、外来の患者さんにも徐々に対象を広げていて、年間700〜800人程度が実際にこのカルテ共有の仕組みを利用しているとのことでした。患者さんの反応も非常に良好で、医師や看護師の側でも、導入前は賛成が30%ほどだったのが、2年後には70%にまで増加したというデータも紹介されていました。
最初は「患者に見せるなんて…」といった心理的な抵抗感が大きかったそうですが、実際に運用してみると、むしろ前向きに受け入れられているというのは非常に興味深かったです。

国際的な視点と今後の可能性

また先生は、WHOに所属されていた経験から、国際的な観点での情報開示の重要性にも触れていました。たとえば、「患者安全権利憲章」や、1981年の世界医師会リスボン宣言にも、「患者は、医療上の記録を含むあらゆる情報を受け取る権利を有する」という趣旨が明記されているとのこと。
田中先生は、こうした国際的な原則にもとづいて、情報の透明性や患者との信頼関係が医療の質や安全を高めるという点を強調されていました。
私自身、”カルテ開示”という言葉は聞いたことがありましたが、日常的に患者が自分のカルテを閲覧できる仕組みがあるというのは初めて知りました。検査結果などが一部見られるPHRの話は聞いたことがありましたが、カルテそのものをそのまま共有するというのは本当に新鮮で驚きでした。
医療者側に心理的なハードルがあるのもよくわかります。でも、それを乗り越えて共有が進むことで、医療の質や安全性がさらに高まっていく可能性があるということを、素人ながらに強く感じた講演でした。

まとめ

今回は、2025年に仙台で開催された医療マネジメント学会について、実際に参加して感じたことをお話ししました。
特に印象に残ったのは、医療安全領域での田中先生(群馬大学)のご講演で、カルテの共有に関する取り組みや、患者中心の医療のあり方について深く考えるきっかけになりました。
現場の熱意や学び合う空気、そして国際的な視点からの医療安全の話まで、非常に学びの多い2日間でした。今回の内容が、何かの参考になれば嬉しいです。

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