蘆雪の「かわいい目」はリバーシブル?
とにかく「かわいい動物」たちが次々と出てくる府中市美術館『長澤蘆雪展』(後期)には、有名な可愛い子犬たちとともに、鼬(いたち)の絵が2枚、登場する。
1枚目はこちら。作品番号は94番。

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2枚目はこちら。作品番号は95番。

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会場ではこの2枚が並んで展示してあり、まるで2匹の鼬が向かい合ってるように見える。なかなかに可愛い2匹である。そして、この2枚の藤&鼬の画は対照的で面白い。
図録には以下のようにある。
ラフな筆による94とは違って、95の鼬の体は細やかで滑らかだ。ところが藤は墨一色でさっぱりと描いている。緻密な鼬の描写と、簡略な藤の描写を対比させて、鼬を際立たせる意図だろう。
なるほど、と思う。
と同時に、個人的にもうひとつ気になっていることがある。
鼬の目玉だ。
毛並みを少し荒っぽく描かれた94番の鼬の目玉がコレ。

毛並みを繊細に描いた95番の鼬の目玉がコレ。

そう!
94番は動物らしく「ハイライト入りの黒目がち」タイプの無垢な瞳なのに対して、95番はまるで人間のような「黒目と白目のハーフ&ハーフ」タイプで、明らかに感情が込められているように見える。まるでディズニーランドのキャラクターたちのようだ。
念のため、リアルな鼬の目玉も紹介しておく。

いわゆる、「黒目がちな獣の目玉」である。
上の写真なんかまさに、94番の「ハイライト入りの黒目がち」によく似ている。
じゃあ、蘆雪は鼬の目玉を、この2枚の絵以外ではどう描いているのか、というと?

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有名な3枚を見る限り、すべて「黒目と白目のハーフ&ハーフ」タイプである。3枚とも興味深げに何かを覗き込んでいる、ように見える。が、3枚それぞれ、微妙に表情が違う。
では、鼬以外の動物の場合、蘆雪は目玉をどう描いているか?
蘆雪と言えば子犬だ!
ということで、かわいい子犬の目玉を見てみよう。
まずは、師匠・円山応挙の影響も色濃い、初期型の子犬から見てみる。

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「黒目と白目のハーフ&ハーフ」な上に、瞳まで丁寧に描き込まれている。
次に、蘆雪化がかなり進んだ、一番よく見る蘆雪犬たちを見てみる。

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すると、「黒目と白目のハーフ&ハーフ」が多いように思う。
ただ、かの有名な『白象黒牛図屏風』の牛の脇腹あたりにいる子犬(下図)の目玉は、いきなり微妙な感じがする。

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体重を画面右側に預けたポーズ的に「黒目と白目のハーフ&ハーフ」(画面左下にある巨大な牛の蹄のあたりを見ている?)だと思うが、ちょっと微妙でもある。どちらとも言えそうな割合でもある。とくにこの画の場合、巨大な屏風絵の中のごく小さなサイズに描かれているので、鑑賞者はかなり遠目お位置からこの画を見る可能性が高く、現物を見た場合の印象は「黒目と白目のハーフ&ハーフ」というよりも「ハイライト入りの黒目がち」に見えてしまう可能性もないとは言えない。
そして、下図のような子犬になると、画質が粗いせいもあって、かなり曖昧である。正直、どっちだかよくわからない。

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最後に、近年、蘆雪犬の代表作のひとつとなった『菊花子犬図』を見てみよう。蘆雪の子犬画の中ではかなりハイレベルまで完成度が高まった作品であり、そのせいで蘆雪後期の作品では?とも言われる。

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上図で抜粋した6匹を、上段左からABC、下段左からDEFと名付けると、「10時10分の目」をしてるAと「後ろ向き」のDを除外すると、残り4匹の目玉がかなり微妙である。
Eはもっとも「黒目と白目のハーフ&ハーフ」の可能性(画面右側の菊の花を見てる?)が高いが、「ハイライト入りの黒目がち」(Dに体重を預けながら、ぼーっと甘えてる?)だとしても全然成立しているように見える。
一方、横顔のBとCとFは「ハイライト入りの黒目がち」の可能性が高いが、実物をようく見ていると「黒目と白目のハーフ&ハーフ」の可能性もゼロとは言えない。
そんな感じだ。
ここまで一人の高い技量を持った絵師が、2タイプの目玉の描き方をわざと混在させているところを見ると、もしかすると蘆雪は、この2タイプの目玉の描き方を巧妙に使い分けてきたのかもしれない、という気さえしてきた。
さらに、蘆雪の子犬と言えば、こんなものもある。

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扇子にさらさらっと描いたという事情もあるが、その子犬の目は「蕎麦の実みたいな黒目」になっている。そう、白目もハイライトも存在しないように見える。
似たような例としては、今回の府中市美術館で初出品された『唐子遊図襖』の三連子犬(下図)についても言える。

(※府中市美術館の売店の壁にプリントしてあったものを撮影)
右端の3匹目こそ「ハイライト入りの黒目がち」の可能性があがるが、左の2匹は「蕎麦の実みたいな黒目」として描かれている。
そして、この「蕎麦の実みたいな黒目」だけじゃなく、子犬たちの群れの中にしばしば「10時10分の目」も混ぜてしまう蘆雪である。「黒目と白目のハーフ&ハーフ」にも見えるし、「ハイライト入りの黒目がち」にも見える「リバーシブルの目玉」の子犬を混ぜることで、動物たちの愛らしさを複合的に演出している、としたら?
さて、実際のところはどうなんだろう?
2026-04-27
