見出し画像

第12回|本番は、まだ先にあった

3段階目の研修を終えたのは、2024年の9月頭だった。

研修が終わった翌週、
特別な余韻に浸るような時間は、ほとんどなかった。

翌朝には、頭はすでに仕事モードに切り替わっていた。
研修と仕事を並走していた期間が長かったせいか、
研修に使っていた時間は、そのまま仕事の時間として埋められていった。

上期の決算。
合併後の設計。
事業計画の策定。

やることは多くて、
考えるべきことも、決めるべきことも、たくさんあった。

だから、
「日常に戻った」というより、
日常に引き戻されていった、という感覚に近い。

研修が終わったからといって、
何かが劇的に変わった感じはなかった。

強いて言えば、
共に受講した仲間たちの存在が、
会えなくなっても、意識のどこかに置かれていたこと。

それくらいだった。


9月から11月にかけて、

研修の日々が、
少しずつ遠ざかっていくような感覚だった。

あの場で触れていたものが、
薄れていくような気配。

でも、
事業にとって大切な時期だと分かっていたから、
その感触に、あえて目を向けることはしなかった。

日常が、
自然と引き離していった。

忘れた、というより、
日常の中に溶けて、
見えなくなっていった。

そんな感じだった。


11月の末、
他のセミナーを受けたときに、
ひとつの言葉に出会った。

「時の流れ」

「時を理解し、流れを知る」

その言葉が、
妙に、頭から離れなかった。

52歳を迎えていた自分が、
いま、どの時を生きているのか。
社会の中で、どんな役割を担う準備期にいるのか。

そして、
これから迎える実行期を、
どんなテーマで生きていくのか。

答えの出ない問いが、
頭の中に、静かに置かれた。

その問いを抱えたまま、
僕はそのまま進んでいった。

何かを変えるわけでもなく、
立ち止まるわけでもなく。

ただ、
「流れ」という言葉だけが、
意識の奥に残り続けていた。


研修が終わってから、
2月に入るまでのあいだ。

振り返ってみても、
大きな出来事はなかった。

特別な違和感も、
強烈な変化もなかった。

ただ、
仕事と向き合い続けていた。

事業の未来を考え、
戦略を練り、
成果に向けて動き続けていた。

そのスピードと密度は、
むしろ上がっていたと思う。

ビジョンに向かって走っている感覚もあった。

だから、
「このままでいいのか」と
立ち止まることはなかった。


そして、2025年の2月。

当時は、
それが「始まり」だとは思っていなかった。

成果に向けて動いているのに、
なぜか、流れが詰まるような感覚。

事業の本質とは関係のないところで、
滞りが立ち上がってくる。

整理し、説明し、
簡単には諦めずに、前に進もうとしていた。

いま振り返ると、
あの「詰まり」は、
出来事の問題ではなかった。

知らせていたのは、
僕自身が立っている場所だった。


研修が終わった直後には、
何も起きなかった。

だから、
あのときは気づけなかった。

でも、いまなら分かる。

あの9月からの時間は、
何も起きなかった時間じゃなかった。

本番に入る前の、
静かな助走期間だった。

そして、

本番は、
まだ先にあった。

いいなと思ったら応援しよう!