サックスが深い音色とパーカッション音を響かせる あの「コーラスライン」がジャズに変貌
【 ライナーを読んで 聴く ! 】
レコードやCDには、プロデューサーズノートやレコーディングデータ・写真などがパッケージされていて、それらを眺めたり読んだりしながら音楽を聴き楽しむということができました。そんな楽しみ方は多くのリスナーに喜ばれていました。 そこで、noteのこの場を使って、配信サイトとの組み合わせを楽しんでいただけるように致しました。
このタイトル以外も、下記マガジンに順次掲載してまいります。
【 A CHORUS LINE / parhythm 】
コーラスライン / パリズム




parhythm(パリズム)とは、paris(パリス)とrhythm(リズム)の合成語です。つまり、パリのリズム隊ということです。あえて、「リズム隊の意」をグループの名にしているのは、サキソフォンという通常メロディー楽器であるものが、リズムセクションをしているからです。
ピアノ・トリオをまずは頭に描いていただけますでしょうか。そして、そのドラムスを3人のサキソフォンに入れ替えて下さい。これがパリズムです。パーカッションの役目をサキソフォンがするという、かつて考えもしなかった事かも知れませんが、それを可能にしたとき、「音程の表現できるパーカッション」が誕生したのです。
本当は、まず一度は、サックスがパーカッションをやっていることを知らずに聴いてみていただきたかったのですが、さすがにカバーの外の帯には、そのことを書かざるを得ませんでした。せめて、「あの音はどうやって出しているのだろう」というところも楽しみながら、新しい「コーラスライン」の世界に触れてみて下さい。
この新しい挑戦に重要なのはアレンジです。アレンジャーであり、しかもドラマーであるクラウス・スオンサーリは適任です。さらに彼は、昔、ミュージカル「コーラスライン」のドラマーを務めたこともあるのです。もうひとり、バリトンとバス・サックスのスコット・ロビンソンです。彼は私のかつてのプロジェクト、「CLA.chic(クラシック)」のバス・クラリネットでも活躍してもらっていますが、30種以上の管楽器を操る彼によるアイデアは、パリズム実現の源です。3人のサキソフォン・ソロが、全曲に渡って、1~2回ずつしか出てきません。本当に、テクニシャンの3人ですから、当然それを聴いて「もっと聴かせろ!」と怒られるのは、解ってはいたのですが、まずは、パリズムのグループ・コ ンセプトを固めなくてはなりませんでしたので、そこのところはお許し下さい。パリズムの今後のプランは、サックスの3人が、音程を表現できるパーカッションとして、いかに即興性の比率を多くしていけるかにトライしていきますので、まだまだ、期待していて下さい。
もうひとつ、パリズムには視覚的魅力がありそうだと、誰もがご想像いただけると思います。サックス・パーカッションが、自由に歩き回ります。音圧がグッと下がるサックスのパーカッショ ン奏法は、ピックアップで本人がON/OFFを切り替えます。ジャズには珍しい楽しいステージが考えられます。
これらの新しい魅力の誕生の裏では、このレコーディングで最も苦労を強いられたのは、エンジニアの及川氏です。サックスの普通奏法とパーカッション奏法の明らかに異なる2種の音圧に対応しなくてはなりません。それなのに、私の要求はいつもと変わらず、「一発録りでお願いします。」なのです。サックスそれぞれに、2本ずつのマイクロフォンを立て、その2種の音圧に、アレンジに従ってマイク・チェンジをするのです。 ジャズの入り組んだ楽器の動きに反応するのは至難の業です。レコーディングの現場を知っている人なら、当然のように「マルチ録音だろう」とおっしゃるでしょう。まさに、アーティスト・及川公生でした。
ーー 伊藤秀治 ーー




「 A CHORUS LINE 」
DANCE : TEN ; LOOKS : THREE 5:00
LET ME DANCE FOR YOU 4:52
WHO AM I ANYWAY? 5:52
SURPRISE,SURPRISE 7:07
WHAT I DID FOR LOVE 5:40
I CAN DO THAT 4:26
ONE 6:35
I HOPE I GET IT 8:19
ALL COMPOSITIONS BY MARVIN HAMLISCH
自分でコーヒーを立てて、
スピーカーの前に座り、
あなたの部屋の「コーラスライン」の
開演としませんか。
ーーー DANCE : TEN ; LOOKS : THREE
1曲目は軽やかにスタートです。最初からパリズムらしさを押し付けがましくならないように・・。数少ないサックスのアドリブですが、冒頭から少し登場です。シモンのさわやかなソ□と、スコットのバス・サックスのソロです。(本来チューバのような役割のバス・サックス をこんなにも軽くメロディックに吹ける人はいませんので驚きです。)
ーーー LET ME DANCE FOR YOU
ジャングル・サウンドで始まります。勿論、全部サックスの音です。アルト・サックスのブラシ・ワークに続いてくるのは、ボンゴとコンガということにでもしましょうか。
ーーー WHO AM I ANYWAY?
「ベースも、ソロはボーカリストになったつもりでしなくてはいけない」と、いつも言っているピエールらしい、見事にメロディックなアドリブソロです。
ーーー SURPRISE,SURPRISE
ジャズをたくさん聴いていらした方々には、これは「ハービー・サウンド」という言い方がいいでしょうか。アルコ・ソロの後、ニールスのいつもながらの「つまづき奏法」が、ドライブ 感と不思議とミックスされていき、ピッタリ定まった8ビートに新鮮なノリを聴かせます。
ーーー WHAT I DID FOR LOVE
「コーラスライン」の主人公はキャシーといいます。彼女が朗々と歌い上げるこの曲は、クライマックスとも言えるでしょう。それにふさわしい、ピエールのアルコの歌いっぷりです。
ーーー I CAN DO THAT
サキソフォン・タップ・ダンスをお楽しみ下さい。
ーーー ONE
ご存じ「ワン」です。「コーラスライン」よりも他で有名になってしまいましたが、パリズム流「ワン」はいかがでしょう。パーカッションがテーマ・メロディをやっていますので、一緒に口ずさんでみて下さい。誰もがよく知ってい る曲なので、途中はスコットのバリトン・ソロでジャズっぽくしてみました。ゾクッとするいい音です。スコットと及川氏のテクニックが光 りますね。
ーーー HOPE I GET IT
ダンサーのステップで始まります。「はい!もっとステップを揃えてー !! 」と、大きな声が飛んできそうです。リハーサル風景ですから、「ワン、ツー、スリー、フォー、ワン、ツー、はい、もう一度初めからー!」と、やり直しをしたりで、結果、変拍子のつなぎ合わせです。そして、リハーサルからだんだんうまくなっていく様子を表しているがごとく、アレンジがグ ングン盛り上がりを聴かせていき、痛快なアル ト・ソロを導きます。リズム隊が本来の姿に戻り、サキソフォン・アンサンブルでアルバムの終わりを告げます。そして、エンディングは・・・、しっとりと・・・。
しばらく、音のない世界で、
冷えた残りのコーヒーを、
飲んでいるのもいいかもしれません。
【 A CHORUS LINE / parhythm 】
コーラスライン / パリズム
ミュージックアルバム note (Web版 ブックレット)
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another note
レコーディング表話・裏話

【 A CHORUS LINE / parhythm 】
コーラスライン / パリズム



A CHORUS LINE(コーラスライン)
5:00 Dance: Ten : Looks : Three
4:52 Let Me Dance For You
5:52 Who Am I Anyway?
7:07 Surprise. Surprise
5:40 What I Did For Love
4:26 I Can Do That
6:35 One
8:19 I Hope I Get It
all compositions by Marvin Hamlisch
parhythm(パリズム)
musical direction & produce
Hideharu Itoh
piano
Niels Lan Doky
bass
Pierre Boussaguet
alto saxophone
Philippe Sellam
tenor saxophone
Simon Spang-Hanssen
baritone & bass saxophone
Scott Robinson
arranged by Klaus Suonsaari
Oct. 1994. at Studio Acousti/ Paris
co-producer : Niels Lan Doky
engineer : Kimio Oikawa
assistant engineer : Reine Bensaid
mastering engineer : Masao Nakazato
cover design & photography : Hideharu Itoh
inner design : Eriko Kawada
3361 BLACK staff : Atsushi Ueno,Hatsumi Amano,Tamaki Ikeda




ここで鳴っているパーカッション的な音は全てサキンフォン。しかも多重録音は一切なし。一発録りである。
このグループの発想はいつだったか覚えていない。今振り返るとよくもこんなプランを平然と提案したもんだ、と。それを最初に聞くニールスも既に慣れたのかもしれない。しかし、大半は彼の性格だろう。さわやかな顔で「おもしろそうだね」と即答する。「のってくれるサックス奏者いるかなあ」「スコットだよ」すぐにニー ルスの口から出たのはスコット・ロビンソン。以前、バ ス・クラリネットで私のレコーディングに参加してくれたことがある。その時も、バスクラと言えばスコット、と。今回は、バリトン・サックスとバス・サックスを抱えて来てくれた。彼は三十数種類の管楽器を一人で操っているアルバムを出している。穐吉敏子さんが彼女のオ ーケストラのサックスセクションの要(バリトン)から彼を長いこと外さないのが肯ける。あとのアルトとテナ 一、フィリップ・セランとシモン・スパン・ハンセンも速やかに決まった。こんなことをかるーく引き受けてくれるだけあって、サックスはものすごく上手い。そして、性格がものすごくいい。ニールスのネットワークも、ものすごくいい。ベースはチェロも弾くという “唄うベー シスト” ピエール・ボサーゲ登場、というわけだ。
パリに到着すると、3日程前にニューヨークからパリ入りしてリハを始めてくれていたアレンジャーのクラウ ス・スオンサーリから「すぐ来てくれ」とリハーサルスタジオに呼ばれた。見せたくて仕方がなかったらしい。「アルトでこうやるんだ」「バリトンのここをこうして・・」と、いろんなパーカッション音を聞かせて、というより見せてくれた。チェロ・アコースティックスも、巧みにアレンジしてくれたクラウスは、実はドラマーなのだ。何ともクラウスは楽しそうだ。
我が奇妙発想に慣れているニールスとスコットも楽しんでくれている。しかし、初対面のサックスの二人には、「ごめんね」と音が鳴り止む毎に謝った。
グループ名の「パリズム / parhythm」とは「パリス / paris」と「リズム / rhythm」の合成語、パリのリズム隊といったところだ。サックス3本がパーカッションを・・ということで、ある種ドラムスの役と考えると、このグループはピアノトリオのようでもある。サックスが 心地いいリズムを刻む。それを「つまずき奏法」のニールスのピアノが切り刻んでいく。チェロ・アコースティックスもそうなのだが、「バックに主張」があるとニールスのピアノは実にいい。チェロアコの時は「刃物的拳法」と言ったが、まだまだ、「トゲトゲ奏法」「カクカク奏 法」と・・・、 当然すべて誉め言葉だ。これ程親しく、これ程長い付き合いなのに、ニールスのピアノトリオ・アルバムを作らなかった要因はここにある。
ジョエル・グレーの「キャバレー」と「コーラスライン」の2本のミュージカルが、私をミュージカル狂へと引きずり込んだ。2本共、映画とは違って、ブロードウェイの生のステージでは、オケピットのオーケストラが抜群に上手くて、しかも凄いアコースティック感。カウント・ベーシー・オーケストラのノンPAコンサートを聴いているようだった。その後、100本ぐらい観たが、「コーラスライン」は未だにベスト3ぐらいに位置している。ダンサーが題材のミュージカルだけに、「コーラスライン」の数々の名曲は、なかなかジャズのアルバムに使う機会がなかったが、「ワン・ツー・スリー・フォ一、ワン・ツー」「はい、始めから、ワン・ツー、ステップ・・」、これは『パリズムでやるっきゃない』。
3人共サックスが上手い。こんな言い方はサックス奏 者に失礼だが、パリズムゆえにサックス奏法アドリブ・ ソロが実に少ない。しかし、そのわずかのソロで見事に揺さぶられる。しかも、猛烈にいい音で、コーン紙が揺さぶられる思いを感じてもらえると思う。及川公生氏の腕にまた感心。サックスそれぞれに2本ずつマイクを立て、音圧のひどく違うパーカッション奏法音とサックス奏法音とを、卓で手動でチェンジを繰り返す。一発録りの名手、アーティスト及川公生を見た。
とんでもない発想をして、それをみんなで楽しんで鳴らし、楽しんで録って、そして、いい音を残し、いつもパリのレコーディングは楽しい。人と食べ物がいい、というのはやはりいい。パリズムの録音が終わるのにピタリ合わせたように、ニールスの奥さんが双子の子供達とスタジオに現れた。シャンパンと手作りケーキを持って。
ーー 伊藤秀治 ーー


<< 音のインフォメーション >>
サックスと同じ定位で、パーカッションの音が聞こえます。これが、プロデューサーが仕掛けた音楽です。少しは、録音上の問題も考えて欲しいと要求したい所ですが、事はさっさと進行して、サックスはリズム楽器にも変身してしまいました。ラテンパーカッションにも聞こえる所さえありますが、全てサックスから出ている音です。サックスそのものは大きな音が出て、これを捉える事は録音上それほど難しい事ではありませんが、パーカッションとしての奏法は音のエネルギーとしては小さくなってしまいます。それを捉える為に補助マイクとしてNEUMANN KM-84がセットされています。出来るだけ少ないマイクロホンで空間の音場を大切にした録音手法でいきたいと、このレーベルの基本を踏まえた事を考えていたのですが、見事にひっくり返ってしまいました。パーカッション奏法は多技にわたり、これに対応するには補助マイクが必要になったのです。ベース・サックスのスコット・ロビンソンがもう一本マイクロホンが必要ではないのと私にボソボソと云いました。彼も、マイ クは少ないほうが音はいいと、知ってい ます。気持ちはわかるけど、ここは仕方がないな!と言ってくれたような気がします。ベースはNEUMANN M-49です。これはスターです。真空管式のマイクロホンですが、どっしり重量級で、いかにもベースに合いそうな格好をしています。これを定番どおり、パチッと一本で決めています。ピアノのアンビエンス用としてB&K4009がセットされています。このマイクロホンはピアノばかりでなく、ベースにもサックスにもアンビエンスの効果をもたせるようセッティングされています。左右のステレオの音場空間一杯にピアノを広げ、そのやや内側に3本のサックスが寄り添うよう定位されています。左からアルト、センターにテナー、そして右にバリトンとベース・サックス、が定位されます。センターに不動のベースが定位されますが、やや膨らんだ定位となっているのは、ピアノのアンビエンスマイクの効果が出ているものです。3361*BLACKのサウンドの基本とは遠い、何処にでもある音ですが、マルチトラック録音によらない、2チャンネルのダイレクト・ミックスに音の鮮度のよさを感じて頂けるでしよう。96KHzハイサンプリングDAT/PIONEER D-07で録音。
ーー 及川公生 ーー

