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闇 619(度重なる訃報編)

闇 619(度重なる訃報編)

2026/07/19 sun
※1971年から書き始めて、とうとうこのシーンを書けるのだなという喜び。博多の部屋から見える景色がカンカン照りの昼間から、執筆に没頭して気付けばすっかり夜になっていた。でもこれはとても幸せな事である。
前回の章


二千二十三年九月一日、金曜日先負。

すっかり今日が心筋梗塞の定期健診というのを昨日まで忘れていた俺。
急遽連休にして、赤心堂病院へ向かう。

まあ言われる事は毎回変わらない。
三ヶ月分の薬をもらいに行くようなものだ。

そういえば運転免許証の更新時期になっていたっけ。
また次に回すと面倒なので、書き換えに行く事にする。

それにしても本当に暑い。
すぐ心が挫け、ヤスのカガヤカフェでコーヒーを飲んだ。

「よし、川越警察署へ免許証更新に行こう! でもさ、何で警察署をわざわざ遠くへ移動したんだろうな。昔みたいに川越駅の西口にあったほうが良かったのに」

「あそこ車じゃないと厳しいですからね」
「まあいいや、今日行かないと面倒が増える。ヤス、チェックして」

カンカン照りの中、すぐ暑さに負けタクシーを拾う。

窓の景色を眺めながら、俺が全日本プロレスのプロテスト合格を取り消された時は、まだ川越駅のほうだったっけと思い出す。

もう来なくていい。
ジャイアント馬場社長から言われた言葉が心をエグり、これまで頑張ったものすべてが音を立てて崩壊していく。
視界が狭まる。
何故暴力を振るわず、喧嘩を止めに入っただけの俺が、こんな目に遭わなきゃいけない?
悪いのは大沢史博。
しかし多勢に無勢で十数名で寄ってたかって暴行を加え過ぎたヤクザ連中もやり過ぎだ。
だから止めたまで。
警察が来て奴らは逃げ、捕まったのは俺と大沢のみ。
仲裁しただけの俺は問題ないと思い、堂々としていた。
それが何故こんな深夜、警察は馬場社長へ連絡など取った?
何故俺のプロレス入りが無くならないといけない?
隣りの取調室からは相変わらず大沢史博の暴れる声が聞こえてきた。
下を俯いたまま静かに立ち上がる。
「おい、貴様! 何、勝手に立ち上がってんだ!」
肩に手を掛けた警官の腕を捻り、投げ飛ばす。
すべての元凶の元。
俺が全日本プロレスの合宿があると知っていて、この凶行をしてくれたのだな……。
部屋を出ようとすると別に警官が掴み掛ってくる。
左腕を固定し力任せに壁へ叩き付けた。
俺を止めようとする人間すべてを破壊したい衝動に駆られる。
黙って大人しくしてりゃあ、随分と調子に乗りやがって……。
「岩ヤン! あいつらやりに行こうぜ! おい、離せよ!」
俺の姿が目に入った大沢は、警察官に取り押さえられながらも振り解こうと大声を出す。
目の前にいる同級生が人間に見えなかった。
あのつぼ八で飲んでいた時点で、こんな屑を放置していれば、こんな風には……。
警官が数名俺の身体に群がってくる。
指を掴み、そのまま投げ飛ばす。
せっかく辿り着いた檜舞台をこんな奴のせいで……。
「何やってんだ、貴様!」
近付いてくる警官をそのまま跳ね飛ばした。
コイツのせいで……。
明確な殺意。
黒い何かに全身を乗っ取られたような感覚。
もはや視界に映るのは大沢ただ一人だった。
蠅のように群がる警官を一人一人ちぎっては投げる。
「お…、大沢っ!」
瞬間的な感情の爆発。
怒りを込めた右の拳が、大沢の顔面に突き刺さった。
身長百九十センチの大きな身体が吹っ飛ぶ。
力の解放を済ませた俺は、呆然と立ち尽くす。
数名の警察官が俺に飛び掛かる。
床へ叩きつけられ、一切の身体の自由を奪われた。
ジャイアント馬場社長のもう来なくていいと言う言葉。
それだけが頭の中で絶えずリフレインしていた。
全身の力が抜け、あがらう事なく警察のされるがまま。
終わってしまった……。
何もかもこれで終わってしまったのだ……。
自然と出てくる大粒の涙。
視界が滲む。
俺はその場に突っ伏して大泣きする事しかできないでいた。

昔を思い出しながら警察署内を見渡す。

2023/09/01 川越警察署 交通安全協会

あれは大沢のような人間に関わったからこその失敗。

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