闇 653(ビデオ通話未遂編)
闇 653(ビデオ通話未遂編)

2026/08/25 tue
※多分この時代に岩上智一郎という人間がいたという証明をしたかったから、この作品を自分の為に書いているのだろう。
前回の章

二千二十四年四月二十三日、火曜日仏滅。
インカジ『レディ』の仕事を終え、着替えていると、店長の斉木から飲みに誘われる。
中々ない機会だし、篠ヤンとの約束は昼過ぎから。
平和通りを歩いた先にある駆け込み餃子へ入った。
この場所が大島ラーメンだったのは、何年前になるのだろうか?
あそこの餃子が本当に大好きだった。
俺がまだ二十代後半だった頃。
ワールドワンで働いていた時に、あの店はできた。
裏ビデオ屋の時…、浄化作戦のあとぐらいまではあったのを覚えている。

焼き餃子に揚げ餃子を注文し、斉木と乾杯。
『仕事終わって、同僚と餃子食べて、これから帰ります。 岩上7:42』
若香へ写真を撮って送ると、他愛ない話をしながら酒を飲んで、自称俳優マンションへ帰る。
昼過ぎまで眠り、目を覚ますと若香からの朝の挨拶が届いていた。
『おはようございます。良い一日を。 朱婧瑶9:13』

携帯電話を手に取り、早速彼女へ返す。
『おはようございます。二度寝して今起きて、川越向かってます。 岩上13:21』
篠ヤンとの待ち合わせは本川越駅だったので、自称俳優マンションを出ると西武新宿駅まで歩いた。
特急小江戸号に乗り、終点本川越駅へ到着。
『はい。道中の追い風。もうすぐ着くだろう。 朱婧瑶14:59』
『もう結構前に到着してますよ! 岩上15:00』
とりあえず始めの店は、篠ヤンの希望する立門前通りにある焼鳥屋『おいちゃん』へ行く。
かつて初期呑龍の跡地だった場所。
そして斜め向かいにはター坊のお袋さんが経営していた川越水族館があった。
川越にいないせいで情報が疎くなったが、呑龍のマスターは事故で怪我をして店を閉業してしたという噂を聞いた。
水族館はとうの昔に無くなっている。
そしてター坊のお袋さんは、初期コロナ渦で亡くなったのを聞いた以来。
色々過去にあった後輩のター坊ではあるが、あの時電話した会話が蘇ってくる。
「先輩…、お久しぶりです……」
「あけましておめでとう、ター坊。久しぶりだな」
「あ、自分は母ちゃんが去年亡くなってしまって、新年の挨拶ができないんです。すみません、智さん……」
「ああ、それを始さんから聞いた。だから電話したんだ」
ター坊のお袋さんの亡くなった時の状況などを彼から色々聞く。
そして俺も過去世話になった事を色々話した。
和解とまではいかない。
でも筋道だけは通したかった。
本当は線香をあげに行きたいんだけどなあ……。
歳を取り、地元にいないと様々な義理事が中途半端なままになってしまう。
過去岩上整体時代に撮った川越水族館のウサギのぴょん吉の映像を見返してみた。
『もう着いたのか。じゃ、故郷での時間を楽しんでください。 朱婧瑶15:09』
『ありがとうございます。 岩上15:21』
焼き鳥をつまみながら酒を飲んでいると、篠ヤンが話し掛けてくる。
「岩ヤンさ、手島さんところにも寄りたいんだけどいい?」
「まことやでしょ? 全然問題ないよ」
そんな訳で、同じ通りにある二軒目は出島さんのまことやへ入った。

焼きそばを食べながら、烏龍ハイ飲んでいると、手島さんが目を細めてやってくる。
こうして後輩二人が来たのが嬉しそうだ。
俺は合間を見て若香へLINEを送った。
『今もう二軒目で、先輩の店で焼きそば食べながら飲んでますよ。 岩上15:21』
このルートで来ると、次は後輩のヤスの店と必然的になってしまうよな。
「うわ、随分銀座通りも変わっちゃったね!」
連雀町ではない篠ヤンは、この辺の変化を知らない。
かつてアーケード商店街だった銀座通りは、大正浪漫通りと名前を変えてしまい、スガ人形の提供している鯉のぼりが無数に飾られている。
「篠ヤン、旧銀座通りで、今が大正浪漫通りになってしまってんだよ。新富町通りがサンロード、そして今クレアモールになったようなもん」
「さすが連雀出身。俺、中原だから全然知らなかったよ」

大正浪漫通りで目の前に広がる鯉のぼりの写真を撮り、若香へ送る。

加賀屋化粧品店の息子である後輩のヤスの店カガヤカフェに入り、三軒目へ突入。

ヤスに同級生の篠ヤンを紹介し、ここでも乾杯。
必然的に幼い頃の遊び場の話題となる。
「もう俺たちが通ったニチイもピープルランドもとっくに無いしね」
「隆二のピープルランドはよく言ったけど、ニチイは岩ヤンぐらいだろ」
今は湯游ランドになってしまい、インターネットがこれだけ当たり前になった現在で検索しても写真一枚出てこない川越のニチイ。
当時九州のひろみに一生懸命説明した状況を思い出す。
デパートだったのか何なのか?
デパートにしては三階だか四階までしかなく、今のクレアモールがまだサンロードまたは新富町商店街だった頃、存在感を示したニチイ。
ニチイの入口横には今でいう小さいキャンピングカーみたいな
ホットドック屋があり、変わっていたのがハンバーグドックも売っていた。
子供の時だからさ、覚えているエリアはもちろん特定はされている。
地下が多分食料品売り場だったと思うけど、エスカレータで降りると右手(ニチイ入口側)に小汚いカウンターだけのラーメン屋。
負け犬が座って食べるような小さい店が並んでいたのは覚えている。
ひろみはどんな店があったのかしつこく聞いてきた。
まだ小学生の頃だ。
俺は続きを話す。
いや、それがさ幼過ぎて、その小汚い店の群れに一度も入った事ないんだよ。
だから覚えていない。
ラーメン屋だと思うんだよね。
そこでエスカレーターから降りる時見た景色はまた不思議な光景でね。
普通食べている人ってみんな楽しそうな表情でしょ?
それなのにみんな暗い顔して麺を啜っているのを覚えている。
だからラーメン屋とか、隣りは定食屋だったかもしれない。
でも全部カウンター席のみの、小さい店ばかり。
用が無いから二回くらいしか地下には行った事ないんだよ。
一階とか二階は服とか売っているから、多分そのフロアに出た事すら無い。
ただ二階へ行く時かな?
エスカレーターを上った先に、細長くクソ狭い喫茶店があったのは覚えている。
ショーウインドーにクリームソーダとか飾ってあってさ、偽物の。
それで三階が意地悪なジジババがいたゲームコーナーがあるんだよ。
そのフロアーの一角だけ。
あ、何となく思い出してきた。
多分ニチイは四階あったはず。
何故なら二階に行ったところにクソ狭い喫茶店があって、
三階へ行くと逆側になるでしょ?
…で、四階に行くと、出たところに『半額堂』という
関西弁の胡散臭いオヤジがいたんだよ。
ゲームコーナーはその対面にあった。
それでインチキ臭い半額堂とゲームコーナーで、そのフロアーのまだ半分。
じゃあ残りは?というとテナントも何も入っていないほど
人気が無かったんだろうね、ニチイは。
ゲームコーナーの奥に卓球台が三台くらい置いてあった。
ニチイ自体はそれで終わり。
屋上なんて洒落たものなんてない。
デパートだったのかすら分からない。
普通さ、デパートって人でごった返すじゃん?
ニチイって常に閑散としていて、笑顔の大人が一人もいない感じ。
たださ、たまに夏になると、卓球台どかしてパテーションで区切ってさ、人を小馬鹿にしたような『お化け屋敷』をやるんだけど、俺はそこへ客が入ったの一度も見た事がない……。
川越祭りだとね、ピープルランドのあった連繋寺の境内に、今でも毎年祭りだけの為にお化け屋敷あるのね。
あんなんじゃない。
もうね、小学校低学年でも馬鹿にしてんのかってイライラするようなどうしょうもないお化け屋敷があった。
そもそも誰もそんな陳腐なものに興味がない。
ゲームをしててたまたま視界に入るから、また馬鹿な事やってんなと子供心ながら思った程度。
同級生も誰も、あんなところ入った事も無ければ、話題にもしない。
ゲームコーナーのジジババのほうがよほど怖かったよ。
一応さ、ガキでも俺たちは客だよ?
それなのにさ、いつも年中イライラしてて、眉間に皺寄せてんの。
ゲームにお金詰まってクレジット入らないと言いに行くと、それだけで不機嫌になってさ、台をバンバン叩くだけ。
そんなのさ、子供にだってできるじゃん。
最大の闇、半額堂について話すよ。
もうさ、胡散臭いんだよ、あのオヤジ。
俺の実家の目の前って映画館のホームラン劇場があった。
映画観るのに俺は一円も払った事がない。
そのぐらい可愛がられていたんだ。
だからたまに小遣いほしさにさ、映画館のおじさんに、昔のポスター頂戴って行くと、映写室の奥にあった倉庫に連れてってくれて、好きなだけポスターくれたの。
まあ遠慮はするからさ、一回で多くて三本の丸まったポスターもらう訳。
それをさ、小遣い稼ぎで半額堂へ売るに行く訳よ。
半額堂って古本とか玩具とかレコードとか色々打っててさ、ポスターを一枚五十円から人気映画だといいやつだと最大二百円で買ってくれるの。
そこの半額堂のオヤジが外見も胡散臭くてさ。
細いタレ目でさ、口元にうっすら胡散臭い髭が生えててね、子供相手なのに「関西人は時間と銭が命やでー」と言いながら小学校五年生の俺に向かって手を出して、「役に立つ話しとるんだから、金払いなはれ」とか抜かす屑。
怪獣ブースカって知ってる?
あれの版権取ったとかで、一回何かの雑誌に載っているの見せてきた。
たださ、このオヤジそれだけじゃないんだよ。
俺の親父ってさ、金持ちの人のいいボンボンってだけなんだよね。
…で、昔は家の金好きなように使ってF1みたいなレースあるじゃん。
あれを道楽で乗り回して「俺は国際B級の免許を持ってる」とかね、レースの写真を部屋に飾っている訳よ。
だから色々なものがコレクションで親父の部屋にはある訳。
ある日さ、半額堂のオヤジにそそのかされたの。
「もし僕の家にレコードとかあるなら高く買うよ」と。
俺さ、目先の金に釣られて親父の部屋へ侵入し、レコードのLPある棚の
場所を知っていたからさ、毎日二枚ぐらい抜いて売りに行ったの。
そしたらさ、一枚のLPを二百円でしか買わないの。
ポスターが二百円なのに、何でレコードも二百円なんだと不思議におもったけど、まだ幼いから小銭の魔力には勝てない。
仕方なく持っていったものを言い値で買い取られていた。
しかも「ビートルズの海賊版なら高くかうで」と言うからさ。
ある日親父にビートルズの事をさり気なく聞き、海賊版LPがあるのを知った訳よ。
それでいつもどうせ夜は遊び歩いているから、家探ししてビートルズ海賊版のLPを半額堂に売りに行ったら、「こりゃええわ。ほら」と五百円しかくれなかったの。
次の日半額堂行くと、二万円で売ってんだよ。
だから返せと言ったら「もう買ったんやかわ、ワイのもんやで」と
返してくれなかったの。
何で俺は休みの日に焼肉と酒を飲みに行った帰り道、こんな小学生の頃の思い出話をしてクレアモールで立ちながらチャットをやっているんだ?
そう文句を言うと、ひろみはまだ続きを聞きたがるので仕方なくその場で続けた。
それでさ、ポスター代とかLP代が向かいのゲームコーナーのジジババへ行く訳よ。
フロントライン三十円とか、ジャンプバグ三十円とかで、細かく刻まれてニチイに吸い込まれていくのよ。
…で、ある日さ、スカスカになったレコードの棚に親父が気付き、グーで殴られ泣いた。
まあこれは俺が悪いからしょうがないんだけどね。
当時の記憶を呼び起こしながら懸命に篠ヤンへニチイを語る。
「中原だとエリア外だもん。ニチイは数えるぐらいしか行った事ないよ」
「だって篠ヤン家からなら、ピープルランドもニチイもそう距離的に変わりないじゃん」
「うーん…、何て言うのかな…。ニチイってサンロードにあるくせに、妙にローカルじゃん」
「まあそれは確かにそうだね」
川越市で一番栄えているクレアモール沿いにあったデパートのくせに、何でニチイはあそこまで暗く、出入りする客の表情もみな暗かったのだろう?
「それにニチイって、ドルアーガの塔はあったけど、グラディウスなかったじゃん」
「タ…、タンクは置いてあったよ」
「何だよ、それ? 初めて聞いたぞ?」
「餓狼伝説のSNKの初期のゲームだよ。八方向レバーでさ。ほら、IKARIとかあったでしょ?」
「怒は知っているけど、タンクは知らないなあ」
まあこの辺は、俺の方が当時ゲームセンターにハマっていたからなあ。
彼が知らないのも無理ないか。
店内で喫煙できないので、外の路地へ行きセブンスターに火をつける。
若香の存在をすっかり忘れてゲーム話に熱中していた。
『家の近所です。 岩上15:39』
カガヤカフェの路地の写真を送る。
『後輩の店です 岩上15:39』
『いいですね。お酒を飲んでいませんか。 朱婧瑶15:46』
あ、そうだ。
加賀屋のおばさんに、若香用のプレゼントでミラノコレクション頼んでいたっけ。
俺は路地から大正浪漫通りに出て、加賀屋へ入る。
「おばさん、ミラノコレクション届いてますよね?」
「また智ちゃん、別の女性かい? 本当に無駄遣いばかりしてちゃ駄目だよ。ちゃんと貯金しなよ」
「今度の子は違うんですって! シンガポールに住んでいるハーフの子で、真面目な子なんですから」
「はいはい、おばさん、何度その台詞を聞いた事か」
あ、若香にプレゼントの写真を見せよう。
『飲んでますよ。今で三軒目です。 岩上15:47』
撮影すると、呆れたようにおばさんは笑った。
『若香さんの誕生日プレゼント買いましたよ! 岩上15:49』
『ああ。どうしてこんなに早くプレゼントを買ったのですか。早すぎませんか。若香さんに恥ずかしい思いをさせてしまいましたね。そして若香は言った。イチローがプレゼントを送る必要はありません。これは若香があまりにも意外だ。 朱婧瑶15:53』

一応喜んでくれているんだよな?
ヘンテコな日本語だからいまいち把握できない。
『とにかくイチローのプレゼントをありがとう。心の中でとても感動した。とても暖かいと思います。 朱婧瑶15:54』
うん、今度は俺でも理解できる。
間違いなく彼女は喜んでいる。
『若香さんの誕生日聞いてましたからね。たまたま今回川越来たから、若香さんの買っておこうかなと。 岩上15:54』
ちょいと気障な台詞も入れとくか。
『お返しは若香さんの笑顔を希望します。 岩上15:55』
ヤスの店へ戻り、ジントニックを注文。
『もう笑顔ができました。そして感動しましたね。まずジムに行ってきます。ちょうど午後は用事がない。 朱婧瑶15:59』
『行ってらっしゃい。 岩上16:00』
今日は篠ヤンの誘いで川越に来て良かった。
六月末まで本当に待ち遠しい。
『イチローの贈り物をありがとう。 朱婧瑶16:08』
『会うまで大切に保存しておきますね、腐るものではないので。 岩上16:11』
もう麗美華へ連絡取る事も、リオを抱きに行く事もやめよう。
『はい。もし香が過去にもイチローに満足のいく贈り物をしていたに違いない。 朱婧瑶16:24』
『若香さんの気持ちだけで、俺は充分ですよ。 岩上16:27』
ヤスと篠ヤンの声で集中できないので、また外へタバコを吸いに行く。
『やらないよりはやったほうがいい。事実で証明しますね。 イチローさんは場所を変えてお酒を飲んでいますか? 朱婧瑶16:42』
『まだ三軒目の後輩の店で飲んでますよ 岩上16:57』
若香との甘いやり取りを存分に味わいたかった。
『飲んで楽しかったですよ。もし香も自転車に乗る。 朱婧瑶17:03』
『もうジム終わったんですか? 岩上17:03』
その時LINEのビデオ通話が鳴った。
相手は若香から。
え、とうとう初めて彼女の顔を見ながら話せるのか。
出ようとすると、自称俳優の若菜龍平からLINEが届き、俺は間違えてそっちを押してしまう。
『岩上さん! お疲れ様です。十六時位にウチに建造物侵入があり通報しまして、警察官四人来ました。そしたらバ河本のババァが野次馬的に凄かったですわ、ウザい。 若菜龍平』
あー、大事な時に本当コイツウザい男だな。
先日の麗美華の時といい、何で天才的なタイミングでいつも邪魔するんだよ。
河本マンションのババアとか、侵入とかどうでもいいって。
どうせおまえが、またお得意の百十番通報したんだろ。
「もしもし? あれ?」
声がお互い全然聞こえていないし、ビデオ通話も上手くいかない。
『通話時間 0:34。 朱婧瑶17:08』
「……」
龍平のせいで、若香との貴重な通話が……。
『切れた 岩上17:09』
『インターネットが悪いですね。 とてもカードです。 朱婧瑶17:09』
これだからLINEとかって嫌いなんだよな。
普通の電話なら、こんな事ないのに。
とりあえずまた龍平に邪魔されないよう返事をしておこう。
『面倒な奴ですね。近い内、調停起こします。 岩上智一郎』
『やっちゃって下さいませ。 若菜龍平』
おまえが少しは自分で動けよ、屑野郎。
いつも口先ばかりで……。
『これはKTVの飲酒ですか? 朱婧瑶17:09』
『若香さんから電話あって驚いたけど、嬉しかったです。 岩上17:10』

KTVの飲酒って何だろう?
『KTVとは? 岩上17:10』
『カラオケですね。そうじゃないですか? 朱婧瑶17:12』
そういえばカラオケなんて何十年行っていないんだろ?
神田の「歌唄いてえ」はキャバクラだったしな。
『カラオケではないですよ。後輩の喫茶店です。 岩上17:13』
『若香は明かりのきらめきを見てカラオケかと思った。 朱婧瑶17:14』
俺から彼女へ掛け直そうか?
でも、ジムに行っている最中なのに邪魔するのも失礼だよな。
『イチローは先に酒を飲む。若香も鍛え終わった。叔父が電話に来て一時間後にデータがあると伝えた。 朱婧瑶17:15』
『うん、若香さん、頑張って! 岩上17:17』
うわあ…、またここで叔父かよ……。
『イチローさんも少し飲まないでね。帰って楽しかった。体も大切ですね。 朱婧瑶17:23』
『若香さんありがとうございます。地元なんでもうちょっと色々行ってから、新宿戻りますよ。 岩上17:25』
あまり篠ヤンを放っておくのも失礼だしな。
そろそろ戻ろう。
『とりあえず川越帰った時、若香さんのプレゼント買うのが目的の一つだったんです。 岩上17:27』
『イチローはこんなにいいです。若香も感動しました。しかし、前の行為も若香を悲しませた。若香も自分のすべての本音をイチローに話した。イチローがいなくなったらいなくなると言っただけです。若香の気持ちを考えたことがない。 朱婧瑶17:28』
うげ…、先日俺が無視した空白の一日をほじくり返してきた……。
ここはいい雰囲気を壊したくない。
『若香さんの事は大切に想っていますよ 岩上17:30』
『でも理由もなく黙っていてはいけませんよ。あの時の若香の気持ちは物悲しい。 朱婧瑶17:31』
海より深く反省。
『実は簡単なことはイチローも悩む必要はないですね。何かあれば直接若香に言ってもいい。 朱婧瑶17:32』
『了解しました。若香さんも俺に対して何でも言ってくださいね。 岩上17:35』
カガヤカフェへ戻ると、篠ヤンが別の店に変えないか提案してくる。
この近くだと次はピザ屋なんてどうだろう。
四軒目は久しぶりのロッコを選択。
ここのレモンサワーとピザは最高なのだ。
『四軒目、イタリアンのピザ屋来ました。 岩上17:35』
『そうだな。だから二人でいる上で一番大切なのは何かイチローは分かりますか。コミュニケーションと信頼です。消えるのではありません。 朱婧瑶17:36』

レモンサワーで乾杯すると、篠ヤンは「何だこれ? 凄い旨いな」と驚いている。
ピザが運ばれ、シェアしながらつまむ。

『今日は何軒行くつもりですか? 朱婧瑶17:36』
『もちろんです。若香さんの存在を常に中心に俺は考えていますよ。 岩上17:37』
あ、俺が返事を送る前に、若香から来てしまった。
『この若香は今感じています。イチローは明日帰るつもりですか? 朱婧瑶17:37』
『どうですかね、友達が久しぶりの川越で喜んでいるので、俺はできる限り付き合う感じですね。 岩上17:37』
篠ヤン次第といったところかな。
『今日中に新宿帰りますよ。 岩上17:38』
『帰ったからには友達との感情を楽しんでください。でもお酒は控えてね。 朱婧瑶17:41』
こうして健康を気遣われるって何だかいいものだ。
『気をつけますね。いつもありがとうございます。 岩上17:41』
あ、若香にピザの写真見せておこう。
『ピザがきました。若香さんと一緒に食べたかったなあ。 岩上17:42』
『いいですね。イチローが先に食べる。若香が過ぎてから一緒に食べます。店で一番おいしいものを選ぶ。 朱婧瑶17:47』
何でまだ四月後半なんだよ。
『早く君に会いたい! 岩上17:49』
『それも祖母の誕生日が来るまで待ちます。 朱婧瑶17:49』
あと二ヶ月の禁欲生活。
うん、思い切り若香と会ったら精子を掛けてやる。
『我慢しますね、俺は。 岩上17:50』
『はい。若香さんはしばらく忙しいです。あとでイチローに話します。 朱婧瑶17:52』
叔父から連絡があるとか言っていたもんな。
邪魔しちゃ悪いな。
『行ってらっしゃい。 岩上17:53』
伊達から着信が入る。
「はい、どうしました?」
「今日まだ仕事中なんですけど、岩上さん今日って休みですよね」
「今知人と一緒に飲んでいるところなんですよ」
「うーん、そうですか…。分かりました」
電話を切ると、若香から例の取引のデータのスクリーンショットが送られてきた。
「……」
正直出先で友達といる時まで、これは勘弁してくれよ。
『今日も儲かったんですね。おめでとうございます。 岩上18:22』
彼女を軽くいなし、ロッコを出る。
「次どうする?」
「せっかくだから中原の三番加藤弓枝のベントゥーラでも行こうか」
「弓枝ちゃんところか、いいねえ」
五軒目、スペイン料理のベントゥーラへ到着。

俺は店内の写真を撮り、彼女へ送信する。
若香へ色々な料理を見せたかった為、色々な料理を注文した。
『五軒目、同級生が経営するスペイン料理ベントゥーラ。 岩上18:25』

『もちろんです。叔父は絶対的な自信がなくても買いを行うことを教えませんね。このレストランはよさそうですね。 朱婧瑶18:29』
いやいや、飲んでいる席で叔父の話はどうでもいいから。
でもレストランの話題になりそうで良かった。
『じゃあ若香さんが川越来たら連れてきますね。 岩上18:30』
大好物のスペインオムレツやパエリアの画像を送る。
『このお店はパエリアで前にコンテストで世界一を受賞した店なんですよ。 岩上18:33』
何枚ほど送っただろう。
まだこんなに食べるのかと、かなり驚くだろうな。
『午後はこんなにたくさん食べました。まだ食べられるよ。すごいですね。 朱婧瑶18:34』
『男で肉食ですからね。 岩上18:35』
早く会いたいよー。
『わかったよ。じゃ、もっと食べなさい。酒を控える。私も家に帰って食べるつもりです。 朱婧瑶18:36』
『気を付けて帰って下さいね。若香さんに何かあったら、俺はとても心配します。 岩上18:38』
隣りに座る篠ヤンが、俺を見ながら「携帯ばかりしているなあ」と言ってくる。
「ごめんごめん。ちょっと真面目に気に入っている異性いてね」
「上手く行きそうなの?」
「うん! 六月末には日本に来て会う約束しているからね」
「岩ヤン人がいいから騙されるなよな」
「大丈夫だって。さっきもビデオ通話掛かってきたし」
「まあ岩ヤン自身が幸せなら、それでいいけどさ」
若香からLINEが届く。
『うん、はい。 朱婧瑶18:40』
『俺はいつも若香さんを気に掛けていますよ。 岩上19:07』
料理の写真を送りながらベントゥーラにいる事をアピール。
『まだ五軒目のスペイン料理の店にいます。 岩上19:15』
『この若香は知っていますね。イチローはまずご飯を食べましょう。 朱婧瑶19:16』
『食べてますよ。ありがとうございます。 岩上19:18』
いやいや、これだけたくさん食べているだろ。
『たくさん食べてね。 朱婧瑶19:23』
『あとパエリアくらいで充分です。 岩上19:35』
パエリアが届き、最後にそれも送った。
『パエリア出来立てです。 岩上19:52』
『いいですね。味はどうですか。イチローはまず若香のためにもっと食べなさい。 朱婧瑶19:54』
現役時代じゃないんだから、もうそんな食べないって。
『若香さんの為に食べます。味は美味しいですよ。世界一のパエリアですからね。若香さんも一緒に今度連れて行きますね。 岩上19:55』
『やはり世界で一番おいしい海鮮料理です。こんなに誇張して言っている。お香が行くときはぜひ食べてみてください。 朱婧瑶19:59』
そろそろここは出ようかな。
加藤弓枝に会計をお願いした。
『是非とも若香さん連れて行きますね。 岩上20:02』
ベントゥーラを出ると、篠ヤンが「次どうする?」と聞いてくる。
おいちゃん、まことや、カガヤカフェ、ロッコ、ベントゥーラと来て、次も行くなら六軒目。
まだ八時過ぎなので、川越でもう一軒ぐらい行ってもいいか。
「どこでもいいけど、篠ヤンが行きたい店あれば」
「じゃあさ、川越駅東口のほうに一軒知り合いの店あってさ。そこでもいい?」
「ああ、全然構わないよ」
歩きながらその店へ向かう途中、若香から写真が届く。
『若香も食事の準備ができました。 朱婧瑶20:17』
「岩ヤン、最近女関係どうよ?」
「まだ付き合っているというわけじゃないんだけど、さっきちょっと話したシンガポールに住んでいるハーフの子と、最近仲はいいかな」
「ああ、だからさっき化粧品のプレゼント買ってたのか」
「今度の六月末に日本に来ると言うからね。その月に彼女の誕生日あるし、前もって買っといたんだ」
「相変わらずマメだねー」
「あ、ちょっとごめんね。彼女へ返事しないと」
一瞬立ち止まり、若香へ連絡をする。
『美味しそうですね! 若香さんの手作りですか? 岩上20:20』
『そうだな。そうでなければ誰がやってくれますか。父はまだインドネシアに出張中です。 朱婧瑶20:21』

彼女の親父さんはインドネシアへ出張なんだ。
本当にワールドワイドといったらいいのか。
『俺も一緒に、食べたいです。 岩上20:24』
『いいですね。これから若香はイチローに作って食べさせる。 朱婧瑶20:39』
駅の東口から喜多院方面へ少し歩いた先にある居酒屋『ありがたや』へ到着。
「もう篠ヤン、散々食べ歩いたから、さすがにあまり食えないよ?」
「顔出せればいいと思ったからさ。全然構わないよ。弓枝ちゃんところで食い過ぎたな」
カウンター席へ腰掛け、乾杯をする。
セブンスターに火をつけてから、若香へ返事をした。
『楽しみにしてますね。 岩上20:43』
『夜、イチローは何時まで食べるつもりですか? 朱婧瑶20:43』
彼女も、まだ俺たちが飲むとは想定していないだろう。
『今で六軒目です。 岩上20:44』
『全部で何軒ですか。こんなに食べても食べすぎないよ。あなたたちは何人ですか? 朱婧瑶20:44』
女性から見れば尋常ではない飲み方に映るはず。
それでもこのような飲み歩きをしたのは久しぶりだ。
『同級生と俺の男二人ですよ。六軒目です。 岩上20:45』
『あなたたち二人だけですね。こんなにたくさん食べても大丈夫ですか? 朱婧瑶20:46』
食べるというよりは酒を飲むだよね、もう。
『もうさすがにお腹一杯になってきましたね。 岩上20:47』
『そうですね。お香はもうお腹いっぱいです。しばらくテレビを見るつもりです。 朱婧瑶20:50』
正直飲みながら篠ヤンと話し、合間を見て若香とのLINEの同時進行は辛いな。
『ゆっくりくつろいで下さいね。俺も川越から出る時連絡しますね。 岩上20:52』
『はい、そうです。イチローは遅くに家に帰るな。夜も新宿に帰る車はありますか? 朱婧瑶21:00』
東武東上線の最終時刻を調べた。
『十一時後半までは電車ありますよ。若香さんが心配しない内に心掛けるようにしますね。 岩上21:06』
『はい。イチローはまずクラスメートと食べましょう。 朱婧瑶21:08』
篠ヤンもいい感じで酒を飲んでいるので、だいぶへべれけになってきた。
そろそろいいあんばいだな。
『ありがとうございます。帰る時また連絡しますね。 岩上21:10』
『はい。 朱婧瑶21:14』
前回大久保来た時に連れて行ったこなもんのマスターの話になり、篠ヤンはまたあの店に行きたいと語り出す。
俺も大久保へ住んでいて、あの店があるのが唯一の救いだ。
できれば前の一階にあった串市場んにも、彼を連れて行きたかった。
若香から部屋の写真が送られてくる。
テーブルの上に置かれたたくさんのフルーツ。
そして豪華そうな装飾で飾られた室内。
彼女の優雅な生活が分かる。
『部屋でくつろいでいるんですか? 岩上21:42』
『そうだな。 イチローは何時に帰るつもりですか。 朱婧瑶22:06』
同じ職場の伊達から連絡が入る。
内容は先ほどと同様、彼の仕事が終わったら飲みに行かないかとの誘い。
今同級生と地元で飲んでいる事を伝えた。
何度目だよ、これで。
人の休みになると毎度毎度誘ってくる伊達。
正直面倒臭い。
そんな事より若香へ返事をしないと。
『まだ六軒目のままですよ。十一時後半までには帰りますよ。 岩上22:13』

『さっきは六軒目ではありません。スペイン料理店。 朱婧瑶22:17』
さすがに何軒目か彼女は混乱するよな。
『五軒目がスペイン料理の同級生の店ですよ。今は六軒目の居酒屋ですよ。 岩上22:18』

目の前の料理の写真を撮って彼女へ送る。
『これは牛肉ですか? 朱婧瑶22:39』
『豚肉ですよ。 岩上22:51』
もう今日は何も食べたくないほど食べた。
会計をしてありがたやを出る。
『店出て、これから新宿向かいますね 岩上23:18』
『はい。 道をゆっくり。 家に帰ってメッセージを送る。 香ちゃんはお風呂に入ったばかりです。 横になるつもりだ。 朱婧瑶23:23』
またインカジ『レディ』の中番で働く伊達から連絡が入る。
仕事が終わった彼は、このあと飲みに行かないか再三誘ってきた。
裏切りとまで言えないが、過去様々な期待外れな事をされた俺。
しかし何の因果か同じ店でまた働くようになってしまった今、そう何度も誘いを無下にもできない。
新宿へ戻ったらゆっくり休みたかったが、伊達の誘いを了承した。
一応若香へ伝えておくか。
『それが新宿着いたら職場の後輩が俺に相談あると、ちょっと時間作らなければならなくなりました。なので新宿着いたら彼の相談に乗るようです。 岩上23:27』
相談と若香に言ったが、未だレディの面々と慣れない愚痴を聞かされるのは分かっている。
『若香さんはゆっくり休んで下さい。帰ったらちゃんと連絡入れますね。 岩上23:28』
電車へ乗っても返信が来ないので、もう彼女は寝てしまったのだろうなと思う。
『ちゃんと若香さんのプレゼントは死守して、持ってきてますからね。 岩上23:34』

川越から池袋まで東武東上線で三十分程度。
昼間から酒を飲み歩いたせいか、妙に眠い。
俺はふじみ野を過ぎた辺りで、そのまま寝てしまった。

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