インハウス吟遊詩人
映画監督クリストファー・ノーランの新作『オデュッセイア』を観て、組織の中でデザイナーが担う、新しい役割の可能性を感じました。
トラビス・スコット演じる吟遊詩人。言葉や歌で物語を伝える、その役割が引っかかったのです。ノーラン自身も、彼の起用理由として、口承詩とラップの共通性を挙げています。
※アカデミー賞作曲賞を3度受賞した映画作曲家ルドウィグ・ゴランソンと、トラビス・スコットのタッグは、ぜひ劇場で感じてください。
映画の元になった叙事詩『オデュッセイア』は、口承で伝えられた物語が、後に文字に書き留められたと考えられています。物語を後世に渡すうえで、歌や口伝が大きな役割を担っていた。人が覚え、人に語り、次の人へ渡す。その継承を担うのが、吟遊詩人だったそうです。
これを現代の組織に置き換えると、デザイナーの仕事と重なります。組織や人の思いを拾い、誰かに届く形にする。何を受け継ぎ、どんな言葉で残すか。その選択は、もはや「デザイン」なのだと感じています。
実際、海外には、企業の情報を編集して伝える「語り手=編集者」に高額報酬を提示する例があります。2025年12月時点では、「Head of Storytelling」を年収最大27.4万ドル(4000万円くらい)で募集していると報じました。
エンジニアの領域では、顧客の現場に入り、課題の理解から解決まで担うFDE(Forward Deployed Engineer)が注目されています。
専門性を、組織の事情や目的に結びつける。デザイナーの領域でも、こうした役割の広がりを捉える概念を見かけるようになりました。企業の情報を編集し、自分たちが何者で、何を目指しているのかを伝える。そんな「社内編集者」や「ストーリーテラー」という役割も、デザイナーの次の領域になり得ると思っています。
デザイナーには、その役割を担える理由があります。
プロダクト、ブランディング、営業資料、採用広報。これらを横断するデザイナーには、経営の意思、開発の判断、顧客の反応など、多面的な情報に触れる接点があります。ひとつの組織を複数の立場から見られる、稀有な職能です。
たとえば、ひとつの機能にも、顧客の困りごとがあり、開発側の判断があり、その会社が実現したい価値がある。それぞれを踏まえて機能を紹介すれば、その説明に、つくり手の意思まで乗せられます。
何を見せ、何を省き、どの順番で理解してもらうか。これは、日頃のデザインで扱っている判断とも地続きです。同じ情報でも、届ける相手が顧客なのか、未来の仲間なのかによって、言葉や見せ方は変わります。その違いまで設計する必要があります。
インハウスであることにも意味があります。同じ組織に関わり続けるからこそ、判断が変わった理由や、過去の試行錯誤を追える。その背景まで次の人に渡せれば、組織の経験を、次の意思決定に生かせます。
ただ、接点を持っているだけでは、この役割は担えません。現場に聞きにいき、事実と自分の解釈を分けて扱う。そして、相手が理解し、次の判断や行動につなげられるかまで確かめる。
言葉や歌、ビジュアルを通じて、組織や人の思いが伝わる形を設計する。制作物と一緒に、その背景にある物語も残していく。
インハウス吟遊詩人。
デザイナーは、古今東西において「伝える」ということのプロでないといけないのです。 そんな吟遊詩人のような役割を、これからのインハウスデザイナーの仕事にできるのではないでしょうか。
※ 文章の整理・推敲にGPT-6 Astra(OpenAI)を使用
