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イ・ヒョク ピアノ・リサイタル

 いいコンサートでした。
『イ・ヒョク ピアノ・リサイタル』(2026.9.10 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)

 まず、プログラムがいい。
 チャイコフスキーの『四季』にはじまり、
 スクリャービンの『ピアノ・ソナタ第5番』と『幻想曲ロ短調』、
 そして、カプースチンの『ピアノ・ソナタ第2番』と続きます。
 アンコールも、チャイコフスキーの『ノクターン』、スクリャービンの『エチュード』2曲…。

 滅多に実演で聴けない曲がずらり。
 韓国の若手ピアニスト、イ・ヒョクはモスクワ音楽院で学んだこともあり、ロシアの作曲家たちの音楽に思い入れがあるようで、丁寧に愛情深く弾いていたのが印象的でした。
 前半プログラムのチャイコフスキー『四季』は、12カ月それぞれにタイトルがつき、プーシキンやトルストイなどロシアの詩人たちによるエピグラフの詩が添えられています。
 イ・ヒョクは、それらの詩を日本語で朗読し、その後演奏するスタイルをとってくれました。落ち着いた低い声で詠みあげられる詩が、聴き手の心を柔らかく解きほぐし、聴こえてくる音楽も豊かな情感を伴って響きました。
 後半のスクリャービンとカプースチンの作品は、とてもテクニカルで難しい曲ばかりですが、技巧を見せつけるだけではなく、楽譜の隙間に忍ばされた深い詩情のようなものも聴き手にわかりやすく伝えてくれるような演奏だったと思います。

 カプースチン(ついついカスプーチンと間違って言いそうになりますが、カプースチンです)は、jazzyな音楽を書く現代音楽の作曲家です。昔、FMラジオから聞こえてきた超絶技巧的なモダンジャズっぽい曲に圧倒されましたが、それが、ロシア(当時はソビエト連邦だったはず)の作曲家の作品と知った時は驚いたものでした。実のところ、旧ソ連では早くからジャズは受け入れられており、ショスタコーヴィチなどもジャズ音楽を書いていたのですが、あの頃はソ連といえば冷たい鉄のカーテンの向こうの国というイメージだったので、とても意外な思いがしたのです。
 カプースチンの『ピアノ・ソナタ第2番』は、個人的に大好きな曲でしたが、実演で、しかもすこぶる高度なテクニックの演奏で聴くことができて、幸せな時間をもらったような気分です。特に終楽章の超高速で駆け抜けるようなラスト、ものすごい迫力でした。