【トピックス】宇宙軍と各国の最新動向 #18
~第5の戦場における「インフラ」の争奪戦~
今回は、近年急速に注目を集めている「宇宙軍(Space Force)」および宇宙領域における各国の最新動向について解説します。
防衛省の「防衛白書」等の公開情報を読むと、各国が単にロケットを打ち上げるだけでなく、宇宙空間における「攻撃」「監視」「防御」の能力を、それぞれの戦略に基づいて強化している実態が浮かび上がってきます。
今回は、国別の縦割りではなく、「宇宙で何が行われているか」という3つの視点から、最新の情勢を分析します。
1. 【攻撃】 衛星を無力化する技術(ASAT)
最も懸念されるトレンドは、他国の衛星を物理的、あるいは電子的に妨害・破壊する対衛星兵器(ASAT)の開発競争です。
ロシアの「対宇宙兵器」評価: ウクライナ情勢下でもロシアの宇宙活動は活発です。特に米国政府は、2024年にロシアが打ち上げた「コスモス2576」について、他の衛星を攻撃できる能力を備えた対宇宙兵器であると評価しています。また、独自の宇宙ステーション計画やインターネット衛星網の構築も進めており、宇宙におけるプレゼンスを維持し続けています。
中国の多層的な能力: 中国は、アームを持ったロボット衛星による捕獲技術や、地上配備型レーザーなど、多様なASAT能力の開発を進めていると指摘されています。これは、有事の際に相手国の「目(偵察衛星)」や「耳(通信衛星)」を奪う能力を意味します。
2. 【監視】宇宙からの目と通信網の確保
地上での軍事行動を優位に進めるため、宇宙からの監視網と、高速な情報通信網(コンステレーション)の構築が急ピッチで進んでいます。
中国の「千帆(せんほ)」コンステレーション: 2024年から、低軌道インターネット衛星群「千帆星座」の打ち上げを開始しました。これは数千基の衛星で地球を覆う計画で、軍事作戦に必要な情報の即時伝達能力を飛躍的に高めるものです。また、組織面でも「軍事宇宙部隊」と「サイバー空間部隊」に再編し、専門性を高めています。
北朝鮮の「偵察衛星」運用: 北朝鮮は2023年、「万里鏡(マンリギョン)1」の打ち上げに成功し、運用を開始したと主張しています。「偵察衛星運営室」が設置され、撮影データを軍事作戦に直結させる体制(党中央軍事委員会への報告ルート)を構築している点は、安全保障上の注視すべきポイントです。
韓国の独自能力強化: 韓国も米国依存からの脱却を図り、2023年から独自の軍事偵察衛星を打ち上げています。2025年には計5基体制を目指すほか、「宇宙航空庁(KASA)」の発足や「宇宙作戦戦隊」への改編を行い、朝鮮半島周辺の監視能力を自前で確保しようとしています。
3. 【防御】 民間資産の保護とアイアンドーム
「宇宙軍」を持つ米国を中心に、同盟国側は官民を統合した防御態勢の構築を急いでいます。
米国の「商業宇宙統合戦略」: 米国にとって、SpaceXなどの民間宇宙企業は重要な資産です。2024年の戦略文書では、民間システムと政府システムの統合を進めるだけでなく、「民間資産の防護のために軍事力を行使する可能性」に言及しました。これは、民間企業の衛星への攻撃が、国家への攻撃と見なされ得ることを示唆しています。
トランプ大統領の「アイアンドーム」構想: 2025年1月には、宇宙アセットを活用したミサイル防衛網「米国のためのアイアンドーム」に関する大統領令が発出されました。極超音速兵器などの新たな脅威を宇宙から早期探知・追尾する衛星網(PWSA)の構築が加速しています。
日本の同盟国・パートナーとの連携: NATOが宇宙への攻撃を集団的自衛権の対象になりうると認識しているように、日本も米国やインド、欧州との連携を深め、宇宙状況監視(SSA)などの分野で協力体制を築いています。
私たちへの影響と対策:アナログの復権
ここまで各国の動向を見てきましたが、これらは決して遠い空の上の出来事ではありません。 私たちのビジネスや生活は、すでに「宇宙インフラ」なしでは成り立たない構造になっています。
リスク:もし宇宙インフラが使えなくなったら?
有事や大規模な太陽フレア、あるいはサイバー攻撃などで衛星機能が麻痺した場合、以下のような影響が想定されます。
位置情報の喪失(GPS): カーナビやスマホの地図が使えなくなるだけでなく、物流のトラッキングシステムが停止します。
「時刻」の喪失(Timing): これが最も深刻です。GPS衛星は極めて正確な「時刻情報」を地上に送信しています。金融取引の確定、送電網の同期、携帯電話基地局の制御などは、この正確な時刻に依存しています。これがズレると、ATMが停止したり、通信障害が発生したりする恐れがあります。
通信の途絶: 衛星通信に依存している遠隔地や、船舶・航空機との連絡が取れなくなります。
推奨される対策:「アナログ」という最強のバックアップ
高度にデジタル化された社会だからこそ、いざという時のための「アナログな備え」が企業のBCPとして価値を持ちます。
紙の地図とマニュアルの配備: デジタル地図がダウンした際に備え、配送ルートの紙地図や、システムに頼らない業務フロー(手書き伝票での処理手順など)を整備しておくこと。
通信手段の多重化: 特定の通信網(携帯電話や特定の衛星通信)に依存せず、有線回線や無線機など、異なるインフラを用いた連絡手段を確保すること。
「オフライン」での意思決定訓練: 正確なリアルタイム情報が入ってこない状況下でも、現場の判断でビジネスを止めないための権限委譲や訓練を行っておくこと。
最後に
宇宙軍や各国の動向は、遠い空の話ではなく、地上のインフラを誰が握るかという現実的な競争です。 「デジタルは便利だが、絶対ではない」という認識を持ち、アナログという保険をかけておくことが、不確実な時代を生き抜く知恵となります。
スマホの地図アプリやカーナビの普及により、地図を記憶したり、地形を読んだりしなくても目的地にたどり着けるようになり、AIのにより「最適な判断」そのものを依存する世の中になりつつあります。
しかし、真のリスク管理とは、ツールがなくなった時、自分自身に何が残るかを問うことです。 便利なテクノロジーを使いこなしつつも、いざという時は自分の脳で地図や地形を読み解き、自分の頭で決断を下す。 この「人間としての基礎能力」を錆びつかせないこと(システム馴致者にならないこと)こそが、どんなハイテク兵器にも勝る、最強のセキュリティなのかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
本プロジェクトは、日本の危機管理意識の向上と、具体的な生存対策の普及を目指して活動しています。
日本民間危機管理プロジェクト(J-CIRCON) 執筆者:梅木(うめき)
公式サイト:https://j-circon.jp公式X (Twitter):@j_circon
【参考資料・出典】
出典:防衛省「令和7年版防衛白書」
