誉を2025年の技術で作り直したら、四式戦は本当に速くなるのか
エンジンは、強くできました。
が、四式戦はその力をそのまま使い切れませんでした。
今回の話を一言でまとめると、そういうことになります。
中島「誉」二一型を、2025年までに実用化された材料や加工技術、表面処理、点火、潤滑、品質管理などを使って作り直したら、どこまで強くできるのか。そして、その「誉2025」を四式戦「疾風」に載せたら、本当に速くなるのか。今回はそれを計算してみました。
標準的な条件で計算したところ、誉2025の離昇時の出力候補は2,142.0 PSになりました。史実の誉二一型は2,000 PSですから、エンジン単体では142 PS強くなったことになります。
ところが、史実仕様の四式戦に搭載してみると、上昇を始める段階で機体側が実際に使えると判断できた出力は1,887.9 PSでした。
2,142 PS出せるはずのエンジンなのに、なぜ四式戦では1,888 PS弱しか使えないのでしょうか。今回は、その理由を追っていきます。
四式戦全体を2025年化するのではありません
「誉を現代技術で作り直す」と聞くと、四式戦そのものが劇的に速くなるように思えるかもしれません。
ですが、飛行機はエンジンだけで飛んでいるわけではありません。エンジンが生み出した力は減速機を通り、プロペラへ伝わり、最後に推力へ変わります。その間には、エンジンを冷やす仕組みも必要です。
エンジンがどれだけ強くても、減速機がその力に耐えられなければ、あるいはプロペラがその馬力を吸収しきれなければ、あるいは冷却が追いつかなければ、エンジン単体で出せる馬力を、そのまま飛行機で使うことはできません。
そこで今回は、四式戦全体を一気に現代化することはしませんでした。変更するのは、誉のエンジン本体と、それを成立させるための燃焼、燃料、点火、監視などです。一方で、プロペラ、減速機、過給機、機体側の冷却設備、主翼、機体外形、空力は史実仕様のまま残しています。
つまり今回の実験は、「2025年の技術で新しい四式戦を作る」というものではありません。「史実の四式戦に、現代技術で再設計した誉だけを載せたらどうなるか」という実験です。
何を2025年化したのか
今回変更したのは、主に材料、加工精度、内部部品、潤滑、燃焼設計、燃料、点火、監視技術です。
燃料についても、史実誉と誉2025では条件を分けています。史実誉は航空91揮発油を基準とし、必要な定格では水メタノール噴射を使います。[1][2] 誉2025では、100LLなどの現代航空ガソリンを設計燃料としました。[7]
つまり今回の改良は、単に「昔の材料を現代材料に置き換えた」というものではなく、燃料や燃焼条件も含めた再設計です。
電子技術については、点火精度、局部的な燃料計量、センサーによる監視、試験時の計測などに限定しました。現在の自動車や航空機のように、コンピューターがエンジン全体を統合制御する仕組みまでは採用していません。プロペラや過給機の電子制御も行いません。
一方、史実プロペラの直径・枚数・回転数・ピッチ制御、史実の減速比と減速機、史実の過給機、史実のカウリングや冷却入口・バッフル・出口・冷却フラップ、そして機体外形や主翼、構造、空力、操縦系、燃料搭載量、武装、着陸装置などは変えていません。
誉だけを強くしたとき、次にどこが限界になるのか。それを見るための実験だからです。
まず史実の誉を固定します
比較の出発点は、誉二一型の離昇出力2,000 PSです。
ここで使っているPSは「仏馬力」と呼ばれる単位です。戦前・戦中の日本の航空発動機資料では、このPS表記が多く使われています。英米でよく使われるhpとは少し違う単位です。
本シリーズでは日本側資料を優先し、離昇出力2,000 PS、公称一速1,900 PS、公称二速1,700 PSを史実誉の基準値として固定しました。常用最大については1,400~1,500 PS程度の範囲で扱っています。[1][2][3]
ただし、史実資料にも不明点は残っています。正式な詳細性能曲線をまだ取得できていないため、史実の数字だからといって、すべてが完全に確定しているわけではありません。今後、より確度の高い一次資料が見つかった場合には、その時点で見直します。
機体重量も同じです。今回の主な計算では、四式戦の通常全備重量候補として3,763.7 kgを使いました。ただし、この数字にも史料上の不確実性は残っています。米軍試験時には7,900 lbや7,940 lbといった別の重量記録もありますが、条件が違うため、一つの数字に混ぜることはしていません。[4]
以前の記事より、条件を厳しくしました
以前の「誉2025」の記事では、誉というエンジン単体の可能性を考えました。今回は、実際に四式戦へ載せるところまで計算したため、条件をさらに厳しくしています。
以前の記事では、最大2,000~2,200 hp級、連続1,700~1,800 hp級、2,500 hp級といった数字も扱いました。ですが今回は、この数字に結果を合わせてはいません。史実の回転数と過給機を残したうえで、空気をどれだけ送り込めるか、燃焼できるか、ノッキングを防げるか、部品が耐えられるか、潤滑が成立するか、熱を処理できるか、そして四式戦側がその出力を受け止められるかまで、順番に確認しています。
以前の記事と違う数字が出たとしても、今回は新しい計算結果を優先しました。
誉2025は2,142 PSになりました
標準的な条件で計算した場合、誉2025の離昇・短時間最大出力候補は2,142.0 PSとなりました。史実誉の2,000 PSに対して、142 PSの増加です。2,142 PSは英馬力に直すと約2,113 hpになります。
連続して使う場合の最大出力候補は1,536.7 PSとなりました。
ここで重要な注意があります。この2,142 PSは、実際に製造して耐久試験まで終えたエンジンの保証出力ではありません。材料、燃焼、強度、潤滑、熱などの条件から見て、設計上成立する可能性がある出力です。実機で振動試験、ノッキング試験、長時間耐久試験、分解検査などを行っていないため、寿命や量産時の信頼性までは判断できません。[11]
ところが四式戦では1,887.9 PSしか使えません
ここからが今回の一番重要な部分です。
標準条件の上昇開始時、誉2025はエンジン単体では2,142.0 PSを出せる計算になりました。しかし、その力を史実の四式戦へ入れてみると、実際に航空機側で使えると判断できた出力は1,887.9 PSまで下がりました。約254 PSの差があります。
ただし、この254 PSがどこか一つの部品で「消えた」と考えるのは正しくありません。減速機には許容できる力の限界があります。プロペラにも吸収できる馬力の限界があります。冷却にも限界があります。さらに、短時間しか使えない出力を長時間使うこともできません。
こうした条件をすべて通した結果、その飛行条件では使えないと判断された出力が約254 PSあった、という意味です。単純なエネルギーの損失ではなく、減速機、冷却、プロペラ、運用条件といった条件を通した結果、その条件では航空機用として利用できないと判断された部分だと考えてください。
つまり、エンジンを強くすることと、飛行機を強くすることは同じではなかったのです。
四式戦はどこまで速くなったのか
標準条件での計算結果は次のようになりました。
最高速度
史実誉モデル:645.78 km/h、誉2025:657.90 km/h。差は+12.12 km/hでした。
高度6,120 mでの速度
史実誉モデル:630.84 km/h、誉2025:643.87 km/h。差は+13.04 km/hでした。
5,000 mまでの上昇時間
史実誉モデル:302.45秒、誉2025:281.49秒。約21秒短縮しました。
全備重量
史実誉モデル:3,763.7 kg、誉2025:3,768.7 kg。差は+5 kgでした。
数字だけを見ると、確かに四式戦は速くなっています。ですが、657.90 km/hを「誉2025を積んだ四式戦なら必ず657.90 km/h出る」と考えてはいけません。これは実機試験の数字ではなく、同じ計算モデルの中で史実誉と誉2025を比較した結果です。
比較の基準として知られている631 km/h・高度6,120 mという数字に対して、このモデルは同高度で630.84 km/hを出しました。この点ではかなり近い数字になっています。一方で、モデル上の最高速度は高度7,000 mで645.78 km/hになっています。速度が近いからといって、飛行特性全体を完全に再現できているとは限りません。
上昇時間も同じです。文献には5,000 mまで5分54秒、つまり354秒という値もあります。しかし、その試験時の重量、出力の使い方、装備、計時方法、上昇手順などが完全には分かっていません。そのため今回は、計算結果を354秒に無理やり合わせることはしていません。
一つの条件だけでは決めません
ここまでの数字は、あくまで標準的な条件です。ですが、史実資料には不明点があります。
そこで今回は、控えめな条件・標準的な条件・楽観的な条件という3段階を用意しました。さらに、エンジンだけでなく、プロペラと冷却についても3段階の条件を設定しています。3×3×3で、合計27通りを計算しました。
その結果、最高速度の改善量は**+1.37~+20.60 km/hとなりました。5,000 mまでの上昇時間は4.69~38.85秒短縮**となりました。
興味深いのは、27通りすべてで性能が改善したことです。ただし、改善の大きさにはかなり幅があります。
そこで今回は、「改善する傾向がある」ことと、「何km/h速くなると断言できる」ことを分けて考えました。計算モデルそのものにも誤差や不確実性があります。そのため、モデルの不確実性より小さい変化は「明確な改善」とは判定しない仕組みにしています。
その基準と比較した結果、速度と上昇のどちらも、改善傾向はあるが、改善量までは断定できないという判定になりました。
言い換えるなら、速くなる方向はかなり一貫しています。しかし「確実に12 km/h速くなる」とまでは言えません。
では2,142 PSはどうやって出したのか
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