世間にはふとしたことから その人の一生を左右することがありがちである 鬼火 (1956) 東宝
千葉泰樹監督
原作は 吉屋信子の短編小説。
小説は 異様さを際立たせる語り口で 書かれており
のちには「現代怪奇小説集」に収録され
怪談風スリラーと 位置ずけられている。
映画は わずか46分という短さですが 怖いです。
同じタイトルでも
ルイ・マル監督の『鬼火』とは ぜんぜん関係ありませんわよ。
〇
東京の下町。
忠七 (加東大介)は ガスの集金人である。
まじめに働いているが カツカツの暮らし。
下宿代も溜めており 女房どころか
まったくの女っ気なしで いつもモヤモヤしている。
真夏の日盛りの中
忠七は今日も一軒、一軒、集金にまわる。
はじめに行った家は留守だったが
勝手口から入ると そこに財布が無造作に置いてある。
忠七は鍋の蓋で 何気に財布を隠してやる。
そこへ押し売りが来たが
それもうまく 追い払ったところへ
家の女 (中北千枝子)が戻って来て
お礼に煙草を ひと箱貰う。
今日はなかなかいい調子だ。
しかし次に行った金持ちの家では
主人 (中村伸郎)が
女中を手籠めにする現場を 覗き見てしまい
「会社に電話してクビにしてやる!」と
激怒した主人に 平謝りした。
気分を害した忠七が 次に向かったのは
ガス料金を滞納している
野っ原にぽつんと建つ 荒れ果てた一軒家で
そこには
病気で寝たきりの夫 (宮口精二)と
その妻 (津島恵子)がいた。
忠七は 滞納しているガス代を払わないと
ガスを止めると伝えるが
ガスを止められると
夫の煎じ薬や おかゆも作れなくなり
生きては行けないと懇願される。

ここで忠七は 良からぬことを考える。
身なりはみすぼらしいが 女は美しい。
ガス代を立て替えてやるから
今晩、その気で 自分の家へ来い。
女は承知した。
家の場所を教え 電車賃を置いて 忠七が帰ると
病床から 夫が声をかける。
ひと間と台所しかないから 筒抜けだ。
そして 出かけようにも 帯もないという妻に
自分の帯を解いて 締めていけという。
何もかも承知で 妻を出す夫。
その夜、忠七は銭湯で磨きをかけ
妄想をする。
小綺麗に着飾った女が
「遅くなってごめんなさい」

さて現実は さんざん待たされ
深夜になって やっと女は現れたが
化粧っ気もなく 昼間と同じみすぼらしい浴衣に
亭主の帯を締めて・・・
しかし、まあいいや
布団を敷いて 電気を消した、そのとき
階下から 外から帰って来た大家の大声がする。
「お客さん、見えたんだね、お茶入れようか」
なんと、間の悪い。
ここで、はっと我に返った女は
転がるように逃げ出し もう戻って来なかった。
家に帰った妻は 夫の枕もとで訴える。
「ほんとは あなたに言えないようなことに
なっていたかも知れないけれど でも何もなかったの
ごめんなさい、もう死んでもあんなこと考えないわ」
しかし夫は 妻の声など聞こえぬかのように
「あ、外の虫が 鳴き止んじゃったな」
「あなた、疑ってるのね」

「俺たちは不幸だな」
翌日、忠七が 昨夜の怒りを溜めて
この家にやって来ると
暗い台所でガスの火が めらめらと燃えている。
そのかたわらに・・・
〇
怖い話だけれど
加東大介さんのキャラクターに救われる。
でも・・・よ~く見ると

加東大介さんの妄想に現れる 津島恵子さんは
着物を(死に装束の) 左前に着ている。
ここは、ゾッとする。
まあ、でも、あれれ、
加東大介・津島恵子・宮口精二といったら
この2年前『七人の侍』の トリオじゃありませんか。
おしまい

