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67年 ニューポート・ジャズ・フェスティバル出演時のガボール・ザボ・クインテット 『Emily』

1967年10月1日、ロードアイランド州ニューポート。ジャズが大きく変化の只中にあった時代、ガボール・ザボは独特の存在感を放つギタリストとして注目を集めていました。ハンガリー出身の彼は、東欧的な旋律感覚とアメリカン・ジャズの語法を自然に溶け合わせ、技巧の誇示よりも音の陰影や余白の美しさで聴き手を惹きつける稀有な表現者でした。

この日の編成は次のクインテットです。
Gabor Szabo(guitar)、Louis Stewart(guitar)、Louis Kabok(bass)、Bill Goodwin(drums)、Hal Gordon(percussion)。
ギターを二本据えた編成が、この演奏の大きな特色となっています。ザボが旋律の核を描く一方、ルイス・スチュワートのギターは和声の広がりや繊細な装飾を添え、音楽に奥行きと柔らかな陰影を与えています。

演奏曲はジョニー・マンデル作曲の名曲『Emily』です。もともとは映画『いそしぎ』で広く知られるメロディですが、ザボの手にかかると、それは単なるスタンダードではなく、どこか異国の祈りを思わせる響きへと変貌していきます。旋律の美しさを保ちながらも、独特の間合いや音色の揺らぎによって、聴き慣れたはずの曲が新しい質感を帯びて立ち上がるのです。

ザボのギターは決して雄弁ではありません。むしろ音数は抑えられ、フレーズの余白が語りかけてくるタイプの演奏です。その背後でスチュワートのギターが柔らかく支え、二本のギターが互いに光と影のように作用します。このバランスが、バラードでありながらどこか幻想的な響きを生み出しています。

リズム・セクションも実に慎重です。ルイス・カボックのベースは重心を安定させながらも過度に前へ出ず、ビル・グッドウィンのドラムは空間の呼吸を整えるように控えめに刻まれます。そこへハル・ゴードンのパーカッションが加わり、音楽の表面に微細な粒立ちを与えます。拍を強調するというより、音の余韻に柔らかな質感を添える役割と言えるでしょう。

1967年という年は、ジャズがロックや民族音楽、スピリチュアルな方向へと視野を広げていた時期でした。その中でザボの音楽は、急進的というよりも“静かな越境”を感じさせます。旋律の美しさを保ちながら、音色やリズムの手触りを変えることで、スタンダードを新しい風景へ導く。その姿勢が、この「Emily」によく表れています。

映像で聴くこの演奏は、劇的な展開や派手な技巧で聴かせるパフォーマンスではありません。それでも、気づけば音の余韻の中へ自然に引き込まれ、旋律の揺らぎや空気そのものに耳を澄ませている自分に気づきます。二本のギターが作る陰影、抑制されたリズムの呼吸、そしてパーカッションの細やかな粒。それらが折り重なり、名曲を“よく知っている曲”から“新しい景色を見せてくれる音楽”へと静かに更新していくのです。

ニューポートの秋の空気の中で響いたこの『Emily』は、1960年代後半のジャズが持っていた開放性と、多文化的な感性の交差をさりげなく映し出しています。激しく主張するわけではない。しかし確実に心に残る――ザボらしい美学が息づく、静かな名演と言えるでしょう。

以前ビル・エヴァンスの記事で『Emily』を取り上げているので、よかったら聴き比べてみてください。


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