深層外旋筋群の緊張をどう落とす?正確な解剖から考える徒手アプローチ ― Movement Equation #41 ―
股関節深層外旋筋群は、梨状筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、上・下双子筋、大腿方形筋などから構成されます。

これらは股関節の深部に位置し、一つひとつの筋も小さいため、徒手的にアプローチする難易度は決して低くありません。
だからこそ重要なのが、
「なんとなくお尻の奥を押す」のではなく、骨指標と筋の付着部・走行を理解して触ることです。
今回は、深層外旋筋群の緊張を落とすための徒手アプローチを、解剖学的な位置関係とともに細かく解説していきます。
まずは大腿骨側の付着部を確認する
深層外旋筋群へアプローチするとき、最初に確認してほしいのが大腿骨側の付着部です。

梨状筋、内・外閉鎖筋、上下双子筋、大腿方形筋は、いずれも大転子周囲や転子窩、転子間稜周囲へ停止しますが、その位置は同じではありません。
「外旋筋だから大転子のあたり」
という曖昧な理解ではなく、
どの筋がどこから走り、どこへ停止しているのか
を確認したうえで触れることが重要です。
深層外旋筋群のような小さな筋では、正確な解剖学的ランドマークを利用することが、アプローチの再現性を高めることにつながります。
まずは大腿骨側の腱・筋腱移行部周囲を確認し、腱の走行を横断するように軽く圧刺激を加えます。
この方法について、「ゴルジ腱器官を刺激してIb抑制を起こす」と説明されることがあります。
ゴルジ腱器官が筋張力を感知し、Ib求心性線維を介して脊髄レベルの筋活動調節に関与すること自体はよく知られています。
一方で、徒手的に腱を圧迫することによってゴルジ腱器官が選択的に刺激され、Ib抑制によって筋緊張が低下する、と単純に説明できるだけの直接的なエビデンスは十分ではありません。
そのため、ここでは「Ib抑制を起こす」と断定するのではなく、腱・筋腱移行部への感覚入力を利用して筋緊張を変化させるための導入刺激として捉えます。
大腿骨側へのアプローチができたら、続いてそれぞれの筋の近位付着部へアプローチしていきます。
梨状筋へのアプローチ
梨状筋は仙骨前面外側から起始し、大坐骨孔を通過して大転子方向へ走行します。

臨床では仙骨外側周囲が硬結様に触れるケースも少なくありません。
この領域は圧痛が出やすいため、最初から強く押し込むのではなく、軽い持続圧から開始し、組織の反応を確認しながら徐々に圧を調整してください。
筋腹を探す際には、
PSIS・尾骨・大転子によって作られる三角形
を一つの目安として利用できます。
この領域で梨状筋の走行をイメージしながら緊張をモニタリングし、硬さの強い部分に持続圧を加えていきます。
ただし、梨状筋の近くには坐骨神経が走行しています。
圧迫によって殿部から下肢へ放散する痛みやしびれが生じる場合には、刺激する位置や強度を変更する必要があります。
外閉鎖筋へのアプローチ
外閉鎖筋は閉鎖孔周囲の外面および閉鎖膜外面から起始し、大腿骨頸部後方を通って転子窩へ停止します。

患者を仰臥位とし、股関節軽度屈曲・外旋、膝関節軽度屈曲位とします。
長内転筋の後方から近位・深部方向へ触診していき、坐骨周囲を骨指標として確認します。
ここで注意したいのは、
「坐骨を乗り越えれば、そこが外閉鎖筋」ではない
ということです。
外閉鎖筋は深部に位置し、周囲には他の筋や神経血管構造も存在します。
そのため、骨指標だけで筋を断定するのではなく、閉鎖孔から大腿骨頸部後方へ向かう外閉鎖筋の走行を三次元的にイメージしながら、起始部周囲へ慎重にアプローチします。
最初は軽い持続圧を加えます。
組織の緊張が低下してきたら、圧を維持したまま股関節をゆっくり内旋させます。
外閉鎖筋は外旋作用を持つため、圧を加えた状態で内旋方向へ動かすことで、筋腱複合体への伸張刺激を加えます。
これをゆっくり繰り返します。
内閉鎖筋・上下双子筋へのアプローチ
内閉鎖筋は閉鎖膜内面およびその周囲から起始します。

そこから小坐骨孔を通過して走行方向を変え、大転子内側面方向へ向かいます。
内閉鎖筋の上下には、
上双子筋:坐骨棘
下双子筋:坐骨結節上部

から起始する上下双子筋が位置しています。
まずはこれらの骨指標を確認し、それぞれの近位付着部周囲に軽い持続圧を加えていきます。
ここで知っておきたいのが、triceps coxaeです。

内閉鎖筋と上・下双子筋は非常に密接な位置関係にあります。これら3筋は内閉鎖筋腱を中心として一体となって大転子へ向かい、機能的な筋腱複合体として「triceps coxae」と呼ばれます。
そのため、臨床でこれらの筋を完全に切り分けて触診・評価することは容易ではありません。本記事でも、それぞれの筋の位置や走行を意識しながらも、内閉鎖筋と双子筋群を一つの機能的なユニットとして捉えてアプローチしていきます。
内閉鎖筋・双子筋の筋腹へアプローチする
近位付着部周囲の緊張が低下してきたら、次に筋腹へアプローチします。
まず仙結節靱帯の外側をランドマークとして確認します。

反対側では大転子後方を確認し、内閉鎖筋・双子筋が大転子方向へ向かう走行をイメージします。
この2点の間に指を置き、組織へ軽く圧を加えます。
その状態から股関節をゆっくり内旋・外旋させます。
ここで重要なのは、
指を皮膚の上で滑らせないことです。
圧を保ったまま股関節を動かし、筋そのものを指の下で動かすイメージで行います。
内旋・外旋によって筋線維の位置や張力が変化するため、その変化を指先で感じながらアプローチしていきます。
大腿方形筋へのアプローチ
大腿方形筋は坐骨結節外側部から起始し、転子間稜の方形結節周囲へ停止します。

そのため、まず坐骨結節をランドマークとして確認し、外側方向へ筋の走行をイメージします。
近位付着部周囲に軽い持続圧を加え、組織の緊張が低下してきたら筋腹方向へアプローチしていきます。
大腿方形筋も股関節外旋作用を持つため、圧を加えた状態で股関節内旋を組み合わせることで、筋腱複合体への伸張刺激を加えることができます。
ただし、深殿部には坐骨神経をはじめとする重要な神経血管構造が存在します。
強い圧、鋭い痛み、下肢への放散痛やしびれを伴う刺激は避けてください。
付着部から筋腹、そして筋間へ
ここまでそれぞれの筋について説明してきましたが、基本的なアプローチの順序は共通しています。
まず、
① 近位・遠位付着部周囲へアプローチして緊張を落とす
次に、
② 筋腹を横断するようにアプローチする
そして最後に、
③ 筋の際に指を入れるようにアプローチし、周囲軟部組織との滑走性を引き出す
という順序で進めていきます。
深層外旋筋群は一つひとつが独立して存在しているわけではなく、隣接する筋や筋膜、腱などと非常に近い位置関係にあります。
そのため、筋そのものの緊張だけでなく、周囲軟部組織との相対的な動きも確認することが重要です。
筋の境界を触り分けられる場合には、筋と筋の間へ指を差し込むように圧を加えます。
これは筋を強く押しつぶすことが目的ではありません。
隣接する組織との滑走を確認しながら、周囲軟部組織との動きを引き出していく
というイメージで行いましょう。
「強く押す」より「正確に触る」
深層外旋筋群は、
小さい。
深い。
そして互いに非常に近い。
だからこそ徒手的にアプローチするときに重要なのは、強い刺激を加えることではありません。
骨指標を確認する。
起始・停止を確認する。
筋の走行を三次元的にイメージする。
そのうえで、
腱・筋腱移行部(近位・遠位付着部) → 筋腹 → 周囲軟部組織との境界
と段階的にアプローチしていきます。
「お尻の奥が硬いから、とりあえず押す」
ではなく、
「今、自分がどの組織に触れているのか」を理解しながら触る。
深層外旋筋群のような小さく深い筋だからこそ、この解剖学的な正確性が非常に重要になります。
そして、緊張が落ちて可動性が改善したとしても、それだけで治療は終わりではありません。
徒手療法によって得られる筋stiffnessの低下は一時的である可能性も報告されています。
そのため次に必要なのは、改善した可動域の中で深層外旋筋群を適切に働かせることです。
次回は、それぞれの深層外旋筋を狙って働かせるためのCorrective Exerciseについて解説していきます。
皆さんは深層外旋筋群に徒手的にアプローチするとき、どのようなランドマークや肢位を使って触り分けていますか?
実際に反応が良かった触診・徒手アプローチや、今回とは違った見方も含めて、ぜひ皆さんの臨床経験を聞かせてください。
参考文献
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