支度を整えて
昨夜。
また自宅から、実家に戻り、母に「ただいま」と声を掛けます。
お棺に入ってしまった母の顔は、遠くからは見えないので、棺に近づいて顔を見ると、なんとなく「おかえり」と言ってくれている気がしました。
それから、また母とコーラで晩酌をしながら、その日にあったことを話したりしました。
そういえば、母は葬儀屋さんにも「自分のお葬式の時には、おばあちゃんの着物を一着持っていきたい、お棺に入れてほしい」とお願いしていたと聞きました。
前回は、母が退院してくる前に、時間が無い状態で探したこともあって、見つけられなかったけど、今回は最悪夜が明けるまで探すことができるので、思い切って、着物を探すことにしました。
着物が入っているのは、今まで母が休んでいた寝室の押入れの中です。
この押し入れ、ちょっと曲者で、押し入れの扉自体が壁板と同じ物になっていて、それを1枚1枚外さないと開け閉めできないのです。
早速、組み合わせになっている壁板を外し、押し入れのタンスを開きます。
前回は、引き出しを中心に探したので、今回は積まれている桐箱を開けてみます。
一つ一つ、桐箱を出してみると、丁寧に仕舞われていたからか、ホコリも無く、キレイな状態です。
そんな桐箱を開けて、さらに着物の入ったたとう紙を一つずつ丁寧に出していきます。
今回探しているのは、写真に写っている「金彩の鶴や吉祥文様の緑色の着物」か、母が着せてもらった着物の色違いで、「鮮やかな橙色の着物」です。
なんとなく該当しそうな色の着物をピックアップし、それ以外はまた桐箱に戻すのですが、この作業を複数ある桐箱で行うことを考えると、時間はいくらあっても足りません。
ピックアップした着物のたとう紙を開き、中身を確認していきます。
こうして見ると、昔は着物しか着るものが無かったことや、仕事でも着物を着る機会が多かった事もあって、いろんな種類や色の着物が多いです。
そして、「祖母の実家からもらったもの」や「親戚の◯◯さんから」という形で、たとう紙に走り書きがあるものもありました。
ああ、本当にこの家は、いろいろな家と繋がって受け継がれてきたところなんだな、と改めて実感するのでした。
しばらく探していると、金の入った着物を見つけました。
ただ、緑色ではない…のか、思っていた色と違います。
思い切って、広げて見ると、明らかに写真と同じ模様、同じ金の鶴たちが舞っている吉祥文様の着物が、そこにはありました。
どうやら、写真では緑色に見えているのは、灰色だったようです。
「やっと見つけたよ!」
喜んで、母に見せるために着物を棺のところに持っていきます。
母は、ホッとしたような、嬉しそうな顔をして、その着物を見てくれているような気がしました。
これで、母との約束、願いのほとんどを叶えてあげることができました。
それは同時に、母を送り出す準備が整った瞬間でもあり、
お別れの準備が整った瞬間でもありました。
とりあえず、出してしまった着物を戻して、タンスに戻さないと、明日の作業に差し支えるので、急いで片付けましたが、やっぱり2時くらいになってしまいました。
その日は、母も仕方ないと思ってくれたのか、早く寝ろ、とまぶたの裏に現れることはありませんでした。
朝。
昨日の夜ふかしが響いたのか、起きられたのが7時を回ってしまっていました。
父と、前に書いた掃除を手伝ってくれている人と話す声が聞こえます。
急いで、外に出て、掃除を始めます。
掃除を終わらせると、母に「おはよう」と声を掛けます。
お茶が好きだった母なので、お茶を棺の前において、お参りします。
さあ、今日もがんばらないと。
今日からは斎場として、自宅の部屋を葬儀屋さんに支度してもらう日です。
アルバイトの子たちにお店は任せて、私は業者の人たちと打ち合わせしつつ、片付けを手伝って回ります。
今日も午後から来た姉に「お前は気が利かないし、何考えてるか分からない。何もかも足りない」と言われました。
でも、私に言わせれば、まったく同じ事を姉や父に言えるんです。
だから、人それぞれ。
私は、姉に比べたら気が利かないというのは事実だと思うし、何かが足りてないというなら、たぶんそうなのでしょう。自分が完璧だとは思ったことはありません。
ですが、こんな状況ですから、気が利かないというなら、気が利くという人がそれらに対応してくれたらいいし、足りてないというなら、補って協力してほしい。
そして、私も同じように、気がついたところは補って支えれば、それでいい、それが家族なんじゃないかなと、そういうふうに考えているだけなんです。
足りないと指摘して、何もしない、相手にやれ、と言っているだけなら、それは気が利いていようがなんだろうが、気がついていないのと同じだと思うんです。
きっと、姉たちには伝わらない話なんだと思います。
家族というよりは、異星人ですから。
思いっきり愚痴ってしまいました笑
話を戻します。
なんだかんだと動いて、今日も母の顔を見たいと尋ねてきてくれた方の対応をしつつ、葬儀屋さんや、神社の神主さんとの打ち合わせなどもして、明日の葬儀に向けての準備がある程度、整いました。
母の葬儀の準備をしていると、関わりのある人たちの心のこもった言葉が本当にありがたいなぁ、と思うのです。
これも、母が生前に皆さんに、親切にしていたから。
笑顔を絶やさずに接していたからなのだと思います。
母は内弁慶で、人の好き嫌いもはっきりしていましたが、それをぐっとこらえて、外に出さない大人な部分もありました。
私は、その辺のストッパーがちょっと壊れているところがあって、好きな人は好き、嫌いな人は嫌い、付き合わなくてもいい、と思ってしまうことが多々あります。
ただ、今回の件を通して、素直なのもいいけど、嘘はつかない範囲で、流せるようにならないといけないな、と思います。
もっと、ちゃんと大人にならないと。そう思います。
明日は母の葬儀です。
2日に掛けて行うので、明日の夜はまだ母とお話ができます。
それが母に直接語りかけられる最後の日。
お別れはきっとさみしいけれど、それでも、立派に。
母が、私の自慢の息子なんです、と、あちらでも言えるように。
この2日間は頑張ろうと思います。
あと2日。
最期まで母と一緒に。
