「共通テスト現代文の過去問演習を扱った夏期講習のオンライン授業事例」
東京都立小台橋高等学校 山口正澄
1 はじめに
本稿の内容は、オンライン授業形式による夏期講習での実践を通して、その指導事例の報告や所感などを記したものである。
2 夏期講習の実践報告
(1)学習内容について
・講習で扱ったのは、大学入学共通テスト国語の現代文第1~3問の過去問演習である。
・講習名は「大学入試問題にチャレンジ①②③」と名付けて、三区分の講習を設けた。①は第1問の評論文、②は第2問の文学的文章、③は第3問の実用的文章を扱った。生徒は事前に参加希望をFormsでの回答で申し出て、各自の任意で受ける形式の講習である。
・それらの過去問のデータは「大学入試センター」のサイトで公表されており、次のリンク先から閲覧できる。
※「過去3年分の試験問題」:https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/
・定時制課程の高校であるという事情もふまえ、普段の授業内ではなかなか触れない大学入試問題レベルの学習を、高い学習意識や問題演習への関心をもった希望者が集まってくれる夏期講習の中で、私なりに指導方法を試行錯誤しながら毎年取り入れている。この国語科の他にも、複数の教科・科目で通常授業の補習や興味関心に応じた独自の内容等と共に、大学入試対策用の講習を設けていた。
(2)オンラインによる実施について
・夏季休業中(夏休み中)の時期の暑さを鑑みて、登校しなくても学習できる手段を検討した。都立高校ではMicrosoft365のTeamsを導入しているので、ビデオ会議の機能を活用して、オンラインによる実施をすることにした。これは本校が開校した5年前(本稿の執筆当時)から実施を続けている。
・スケジュール設定をしておいたビデオ会議に、生徒は各自の端末を使って講習当日にオンライン参加し、問題を解いてから授業者による解説を視聴する形式で実施した。
・ただし、登校して学習することを望む生徒も一定数はいるので、対面とオンラインとのハイブリッド形式での実施もしている。対面での講習を受ける場合も、端末の画面を開いて、授業者の解説確認やデータへの書き込みをできるようにした。
・ハイブリッド形式で実施して良かった事例として、過去には天候不順が予想された日に「雨が心配なので今日は自宅で受けたい」とTeamsで事前連絡してきた生徒がいて、結果的に講習が終わった夕方の時間帯にゲリラ豪雨が発生し、その生徒は無理に登校しないで済み、安心して自宅で学習に取り組めた、ということもあった。余談として、出勤して講習をしていた私は、残念ながら帰りに大雨の土砂降りに見舞われてしまった。
(3)講習の事前準備
・事前にTeams内で受講希望の生徒専用のチームを独自に作り、その中で必要な連絡を投稿して伝えたり、学習に用いる共有データをファイルに保存したりしている。
・データは前掲の大学入試センターのサイトから得た「共通テストの過去問のPDF」を、事前に生徒がダウンロードしやすいように、チームへの投稿内容に添付したりリンクを貼ったりして提示しておいた。
・参考までに、今年度の講習用に生徒向けへTeams内で発信した投稿内容を抜粋して、次に掲載する。
【事前1】
国語の夏期講習「大学入試問題にチャレンジ①②③」に申し込んだ生徒さんへ、
申し込んだ皆さんの学習に対する意識や意欲が素晴らしいです。
夏休みも実りのある学習を続けていきましょう!
今後の連絡はこちらのチームで行います。
【事前2】
国語の夏期講習「大学入試問題にチャレンジ①②」の連絡です。
①②はこのチームでのオンライン形式の画面上で、PDFデータの問題用紙を解きます。
使う端末の設定によっては、画面上のPDFデータに自分で好きなようにメモや記号を書き込むこともできます。
講習で使う共通テストの過去問PDFデータを、この投稿に添付します。
データは3年分あり、①は第1問の現代文(評論文)を、②は第2問の現代文(文学的文章)を、それぞれ1日ごとに1年分ずつ扱います。
自分の端末でデータ自体を見られるか、ダウンロードして確かめておいてください。
当日に使う端末はスマホでも可能ですが、画面の小ささを想定すると、できればパソコンやタブレットの大きい画面で受講することをおすすめします。
講習では、ダウンロードした過去問データを端末の画面上で見ながら、20~25分間(実際の入試での想定時間)で解いてから、解説を聴く流れになりますが、事前にプリントアウトして印刷した紙に書き込んで解く形でも構いません。
紙で解きたい(紙の問題用紙が欲しい)生徒さんは、職員室のカウンター上のクリアファイル内に、3年分ずつを交互にまとめて置いてあるので、夏休み前に各自で受け取りに来てください。
解く時間が足りなそうで心配な人や、じっくりと時間をかけて解きたい人は、講習の前に解いておき、当日に再び解くのでもOKです!
【事前3】
夏期講習の③を受ける生徒さん向けの連絡です。
内容は共通テストの第3問で実用的文章の過去問演習ですが、
受講する皆さんの都合がよければ、明日は学校での対面形式で、明後日はオンライン形式での実施にしようと考えています。
詳しくは明日の講習でお伝えしますが、もし2日とも対面のままの希望者が現時点でいれば、その生徒さんは下の返信で教えてください。
なお、紙の問題用紙は初回に2日分をまとめて配布しますが、端末の画面上で解きたい場合は、次のリンク先からPDF版を開いて活用してください。
※上記【事前3】の補足説明
この夏期講習の③は、過去問の第3問を扱うにあたって、その問題を解くのに端末の画面上よりも、紙の印刷物で解くほうが生徒にとって学習しやすいと考え、元々は対面の形式で実施を計画していた。
第3問は実用的文章からの出題で、グラフや図表からの読み取りも含まれるので、生徒が解く際や授業者が解説で説明部分を伝える際に、紙でページを行ったり来たりしてめくりながらのほうが、お互いに取り組みやすいと考えたからである。
しかし、直前までの講習①②を受けていた生徒の様子から、オンライン学習を取り入れても実施可能だと判断して、上記のような連絡を投稿した。
受講した生徒の感想は後掲するが、この講習③に関して対面でもオンラインでも変わらずに学習に取り組めたようである。さらに、第1問や第2問に比べて第3問は講習で扱った本試験と追試験の2年分に関して、ほとんどの生徒が比較的取り組みやすそうにしていたことや、本校のような定時制課程の生徒の学習実態に合う要素が、実用的な文章を扱う第3問に大いにあるということも感じられた。
(4)実際の授業展開の流れ
・夏期講習の①②③は、いずれも毎回90分間ずつで実施した。
・①の第1問と②の第2問は最新の過去3年間分の本試験を1日につき大問1つずつ扱い、③の第3問は過去2年分(2年前から行われ始めたばかりである)の本試験と追試験の両方を1日につき大問2つずつ扱い、計5日間で実施した。
・受講中の生徒はマイクもカメラもOFFでOKとし、質問や確認事項で必要があればチャットに書き込むように指示した。こちらからの呼びかけや画面の見え方の確認には、リアクションマークで応答させた。
・生徒に解かせる前に、講習のねらいや過去問を解く際の注意点などを画面にOneNoteで提示した。普段の授業ではPowerPointで作成したスライドを使って説明することが多いのだが、OneNoteであればその場での書き込みや修正も私にとってはやりやすいので用いた。生徒同士で書き込みが共同編集できるページと個別で本人しか見られないページとを整理しやすいのもOneNoteの利点であり、講習内で生徒に質問をデジタルページ上に書かせて、それを元に解説につなげていったこともある。
・生徒が解き終わった後は、画面上に映し出した問題や設問箇所のPDFデータを使って、そこにデジタルペンで書き込みをしながら、解説していった。
・書き込みをしたPDFデータは、解説後にすぐアップロードしてチーム内の投稿欄に添付し、いつでも復習できるように、そして当日の欠席者も後から見て学習で使えるようにした。
(5)講習で起きた不具合やトラブルの事例
・自分のパソコン端末でビデオ会議に参加しようと準備したら、Windowsのアップデートで更新を必要とする状態になっていたという生徒がいたので、その場合はスマートフォンに使用端末を替えてもらうように伝えて対応できた。
・私の業務用パソコン端末で、PDFデータに書き込みながらの解説中に操作上の反応が鈍くなった(動きが重たくなった)ことや、そのPDFの文字も読みにくくなるような画面の見え方が粗くなってしまうトラブルが起きた。いずれも端末をすぐに再起動して対処をしたが、そのタイムロスや一時的に復旧しても再び不具合の状態に戻ったので、もう一台の別端末でTeamsに接続し直して、講習を続けたということもあった。
・授業者用アカウントのTeams画面とは別に、常にダミー生徒用アカウントで「今は生徒側にはどのように見えているのか、音声は届いているのか」といった確認用の端末も使って講習を進めた。しかし、その別端末の調子が突然悪くなって、生徒側にはきちんと画面共有で表示されているかの状況確認ができないまま講習をすることになった場面では焦ってしまった。
(6)講習後の出来事
現任校の夏期講習で共通テストの第1問と第2問の過去問演習を扱って指導した数週間後に、ある予備校講師が第2問を解説したライブ配信動画を視聴する機会があった。その解説では、私が講習で画面に書き込みながら生徒へ示した説明箇所の多くと同じ部分について、本文や選択肢で講師もチェックしていた。本文読解上のポイントとしたい内容や正答へのアプローチの仕方が似通っていることを実感する機会となった。また、自分の解説では触れなかった部分を根拠に示したり、消去法で選択肢を削ったりする解き方も参考になった。このような他者の解説方法を知ることも授業力向上に役立つだろう。
3 解説で使用した画面(抜粋)




4 受講した生徒の感想(抜粋)
【オンライン授業だからこその学習効果が出たという感想】
・先生の説明やスライドも見やすく、落ち着いたオンライン環境で勉強ができることが授業の集中力に繋がりました。
・とても聞きやすく、学習意欲も上がったのでオンライン形式での夏期講習を増やしてほしいと思いました!
・オンラインの生徒と登校した生徒で、学習方法が全く同じなので、オンラインを選んでも登校する方を選んでも、学習や勉強の質に差が出なさそうなので良いと思います。また、端末の操作などで分からないところがあっても、すぐに聞くことができる環境が整っているのがすごくよかったと思いました。
・ページをめくる手間や紙に書き込む必要がなかったから、集中して解くことができた。
・端末上に書き込むのは机の上がごちゃごちゃしなくて済むのでいいと思うが、個人的には紙の方が好きなように(表のように書くなど)書けるので、今回のような、端末でも、紙でもどちらでもよいという形態は良かった。
・特に問題もなく、紙媒体のものを使うのと同じくらいの速度で閲覧できた。
・図がある文章でも問題なくオンラインで内容が理解できました。
・リアクションに先生が反応してくれたことが嬉しかった。
【大学入試レベルの過去問演習で学習した感想】
・本格的な試験内容(制限時間、問題内容)で解くことで自身の思考力を知れ、授業回数を重ねるごとに考察力も身に付き、正解率も上がっていきました。
・大学入試の問題に挑戦するという内容は、普段自分からやらないので、やるきっかけになったのでよかったと思っています。さらに、解くだけでなく解答の確認や、解き方の例を解説してくれるのでとても助かりました。
・問題文の部分だけに着目するのではなく、始めから終わりまでを通して答えを出す方法を用いると良いのではないかと考えた。
・問題文をしっかり読んでいれば満点だって狙えたので非常に悔しいです。 ただ、正解こそしていたが、問題の理解が浅い部分があった。そこを、解説を聞いて理解できた。
・今回の講習で、自分には何が足りないか知ることができました。山口先生の説明は丁寧で、時に「なるほど」と思えるような説明をしてくれるので、良い学習になりました。
・今まで中学の頃にやってきた問題と違って難しく感じましたが、問題の解き方や考え方の力が身に付いたと思います。まだ1年次ですが、どんな問題が出るのかどういう解き方なのかを知れる機会があって良かったです。(今年度の4月に入学したばかりの1年次生による感想)
・実用文では、今行っている課題研究に関連した話題が多かったため、課題研究を行う上での大事なことも学べた。
・グラフや図が出た場合、問題から確認する癖が付きました。
5 オンライン授業に係る学校の状況変化やオンライン学習に対する所感
・以前から、通信制の学校、塾・予備校などで、オンライン形式の授業や講義は展開されていた。
・コロナ禍を機に、当時の一斉休校の状況をふまえて、全国的に各校でオンライン授業の実践が増えた。それと併せて、対面形式とのハイブリッド型を含めたオンライン授業も普及した。
・徐々に通常授業の再開へと戻るにつれて、オンライン授業の回数は減っていったが、勤務先の都立高校では、「オンライン学習デー」という名称の行事として年2回設け、オンライン形式による授業や学習支援も継続的に行えるようにしている。
・一例として、今年度は台風接近や大雨警報発令に伴い、「自宅学習日」となった際に、登校する代わりにオンラインでの授業や課題配信も行われて、生徒の学びが持続できるように対応した。
・「学びの多様化」という名目で、通常授業と並行しながら、オンライン学習による学習支援策も取り入れられるようになった。
・上記のような学習手段が増えたことは、学びの個別最適化や学校に対して多様化するニーズに応じられるようになってきた成果だと言える。生徒個々の特性に応じる対応策の一つでもある。しかし、学校側のリソース(ヒト・モノ・カネ・情報・時間など)や各教員の業務に負担も増している悩ましい実情があり、持続可能な対応策の検討は今後も必要となる。
