「全部わかった気がする曲」というものが、世の中にある。
まず聴いてほしい。
The Band - "The Weight"
映画『ラスト・ワルツ』の中の一曲だ。
マーティン・スコセッシが撮った、
ザ・バンドの解散コンサートのドキュメンタリー映画。
1976年のことだ。
■ 歌詞が、よくわからない
「ナザレスの町にたどり着いたとき、
俺は半分死にかけていた」
という歌い出しで始まる。
ナザレス。モーゼ。ルーク。
聖書に出てくるような固有名詞が、
次々と現れる。
で、コーラスが来る。
「Take a load off, Fanny」
「荷物を降ろせよ、ファニー」
「その荷物、俺が引き受けるから」
重荷を降ろせ、誰かに渡せ、
みたいな歌詞だと私は解釈している。
でも、正直よくわからない。
ちゃんと調べたら、いろんな解釈があった。
聖書が云々、ブニュエルの映画が云々。
「ナザレス」という地名は実は
ギターメーカー「マーティン」の本社がある
ペンシルバニア州の街の名前から取った、とか。
当の作者、ロビー・ロバートソン自身は
「みんな考えすぎだよ。深い意味なんてない」
と言っているらしい。
面白い話だと思った。
■ 意味がわからなくても、全部わかった気がする
これが不思議な体験なのだが、
歌詞が全部わかるわけではない。
でも全部わかった気がする曲、というものが存在する。
「The Weight」は、私にとってその一曲だ。
言葉の意味ではなく、
言葉の「重さ」が伝わってくる感じ。
「荷物を俺が引き受けるから」という言葉が、
どういう文脈で言われているのかわからなくても、
その言葉が持っている何か——
善意でも義務感でも諦めでも、
もしかしたらその全部でもある何か——が、
音と声と一緒に届いてくる。
■ グルーブとソウルについて
この曲のもう一つの話をしなければならない。
「圧倒的なグルーブ感とソウル感」とは
こういうことを言うのだ、という手本のような演奏だ。
うまい、とかうまくない、とか
そういう次元の話ではない。
体がそっちに引っ張られていく感じ。
音楽と一体になって、
同じ方向に流れていく感覚。
リヴォン・ヘルムの声と、
ドラムと、
バックに分厚く重なるコーラス。
これが全部、同じ「重力」を持って
押し寄せてくる。
そういう演奏というのは、
本当にそうそうない。
■ 最後の「ビューティフル!」
映画『ラスト・ワルツ』の中の演奏では、
曲が終わった後に
「ビューティフル!」
という誰かの声が入っている。
この声が全てだと思っている。
理屈でも解説でも説明でも何でもなく、
「ビューティフル」という一言が、
この曲について言える全てのことを
言い尽くしている。
考えすぎなくていい曲、というものがある。
歌詞の意味を調べなくていい。
なぜ感動したかを分析しなくていい。
ただ聴いて、何かが届いてきたなら、
それで全部だ。
「みんな考えすぎだよ」と
ロビー・ロバートソンは言った。
音楽に限らず、そういうことは多い。
わかろうとしすぎると、
わかるべきものがわからなくなる。
とにかく聴いてみてほしい。
3分半後に、あなたが何を感じるか。
それだけでいい。
