静かな家で育った私が、大人になって気づいたこと
― CODAとして生きてきた私の物語 ―
【第2話:私が“通訳”になった日】
今、学校への欠席連絡はアプリひとつで済む。
画面を開いて、ボタンを押すだけ。
でも、私が小さかった頃は違った。
電話だった。
受話器を握って、声で伝えなければいけなかった。
小学校のある朝。
体がだるくて、頭が重くて、
布団から起き上がるのもしんどい日。
私は、自分で電話をかけた。
誰かに「お願い」されたわけじゃない。
頼まれたわけでもなかった。
そうするしかなかった。
「今日は、お休みします…」
受話器の向こうの大人の声が、
私の小さな声に返ってくる。
優しい声だったはずなのに、
私は怖かった。
手が震えていたのを覚えている。
でも、それ以外の景色はほとんど覚えていない。
覚えていないくらい、緊張していたんだと思う。
電話を切ると、
何も考えられなくなって
布団にもぐりこんで、
深く息を吐いた。
それからだった。
学校、病院、親戚、家に来る人…
いつの間にか、
説明も、会話も、お願いも、
私がするのが当たり前になっていった。
「すごいね」「えらいね」
と言われることもあった。
でも、全然嬉しくなかった。
できるからじゃない。
強いからじゃない。
やりたかったわけでもない。
ただ――
しょうがない。
その言葉だけで、
私は自分を支えていた気がする。
泣いている場合じゃなかった。
立ち止まる余裕もなかった。
あの小さな私に、
今の私がそっと言ってあげたい。
「よく頑張ってたよ。
本当は、怖かったよね。」
あの日の受話器は、
子どもの肩には重すぎた。
■次回予告
第3話では、
「大人の世界の真ん中に立たされた日」
のことを書こうと思う。
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