トムヤン君! 第1話 【 ボ ツ ネ タ 】
**【登場人物】**
トム = 自信過剰、オラオラ系

店主 = ヤン = ♧ = 国籍不明。

【場所】:寂れた商店街の片隅にあるラーメン屋
どこか異世界への入り口のような、うらぶれた空気感。
【本編】
(舞台中央にラーメン屋のカウンターセット。照明はやや薄暗く、場末感を演出)
(:ガラガラ……という引き戸が開く音)
(トム、気だるげにポケットに手を突っ込んで登場。猫背でカウンターへ向かう)
トム:「……誰もいねえ。今日も嫌な予感しかしねえな」
(次の瞬間、厨房の奥から凄まじい勢いでヤンが飛び出してくる。その動きはカンフー映画の雑魚敵のようである)
ヤン:「イラッシャイマセーア~ルよ! オ好キナ席へ、座るア~ルよ!!」
トム:(一瞬固まるが、無視することに決めて)
「……特製しょうゆラーメン一つ。麺は、かためで頼む」
(ヤン、注文を聞いた瞬間に表情を一変させる。ホラー映画のような青ざめ方)
ヤン:「エッ!? 特製しょうゆ……それ、キケンア~ルよ!」
トム:「ラーメンに危険も安全もあるか! 核廃棄物でも煮込んでんのか!」
ヤン:(声を潜めて)「ウチのしょうゆ、薄めナイ。原液ア~ル。人間、腎臓、死ぬアルネ」
トム:「じゃあ“特製”って書くな! メニューに“劇薬(致死量)”って書いとけよ!」
(ヤン、突然パッと笑顔になり、ミュージカルスターのように両手を広げる)
ヤン:「本日のオススメは~! 特製コーヒーア~ルね!」
(カウンターの下から、ビアホールで使うような巨大なジョッキをドンと置く)
ヤン:「日本ノ心! オ・モ・テ・ナ・シ! ラーメン前ニ、コーヒー!」
(ポットからドボドボと、表面張力を無視してなみなみ注ぐ)
トム:「前菜がコーヒーのラーメン屋、人類史上初めて見たわ! しかも量がおかしいだろ!」
ヤン:「オキャクサマ、幸運ア~ルよ! ワタシ、考案した“コーヒーラーメン”記念スベキ第一号!」
トム:「嫌な記念日だな! 祝日になっても休みたくねえわ!」
ヤン:「コノ中、モウ麺入ってア~ルよ! 」
トム:「入れる前に聞けよ! なんで麺がカフェイン漬けになってんだよ!」
ヤン:「サア、グイッと!」
トム:「誰が飲むか! その悪魔的発想どこから来たんだよ!」
(ヤン、遠い目をして哲学者のように語り出す)
ヤン:「ワタシ、朝ひらめいた。コーヒー好き。ラーメン好き。混ゼタラ、天才」
トム:「天才じゃねえ、交通事故だ! お前の脳内シナプスどうなってんだ!」
ヤン:「日本ノ心、ワビサビ、デ~ス。苦味(ニガミ)イズ、ライフ」
トム:「“ワビ”てもねーし!“サビ”てもねーよ!」
(トム、少し冷静になり、探るように)
トム:「……一応聞くけど、正直に言え。うまいのか?」
(ヤン、急に視線を逸らし、口笛を吹く真似をするが音が出ていない)
ヤン:「…………ワカラナイア~ル」
トム:「作った本人が味の迷子かよ!」
ヤン:「ワタシ、味覚、自信ナイア~ル。昨日食べ~たモノも忘レタネ」
トム:「飲食店として致命的だよ! 味覚ないやつが厨房立つな!」
トム:「もういい、変なアレンジはいらないから! 普通の、ノーマルなラーメン持ってこい!」
(暗転。時計の針が進む音。チクタク、チクタク……)
****
(照明戻る。カウンターには、見た目だけは完璧に美しいラーメンが置かれている。湯気が立ち上り、チャーシューも輝いている)
トム:「……で、なんで箸とレンゲがねえんだよ」
(トムが指差した先には、ラーメンの丼に突き刺さった極太のタピオカ用ストロー一本)
トム:「ラーメン、飲み物じゃねえぞ! カレーの格言を間に受けるな!」
(厨房の奥でガシャン! ドタン! と調理器具が崩れる音がする)
ヤン:「アリマ~シタア~ルよ!」
(大げさに銀のトレーに乗せて持ってきたのは、ナイフとフォーク)
トム:「お前の中で俺はいつフランスに亡命したんだよ! ラーメンを切り刻んで食うのか!」
ヤン:「熱イ麺、フォークデ、クルクル! チャーシュー、ナイフデ、ザクッ! ……エレガント!」
トム:「ラーメン屋にエレガント求めてねえよ! ズルズルしてえんだよ!」
トム:「箸だ、ハシ! 二本の棒! わかるか!?」
ヤン:「ハシ……棒……」
(電球が光るような音:ピコーン!)
ヤン:「アッ! 理解シタ!でア~ルよ!」
(ダッシュで戻り、ダッシュで帰ってくる。手には、一本のつまようじ)
ヤン:「コレ、ハシ! ミニマム!」
トム:「歯の掃除しかできねえわ! 俺は小人か!」
ヤン:「デモ、不自由な中デ、アナタ、精神的ニ成長スルね~」
トム:「ラーメン屋で修業がしたいワケじゃね~んだよ! 腹が満たされればそれでいいんだよ!」
(ラーメンの湯気が消えかけ、麺がスープを吸い始めている)
ヤン:「アノ~、食ベニクイナラ~、特別サービス」
トム:「やっと気づいたか! 普通の割り箸を――」
(ヤン、カウンターを乗り越える勢いで顔を近づける。満面の、不気味な笑み)
ヤン:「ワタシが、アーン、スルア~ルね! ママの味!」
トム:「誰がむさ苦しい男にアーンされるか! お前がママなら俺はグレるわ!」
ヤン:(ポンっと手を叩き何かを思い出す。)
「オキャクサマ、ハシと言うノハ、ヒョットシテ……」
(ヤンが普通の割り箸とレンゲを丁寧に置く)
ヤン:「コレ! デ~スカ?」
トム:「やっとだ……。とにかく俺は空腹を満たしたいんだよ……」
(トムが箸を割り、麺を持ち上げたその瞬間。ヤンが真剣な表情で覗き込む)
ヤン:「オキャクサマ……」
トム:「……今度は何だ。食わせろよ」
ヤン:「ワタシ、日本語、練習チューデ~ス?」
トム:「……それが何だって言うんだよ!」
ヤン:「、コレ、覚エタ。言ッテミル、アルデ~ス」
(一呼吸置いて)
ヤン:「“ゴチソウサマデシタ”」
トム:「いや、まだ食ってねえよ! 過去完了形にするな!」
(トム、無視してラーメンを一口すする。ズズズッ)
トム:「 ん …………まずくないぞ!」
ヤン:「 ”まずくない!” ハ、 ”うまい” ノ意味デ~スか? 」
トム:「 ああ、意外にうまい!」
(その一言を聞いた瞬間、ヤンが感極まって奇声を上げる)
ヤン:「エッ!? マジで~スカ!? ウレシイア~ル!!」
(ヤン、喜びのあまり、手元にあった“例のコーヒーラーメン”のジョッキを持ち上げ、トムの丼に向かって豪快にドボドボと注ぎ込む)
トム:「あああああ! 何してんだァァァ!!」
ヤン:「オキャクサマ、今、“まずくない!”言ッタ! だからサービス!」
トム:「言ってねえよ! これから食うのに何してんだよ!」
ヤン:「日本語ムズカシイア~ルね! “ウマイ!”は“オシマイ!”と似てるネ!」
トム:「似てねえよ! 料理を破壊して確認すんな!」
(トムの目の前には、醤油スープとコーヒーが混ざった暗黒物質《ダークマター》が完成している)
トム:(虚無の表情で)
「……もういい。俺は帰る。今日は水だけでいい」
(トムが席を立ち、セルフサービスの水を一口飲む)
(トム、吹き出す)
トム:「ブッ!! ……苦い!」
ヤン:「水、今、ウォーターサーバーニ、コーヒー豆入レテミタ。香り豊かア~ルよ」
トム:「この店、全部アウトだ!! 二度と来るかぁー!!」
(トム、逃げるように退店。ヤンは笑顔で手を振る)
ヤン:「マタオ越シク~ダサイ! ツギハ、コーラ・ラーメン・デ~ス!」
(店内の照明が落ち、スポットライトがどんぶりの中の暗黒スープだけを照らす)
◆ ◆ ◆ ◆
ちなみに、これは 俺、松岡 ツトムが文化祭で発表するコントのために作ったネタの一つだが、小道具が小さすぎてステージ映えしないとか、全体的にくどいという理由でボツになった。
俺たちとしては会心の力作だったのだが……
【 つ づ く 】
