見出し画像

    み ど り の お ば ち ゃ ん


 小学生の時、みどりのおばちゃんが、校門の前の横断歩道で黄色い旗を持って立っていた。

 登校時刻と下校時刻の両方だった。低学年では、授業が終わるとすぐ帰るから、その下校時刻に合わせてくれていた。

 あたしは思っていた。化粧が濃いな。なんだかコワイ。

 でもおばちゃんは、いつも機嫌が良くて、いろいろ声をかけてくれる。
 名前もおぼえていてくれる。


 子どもらがいつも声をかける、
 おばちゃん、おばちゃん、おはよう、おばちゃん、さよなら。

 おばちゃんがいう。
 ゆきちゃん、今日も妹といっしょだね、かずくん、元気だね。


 あたしは、近所のスーパーでよく顔を合わせている。
 毎日買い物に行くからだ。


 
 おばちゃんは、いちど家に帰っているらしく、私服で買い物をしている。レジのおばちゃんと仲が良くて、よく話してる。レジのおばちゃんもいつも元気で機嫌がいい。みどりのおばちゃんは、長話しはしない。用事が終わったらさっさと帰る。

 時にふたりはムツカシイ顔で話してる。大人の事情はあたしにはワカラナイ。

 その頃にはこんなことも考えていた。みどりのおばちゃんて、家族はいないのかな。

 だって買い物で、いっつも一人だし、他の場所でもいっつも一人だし。


 あたしも、レジのおばちゃんと、みどりのおばちゃんの、話に入ってみたいなあ。


 あたしが六年の頃、みどりのおばちゃんは、仕事をしなくなった。



 登校時刻にも、下校時刻にも、おばちゃんは姿を見せなくなった。スーパーでも会わなくなった。あたしはてっきり、おばちゃんは婦警さんなのかと思ってた。子どもすぎて、交通の仕事をしてる婦警さんだと思っていたのだ。

 それから朝も帰りも、黄色い旗を持ったおばさんは居なくなった。代わりに、横断歩道のそばの電柱に、黄色い旗をさす筒が引っ掛けられた。道をわたる時、その旗を持ってわたることになった。

 おばちゃんのことを聞く子どもは、だれも、いなかった。

 あたしは、誰におばちゃんのことを聞いたらいいのか分からなかった。

 具合が悪くなったのかな。
 年取ってたもんな。
 多分、一人暮らしなんだよな。

 さびしいな。


 朝も帰りも、子供だけになっちゃった。




           おばちゃんも、一人かな。




 ひとりで、
 道をわたりながら、
 うつむいてアスファルトを見る。


          おばちゃん、きょうも、いない。
 


           いないや。


           どうしてるかな、おばちゃん。



                     つまんないよ、おばちゃん!



#子どもの安全を考える

いいなと思ったら応援しよう!

髙木弥生 頂いたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。 応援よろしくおねがいします。