荒れる子の食卓に共通点があった――「箸立て」が語ること
法務省矯正局で29年間、少年鑑別所や刑務所の現場で働いてきた臨床心理士で加工食品診断士の日高みちえです。
荒れてしまった子どもたちと数えきれないほど向き合う中で、気が付いたことがあります。
家族の絵に表れるもの
少年鑑別所では、「家族画」と言って、子どもたちに家族の絵や食事の場面を描いてもらうことがありました。
自分抜きの家族を描く子。 食事の場面で、自分はご飯を食べているのに、お母さんは台所の方を向いた後ろ姿として描く子。 中には、お父さんがお酒を飲んで暴れている様子を、生々しく描く子もいました。
そして、私が面白いなと思いながら見ていたのが、食卓にある「箸立て」の存在です。
「いただきます」と言って、箸立てから自分の箸を取って食べる。かつてはそれが、多くの家庭の当たり前の日常でした。
この箸立てを絵に描く子と、描かない子とで、非行の有様に違いが見られるように思われました。
もちろん、今は食卓のスタイルも家庭によってさまざまです。箸立てがあるかどうかは絶対的な基準ではありません。
ただ、今から40年ほど前から10年ほど前まで、少年鑑別所で働いていた当時は、家族の食事風景が「家族の状態」を映す一つの目安になっていたと感じています。
家族は、生きる基盤です。そこで食べる食事は、たとえ栄養バランスが完璧でなくても、「みんなで一緒に食べる」「分け合って食べる」という習慣そのものが、家庭の中のルールや絆を確認する場になっていたのだと思います。
「朝ごはんを抜いても平気?」
ここで一つ、クイズです。
Q. 朝食を食べない子どもは、学力や体力にほとんど影響がない。○か×か?
答えは × です。
大人の中には「朝は食べない方が調子がいい」という人もいます。ですが、それは大人の話。成長期の子どもの場合、朝から栄養をきちんと取らないと、脳が働きにくくなることが分かっています。
脳のエネルギー源は、主にブドウ糖です。朝食を抜くと午前中のエネルギーが不足し、集中力に欠けてしまう。実際、朝食を抜いている子どもたちには、集中力の低下が見られるという観察結果もあり、学業の成績にも影響してくると言われています。
「朝はバナナ1本でもいいから食べさせて」と私は言っています。完璧な朝食である必要はありません。ただ、何か口に入れて学校に送り出してあげること。休みの日も同じです。
https://www.youtube.com/shorts/7fNmVJFO5Cs
二つの共通点は、実は同じ話
「箸立て」のエピソードと、「朝食を抜く」という習慣。一見別々の話に見えますが、根っこは同じところにあります。
それは、家庭の中で食事の「リズム」や「食文化」が整っているかどうか、ということです。
朝、お母さんが仕事に出ていて、子どもが学校に行くときには子ども以外にだれも家にいない。であるとか、お母さんが夜も働いていて、朝ごはんの時間は寝ているため、朝ごはんを食べさせてもらえない。昼ごはんも出てこないから、学校の給食が一日のうちで最初の食事になる。長期休みには、その給食すらありません。
こう聞くと「自分には関係のない話」と感じる方も多いかもしれません。ですが、こうした状況に置かれている子どもたちは、実際にいます。
「子ども食堂」のような活動が、そうした子どもたちを支えている場面も少なくありません。
ただし、「子ども食堂がなければ救われない」という状況自体が、本来はどうなのか、ということです。
まず届けたいのは、家庭の食卓そのものに、リズムを取り戻していくこと。
もう手遅れ、ということはない
「食事を変えても、荒れてしまった子どもの行動や情緒は変わらない」——これも、この番組で扱われたクイズの一つですが、答えは×です。
私は、少年鑑別所で見てきた子どもたちが、生活のリズムが整い、栄養の取れた食事をするようになるにつれて、表情や言葉に変化が表れ、コミュニケーションが良くなっていく姿を、何度も見てきました。
体内環境は、食事によって比較的簡単に変化すると言われています。だからこそ、「もう手遅れ」ということはない、というのが私からのメッセージです。
今日からできること
朝は、バナナ1本でもいいから何か口に入れる
完璧な食事でなくていい。まずは「一緒に食べる」時間を意識する
食卓を、家族が顔を合わせる場として、少しずつ取り戻していく
大きな改革をする必要はありません。今日の一食から、少しずつで大丈夫です。
この記事は、九州プリンシプルテレビ『食の裏側と未来の子どもたちへ』第1回「食が人を変える」でお話しした内容をもとに構成しています。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ本編もご覧ください。
▶ 本編動画:https://www.youtube.com/watch?v=JU0s559CupA
日高みちえ(ひだか みちえ) 臨床心理士/公認心理師。加工食品診断士協会認定講師。法務省矯正局にて29年間、少年鑑別所・矯正施設に勤務。東亜大学大学院非常勤講師。
