壊れる前に——手放し、守るという選択
息子が「学校に行かない」と言うようになってから、
私は「彼のペースを大事にしたい」と思う一方で、
先生や他の保護者の「学校に行かなければ何も始まらない」という言葉に、何度も心を揺らしていました。
「言いなりになって、甘やかして、将来困るのは子どもなんだから。
大事なら、きちんとしつけをしないと」
そんな言葉も、いやというほど聞きました。
私は毎朝、息子の表情を見ながら考えていました。
この子の「行けない」は、怠けではなく、心の悲鳴なんじゃないか。
でも、周囲の声を聞くたびに、私の中に、もう一人の“厳しい母親”が顔を出します。
——甘やかしているだけじゃないの?
——このままで、本当にいいの?
そんな揺れる日々の中で、
息子の「どうせ、僕は先生の言うことが聞けない、学校にもいけない、何をやってもだめな子なんだ!」という言葉を聞いて、
「このままでは、この子が壊れてしまう!」そう強く感じた私は
1ヶ月間休ませることにしました。
そう決めた日の夜、寝る前に、私は静かに息子に伝えました。
「お母ちゃんも、本当は学校に行ってほしいと思ってる。
勉強してほしいとかじゃなくてね。
人と話したり、自分と違う意見を聞いたり、自分が知らない世界に出会ったり——そういう経験をしてほしいから。
でも今は、君の心が疲れちゃって、壊れそうになってる。
だから今は、心を守るほうが大事だと思う。
1ヶ月、学校を休んで、ゆっくりしよう。」
その言葉を伝えた時、息子は少しの間黙っていました。
そして小さく「うん」とうなずきました。
その表情を見た瞬間、私の中の何かもふっと緩みました。
そこからの1か月、息子は、宿題も授業も忘れたように、のびのびと過ごしました。
「朝は普段と同じ時間に起きる」などのいくつかのルールだけ決めて。
すると、朝起きたときに、あれほどこわばっていた能面のような顔が、少しずつ穏やかになっていきました。
テレビを見たり、本を読んだり、下の子と笑い合ったり。
午後からは学童にも通い、家族以外と話す時間ができて、息子は日に日に明るくなっていきました。
作っておいたお弁当をレンジで温めることができるようになり、
職場から一日に何度か電話をかけるので、電話で話をするのも上手になりました。
けれど、私はどこか落ち着きませんでした。
——こんなんでいいのだろうか?
——私は甘やかしてるだけじゃない?
元気になっていく息子に反して、私はいつも不安でした。
私は仕事をして、家のことをして、子どもたちの世話で手一杯。
その横で、息子は“何もしていない”ように見える。
そのギャップにも、どうしようもないモヤモヤが募っていきました。
そんな時、学校でスクールカウンセラーとの面談がありました。
「息子さんが育てにくい子なんです。息子さんの発達に問題があるんです」と言われ、呆気にとられてスタートした面談。
私が息子を一人で家に残して働いていると話すと、カウンセラーは眉をひそめて言いました。
「息子さんを一人で家に残して働くなんて、虐待ですよ。」
その言葉に、頭の中が真っ白になりました。
さらに続けて、「お母さん、毎日息子さんと一緒に学校まで来て、登校できなかったら仕事を休むくらいじゃないと。」
私は、情けないやら、悲しいやら、腹立たしいやら。
息子を思っての決断が、誰かの“間違い”として突きつけられる。
心が擦り切れていくようでした。
そして校長先生との面談では、こう言われました。
「お母さんがしっかりしすぎて、息子さんは息苦しいんですよ。もっと力を抜いて、家庭にいてあげてください。」
——やっぱり私のせいなんだ。
息子が“普通の小学生”でいられないのは、私のせい。
私が母親になったことが、すべての元凶なのかもしれない。
私なんか消えてなくなればいいのに。
そう思いながら、次男の保育園のお迎えの帰り道で、涙が止まりませんでした。
