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境界線上の視線・「偽りの春編」静森の章第百十八話:正義の目覚めと、クロドリへの道

(視点:渡辺菜々)

「……蜜柑さん。あなたは、これからどうしますか?」

私たちが誘い込まれた静森町の巨大な地下スタジアム。

あの得体の知れないカオリさんや伊達さんたちが去っていった後の冷え切った静寂の中で、私は、ブラッドオレンジのストッキングの脚をふらつかせながら立ち上がった蜜柑さんに向かって、恐る恐るそう問いかけた。

教団に反逆し、絶対神である月姫様から直々に死刑宣告を受けた彼女。

もはや、彼女がこれまで所属していた『万世救済の光』という組織に戻る場所はないはずだった。

五億の創薬研究員として、この美脚市場の闇に君臨していた彼女が、今、何を思い、どこへ行こうとしているのか。

私は、どうしてもそれを聞かずにはいられなかった。

私の質問に対し、蜜柑さんはダークチェリーのリップが塗られた唇を自嘲気味に歪め、ショートボブの黒髪を少し乱暴に掻き回した。

「あーあ、私の悪い癖だな。すぐかっとなっちまうんだよなぁ」

蜜柑さんは、ボロボロになったショート丈の白衣ジャケットのポケットに手を突っ込み、高い天井に吊り下げられた無機質な蛍光灯の光を仰ぎ見ながら、ぽつりと呟いた。

「別に、教団のことが嫌いなわけじゃないんだよな。私たちの研究や技術を認めて、ふさわしい地位を与えてくれていたわけだし」

彼女の声には、かつて自分が信じていた場所への、ほんのわずかな未練と、そしてそれ以上の諦めが入り混じっていた。

しかし、彼女はすぐに視線を私の方へと戻し、キャットアイの瞳に鋭い光を宿した。

「でも、あの姫様は、前から『人間じゃねー』とは思っていたんだ」

蜜柑さんが吐き捨てた言葉には、確かな嫌悪感がこもっていた。

「今日も、平気で私を殺そうとするし、自分の事を『神だ』とか言い出すしでな。……そんなわけないだろ? 私らは、いくら美脚市場で強い力を持っていようが、所詮は血の通った、か弱い人間なんだよ。一人じゃ生きられないから、だから、みんなで力を合わせて組織を作って生きてるんだろ?」

蜜柑さんのその言葉は、教団の『狂犬』として恐れられていた彼女から出たものとは思えないほど、人間臭く、そして温かいものだった。

絶対的な力で他者を踏みにじる神ではなく、弱さを知っているからこそ寄り添う人間としてのプライド。

それが、彼女に月姫様への反逆を決意させた原動力だったのだ。

私は、彼女のその人間らしい弱さと強さに深く心を打たれ、深く頷いた。

「……はい、蜜柑さんの言う通りです」

私の言葉に、蜜柑さんは少しだけバツが悪そうに鼻を鳴らした。

そして、彼女は黒のレザーショートブーツのヒールで、クリスタルの床をガツンと強く踏み鳴らした。

「決めた。……私は必ず、あの姫様を探し出して、自分が間違っていることを認めさせてやるよ」

それは、五億のプレイヤーとしての、そして一人の人間としての、絶対的な決意の宣言だった。

彼女の瞳の奥で、反逆の炎が赤々と燃え上がっているのが分かる。

私は、蜜柑さんのその強さに圧倒されながらも、彼女が目的を見つけたことに少しだけ安堵していた。

これで、彼女は彼女の道を歩んでいく。

私たちは私たちで、本来のミッションに戻るだけだ。

そう思っていた、次の瞬間だった。

「なぁ、芸能人」

蜜柑さんが、不敵な笑みを浮かべて私を指差した。

「お前、これからどこかに行くんだろ? 私も一緒に行く。……そして、今の教団と戦う」

「……え?」

私は、間抜けな声を漏らして目を瞬かせた。

彼女が言っている言葉の意味が、うまく頭の中で処理できない。

一緒に行く?

教団と戦う?

「ま、待ってください! え? 私は、ただ、シタックスの秘書であるキララを回収しに行くだけなんです。……あいつらが持ち去ったキララの機体を回収して、その後は、すぐに東京の会社に戻って、今日の報告をしなくちゃいけないんです!」

私は、慌てて両手を振りながら説明した。

私たちは芸能人であり、シタックスの社員(手駒)なのだ。

教団と戦争をするためにこの静森町に来たわけではない。

ただの回収任務。

それが終われば、こんな恐ろしい場所からは一刻も早くおさらばしたいのだ。

しかし、蜜柑さんは私の必死の抵抗を、あっさりとスルーした。

「なぁ、その『キララ』ってなんだ? プレイヤーなのか?」

「え、ええ、一応は……。私たちの会社の社長秘書で、すごく強いアンドロイドなんですけど……」

私がしどろもどろに答えると、蜜柑さんはパンッと手を打って、さらに嬉しそうに目を輝かせた。

「じゃあさ、そいつも戦力になるな! 今の教団と戦うなら、一人でも多くの戦力がいるからな!」

(菜々の心:ええ~、このままだと私も教団と戦うメンバーにされちゃいそう。というか、すでにメンバー入りしてる感じなんですけど~。)

私の心の中で、盛大な非常ベルが鳴り響いていた。

五億の教団幹部と一緒に、あの絶対神がいる教団に立ち向かう?

そんなの、自殺行為にもほどがある。

私はただのエンジニアで、タレントなのだ。

そんな恐ろしい戦争に巻き込まれるなんて、絶対に嫌だ。

私は、エメラルドグリーンのオフショルダー・ミニドレスの裾をギュッと握りしめ、恐る恐る、本当に恐る恐る、蜜柑さんに確認してみた。

「あの~、蜜柑さん……。もしかして、私も、教団と戦うんですか……?」

私の頼りない質問に対し、蜜柑さんは何を当たり前のことを聞くんだと言わんばかりに、自信満々に言い切った。

「ああ。お前だけじゃねぇ、そこの二人(和香と美桜)と、キララも戦うのさ」

すでに、蜜柑さんの中で、私たちのパーティーへの強制加入が勝手に決定されていたのだった。

(菜々の心:どうしよー、このままじゃいつ帰れるか分からないよ~。お姉ちゃんが起きたら助けてもらおー。)

私は、完全に蜜柑さんのペースに巻き込まれ、涙目になりながら、クリスタルの床に倒れ伏しているお姉ちゃんと美桜ちゃんの顔を交互に見つめることしかできなかった。

早く起きて、お姉ちゃん。

この無茶苦茶な人を、得意の毒舌で追い払ってよ。

私のそんな悲痛な願いが届いたのか。

それから、さらに三十分ほどの重苦しい時間が経過した頃だった。

「……う、ん……」

静寂に包まれた地下空間で、微かな呻き声が上がった。

見ると、ロイヤルブルーのドレスを着たお姉ちゃんが、長い睫毛を震わせて、ゆっくりと目を開けようとしているところだった。

そしてほぼ同時に、隣に倒れていた黒のレザーショートパンツ姿の美桜ちゃんも、小さく身じろぎをして顔をしかめた。

「お姉ちゃん! 美桜ちゃん!」

私は、シルバーのピンヒールサンダルを鳴らして、急いでお姉ちゃんの元へと駆け寄った。

「……な、菜々……? ここは……」

お姉ちゃんは、ズキズキと痛む頭を押さえるようにして、ゆっくりと上半身を起こした。

高く結い上げていたダークブラウンのポニーテールは乱れ、ロイヤルブルーのスパンコールドレスには、地下の冷たい床の埃がついてしまっていた。

無理もない。

お姉ちゃんは、蜜柑さんの奥義の直撃を受けて、身も心もボロボロになって気絶していたのだから。

「よかった、気がついたんだね! ここはまだ、地下のステージだよ」

私がホッと胸を撫で下ろして背中をさすっていると、隣で美桜ちゃんも「うぅ……」と呻きながら、ヌードベージュの脚を折り曲げて身を起こした。

「私……どうして……」

「美桜ちゃんも、無事でよかった。本当に、よく頑張ってくれたね」

私が二人の無事を確認し、ようやく安心の息を吐こうとした、まさにその時だった。

「よう。お目覚めかい、芸能人」

頭上から、からかうような、そして底意地の悪い声が降ってきた。

お姉ちゃんがハッとして顔を上げると、そこには、ブラッドオレンジのストッキングに包まれた脚を挑発的に交差させ、腕を組んで見下ろしている蜜柑さんの姿があった。

お姉ちゃんの美しいアーモンドアイが、一瞬で険しいものへと変わった。

記憶が、一気に蘇ったのだろう。

彼女が教団の人間であり、自分をこの地下で散々痛めつけた相手だということを。

「……あ? お前は確か、蜜柑だったか?」

お姉ちゃんは、ロイヤルブルーのドレスのサイドスリットから、五デニールのシルバーグレーの脚をスッと引き寄せ、床に座ったまま、氷のように冷たく言い返した。

蜜柑さんは、お姉ちゃんのその鋭い視線を受け止めても、全く怯むことなく、むしろ嬉しそうにダークチェリーの唇を歪めた。

「ああ、そうだ芸能人。……しかし、弱いなお前。私の奥義で簡単にぶっ倒れちまうなんて、テレビで偉そうにしてる割には大したことねーな」

「っ……!!」

お姉ちゃんのこめかみに、ピキッと青筋が浮かんだのが見えた。

お姉ちゃんは、プライドの塊だ。自分の実力を否定されること、ましてや「弱い」と言われることなど、絶対に許容できるはずがなかった。

「は? じゃあ、もう一回やろうか、みかんちゃん」

お姉ちゃんは、全身の痛みなど完全に忘れたかのように、シルバーのピンヒールサンダルで床を強く蹴り、勢いよく立ち上がった。

そして、ロイヤルブルーのドレスの胸元を張り、蜜柑さんに向かってバチバチと火花を散らすような視線を叩きつけた。

「今度こそ、その腐った口を二度と利けないように、私が直々に教育してやるよ!」

蜜柑さんもまた、お姉ちゃんのその挑戦的な態度に、嬉々として黒のレザーショートブーツの踵を鳴らした。

「いいぜ、芸能人。……本職と素人の力の差を、もう一度たっぷり身体に教えてやるよ」

「いいぜ、やってみなよ!」

二人の間に、信じられないほどの高圧電流が走り始めた。

ただでさえ『ヴィーナス』の毒が抜けきっていない身体で、またランウェイバトルを始めようというのか。

「ちょ、ちょっと待ってください! 2人ともやめてください!」

その一触即発の空気に割って入ったのは、私ではなく、立ち上がったばかりの美桜ちゃんだった。

彼女は、黒のレースアップショートブーツで二人の間に飛び込み、両手を大きく広げて立ちはだかった。

「せっかく……せっかくあんな恐ろしい人たちが去って、平和になったんですから! ここで仲間割れみたいなことをして、また誰かが傷つくなんて、絶対に嫌です!」

未成年の少女の、純粋で、そして必死の訴え。

その声には、あの月姫様という本物の恐怖を前にして、自分たちがどれだけちっぽけな存在だったかを思い知らされた切実さがこもっていた。

私も、美桜ちゃんの言葉に勇気をもらい、お姉ちゃんの腕をギュッと掴んだ。

「そうだよ、お姉ちゃん! ここはもう危ないし、お姉ちゃんも蜜柑さんも、一旦落ち着こう、ね? 今は争っている場合じゃないよ!」

私が必死になだめると、お姉ちゃんは少しの間、不満げに私と美桜ちゃんを交互に見つめていた。

そして、チッ、と短く舌打ちをして、ロイヤルブルーのドレスの肩の力を抜いた。

「……しゃーねーな。あんたたちがそこまで言うなら、勝負はお預けにしてといてやるよ」

お姉ちゃんが引き下がると、蜜柑さんもまた、「仕方ねぇな」と呟いて、ドサッと音を立ててクリスタルの床にあぐらをかいて座り込んだ。

「素人の小娘に止められちゃ、大人は喧嘩できねぇからな」

蜜柑さんは、ブラッドオレンジのストッキングを無造作に投げ出しながら、少しだけバツが悪そうにそっぽを向いた。

なんとか、最悪の同士討ちだけは避けることができた。

私は心底ホッとして、大きく息を吐き出した。

とりあえず、みんな意識を取り戻し、動ける状態にはなった。

これなら、当初の目的通りに行動できるはずだ。

私は、お姉ちゃんに向かって、確認するように明るい声を出した。

「ねえ、お姉ちゃん。このあと私たち、GPSが示している『クロドリ』ってお店に行って、キララを回収したら、すぐに最終電車で東京に帰るんだよね?」

早く帰りたい。

この恐ろしい静森町から、一刻も早く抜け出したい。その一心での確認だった。

しかし、私のその言葉を聞いた瞬間、床に座っていた蜜柑さんが、弾かれたように顔を上げた。

「おい、ちょっと待て。約束が違わねーか?」

蜜柑さんは、キャットアイの瞳を鋭く細め、私を真っ直ぐに指差した。

「お前は、これからそのキララってやつを回収したら、私たちと一緒に教団と戦うための『作戦』を考えるんだろ?」

「えっ!?」

私は、飛び上がりそうになるほど驚いた。

「そ、そんなこと一言も言ってませんよ! だいたい蜜柑さんが、勝手に私たちをメンバーにしてるだけじゃないですか!」

私は必死に抗議した。

さっき私が心の中で「このままだとメンバーにされそう」と恐れていたことが、まさに現実のものとして突きつけられたのだ。

すると、お姉ちゃんが怪訝な顔をして、私と蜜柑さんを交互に見た。

「おい、菜々。なんでお前、そんな面倒な約束したんだ? 教団と戦う? 冗談じゃない。そんなの、勝手にやってなよ、あんたらで。私たちはシタックスの仕事が終われば、こんな田舎町にはもう用はない」

お姉ちゃんは、冷たく言い捨てた。

当然の反応だ。

お姉ちゃんにとって、教団の内部事情や正義なんて知ったことではない。

自分の身の安全と、東京での華やかな生活を守ることの方が遥かに重要なのだから。

そして、お姉ちゃんは腕を組み、床に座っている蜜柑さんを見下ろして、疑念の声を向けた。

「……おいみかんちゃん。だいたいお前は、その教団の人間じゃないのか? さっきまで私たちを散々痛めつけて、自分たちで『創薬研究員』だとか偉そうに名乗っていたよな?なんで急に、自分たちの組織と戦うなんて言い出してんだよ?」

お姉ちゃんの鋭い指摘。

確かに、蜜柑さんが寝返った理由を、お姉ちゃんはまだ知らない。

蜜柑さんは、お姉ちゃんの冷ややかな視線を受け止めても、全く動じることはなかった。

彼女は、ボロボロになった白衣ジャケットのポケットに手を突っ込んだまま、ふっと自嘲気味に笑った。

「……さっきまではな」

「ははーん」

お姉ちゃんが、意地悪く口角を上げた。

「見限られたんだなお前。教団に逆らって、何やらかしたんだ?」

お姉ちゃんは、蜜柑さんが教団員の逆鱗に触れて追放されたのだと推測したようだ。

しかし、蜜柑さんは、その推測を真っ向から否定するように、真っ直ぐにお姉ちゃんの目を見返して、はっきりと言い切った。

「正義に目覚めただけだよ」

「……は?」

お姉ちゃんが、面食らったような声を出す。

「あの姫様は、自分が神だと思い込んで、平気で仲間の命を奪おうとした。……私は、そんな狂った奴の言いなりになるのはごめんだ。私たちは人間だ。だから、あいつが間違っているってことを、私の力で証明してやる。……ただ、それだけさ」

蜜柑さんの言葉には、嘘偽りのない、不器用なほどの真っ直ぐな真実が込められていた。

だが、まだお姉ちゃんは、蜜柑さんが誰の事を言っているのか、まったく分かっていないようだ。

しかし蜜柑さんのその言葉に、隣で静かに聞いていた美桜ちゃんが、強く頷きながら一歩前に出た。

「……私も、教団の本当の姿を知りました」

美桜ちゃんの声は、静かだが、強い怒りと決意を帯びていた。

「月姫様は……決して、噂に聞くような『救いの天使』なんかじゃありませんでした。自分の気に入らない人を、平気で刀で切り捨てようとする……ただの残酷な悪魔です」

美桜ちゃんは、自らの命を懸けて蜜柑さんを庇ったからこそ、月姫様の真の恐ろしさと狂気を肌で感じていたのだ。

美桜ちゃんの言葉を聞いて、蜜柑さんは真剣な表情で頷いた。

「ああ、そこのお嬢ちゃんの言う通りだ。あの姫様は、天使どころか、正真正銘の『堕天使』だったぜ」

蜜柑さんの真顔での同意。

地下空間に、奇妙な連帯感が生まれ始めていた。

シタックスのタレント、アイドルを夢見る少女、そして教団の元幹部。

全く交わるはずのなかった三つの異なる立場の人間たちが、「白鳥月姫」という共通の、そして絶対的な脅威を前にして、同じ方向を向き始めていたのだ。

お姉ちゃんは、そんな私たちの顔を順番に見回した後、小さく息を吐いて肩をすくめた。

「……ねえ。こんなところで、辛気臭い顔して話してても埒が明かないぜ」

お姉ちゃんは、ロイヤルブルーのドレスの裾を優雅に払い、シルバーのピンヒールサンダルでクリスタルの床を鳴らした。

「とりあえずは、そのGPSの示すビルに行って、キララを回収してから……今後の事は考えよう、それに、月姫って誰なのか?あとでちゃんと話をしてもらうからな」

お姉ちゃんのその言葉は、教団と戦うことを明確に拒絶するものではなくなっていた。

彼女もまた、このまま引き下がることへの抵抗や、蜜柑さんや美桜ちゃんの覚悟に、ほんの少しだけ心を動かされていたのかもしれない。

「ああ、そうだな。とりあえずここを出るぞ」

蜜柑さんも、床から力強く立ち上がり、ブラッドオレンジのストッキングについた埃を払った。

私たちは、四人で固まるようにして、クリスタルのステージを下り、重厚な鉄の扉を押し開けた。

長いコンクリートの階段を上っていく。

冷たくカビ臭い地下の空気から、徐々に冬の澄んだ、冷え切った夜の空気へと変わっていくのが分かった。

そして、重い鉄の扉を開け、教団本部の裏手から地上へと出た瞬間、私たちの目に飛び込んできたのは、すっかり日が落ちて、街灯の薄暗い光に照らされた静森町の夜の景色だった。

私たちは、私のスマートフォンのGPSの光点を頼りに、ゆっくりと無言のまま、雑居ビルが立ち並ぶ目の前の通りへと向かった。

四人のヒールの音が、不規則に、けれど力強く夜の町に響き渡る。

やがて、GPSの光点が、ある一つの古い雑居ビルの前でピタリと重なった。

そのビルの1階には、アンティーク調の木製の看板が掲げられていた。

温かなオレンジ色の光が漏れるそのお店の名前は。

『クロドリ』。

「……着きました」

私は、スマートフォンの画面と、その看板を交互に見比べて、皆に告げた。

「キララは……ここにいます」

静森町の闇を抜け、私たちが辿り着いた終着点。

この扉を開けた先に、私たちを待っているのは、希望か、それとも新たなる絶望か。

私は、大きく息を吸い込み、ロイヤルブルーの姉と、黒いレザーの少女、そしてブラッドオレンジの戦士と共に、そのカフェの扉にそっと手を掛けた。

(境界線上の視線・「偽りの春編」静森の章・第百十八話:正義の目覚めと、クロドリへの道 了)

本作に登場する人物、団体、地名、事件等はすべて架空のものであり、フィクションとしてお楽しみください。実在のものとは一切関係ございません。また、本作はAIとの共同作業により制作されました。

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