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境界線上の視線・「偽りの春編」静森の章第九十一話:昇り竜の飛沫と思考破壊の調べ

(視点:鈴木カオリ)

私の目の前で、百八十五センチの長身を誇る美しい女性が、漆黒のボディスーツの肩を激しく上下させ、荒い息を吐きながら私を睨みつけていた。

私の奥義『螺旋階段』によって、五デニールのピュアベージュのストッキングは無惨に引き裂かれ、そこから覗く生々しい肌の露出と幾何学的な破れ目のコントラストが、彼女の脳を強烈に揺さぶったのだ。

彼女のクールな瞳の白目は、すでに毒々しい赤色に染まり上がり、そのライフゲージの四分の三が削り取られていることは明白だった。

そのころ、私から少し離れたコンクリートのフロアでは、全く別の次元の戦いが繰り広げられていた。

ステージの上段から下りてきた十四人のドールたちが、スマートフォンのライトを一斉に点灯させ、自らの脚を照らし上げることで巨大な『光の網』を形成していた。

遠距離からの視覚的暴力。

それにまともに晒されれば、脳の処理能力を瞬時に超え、気絶を免れない。

しかし、工藤さんと希美さんの二人の匠は、全く予想外の行動に出た。

彼女たちは、その眩い光の嵐から逃げるどころか、真っ向からその光の網の中心へと向かって、同時に歩みを進め始めたのだ。

「希美、ある程度のダメージは覚悟しろよ」

エメラルドグリーンのタイトワンピースに身を包んだ工藤さんが、冷徹な声で忠告した。

彼女はすでに二度目となる『清流の歩』を展開していた。

香りの分子を纏い、靴と脚の境界を消し去る滑らかな高速歩行。

その隣で、ワインレッドのドレスの深いスリットから極薄ベージュの脚を覗かせた希美さんが、不敵な笑みを浮かべて応じた。

「ああ、分かってるよ来夏ちゃん。……しかしまぶしーね!」

希美さんもまた、『黄金の基本(ゴールドスタイル)』を崩すことなく、完璧な骨盤の回転と膝の擦り合わせによって、強烈な存在感を放ちながら距離を詰めていく。

十四人のドールたちは、明らかに動揺していた。

まさか、自分たちの放つ光の暴力の中に、自ら飛び込んでくるとは想像もしていなかったのだろう。

彼女たちの統率された動きに、微かな乱れが生じる。

その一瞬の隙を、二人の匠が見逃すはずがなかった。

「ハァッ……ハァッ……!」

光の網を強行突破し、ドールたちの至近距離、互いの肌の温度すら伝わる距離にまで詰め寄った時すでに、十四人のうちの十三人が、二人の放つ圧倒的な「美の暴力」に耐えきれず、白目を剥いてコンクリートの床にバタバタと倒れ伏していた。

光の網を作り出していたスマートフォンが床に転がり、無機質な光があちこちを照らしている。

だが、強行突破の代償は決して小さくはなかった。

光の海を真正面から進んだことで、工藤さんの白目は少し赤みを増し、ライフゲージの約四分の一が削り取られていた。

そして、元々ダメージの蓄積が激しかった希美さんに至っては、先ほどのダメージと合わせて、すでに四分の三のライフゲージを削られてしまっている状態だった。

彼女の息は上がり、ワインレッドのドレスが汗で肌に張り付いている。

「……あとは、あんた一人だぞ」

希美さんは、ポインテッドトゥのハイヒールで床を鳴らし、最後の一人として立ち尽くしていたドールに向かって、冷たく言い放った。

そして、残された全ての気力を振り絞るようにして、完璧なウォーキングでそのドールの真横をすり抜けた。

その一瞬の交差で、最後の一人もまた、糸が切れたように床へと崩れ落ちた。

これで、フロアにいた五十人のドールたちは、全て床に沈んだことになる。

残るは、ステージの奥に陣取る秘書のキララさんと、純白のお面を被ったままの二人の戦士。

そして、私の目の前で肩で息をしている、仮面を外した百八十五センチの女性だけだ。

「……はぁ、はぁ。よくも、やってくれたな……」

長身の女性が、苦しげに言葉を吐き出す。

彼女もまた、ライフゲージの四分の三を削られている状態。

あとは、どちらかが決定的なとどめを刺せば、この勝負は終わる。

(カオリの心:私の体力も、もう限界に近い。次の攻撃で、確実に仕留めなきゃ……!)

私は、アイボリーのレースアップブーツを脱ぎ捨てたストッキングだけの足で、冷たいコンクリートの床をしっかりと掴むように踏みしめた。

右手には、先ほど自らの目に一滴落とした、小さなガラスの小瓶が握られている。

精神の破壊を食い止めるための回復薬、『ミントオイル』。

まだ、小瓶の中にはかなりの量のオイルが残っている。

私は、その小瓶の蓋を開けたまま、彼女に向かって静かに一歩踏み出した。

「これで、終わりにします」

私は、螺旋状に無惨に引き裂かれた右脚を、彼女の視界の中央に据えるようにして、ゆっくりと腰を落とした。

そして、握りしめていた小瓶を傾け、自らの太腿の、ストッキングが破れて生々しい素肌が露出している一番上の部分へと、そのミントオイルをタラリとこぼし落としたのだ。

「え……?」

彼女が、怪訝な声を漏らした。

オイルは、私の体温を奪いながら、破れたストッキングの隙間と素肌の境界線を縫うようにして、螺旋の軌道を描きながら下へ、下へと伝い落ちていく。

「奥義『ドラゴンオイル』」

私は、その名を口にしながら、オイルが流れる脚の筋肉を極限まで引き絞り、彼女の至近距離で魅せつけた。

強烈なミントの清涼感と、肌を刺すような刺激。

それが、私の汗ばんだ素肌と、ピュアベージュのナイロン繊維を濡らし、地下の照明を反射してエロティックな輝きを放ち始める。

破れたストッキングの隙間を這うように流れるオイルの軌跡は、まるで天へと昇る『竜』の鱗が、朝露に濡れてギラギラと光を放っているかのようだった。

「あっ……ぁぁっ……!」

彼女の口から、悲鳴が上がった。

ただでさえ『螺旋階段』の破れ目から覗く素肌のエロティシズムに脳を揺さぶられていた彼女の視覚に、オイルで濡れそぼった肌の生々しい光沢と、強烈なミントの揮発成分が直接網膜を刺すように襲いかかったのだ。

視覚的な快楽と、ミントの刺激による神経の混乱。

それが彼女の脳の処理能力を完全にオーバーフローさせ、残されていた四分の一のライフゲージを、一瞬にして刈り取った。

私は、小瓶の中のミントオイルを、一滴残らず流し切った。

「アァァァァァッ……!!」

百八十五センチの長身が、ついにバランスを崩し、漆黒のボディスーツを乱れさせながら、クリスタルのステージの端へと崩れ落ちた。

彼女は白目を向き、完全に意識を失ってピクリとも動かなくなった。

「はぁっ……はぁっ……」

私は、空になった小瓶を握りしめたまま、その場に膝をつきそうになるのを必死に堪えた。

終わった。

私が受け持った敵を、なんとか一人、自力で倒すことができたのだ。

「……よくやった、カオリ」

背後から、工藤さんの労いの言葉が聞こえた。

私は振り返り、工藤さんと希美さんの方へ向かって小さく頷いた。

フロアの戦いは、終わった。

私たちは三人で肩を並べるようにして、ステージの奥、残る純白の仮面を被った二人の戦士と、その前に立つダークグレーのスーツの秘書、キララさんの方を同時に向いた。

キララさんは、味方が五十一人も倒されたというのに、顔色一つ変えずに私たちを見下ろしていた。

「やりますね、皆様。……しかし、ここからが本番ですよ」

キララさんのその無機質な言葉は、負け惜しみなどではなく、絶対的な自信に裏打ちされた事実の宣告のように響いた。

その時だった。

「私が最初に行くから、あとは頼んだぜ、来夏ちゃん、カオリちゃん」

私の横から、希美さんがフラフラとした足取りで一歩前へ出た。

「希美さん!?」

私は驚いて声を上げた。

希美さんは、すでに四分の三のライフゲージを削られている。

立っているのもやっとのはずだ。

それなのに、無傷のキララさんたちに向かっていこうというのか。

希美さんは、振り返らずに右手をヒラヒラと振った。

「私の残りの力じゃ、どうせ最後まで持たない。だったら、ここで私の持てる全てをぶつけて、あいつらの底を少しでも暴いてやるのが、一番マシな使い方だろ?」

希美さんは、そう言い残すと、コンクリートのフロアから再びクリスタルのステージへと上がり、ワインレッドのドレスの裾を揺らして歩き出した。

その歩みは、ダメージの蓄積を感じさせないほどに誇り高く、洗練された『黄金の基本(ゴールドスタイル)』のウォーキングだった。

キララさんは、向かってくる希美さんを見て、ダークグレーのスーツの姿勢を正した。

「奥様。あなたは、ここで終わりです」

キララさんは、背後に控える二人の仮面の戦士には目もくれず、自らのボルドーがかった五デニールの脚を交差させ、ステージの中央へ向かって一人で歩き出した。

六億の匠、木島希美。

そして、脚値不明の冷徹な秘書、キララ。

二人が、お互いの視覚的破壊力が最も高まる『クリティカル距離』へと同時に踏み込み、ピタリと足を止めた。

「奥義『黄金の樹木(ゴールデンツリー)』!!」

希美さんが、残された最後の命の炎を燃やすようにして、右脚を高く振り上げ、複雑に絡みつかせるあのポージングをとった。

ワインレッドのドレスのスリットから、五デニールの極薄ベージュが黄金の輝きを放ち、大樹のように力強く、そして妖艶にステージ上にそびえ立つ。

先ほど私を絶望の淵に追いやった、圧倒的な大人の色気と生命力の爆発。

しかしキララさんは、その黄金の輝きを真正面から浴びても、全く表情を変えなかった。

「……奥義『ブレインクラッシュ(思考破壊)』」

キララさんの、機械的な声が響いた。

その瞬間、彼女は信じられない行動に出た。

彼女は、着ていたダークグレーのスーツのジャケットを、まるで不要な拘束具でも脱ぎ捨てるように、素早い動作で脱ぎ捨てたのだ。

中に着ていた白いブラウスの胸元が露わになり、さらに彼女は、タイトスカートのサイドに入っていた小さなスリットに両手を掛けると、それを自らの力で限界までビリッ! と引き裂いたのだ。

「えっ……!?」

私は息を呑んだ。

引き裂かれたスカートの隙間から、ボルドーがかった五デニールのストッキングに包まれた彼女の脚が、太腿の付け根まで完全に露出する。

そして、彼女はその場で一切の動きを止め、氷のように冷たい瞳で、希美さんの目を真っ直ぐに見据えた。

ただ、見つめるだけ。

しかし、その引き裂かれたスカートと、計算し尽くされた脚の角度。

そして何より、相手の目を絶対に逸らさないという強烈な「意志」が、恐ろしい効果を生み出していた。

(カオリの心:……なんだろう、あのポージング。ただ立っているだけなのに、見てると頭の中がぐちゃぐちゃになりそう……!)

キララさんの『ブレインクラッシュ』。

それは、相手の「もっと見たい」「次にどう動くのか」という『快楽の期待値』を極限まで煽っておきながら、あえて一切動かず、冷徹な視線で相手を縛り付けることで、脳の処理能力を意図的にオーバーフローさせるという、極めて異質なカウンター奥義だった。

「が、ぁぁぁっ……!!」

希美さんの口から、絶叫が漏れた。

黄金の輝きを放っていた彼女のポージングが崩れ、ワインレッドのドレスが乱れる。

彼女の瞳の白目は、一瞬にして限界の赤色に染まり上がり、そのまま白目を剥いてしまった。

ドサッ……!

六億のプレイヤー、木島希美が、クリスタルのステージの上で完全に意識を消失し、崩れ落ちたのだ。

「希美!」

工藤さんが、思わず声を上げる。

さらに、恐ろしいことはそれだけではなかった。

「あ、ぎぃぃぃっ……!!」

「う、おおおおおっ!!」

ステージの下で、ギリギリのところで意識を保っていたはずの柴桑住職と伊達正彦さんの二人が、同時に頭を抱えて苦悶の声を上げたのだ。

キララさんの『ブレインクラッシュ』の余波が、彼らの快楽中枢をも直撃したのだ。

二人は、もはや立っていることもできず、床に這いつくばって泡を吹きそうになりながら、かろうじて意識の糸にしがみついているという、奇跡に近い状態だった。

「キ、キララ……! わしまで危ないじゃないか……!」

住職が、血走った目でステージ上のキララさんを睨みつけ、かすれた声で抗議する。

キララさんは、引き裂かれたスカートのまま、冷ややかな視線を住職へと向けた。

「申し訳ありません。ですが、これもしかたありません、住職」

キララさんは、感情の欠片もない声でそう謝罪すると、クルリと背を向け、お面を被った二人の戦士の後ろへと戻っていった。

彼女が振り返った瞬間、私はハッとして目を丸くした。

キララさんの姿が、先ほどとは明らかに変わっていたのだ。

彼女は、歩きながら素早い手つきで、きっちりとまとめていた夜会巻きの髪を解き放った。

豊かな黒髪が、彼女の白いブラウスの肩にバサリと流れ落ちる。

さらに、ジャケットのポケットから濃い色のリップを取り出し、歩きながら自らの唇にサッと塗り直した。

ダークプラムのような、深く、毒々しい赤。

ただの冷徹な「秘書」から、美脚を極限まで際立たせ、相手を処刑するためだけの「死神」への変貌。

引き裂かれたスカートと、ボルドーがかった五デニールの脚。そして、乱れた髪とダークプラムの唇。

キララさんは、自陣に戻り、ゆっくりと振り返った。

その瞳には、相変わらず赤い充血は一切見られない。

あれだけの奥義の応酬がありながら、彼女は依然として『ノーダメージ』なのだ。

そして、ついに。 キララさんの前に立つ、純白の仮面を被った二人の長身の戦士が、ゆっくりと前へと歩み出た。

「カオリ、あいつらが来るぞ」

工藤さんが、エナメルパンプスのヒールを鳴らし、漆黒のトレンチコートの襟元を掴んで警戒の態勢をとる。

「はい」

私は、ブーツを脱ぎ捨てたストッキングの足でクリスタルの床を踏みしめ、力強く返事をした。

得体の知れない二人の仮面の戦士。

そして、背後から全てを支配するノーダメージの死神、キララ。

私たちの本当の戦いは、ここから始まるのだ。

(境界線上の視線・「偽りの春編」静森の章・第九十一話:昇り竜の飛沫と思考破壊の調べ 了)

本作に登場する人物、団体、地名、事件等はすべて架空のものであり、フィクションとしてお楽しみください。実在のものとは一切関係ございません。また、本作はAIとの共同作業により制作されました。

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