エリートの陥落~THE 学歴~ エピソードゼロ
銀座の地下にひっそりと、しかし確固たる権力と欲望の象徴として存在する会員制高級ラウンジ「ノクターン」。
開店前の静まり返ったロッカールームで、沙織は姿見の前に立ち、本日の自身の「武装」を冷徹な視線で最終確認していた。
深いネイビーのベルベット生地が、彼女の砂時計のような曲線美を容赦なく締め付けるタイトドレス。
胸元は上品なスクエアネックだが、スカートの裾は膝上十五センチという、銀座のホステスとしてはやや攻めた丈である。
そして、その短い裾からスラリと伸びる彼女の最大の武器――美脚を包み込んでいるのは、イタリア製の最高級十五デニール、シアーブラックのストッキングだった。
十デニールほどの危うい透明感はない。
しかし、二〇デニールのような野暮ったさも皆無。
十五デニールという絶妙な薄さは、大理石の床を歩くたびに、上質なシルクのような光沢を放ち、奥に潜む彼女の白い肌を「見えそうで見えない」という極限の焦燥感とともに浮かび上がらせる。
足元には、凶器のように鋭く尖ったルブタンの十センチヒール。
「……よし。今日も完璧ね」
沙織は、艶やかな紅を引いた唇の端をわずかに吊り上げた。
今日もまた、自らのスペックに酔いしれた「自称・選ばれた男たち」がやってくる。
彼らは高い酒を頼み、難しい言葉を並べ立てるが、結局のところ、視線の先はこの十五デニールの極薄ナイロンに吸い寄せられ、知性を溶かしていくのだ。
「沙織さん、三番VIPに新規のお客様です」
黒服のボーイが声をかけてきた。
「大手ゼネコンの若手社員みたいです。紹介で来られたんですが、すでにお酒が入っていて、かなり荒れているというか……」
「建築関係のエリート様ね。了解よ」
沙織は、十五デニールのストッキングが微かに衣擦れの音を立てるのを楽しみながら、戦場であるVIPルームへと向かった。
重厚なマホガニーの扉を開けると、そこには、高級なスーツを着崩し、眉間に深いシワを寄せた若い男が、すでにウイスキーのグラスを煽っていた。
年齢は二十代半ば。ネクタイは緩み、手の甲には現場でついたと思われる真新しい擦り傷が見える。
「失礼いたします。沙織と申します。本日はご来店いただき、ありがとうございます」
沙織が洗練された所作で隣に腰を下すると、男――大手ゼネコン勤務、二十五歳の健太は、ギラついた目を沙織に向けた。
「……おっ、すげえいい女じゃん。座れよ。俺は健太。今日はおごりだから、高い酒ガンガン持ってこいよ」
「ふふっ、ありがとうございます、健太さん。お仕事帰りですか?」
沙織がグラスを作りながら愛想よく問いかけると、健太は待ってましたとばかりに、せきを切ったように愚痴を吐き出し始めた。
「聞いてくれよ、沙織ちゃん! 俺さ、こう見えても国立の『T大』建築学科を首席クラスで出てるんだぜ? なのにさ、今の配属先がクソみたいな湾岸のデカい現場でよ!」
「まあ、T大ですか? すごぉーい! エリートさんじゃないですかぁ」
沙織は、目をキラキラさせて感嘆の声を上げた。
しかし、その心の中では、絶対零度の冷ややかな嘲笑が渦巻いていた。
『……出たわ。典型的な「高学歴・現場コンプレックス」の拗らせ男。机の上の計算がすべてだと思って現場に乗り込み、使えなさを露呈してプライドをズタズタにされている哀れなヒラ社員』
「だろ!? な・の・に! 現場監督の高橋ってジジイが、マジで無能の極みでさ! あいつ、高卒で現場一筋ウン十年とかいう化石みたいなヤツなんだけど、ロジックもクソもねえんだよ!『現場の勘』だのなんだの、非科学的な精神論ばっかり押し付けてきやがって!」
健太はバンッ!とテーブルを叩き、唾を飛ばさんばかりにまくしたてる。
「俺がCADで完璧な工程表と図面を引いてやってるのに、あのジジイ、『現場の足場はそうじゃねえ』とか言って、俺の計算を全否定するんだぜ!? おかしいだろ! 俺はT大で最新の建築工学を学んできたんだ! あんな泥臭い底辺のジジイに、俺がアゴで使われる筋合いなんて一ミリもねえんだよ!」
「それは……大変ですねぇ。健太さんみたいに優秀な方が、そんな環境にいるなんて、もったいないですぅ」
沙織は、表面上は最高級の甘い営業スマイルで相槌を打ちながら、健太の薄っぺらい自己承認欲求を正確にスキャンしていた。
『優秀、ね。T大の看板をぶら下げていないと、自分を保てないくせに。現実の人間関係一つ構築できず、自分の計算式の「バグ」を他人のせいにしているだけの子供じゃない。本当にできる男は、こんなところで吠えずに現場を回すわよ』
「だいたいさあ、職人の連中もバカばっかりなんだよ! 俺が専門用語で指示出してんのに、誰も理解できねえの。あいつら、IQいくつだよって話。俺の頭脳を活かせるのは、あんな泥まみれの現場じゃない。本社の設計部とか、経営企画室のはずなんだよ!」
「そうですよねぇ。健太さんのような素晴らしい頭脳は、もっとふさわしい場所で輝くべきですよね♡」
沙織が甘い声で同調すると、健太は「だろ!?」と身を乗り出してきた。
その瞬間。
彼の視線が、沙織の顔から下へと、露骨なまでに急降下した。
健太の目が、テーブルの下――沙織の極端に短いベルベットのスカートの裾から伸びる、十五デニールのシアーブラック・ストッキングに包まれた太ももに、ピタリと張り付いたのだ。
『……ほら、来た。高尚な学歴をひけらかす口とは裏腹に、下半身のロジックはチンパンジー並みね。本当に、男って単純で滑稽』
沙織は内心で盛大に見下しながら、わざと右脚を左脚の上にゆっくりと乗せ、深く脚を組んだ。
シュルッ……。
十五デニールの極薄ナイロン同士が擦れ合う、小さくも蠱惑的な摩擦音がVIPルームに響く。
脚を組んだことで、タイトスカートの裾はさらに限界まで引き上がり、むっちりとした太ももの広大な面積が露わになった。
アンバーの照明を浴びたシアーブラックの表面は、脚の曲面に沿って滑らかな光沢を描き、その下にある白く柔らかな肉の弾力を、これでもかとばかりに見せつけている。
「ゴクッ……」
健太の喉仏が、大きく上下した。
先ほどまでの「高橋監督への怒り」も「T大卒のプライド」も、彼の脳内から一瞬にして消し飛んだのは明白だった。
「あ、あのさ、沙織ちゃん……」
健太の声は、先ほどの威勢の良さが嘘のように上擦っていた。
「はい? なんでしょう、健太さん」
沙織は、わざと小首を傾げ、組んだ上の脚――空中に浮いたルブタンのヒールを、健太のスラックスの膝元ギリギリのところで、ブラブラと小さく揺らした。
『さあ、頭の良いエリート様。この十五デニールの光沢から、目を逸らすことができるかしら? 現場の職人をバカにしているあなたのIQが、今どこまで下がっているか、見せてちょうだい』
「沙織ちゃんってさあ、……すげえ、綺麗だよね。特に、その……スタイルとか」
「やだ、ありがとうございますぅ。でも、健太さんみたいなエリートの方に見られると、ちょっと緊張しちゃいます♡」
沙織は恥じらうように両手で頬を包みながら、次の展開を完全に予測していた。
『この手の「プライドだけ高いチキン」が選ぶ手口は、いつだって「偶然を装った接触」よ。立派なロジックを装って、安全圏から欲望を満たそうとするの』
沙織の読みは、恐ろしいほど的中した。
「あ、ヤベ。タバコ、タバコ……っと」
健太はわざとらしくポケットを探るふりをし、テーブルの上に置いてあった自分の純銀製のジッポライターを、不自然な手つきで「ポロリ」と床に落とした。
カチャッ、と重たい金属音が鳴り、ライターは沙織の足元、ちょうど彼女の十五デニールに包まれたふくらはぎのすぐ横に転がった。
「あー、わりい。落としちゃった。拾うわ」
健太は上半身をテーブルの下へと潜り込ませた。
這い寄るように伸びてくる彼の手先が、不自然なほど沙織の脚の方へと向かっている。
『……ふふっ。本当に教科書通り。ライターを拾うふりをして、私の脚に「偶然」当たるつもりね。計算し尽くされた動線のつもりでしょうけど、浅はかすぎてあくびが出るわ』
その脂ぎった指先が、十五デニールの神聖な結界に触れようとした、まさにその刹那。
スッ。
「……え?」
テーブルの下に顔を突っ込んだ健太は、間抜けな声を漏らした。
ついコンマ一秒前までそこにあったはずの、黒いストッキングの美脚が、まるで最初から蜃気楼だったかのように、完全に消失していたのだ。
「あら、健太さん。ライター落とされたんですか? お手間は取らせません、私が拾いますね」
頭上から、コロコロと転がるような愛想の良い声が降ってきた。
健太がハッとして顔を上げると、沙織はいつの間にか、彼が手を伸ばすよりも早く立ち上がっていた。
そして、健太の手が届く遥か手前で、十五デニールの脚を綺麗に揃えてしゃがみ込み、白い指先でジッポライターを拾い上げていたのだ。
「はい、どうぞ♡」
沙織は完璧な営業スマイルを浮かべたまま、ライターを健太の目の前に差し出した。
「あ、ああ……サンキュ……」
健太は這い上がるようにしてソファに戻り、動揺を隠しきれない様子でライターを受け取った。
『どうしたの? T大で学んだはずの完璧な動線予測が外れて、パニックかしら。あなたの浅ましい下心なんて、私が席に着いた瞬間からすべてお見通しよ。この脚は、あなたみたいな偽物に触れられるほど安くないの』
沙織は再び隣に座り、優雅に脚を組み直した。
一度の失敗で火がついたのか、健太の行動はさらにエスカレートしていった。
思い通りにならない苛立ちを酒で流し込み、理屈っぽさがさらに増していく。
「だいたいさ! 俺が現場にいること自体が、日本の建設業界の損失なんだよ! 俺の頭の中には、次世代の都市開発のパラダイムを変えるアイデアが詰まってるんだ!」
健太は熱を帯びた視線を沙織に向けながら、今度は「親しみ」を装って、沙織の膝元へと自分の脚をじりじりと近づけてきた。
『今度は距離を詰めることで、心理的優位に立とうという魂胆ね。言い訳が雑になってきたわよ、エリート様』
沙織は、健太の膝が触れる直前で「あ、お酒作りますね」とグラスに手を伸ばすふりをして、自分の体をソファの奥へと滑らせた。
またしても空振り。
健太の脚は、冷たいレザーのソファに虚しく押し付けられた。
「チッ……!」
健太は小さく舌打ちをした。
自分の思い通りにならない現場。
自分の頭脳を認めない上司。
そして今、目の前にいる女すら、自分の完璧な予測通りにコントロールできない。
彼の中で、強烈な劣等感が限界点を超え、ひどく歪んだ「理屈」となって暴走を始めた。
「……ねえ、沙織ちゃん。君さ、コンプライアンスとか顧客満足度って言葉、知ってる?」
健太は突然、グラスをテーブルにコトリと置き、ねっとりとした声を出した。
「え? 難しい言葉ですねぇ。どういう意味ですか?」
沙織はキョトンとした顔を作ってみせた。
内心では、『ああ、ついにビジネス用語を盾にしてマウントを取りに来たわね』と冷笑しながら。
「さっきからさ、俺がせっかく君との距離を縮めて、有意義なコミュニケーションを取ろうとしてるのに。意図的に避けてるよね? それって、客のニーズに応えるっていう、サービス業の本質から完全に逸脱してるんじゃないの?」
健太は、ゆっくりと立ち上がった。
そして、沙織が座るソファの背もたれに右腕を回し、彼女の逃げ場を塞ぐように、じりじりと顔を近づけていく。
「俺は毎日、現場で話の通じない連中を相手に、高度なロジックを使ってプロジェクトを回してるんだ。君みたいな水商売の人間が、俺の『善意の指導』を無下にするなんて、論理的に間違ってるだろ? だから……もっと俺に『協調性』を見せてくれないかな」
逃げ場を奪う体の使い方と、至近距離から見下ろす視線。
自らの欲望を「論理」や「指導」という言葉でコーティングし、精神的に相手をねじ伏せようとする心理的圧迫。
『……ふふっ。あははははっ!』
沙織の心の中で、盛大な爆笑が弾けた。
『顧客満足度? 協調性? 本当に笑わせてくれるわね。ただ私の脚を触りたいだけのくせに、そんな大層な言葉で武装しないと女一人に迫ることもできないの? 現場監督にコテンパンにされているストレスを、こんなところで晴らそうったって、そうはいかないわよ』
沙織は、逃げ場を塞がれているにもかかわらず、一切の恐怖を見せず、ただクスリと小さく笑った。
「……協調性、ですか?」
沙織は、極めて軽やかに、甘い声のままそう呟いた。
そして、健太の腕の下をくぐるようにして、スッと優雅に立ち上がった。
十五デニールのストッキングに包まれた完璧な脚線美が、健太の目の前にスッと伸びる。
彼女は、健太の顔のすぐ近くで立ち止まり、小首を傾げて彼を見つめ返した。
「健太さんって、本当に頭が良くて、難しい言葉をたくさんご存知なんですね」
沙織は、最高の笑顔を浮かべていた。
しかし、その瞳の奥には、温度の一切ない、すべてを見透かすような鋭い光が宿っていた。
「でも……なんだか不思議ですね」
「……え?」
「そんなに完璧な『ロジック』をお持ちなのに、グラスを持つ手は震えているし、さっきからずーっと、私の脚ばかり見ていらっしゃる。……現場でも、そうやって難しい言葉を並べて、本当の『問題』から目を逸らしているんですか?」
「なっ……!?」
健太の顔が、一瞬にして凍りついた。
沙織は何も怒っていない。
罵倒もしていない。
ただ、彼の薄っぺらい「ビジネス用語の鎧」の隙間から見え隠れしている、浅ましい欲望と、現場での無力さという「事実」を、ほんの少し突っついただけだ。
「顧客満足度も大切ですけど……まずはご自身の『設計図』を見直した方がいいかもしれませんね。基礎がグラグラだと、どんなに立派な言葉を積み上げても、すぐに崩れちゃいますよ? ……ふふっ」
沙織は、健太の鼻先でクスリと笑うと、彼からスッと距離を置いた。
『……読まれている』
健太の脳髄に、強烈なパラノイアが走った。
『この女、俺がただ脚を触りたいだけだってことにも、現場で全く通用していなくて逃げ出したいと思っていることにも……最初から全部、気づいていたのか!? 俺の完璧なロジックを、こんな女が、ただの愛想笑いの裏で、完全に鼻で笑っていたっていうのか……!?』
健太は、何も言い返せなかった。
自分は特別だと思っていた。自分はエリートだと思っていた。
しかし、現実は、現場でも、そしてこの夜の街ですら、自分の「論理」は誰にも通用せず、ただの一人のホステスに手のひらで転がされ、本質を完全に見透かされて遊ばれていただけなのだ。
「あ……ああ……」
健太は、力なくソファにへたり込んだ。
エリートとしてのアイデンティティが、音を立てて崩壊していく。
彼は魂を抜かれたように、虚ろな目で沙織の足元――十五デニールのルブタンのヒールを見つめることしかできなかった。
「――お待たせいたしました、健太さん。お時間ですので、お会計の伝票をお持ちしました」
数分後。
完全に沈黙した健太の耳に、いつもの愛想の良い沙織の声が届いた。
ハッとして顔を上げると、沙織は黒いレザーのバインダーを手に、彼の目の前に立っていた。
「こちら、本日の明細になります。ご確認くださいませ♡」
沙織は、へたり込む健太を見下ろすように、しかしホステスとしての完璧な所作でバインダーを差し出した。
その姿勢は、意図的に健太の目の前に、彼女の十五デニールのストッキングに包まれた完璧な脚線美を突きつける形になっていた。
深いネイビーのベルベットスカートの裾から伸びる、シアーブラックの妖艶な光沢。
『……触りたい』
健太の脳裏に、どす黒い欲望がフラッシュバックする。
『今なら、手を伸ばせば……』
しかし、健太の体は全く動かなかった。
目の前で完璧な微笑みを浮かべる沙織の瞳が、彼に「やってみなさいよ。あなたの浅ましい動きなんて、すべてお見通しだから」と無言の圧力をかけているように感じられたのだ。
『ダメだ……。この女には、俺のすべてが読まれている。手を伸ばしても、また完璧に躱されて、あの冷たい瞳で見下ろされるだけだ。……怖い。これ以上、自分の惨めさを突きつけられるのは、耐えられない……!』
健太は、ガタガタと震える手でバインダーを受け取った。
明細に印字された金額は、目玉が飛び出るような額だったが、今の彼には文句をつける気力すら残っていなかった。
「……カードで……」
健太は、かすれた声で言いながら、財布から一枚のクレジットカードを差し出した。
ごく一般的な、ただの平カードだった。
『あら。T大卒のエリート様なのに、お財布の中身はずいぶんと可愛らしいんですね。ふふっ、見掛け倒しにもほどがあるわ』
沙織は内心で存分に嘲笑しながら、表面上は恭しくカードを受け取った。
「かしこまりました。……暗証番号の入力をお願いできますか? 手が震えてますけれど、大丈夫ですかぁ?」
沙織は、カード決済端末を健太の目の前に差し出した。
心配そうな声を出しながらも、その態度は完全に主導権を握った女王が、足元で震える敗北者に対し、事務的な作業を命じているだけの絶対的な上下関係だった。
「……あ……ああ……。わ、分かった……」
健太は、目に見えて震える指先で、なんとか端末に四桁の暗証番号を打ち込んだ。
その間も、彼の視線は沙織の十五デニールの太ももに釘付けになっていたが、そこにはもはや先ほどまでの攻撃的な渇望はなく、ただ、見透かされる恐怖に怯えきった、惨めな服従の光だけが滲んでいた。
「ありがとうございます。お忘れ物のないよう、お気を付けてお帰りくださいませ」
沙織は完璧な、一分の隙もないお辞儀をして立ち上がると、最後に健太に極上のスマイルを向けた。
「明日も現場、早いんですよね? お仕事、頑張ってくださいね♡」
その言葉は、最高のエールを装った、最悪のトドメだった。
カツン、カツン。 十五デニールのストッキングと十センチのルブタンが奏でる美しい足音を残し、沙織は扉を開け、振り返ることなく廊下へと消えていった。
取り残された健太は、しばらくの間、立ち上がることすらできなかった。
豪華な室内を流れる空気さえ、自分を嘲笑っているように感じられる。
「……負けた……。俺は……」
這々の体で店を出た健太を、銀座の夜風が容赦なく叩きつけた。
どんなに現場で図面を引こうと、どんなに学歴をひけらかそうと、あの十五デニールの光沢と、愛想笑いの裏ですべてを見透かしていた氷のような知性の記憶は、一生彼を苛み続けるだろう。
――これが、銀座の魔性・沙織の日常。
彼女は今日も、薄っぺらいプライドを纏った偽物のエリートたちを、微笑みながら狩り続ける。
いつか、彼女を本当に満足させる「真の怪物」が現れる、その日を待ちわびながら。
(エリートの陥落~THE 学歴~ エピソードゼロ 了)
本作に登場する人物、団体、地名、事件等はすべて架空のものであり、フィクションとしてお楽しみください。実在のものとは一切関係ございません。また、本作はAIとの共同作業により制作されました。
