スペイン語通訳裏話(その4):「着る」と「持ち帰る」の違い
スペイン語がわかる人優先の通訳のエピソードですが、そうでない人にも分かりやすいように書きました。ちょっと可笑しい話を楽しんでいただければ嬉しいです。
「着てください」と「お持ち帰りください」の違い
スペイン語は、かつての植民地赤道ギニアも含めて世界21か国で話され、国連の公用語にも指定されています。公用語は共通ですが、日常会話で使われる言葉は国によって異なります。そのため、時には大きな誤解が生まれることがあります。
スペイン語の動詞llevarは「持つ、持っていく」という意味で使われますが、「着ている」という意味もあります。文法的な説明は省略します。
通訳案内士の同僚が、30人ほどのメキシコ人観光客にアテンドしたときのことです。一行は赤坂にあるホテルに泊まりました。
朝9時に彼らをピックアップしようとしたところ、ホテルのマネージャーから、「外国人のツアー客が浴衣を持ち帰って困ります。お返しくださるように伝えて下さい」と、苦情を言われました。
ホテル側はスーツケースを調べたわけでなく、メイドが掃除したときに、30枚もの浴衣がなくなったことに気づき、マネージャーに連絡してわかったのです。
彼女には思い当たるふしがありました。ホテルのクローゼットにはパジャマ代わりに浴衣が置いてありました。彼女はツアー客に、「部屋にある浴衣を着てください」と言うつもりで、llevarの命令形「Llévenselo」と言ったのですが、この言葉は「持ち帰ってください」という意味になります。
そのため、30人がいっせいに浴衣をスーツケースにいれておみやげにしようとしたのです。「着る」には、ponerseという動詞がよく使われます。
新米のころには、こういう間違いを犯しがちです。
カミングアウト
今は大御所になったスペイン在住の映画監督が、ある年東京で開催された映画祭に招待された時に通訳を務めました。
監督はいつも3人のスペイン人男性と行動しましたが、まるで監督を警護するガードマンのようでした。映画祭の舞台上でのあいさつのために打合せをしたときに、出品する作品のことだけでなく、家庭環境、子供のころの複雑な育ち方などを話してくれました。
事前に入念に打合せしておくと、インタビューなどの内容に直接関係がなくても、その方のイメージがつかめるので、通訳がしやすくなります。
普通スペイン人と仕事をすると、有名人であっても、すぐに打ち解けて、「君(tú)」で話すようになりますが、監督は私には「あなた(usted)」を使って、つねに一定の距離を置いています。
よそよそしく感じたので、「君という言い方で話していいですか?」と聞いたところ、監督は黙ったままです。嫌なのかと思い、私は「あなた」を使って話し続けました。そのため、距離は縮まりませんでした。その後長い間このことが気になっていました。
後に監督が同性愛者であるとカミングアウトしたのは有名な話です。女性通訳にustedを使った理由がやっとわかりました。
監督の作品は高評価で賞を獲得しました。
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