「人手不足」ってほんと?
昨今、就職・転職ネタをはじめとする労働市場関連の記事を見ると「人手不足」という文字で溢れかえっています。
日本の人口は、2020年に約1億2,600万人だったのが、100年後の2120年には約3,600万人(約3割)にまで減少する、という予測もあるようです。
そこだけ見れば、「そりゃ、人手不足になるわな」と考えるのは自然な流れだと思いますが、皆さんも今の世の中、素直に「人手不足だ!」と思っておられるのでしょうか?
少なくとも、私は以前から、この「人手不足」というワードには疑問を抱いていました。 というのも、周囲の我々の世代、つまり50代や60代は、職にありつけずに苦しんでいる人たちがたくさんいるからです。(しかも、条件的に、決して”高望み”をしているわけではない人たちも多くいる)
私自身も、このnoteに書いてきたとおり、50代になって人生で初めて経験した転職活動では、想像を遥かに上回る「壁」にぶち当たり、苦しみ抜いてきました。
そこで、自分なりにリサーチしてみたところ、現在の日本の「人手不足」を取り巻く状況は、以下のような内容でした。(私の職務である「人事職」にフォーカスを当てて整理しています)
1. 年齢(年代)による違い:若手の「奪い合い」とミドルの「選別」
現在の労働市場は、年齢によって「天国と地獄」ほどの差があります。
20代〜30代前半: 歴史的な「超・売り手市場」。スキルが未熟でも、ポテンシャルだけで複数の内定が出る状態。
50代(特に管理職): 逆に「超・買い手市場」。企業側には「定年までが短い」「給与が高い」「アンラーニング(過去の成功体験の棄却)ができないのでは?」という強い懸念があります。
50代の応募は、企業側の本音では「よほど自社にピッタリの即戦力(かつ年収が抑えられる人)がいなければ採用しなくていい」という、極めて高いハードルが設定されていると思ってよいでしょう。
2. 業界による違い:労働集約型 vs. 知識集約型
「人手不足」と叫んでいる業界の多くは、労働集約型(※)かつ低賃金の業界です。
不足が深刻: 建設、物流、介護、飲食。「誰でもいいから来てほしい」という切実な悲鳴。
供給過多: 大手製造業や安定企業の管理部門。 特に、「東京都23区内の管理職」という椅子は、まさに最も競争が激しい「人気エリア×人気職種」の局地です。
(※ 「労働集約型」とは、機械や設備よりも「人間の労働力」への依存度が高いビジネスモデルや産業のことを指します。代表的な業種は、介護、飲食、小売、観光、ホテル、農業、漁業、清掃業、警備業、アニメ制作など)
3. 職種による違い:現場(現業)職 vs. 管理部門(バックオフィス)
「仕事はあるが人がいない」のが現場職であり、「人はいるがポストがない」のが管理部門職(総務・人事・経理等)です。
現場職: ドライバーやエンジニアなどは、有効求人倍率が10倍を超えることも珍しくありません。
人事・総務職: そもそも1社あたりの定員が少ない「椅子取りゲーム」。不透明な景気下では、企業はまず「直接利益を生まない」とされるバックオフィスの採用を絞ります。 (人事職の私としては、バックオフィス部門が「直接利益を生まない」という一言で片付けられることには、それはそれで大いに違和感はあるのですが、、それはまた別の機会に。。)
4. 役職による違い:メンバー層 vs. 経営・管理職層
ここが最も残酷な現実です。
DX化により若手1人で回せる範囲が広がる一方、管理職層はポストが渋滞。
大手企業から役職定年で溢れた人材が中小・オーナー企業に流れ込んでいますが、そこでは「オーナーとの相性」という、数値化できない異常に高いハードルが待ち構えています。
5. 日本人/外国人による違い:分断される労働市場
現場の現業職は外国籍人材に門戸が開かれていますが、日本の複雑な労務問題や「忖度・調整」が求められる人事のベテラン枠には、依然として日本人が求められます。
ただし、そこでの条件は「最新の制度設計(ジョブ型など)をリードできるアップデートされたスキル」があることです。
6. 地域による違い:東京の「超・過密競争」と地方の「深刻な空白」
都内23区:ハイエンド人材の「飽和と渋滞」
「東京なら、もっといい人が来るはず」という企業の「強者の選別」が働いています。ライバル(求職者)の母数が圧倒的なため、減点方式の選考が行われる実質的な買い手市場です。地方:プロフェッショナル人材の「不在」
一方で、地方のオーナー企業ほど、「組織をデザインできる人事部長」のような存在を渇望しています。しかし、そうした企業は「どうやってその人材にリーチすればいいか」すら分かっていないのが実態です。
結論:日本は「人」ではなく「特定の椅子」が不足している
「人手不足」は嘘ではないが、それは「安い賃金で過酷な労働をしてくれる若者がいない」あるいは「必要な場所に必要な人がいない」という極端な偏在(ミスマッチ)を指しています。
以上がリサーチ結果です。
なるほど、概ね自分の感覚と相違ありません。
そこで、AI君に私の経歴を伝え、「労働市場における私(Joy)の価値は?」と尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。
「あなたのような、大手製造業からオーナー企業までを熟知した『人事屋』の視点は、本来、組織の歪みを直すために最も必要なピースです。しかし、多くの企業はその価値を正しく値付けできていません」
前半の文面はありがたいですが、後半については苦笑するしかありませんね(苦笑)
実際、私が登録している求人サイトの一つは、自分が「お気に入りリスト」に登録している求人について、不定期で、その求人の応募状況の案内メールが送られてくるのですが、そこにはいつも、やる気が失せるような数字(笑)が並んでいます。
以下は、直近2ヶ月の、その案内メールに書かれていた実際の事例です。(全て中小企業)
建築業(23区内)/ 人事管理職: 応募済み15名(お気に入り42名)
ITコンサル(23区内)/ 人事戦略マネージャー: 応募済み79名 (お気に入り334名)
ITコンサル(23区内)/ 人事部長候補: 応募済み10名(お気に入り30名)
リユース業(23区内)/ 人事マネージャー: 応募済み15名 (お気に入り122名)
運送業(23区内)/ 総務課長: 応募済み34名 (お気に入り210名)
ITコンサル(23区内)/ 管理部長候補: 応募済み20名(お気に入り97名)
ちなみに、私はこの案内メールのほとんどは、いつも読んですぐに削除するため、上記事例は、たまたままだ削除しておらずメールボックスに残っていたものを抜粋した事例ですが、実際には「応募だけで100名超え」みたいな求人も珍しくありません。
「1名」の椅子に対して、これだけの応募者殺到しているのです。(応募者の多くは私のような”ベテラン”であることも想定される)
上記は「中小企業」の事例ですので、大企業ならこの数倍、数百名規模の「椅子取りゲーム」になっているのは想像に難くありません。
世の中が「人手不足だ」と騒げば騒ぐほど、私たちは「仕事はいくらでもある」という錯覚に陥りがちです。
しかし実態は、「人が足りない場所」と「人が溢れている場所」の分断。
私が現場で感じるのは、単なる人手の不足ではなく、以下の3つの「バグ(不具合)」です。
●「安い・若い・優秀」という幻想への執着
「人が来ない」と嘆く企業の多くは、昭和・平成の「供給過剰時代」の感覚から抜け出せていません。
相場より低い条件で、教育コストゼロの即戦力を求める。これは「人手不足」ではなく、単なる「買い物の失敗」です。
余談ですが、この「安い・若い・優秀」という言葉を聞くと、私の大好きな吉野家のかつてのキャッチコピー「早い・うまい・安い」を思い出します(笑)。
最近、これが「うまい、安い、早い」の順に変わったと知りました。
「早さ(効率)」よりも「うまさ(質)」を先に持ってきた。深いですね(笑)
現在の採用市場も、まずは「うまい(適正なスキル)」に対する「適正な値付け」を優先すべき時期に来ているのだと感じます。
●「椅子」の形のミスマッチ
地方では「組織を回せるプロ」が不在で悲鳴を上げ、都心では私のようなベテランが同じ椅子を奪い合っている。
転勤や引っ越しが難しい私自身にとっても、これは非常に切実な問題です。
●「DX」と「属人化」のジレンマ
現場を効率化したいが、その設計ができる人間がいない。
結果、「昔ながらのやり方で、気合で回してくれる人」を募集し続ける。
当然そんな人は見つからない、という悪循環です。
「人手不足」の正体を見極める、3つの視点
この思考停止を招く「人手不足」というマジックワードに対し、私たちはどう向き合うべきなのでしょうか?
1. 「人事屋(設計者)」としての視点: 穴を埋めるのをやめ、形を変える
欠員補充という思考停止を捨てる。
人が採れないのは、その「椅子の形」が市場に合っていないという警告です。
DXによる省人化やジョブの再定義を行い、「穴そのものをなくす、あるいは形を変える」こと。これこそが令和の人事の仕事だと思います。
2. 「求職者側(プレイヤー)」としての視点: 数合わせの「駒」にならない
「人手不足だからどこかには入れる」という楽観は罠です。
誰でもいい穴に自分を無理やり削って押し込めても、待っているのは疲弊だけ。
自分を「労働力の数」ではなく「特定の課題を解決する機能」と定義し直す。
求職者こそ「安売りしない戦略」を持つべきです。……まぁ、口で言うのは簡単なんですけどね(苦笑)
特に管理職ポストは数が限られている以上、実際には、理想の条件(給料など)は捨てざるを得ないケースもままありますが、かといって、一度条件を下げてしまうとそこから上昇させるのは至難の業なので、やはり安易な「安売り」は御法度だと思います。
3. 「経営・組織(オーナー)」としての視点: OSのアップデートを急ぐ
古いOS(昭和的組織)では、最新のスペックを持つ人材は動きません。
採用をコストではなく「組織変革への投資」と捉え直し、適切な値付けを行う。
人手不足は、組織を最新OSへアップデートするための「強制イベント」だと思います。
結論: 必要なのは「数の確保」ではなく「解像度を上げること」
人口減少という避けられない未来を前に、私たちがすべきことは、空いた穴を無理やり人で埋めることではありません。
その仕事は、本当にその「年齢」でなければならないのか?
その椅子は、本当にその「場所」になければならないのか?
その「役割」は、本当に一人の人間がすべて背負わなければならないのか?
「人手不足」という言葉で思考停止せず、椅子と人の「解像度」を上げていく。
そうすることで初めて、そのポジションに「正しい値付け」が行われる健全な市場が見えてくるはずです。
少なくとも私は、この「人手不足」という言葉の”裏側”にある歪みを凝視し続ける「人事屋」でありたいと思っています。
また、私自身、今後転職しない、とも言い切れませんので、、、イチ求職者としての視点では、この「人手不足」というマジックワードに踊らされず、自分なりのオリジナリティを持って転職活動をしていきたいと考えています。
皆さんの周りでは、どんな「人手不足」が起きていますか? ぜひ、コメント欄で意見をお聞かせください。
【追伸】
この記事を書き終えたところで、こんなネット記事を見つけました。
「人手不足」と相反するような状況は、我々ベテランだけでなく、新卒にも当てはまるのかもしれません…
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